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第十一話 ダンジョン拡張
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――地脈の瘴気濃度が上昇しています。対処が必要です。
ある日、チュートリアル先生から警告が告げられた。
えー、どうすりゃ良いのさ。
どうやら現状の瘴気処理では、新しい地脈からの瘴気取り込みが不足しているらしい。
放っておくと最悪、スタンピードが発生するかも、との事。
現状の階層数では瘴気の処理には少なすぎるそうだ。
特にダンジョンを拡張しようとか言う気は全然無かったので、気にも留めていなかった。
行きがかりでダンジョンマスターなんてのになっちゃったからね。
必要な階層数は計算すると――コンソールがやってくれたんだけど――十階層拡張の必要があるそうな。うわー、どうしよう。モンスターの割り振りなんて面倒くさそう。
現状、こんな風になってる。
第一層:薬草・ゴブリン・スライム(弱)・角兎・噛ネズミ・鎧猪
第二層:薬草・鉱物・ゴブリン・ホブゴブリン・スライム(弱)
第三層:薬草・鉱物・ゴブリン・ホブゴブリン・スライム(弱)・雷狼
第四層:薬草・鉱物・スライム(中)・雷狼・眠り茸・毒蜥蜴
第五層:薬草・鉱物・スライム(中)・雷狼・爆茸・毒蜥蜴・魔甲虫
第六層:鉱物・溶岩・火蜥蜴・魔甲虫・メタルスライム・溶岩蛙
第七層:鉱物・魔甲虫・魔蟷螂・巨大蟻・ワーム(小)
第八層:鉱物・スケルトン・ゾンビ・スライム(強)
第九層:鉱物・オーク
第十層:鉱物・オーク・オークジェネラル(ボス:オークキング)
ダンジョンとしては初級らしい。が、そんな事はどうでも良い。
取り敢えず、面倒ごとが起きなくて八方丸く収まれば。
その前に、魔道書を取りに行きたい。
二十階層の階層ボスなんて十階層より厄介に決まってる。
僕とターニャの実力では十階層のボスなんて歯が立たない。そのままでは。
だから今回に限り偽装スライムの力を借りる。
ターニャはそれで渋々納得させた。
今回ばかりは普通の鉄剣では通用しないと思ったので、中古だけどミスリルの槍と長剣を買った。
蓄えがごっそり減ってしまったが仕方ない。仲間はそれで良いと言ってくれた。
ミルカは申し訳なさそうにしていたけど、魔道書は僕も欲しいんだ。
十階層はゲートルームから直接行ける。
ターニャと僕はボス部屋に入り、階層ボス、オークキングと向き合った。
でかい。三メートルはあるだろうか。体は筋肉の塊のように見える。
猪顔に生えている牙が凶悪そう。
いきなり拳が飛んできた。早い!
辛うじて避けたけど、衝撃波みたいのに吹き飛ばされた。
擬態スライムが無ければ大怪我してただろう。
ターニャがオークキングの後ろに回り込む。僕は正面から剣を構えた。
動きを良く見ろ。攻撃の初動を捉まえるんだ。
来た。丸太のような腕が通り過ぎる。今度は飛ばされなかったぞ。
「ぶもおーつ!」オークキングが雄叫びを上げる。
ターニャが後ろからアキレス腱を狙って槍を薙いだ。赤い血潮が吹き出る。
オークキングが振り返ってターニャに拳を振り上げる。ターニャは軽いステップで後退。
背後を見せたオークキングのアキレス腱に向かって、僕は剣を叩きつける。
さすがミスリル。ざっくりと傷口が開き、オークキングが蹈鞴を踏んだ。
小一時間、そんなふうにヒットアンドアウェーを繰り返す。
何度か直撃を食らったけど、擬態スライムは耐えてくれた。
そしてついに、オークキングは大音響を立ててひっくり返った。
すかさず剣で、槍で、首筋を滅多突き。
最後にターニャが眼窩から槍を突き入れ、止めを刺す。
「ふー、やったね」
へたり込みながらハイタッチ。そして二人して大の字に寝転ぶ。
「さすがにきついわ。怪我は無い?」
「まあ、後で筋肉痛が怖いかな。はは」
オークキングを亜空間にしまう。当分塩漬けだ。
ランクFがオーガキングなんか倒せるはずも無い。
ボス部屋の奥に祭壇風の窪みが見えた。ボスを倒すと現れるらしい。
その上にちょこんと宝箱風の物が。
「お宝、お宝、ふっふっふ」
「気味悪いぞ、アッシュ」
仕方ない。僕は中身おっさんなんだから。
魔道書自体は魔法の解説と発動の仕方が書いてある只の文書なんだけど、埋め込まれている魔石が魔法のスキルを付与するようになっている。
魔石に手を触れ魔法名を唱えると、その魔法がスキルになって追加される。
普通は魔導師に弟子入りして学びながらスキルを身につけるんだけど、魔道書はその課程をスキップするわけだ。
手に入れた魔道書には生活魔法から中級魔法までが含まれていて、魔力のステータスが高いほど高級な魔法スキルが使える。
中級魔法は僕とミルカしか使えないようだった。皆には生活魔法を身につけて貰う。
オルトは商売上役に立つだろうし、ダインは料理に生かせるだろう。
ターニャは野営なんかで使える筈だ。
カティは……困った。魔力が無いんだ。
すごく落ち込んでいたけど、どうにも慰めようがないな。
魔道書の件は片付いたので、いよいよダンジョンの階層追加に手を付ける。
ほとんどの霊力は新しい方の地脈の物を利用する。
基本的にダンジョンのデフォルトでいく。いろいろ弄る趣味はない。
要は僕たちの役に立つかどうかだ。
デフォルトではこうなっているらしい。
第十一層:薬草・トレント・食虫花・毒蔓
第十二層:薬草・ゾンビ・マミー・グール
第十三層:薬草・大蜘蛛・アルケニー・マンティコア
第十四層:薬草・大蜂・ワーム(中)
第十五層:薬草・大蟷螂・毒蜈蚣・キャタピラー
第十六層:鉱物・ゴーレム(泥)・ゴーレム(岩)
第十七層:鉱物・オーガ
第十八層:鉱物・オーガ・オーガジェネラル
第十九層:鉱物・ミノタウロス
第二十層:ミスリル・トロール(ボス:トロールキング)
採れる薬草や鉱物は十階層までと違って希少な物が多いんだと。
ミスリルは二十階層まで採れないのか。高価なわけだ。
まあ、特に異存は無いし良く分からないのでそのまま。
ぽちっとな。
何だか体に低い振動が伝わってくる。
管理ルームのディスプレィがぽこぽこ増えていく。
新しい階層向けに増えていってるのか。
おおよそ一時間。
早いのか遅いのかは分からないけど、拡張は済んだらしい。
新しい方の地脈の瘴気が目に見えて減った。
これでまた、いつもの日常に戻れる。
そう考えていた僕は甘かった。
ある日、チュートリアル先生から警告が告げられた。
えー、どうすりゃ良いのさ。
どうやら現状の瘴気処理では、新しい地脈からの瘴気取り込みが不足しているらしい。
放っておくと最悪、スタンピードが発生するかも、との事。
現状の階層数では瘴気の処理には少なすぎるそうだ。
特にダンジョンを拡張しようとか言う気は全然無かったので、気にも留めていなかった。
行きがかりでダンジョンマスターなんてのになっちゃったからね。
必要な階層数は計算すると――コンソールがやってくれたんだけど――十階層拡張の必要があるそうな。うわー、どうしよう。モンスターの割り振りなんて面倒くさそう。
現状、こんな風になってる。
第一層:薬草・ゴブリン・スライム(弱)・角兎・噛ネズミ・鎧猪
第二層:薬草・鉱物・ゴブリン・ホブゴブリン・スライム(弱)
第三層:薬草・鉱物・ゴブリン・ホブゴブリン・スライム(弱)・雷狼
第四層:薬草・鉱物・スライム(中)・雷狼・眠り茸・毒蜥蜴
第五層:薬草・鉱物・スライム(中)・雷狼・爆茸・毒蜥蜴・魔甲虫
第六層:鉱物・溶岩・火蜥蜴・魔甲虫・メタルスライム・溶岩蛙
第七層:鉱物・魔甲虫・魔蟷螂・巨大蟻・ワーム(小)
第八層:鉱物・スケルトン・ゾンビ・スライム(強)
第九層:鉱物・オーク
第十層:鉱物・オーク・オークジェネラル(ボス:オークキング)
ダンジョンとしては初級らしい。が、そんな事はどうでも良い。
取り敢えず、面倒ごとが起きなくて八方丸く収まれば。
その前に、魔道書を取りに行きたい。
二十階層の階層ボスなんて十階層より厄介に決まってる。
僕とターニャの実力では十階層のボスなんて歯が立たない。そのままでは。
だから今回に限り偽装スライムの力を借りる。
ターニャはそれで渋々納得させた。
今回ばかりは普通の鉄剣では通用しないと思ったので、中古だけどミスリルの槍と長剣を買った。
蓄えがごっそり減ってしまったが仕方ない。仲間はそれで良いと言ってくれた。
ミルカは申し訳なさそうにしていたけど、魔道書は僕も欲しいんだ。
十階層はゲートルームから直接行ける。
ターニャと僕はボス部屋に入り、階層ボス、オークキングと向き合った。
でかい。三メートルはあるだろうか。体は筋肉の塊のように見える。
猪顔に生えている牙が凶悪そう。
いきなり拳が飛んできた。早い!
辛うじて避けたけど、衝撃波みたいのに吹き飛ばされた。
擬態スライムが無ければ大怪我してただろう。
ターニャがオークキングの後ろに回り込む。僕は正面から剣を構えた。
動きを良く見ろ。攻撃の初動を捉まえるんだ。
来た。丸太のような腕が通り過ぎる。今度は飛ばされなかったぞ。
「ぶもおーつ!」オークキングが雄叫びを上げる。
ターニャが後ろからアキレス腱を狙って槍を薙いだ。赤い血潮が吹き出る。
オークキングが振り返ってターニャに拳を振り上げる。ターニャは軽いステップで後退。
背後を見せたオークキングのアキレス腱に向かって、僕は剣を叩きつける。
さすがミスリル。ざっくりと傷口が開き、オークキングが蹈鞴を踏んだ。
小一時間、そんなふうにヒットアンドアウェーを繰り返す。
何度か直撃を食らったけど、擬態スライムは耐えてくれた。
そしてついに、オークキングは大音響を立ててひっくり返った。
すかさず剣で、槍で、首筋を滅多突き。
最後にターニャが眼窩から槍を突き入れ、止めを刺す。
「ふー、やったね」
へたり込みながらハイタッチ。そして二人して大の字に寝転ぶ。
「さすがにきついわ。怪我は無い?」
「まあ、後で筋肉痛が怖いかな。はは」
オークキングを亜空間にしまう。当分塩漬けだ。
ランクFがオーガキングなんか倒せるはずも無い。
ボス部屋の奥に祭壇風の窪みが見えた。ボスを倒すと現れるらしい。
その上にちょこんと宝箱風の物が。
「お宝、お宝、ふっふっふ」
「気味悪いぞ、アッシュ」
仕方ない。僕は中身おっさんなんだから。
魔道書自体は魔法の解説と発動の仕方が書いてある只の文書なんだけど、埋め込まれている魔石が魔法のスキルを付与するようになっている。
魔石に手を触れ魔法名を唱えると、その魔法がスキルになって追加される。
普通は魔導師に弟子入りして学びながらスキルを身につけるんだけど、魔道書はその課程をスキップするわけだ。
手に入れた魔道書には生活魔法から中級魔法までが含まれていて、魔力のステータスが高いほど高級な魔法スキルが使える。
中級魔法は僕とミルカしか使えないようだった。皆には生活魔法を身につけて貰う。
オルトは商売上役に立つだろうし、ダインは料理に生かせるだろう。
ターニャは野営なんかで使える筈だ。
カティは……困った。魔力が無いんだ。
すごく落ち込んでいたけど、どうにも慰めようがないな。
魔道書の件は片付いたので、いよいよダンジョンの階層追加に手を付ける。
ほとんどの霊力は新しい方の地脈の物を利用する。
基本的にダンジョンのデフォルトでいく。いろいろ弄る趣味はない。
要は僕たちの役に立つかどうかだ。
デフォルトではこうなっているらしい。
第十一層:薬草・トレント・食虫花・毒蔓
第十二層:薬草・ゾンビ・マミー・グール
第十三層:薬草・大蜘蛛・アルケニー・マンティコア
第十四層:薬草・大蜂・ワーム(中)
第十五層:薬草・大蟷螂・毒蜈蚣・キャタピラー
第十六層:鉱物・ゴーレム(泥)・ゴーレム(岩)
第十七層:鉱物・オーガ
第十八層:鉱物・オーガ・オーガジェネラル
第十九層:鉱物・ミノタウロス
第二十層:ミスリル・トロール(ボス:トロールキング)
採れる薬草や鉱物は十階層までと違って希少な物が多いんだと。
ミスリルは二十階層まで採れないのか。高価なわけだ。
まあ、特に異存は無いし良く分からないのでそのまま。
ぽちっとな。
何だか体に低い振動が伝わってくる。
管理ルームのディスプレィがぽこぽこ増えていく。
新しい階層向けに増えていってるのか。
おおよそ一時間。
早いのか遅いのかは分からないけど、拡張は済んだらしい。
新しい方の地脈の瘴気が目に見えて減った。
これでまた、いつもの日常に戻れる。
そう考えていた僕は甘かった。
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