帝国の魔女

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第三十一話 当世学園事情

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さて、領政務科はさすがに平民は居ない。皆領主やその臣下の子弟ばかりだ。
ここも結構年齢がばらついている。もちろん、顔見知りなんていない。
「魔人だ……」
ここもかよ。
その日は領政務科とは何かとか、領政についての心得なんかを聞くだけで終わった。

教養科はさすがに人が多い。それに年齢があたしシャニと同じくらいがほとんどだ。
平民の割合がかなり多い。
聞き耳を立てていると、騎士科や工芸科、商業科などの受講者もいる。
なるほど、帝国学園はある種の職業学校みたいなコンセプトなんだ。
貴族学校は領政なんかも教えるけど、基本、領同士の交流やお見合いも兼ねた優雅な所だ。

実際の授業は翌日からで、この日は受講する教室と学校の各施設の確認で終わる。
印象に残ったのは広大な図書室。
自分が履修する科目以外の時間は図書室で過ごすらしい。
それにしても活版印刷もない世界で、とんでもない蔵書量だ。
さすがに手書きはなく、エッチングや版画のように刷り上げるらしいけど。

ただ、そんな真面目な生徒ばかりではなく、時間を持て余す輩のため、カフェのようなお店が学園内に点在していた。もちろん、普通に買い物をするお店もある。
ミゼラやニニ、ミニーと連れだって施設の確認が終わると、そんなカフェのひとつに落ち着いた。
道側はオープンで、屋根の下に可愛らしいテーブルとチェア。
カウンターで注文して自分で席に持って行くスタイル。

「ちょっと、あんた達、何で教室で来なかったのよ」
ミゼラがテーブルを囲んでいる一団に声を張り上げた。
「えー……」
「だってなあ……」
こら。あたしシャニを見るんじゃない。

ミゼラは強引にテーブルを寄せ、どんと手をついた。
「せっかくバクミン工房の虎の子を紹介しようと思ったのに。して上げないわよ」
「ええっ!バクミン!」三人が声を揃えた。
ほー、魔道具関係者の間じゃバクミンって有名なんだ。

「ミゼラ……大げさだよ」ニニが小さくなる。
「ごめん、悪かった。僕はブゾン・カンタードル。魔道具科と魔法科の二年次だ」
一番背が高い金髪イケメン少年がそう言って手を出した。
「僕はサルダ・ラカンデナ。同じく魔道具科と魔法科の二年次」
珍しい黒髪碧眼の男の子。ブゾンより少し幼い感じ。
「わたしはトリー・セダマイン。同じよ」
三つ編みの可愛い系の女の子。

「ニニ・バクミンよ。よろしくね」
順々にニニも手を出して握手。
「ほら、シャニも」ミゼラが急かす。
「あー、シャニナリーア・マンレオタ。見ての通り半魔人だけど」
文句ある?

「マンレオタ?マンレオタ……あっ!カーサイレ・サルマ卿の!」
おお!母様の懐かしい名前が。ちょっと嬉しい。
「ふふ、二人とも飛び級入学なのよ。優秀でしょ?」ミゼラが自慢げ。
「へー、もしかして、マンレオタ嬢は八歳?」
「シャニで良いわよ。それと、あたしはもう夫人。結婚してるの」
「ええーっ!」またハモった。

「もしかして、その姿で十五歳……」
「そんな訳無いでしょ。八歳です。でも、皆さんずっと年上に見えるんだけど」
「ああ、トリーを除いて皆貴族学校からの転入組なんだ。あそこは魔法の授業がお粗末でね、それで親に頼んで転入させて貰った」
「ちなみに、ブゾンが十二、サルダが十一、ミゼラが十、トリーが九だね」
「きれいに一つずつ離れてるね」

良かった。仲良くなれそうだ。

翌日から授業開始。魔道具科と魔法科は一日おきに同じ教室を使う。
一年次で基礎は終えているので、魔法科は詠唱の組み立て理論やその構成要素など少し応用的な内容になる。ちゃんとした理論はアクシャナも知らなかったので興味深い。
魔道具科は実際に魔法陣を木板に下書きしておき、それに基づいて実際に魔晶石に刻んでいく。
この辺は慣れてるので特に難しくはない。ただ、陣の省略法や簡素化、発動させる魔法の種類など知らなかった物も多く、勉強になった。時々入る教官の添削も参考になる。

お昼はミゼラ達とその仲間、ニニと一緒に大食堂に行ってみた。
ここも広い。メニューは豊富で、平民から貴族達に向けた物などバラエティに富む。
平民には懐に優しい食堂だ。
貴族向けはあらかじめメニューから予約をしておく。料理人が厨房を借りて調理するのもありだそうだ。専用席があって、ミニーなど次女や侍従が厨房へ取りに行く。
当然、高い。格差社会だよね。

席について食べ始める。うーん、やっぱりチャパティもどきに手づかみだ。
マンレオタでは箸をはやらせたので、この食べ方は久しぶり。味はまあ良い。
衛生面がちょっと気になるけど、これがこの世界のスタンダード。

「おい、田舎者はあっちだ」
いきなりいちゃもん付けられた。
背が高いから上級生か。四人くらいがこっちを睨んでる。
まあ、貴族席は満席だ。ちゃんと予約しない方が悪いと思うんだけど。

「中央貴族のぼんぼんだよ。財務卿のせがれ」ブゾンが耳打ちする。
「それに汚い魔人がどうしてここに居る?」
あちゃー、あたしシャニが目を付けられたのか。どうすっか。
「ここはちゃんと予約取ってあるんですが」サルダが答える。
「いいからここを空けろ。お前らが座っていい席じゃない」
押し問答が続く。

埒が明かない。学園しょっぱなで揉め事は避けたいなあ。
「ミニー、食事を下げて厨房へ持って行って。そこで待っててね」
「ふん、聞き分けのいい事だ」
「あたしが何とかするから、皆も付いてきて」
そう言うと、皆も憮然とした表情ながら厨房へ向かった。

「どうする気よ」ミゼラが納得できない風情で言う。
「今日はお天気が良いし、ピクニックしよう」
「えー、この料理を?」
「うん、ちゃんとアレンジするから。まあ、見てて」

あたしシャニが考えたのは、具材をチャパティもどきで巻いてブリトーみたいにして食べる。料理は肉、野菜料理なので、巻きやすいよう細長に切りそろえる。
チャパテイもどきに具材を並べ、適当にソースをかけ、くるくると巻く。軽くできあがりだ。
皆にも教えて巻いて貰った。
さっさと巻き終わったら大きめの篭を貸してもらい、きれいに並べて詰める。
厨房で口の開いた壺を貸してもらい、スープを満たす。
ほんの十分くらいで終わり。

「さあ、どこが良いかな。どっかに四阿あずまやがあったな。場所知ってる?」
「おま……どこでこんなやり方を?」ブゾンがあきれる。
「まあ、シャニだからねえ」訳知り顔のニニ。
「ほんとに八歳なの?やっぱり十五……」ミゼラが失礼な事を言う。
「いたいけな八歳ですう」中身は違うけどね。

みつけた四阿あずまやでの食事は楽しかった。
頬を撫でる春風は爽やかで、目に入る新緑が心を和ませる。

そこで帝国のある程度の実情を聞かされた。
帝都の役付き貴族と地方領主の間には壁がある。
役付き貴族達は地方領主を下に見て、何かと無理を押しつけるそうだ。
帝国貴族に爵位のような物はないけど、格付けはあるんだと。

うーん、マンレオタは地方も地方、僻地だからなあ。

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