パラレル ― 異世界の鬼っ娘と繋がった俺

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2-1 里作り始動

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ある集落で取り入れをするという情報を掴んだので見学に行った。
稲刈りのような事はしない。
立ったまま石の包丁のような道具で穂をそぎ落とし肩に掛けた袋に入れていく。
穂はあまりたくさんは付いていない。稲でも麦でもない原産種の穀物らしい。
実ってない穂もあるので実った穂を選んで採っていく。収穫したもみは平たい石の上に広げ棒でたたく。
ある程度籾殻もみがらが出ると息で吹き飛ばす。これを繰り返す。
うーーん、効率は良くないな。
作物がなっていない雑草だらけの平地もあるのでどうしたのか聞いてみた。
手で一帯を指し示しながら、翌年耕して種を撒くのだという。
そうか。連作障害を避けるため休耕しているのか。
ただ休耕しているのも勿体ないな。俺の田舎では別の作物を育てて輪作する。
水田は水の入れ替えなどで連作障害は出にくいが、野菜や麦はダメだ。
これは改良の余地がある。何か輪作用の作物が見つかるかも知れない。
シムリ地方はやや寒冷な気候みたいなので二毛作は多分無理。
ある程度状況を把握したので神殿に戻る。

あのくそまずい葉物を藻塩で塩漬けしておいたのを試してみる。
ちょっと固いが若干発酵しているようで味は別物になっていた。
藻塩はあれから何度か海に行って作ってきた。やり方は少し変えてみた。
海藻を浸して干してを繰り返し、三分の一位になった所で海水を注ぎ足す。また三分の一位になった所で海水を注ぎ足す。最後の三分の一位になった所で海藻を焼き、その灰を投げ込む。今度は両手一杯くらい取れた。時間はかかるが同じ海藻とまきの量で二~三倍の塩が採れる。
小さな壺二つ位たまった。
ひとつを調理場に持って行く。
葉っぱの塩漬けのやり方を説明していると神官の一人が血相変えて飛び込んできた。
「塩を使っているというのは本当か?」
「ああ、これ」と壺の少しベージュがかった藻塩を見せた。
「これをどこから?誰の許可を貰った?」
「ん?海で作ったんだけど、許可いるんですか?」
塩は半分貨幣のような使い方をされているので、作ったら偽造とか?
「作っただと?嘘をつくな!」
どうやら塩倉庫から無断で持ち出したと思ったらしい。
「まあ、舐めて見て下さいよ。岩塩とは違うでしょ?」
神官はひと舐めして目を白黒させる。
「作っただと?そんな馬鹿な。どうやって・・」
「海の水には塩が溶けてるんです。煮て水を飛ばせばできあがり」
まあ、言うほど簡単じゃ無いけどね。
神官は物も言わず飛び出すと、祭司長を連れて戻ってきた。
「塩を作ったというのは本当か?」
「はい、祭司長キノ。私も手伝いましたので間違いありません」
巫女アムネが傍らから口を挟む。
「これは大変な事だ・・」
「でもまだ試作品で、少ししか採れないんです。本当は夏場で気温が高いときの方が良いんですがね。できればそれまで準備を進めて本格的にやれればと」
「本格的にだと?」
「はい。作り方や窯場かまばの準備、薪集まきあつめとかの指導はします。だから海で作った塩は料理に使って良いという事にしませんか?」
ここは食生活改善の大きなポイントだから絶対譲れない。
「しかし、ここには余分な人手はありませんぞ?」
「それについちゃ、集落廻っててちょっと気が付いた事があるんです。子だくさんの家族がありますよね?そこから一人ずつ雇うってのはどうですか?藻塩作りはそんなに重労働じゃ無いので子供でも大丈夫です。報酬は出来た塩で支払えます」
「うむ・・使者を出して聞いてみよう」祭司長が頷く。
子供を雇うってのにはもうひとつ目的がある。
この地域では神殿以外の集落には文字の読み書きが出来る者がいない。数も十までしか数えられない。十を超すと「たくさん」になる。文盲状態だ。これではあまり複雑な仕事は教えられない。俺の企みを実現するには、ある程度の知識処理能力が必要なんだ。
ミクルは幸運にも商人マクセンとハタに巡り会った。これは例外中の例外。
俺は何年かかけて読み書き計算のできる集団を作るつもりだ。それには若い頃の方が良い。もちろん、塩作りだけが目的じゃない。これから先必要に応じ仕事を丸投げできる人材を育てようというわけ。

良い方向に話がまとまったので、塩作りの場所探しに着手した。
試作に使った岩棚はあまり広くないし、居住には不向きだ。
何より森の野獣に対して不用心だ。
森は小動物が豊富で、少し歩いても必ず何かしら目にする。
ウサギくらいの大きさのネズミっぽいのが一番多いが、山羊に似た大型の草食獣も多い。
当然、こういう動物を補食する肉食獣も多いわけで、一番危険なのが樹上から襲ってくる豹みたいな奴。
こいつは人も襲う。小型だが群れを成すイタチっぽいのも人を襲う。他にも色々いる。
だから集落は例外なくほりをめぐらすわけだ。
ほりには水を引く必要があるので川縁りが良いだろう。森の木も伐採の後、回復が早い樹木が適している。
海岸に沿って探索を続けているうち、小高い丘が海に迫っている辺りに広い河口をみつけた。
川辺を上流に向かっていかだが無いか探索する。
あれば集落間の連絡用なので、川の先は既にどこかの集落が使っているかも知れない。いかだは通常、川の両岸に置いておき、一旦渡って向こう岸のいかだを積んで戻り、いかだを下ろしてから荷物を積んで向こう岸に渡る。大きな橋を渡す技術は無いので、こうして常に両岸からいかだが使えるようにする訳だ。
川筋が分岐するまでさかのぼっても見当たらなかったのでどの集落も使っていないと判断。
アムネさんと俺=ミクルは適当な木を見つけてツタで縛り、ミニいかだを作る。着てる物を全部脱ぎ、荷物と一緒にミニいかだにくくりつけ、河口を泳いで渡る事にした。
人目が全然無いので平気だ。俺=ミクルは少女にしか見えないのでアムネさんも気にしない。アムネさん、出るとこは出て締まるとこは締まってる。なかなかけしからん胸だな。
(ショータ!)おっと、はいはい、見とれてる場合じゃないね。
途中まで渡って、水が温かい事に気づく。丘から流れてくる細い川に湯気が立っている。
温泉じゃないか?
向こう岸まで渡りきると、。川岸をさかのぼってすぐに川に注ぎ込む泉源をみつけた。ぶくぶくと飛沫を上げて湯が噴き出している。おそらく、この丘は溶岩流が海に迫って固まったものだ。今は休火山だけど、地下にはマグマが迫っているのだろう。
丘はそれ程高くなく、ぐるりと探索して廻った。竹や灌木がびっしりと丘を覆っている。海に迫っている部分は浸食で崖になっていて、水鳥の群れが巣を作っていた。崖の様子や植生を見る限り何十年も噴火は無かったんだろう。
川が丘を挟むように分岐しているのも好都合だ。ほりを掘る必要が無い。危険な野獣も見かけない。
川に挟まれた区間はちょっと広すぎるかなと思ったが、拡張予備と思っておこう。
決めた。快適生活に風呂は欠かせない。まきを消費しない温泉は理想的だ。

この場所の開墾に傭兵から十人ほど借りるように神殿と話をつけた。神使って便利だね。
傭兵のほとんど皆がやりたがったが、そうは人を割けない。
一夜干しや塩漬け野菜、焼き魚なんかがお目当てなんだけどね。
開墾地ができるまで、岩だなで一夜干しや試作藻塩を作り続けた。かまどと土鍋は四つに増やしている。
二ヶ月ほどで丘のふもとの片側が開墾完了。本格的に集落を作り上げる事にした。
かなり寒くなってきて、海藻の乾燥があまり進まなくなったので、藻塩作りは一旦中止する。
岩棚のかまどは撤去、新集落に移す。土鍋などは春が過ぎた頃、持ってくることにする。
敷地は川が支流に分かれる所から海まで三段の段差になっていた。
川はこの段差の所で小さな滝になっている。
海岸縁の一番低い所は藻塩作りの場所で、少し奥の川縁りを温泉にする。竪穴住居のひとつに岩を敷き詰め、温泉を引き込んだ。半分は湯船、半分は洗い場と脱衣所。川縁りから水を引いて湯温を調節出来るようにした。露天風呂にしなかったのは、今後各集落から男女を集めるため、覗きがあるとまずいから。
居住用の竪穴住宅は冬の間に中段の平地に何棟か作り、料理棟、トイレ棟を配置する。この位置だと上段の川から水を引き込めるので水汲みの手間が省ける。川から料理棟へ竹筒を通した。
最上段の敷地には穀物や物資を蓄える小屋を建て、穀物等を運び込んで春から住む予定だ。
それまでは定期的に訪れて建物や食料に問題ないかチェックする。建設を頑張ってくれてる傭兵達にお待ちかねの料理提供も兼ねて。モチベーション、大事なんだぞ。
というのは建前で、実は温泉が目当てなのだ。
ミクルは初めての温泉が凄く気に入った。
俺の体で風呂に入った感覚は知っているが、自分の体を温泉に沈めるのはまた別格なんだ。巫女アムネも温泉が気に入った。お湯で桜色に火照ったボディはなかなか艶めかしい。
(ショータのエッチ)おおっと、ミクルに筒抜けだった。
この頃になると、慣れてきたのかミクルは俺の目があっても多少気恥ずかしい程度になってきた。なるべく体を見ないようにするけどね。見えてしまうものはしょうがないけど。
(・・・・)すっごいため息つかれた気がする。
まあ、そういう平和な毎日が続いていた。
俺の世界ではミクルのアニメタイム以外、この世界で使えそうな技術や知識をパソコンで調べ続けた。

平和が破れたのは雪のちらつくある日。
神殿の調理場で食材を調べていると広場の方が騒ぎになった。
大勢の怒声と何かがぶつかるような音がする。広場の方を覗うと、大勢が橋の上で争っているのが見えた。
ぶつかる音は剣と剣。
やぐらに登って橋の方を眺めると、橋を取り囲むように武装した集団が集まっている。橋のこちら側では傭兵達が武装集団の侵入を防ごうと懸命に戦っている。武装集団は数が多く、神殿の傭兵の三倍は居ると見た。
「何事か!」祭司長の声。
「山向こうの盗賊のようです。入ろうとしたのでさえぎったら攻めてきました!」
戦いは橋の手前でもみ合いになっているが、橋を渡られると多勢に無勢で蹂躙じゅうりんされてしまうだろう。
(ショータ、どうする?)ミクルが聞いてくる。怖がっている気配は無い。
(まずいな。敵は結構統制が取れてるみたいだ)
(あたし達も行くか?)と言う所はさすが鬼っ娘、男前?
敵集団の後方で剣を振り回して指図を飛ばしている男がいる。
(あの頭目を叩けばやつら崩れるかな)
(分かった)ミクルの闘気が一気に膨らむ。
え?ミクルちゃん、何するの?
いきなりやぐらから広場に向かって飛び降りる。
おいおい、ここ三階建てだよ?って、今の跳躍、なに?
鮮やかに着地したと思ったら、更に何度か地面を蹴ってもみ合う集団の上を飛び越す。
橋を遙か越えて、まさしく敵の頭目の寸前に着地。
まずいだろ!敵のど真ん中だぞ。
「なっ・・?」何が起きたか瞬時には理解できない敵の頭目。
いやいやいや、俺だってなっ?だよ。いきなり頭目の髭面がアップで俺の目の前にあるんだぞ。
その顔に向かってミクルが右手を差し出した。
と!
男の頭がスイカを割ったようにはぜた。うえっ!スプラッタ・・
俺、分かった。ミクルが頭の水分に干渉して一気に分子運動を加速したんだ。
で、起きたのが水蒸気爆発。
俺=ミクルの頭上に血と脳漿のうしょうの暖かい雨が降り注ぐ。容赦なさ過ぎ、ミクルちゃん。
そうか、商人との旅で戦闘経験豊富だったんだな。
でも、俺、平和ボケした日本人なんだ。勘弁してよ。ちょっと気分悪。吐くかも。
取り囲んだ敵も全員氷ついた。
「鬼人だ・・」誰かが叫ぶ。
ミクルが血まみれの右手を差し出しながら数歩前へ出た。
全身から真っ赤な血と脳漿のうしょうを滴らせ、無表情で進んで来るんだ。その血が誰のか皆見てる。
いくら可愛い少女の姿をしてるって、怖くない訳ない。つのあるし。
敵はパニックに陥って、蜘蛛の子を散らすように(見た事ないけど)逃げ去った。
俺だって奴らの立場なら逃げるわ。
橋の上で戦闘中の男達も異変に気づく。何しろ敵の半分以上が逃げ出して居なくなってる。
俺=ミクルが橋を渡ると「何だこいつ!」と状況を分かって無い敵の一人が切りつけて来た。
滑るような運足で剣をかわし、胸元へ入り・・・スプラッタ!
もう駄目。元の世界の俺が盛大に吐いた。
(ショータだらしないよ)
いや、これが普通だって。ミクル別格。鬼人って皆こうなんだろうか?
橋の上の剣戟が止まって皆しんと静まりかえっている。というか完全に固まってる。
「まだやる?」
血だらけの片手を差し出し、可愛い声でミクルが問いかけた。
男達は一斉に剣を落とした。味方の傭兵で蒼くなって剣を落とす奴までいる。
そこへ巫女アムネが血相変えて駆け寄ってきた。俺=ミクルが切られたと思ったようだ。
「あたし、大丈夫。これ返り血だから」にっこり笑うミクル。
これではっと正気に戻った傭兵達が敵を押さえて捕まえ始めた。
その間をアムネさんが俺=ミクルの手を引いて広場を駆け抜け、湯浴みの部屋に入り、頭から水をかけて血を洗い流す。アムネさんってこんなに手際良かったっけ?
「もう・・こんなに・・こんなに・・」アムネさん、完全に涙目。
「ほら何とも無いでしょ?心配しないで」逆に慰める俺=ミクル。
最初は何も出来なかったアムネさんだけど、こういう世話はいつもやっている内に慣れてきたようだ。
いつの間にか俺=ミクルの髪も結えるようになっていた。案外向いているようで楽しそうにやってたな。
そういえば、湯浴みの部屋で以前世話をしてくれた少女は見かけなくなった。
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