帝国の魔女

G.G

文字の大きさ
上 下
35 / 36

第三十話 いざ、帝国学園へ

しおりを挟む
八歳の春を迎えた。
いよいよ帝都の学園に入学する。
町はまだ開発途中だけど、あたしシャニの手を離れても大丈夫なようにタオ兄ちゃんが手配してくれた。案外有能じゃないの。ふふ。

飛空艇航路の運行開始はマンレオタ発にした。
あたしシャニが記念する飛空艇の運行開始だもの。譲れないよ。
飛空艇の話は結構広まっているらしく、竜車を駆ってわざわざマンレオタまで乗りに来た人も居ると聞いている。満員御礼だ。嬉しいな。
運行は二本。三日に一回の発着になる。
まあ、マンレオタは僻地になるからね。こんなもんだろう。

陽子の前世に因んで発車前にテープカットの儀式を行った。
つい、涙がこぼれた。この一年、大変だったからなあ。

いざ、皇都へ!
飛空艇がふわりと空へ舞い上がった。

客室艇は各客室の他にラウンジと厨房を設けてある。
客室に荷物を置くと、ニニと次女のミニー、三人揃ってラウンジへ落ち着いた。ラウンジは大きな窓ガラスで覆ってあり、眺望は抜群だ。もちろん、大きな板ガラスはこの世界では無理なので、小さなガラス板を格子状の枠にはめ込んであるんだけど。
試運転で色々検討して出来たのがこの新型艇。うん、居心地は悪くない。

出発してしばらくすると、ラウンジには徐々に人が増えてきた。
流れていく景色に見とれる人、がやがやと見たものについて感想を述べ合う人。

「ここ、よろしいかね、お嬢さん方」
渋い中年のおじさんに声を掛けられた。
ニニと同い年くらいの栗毛の女の子と次女らしい女性が一緒だ。
「どうぞ」

「私はアッシャンゼルのグレオル、この子はミゼラ。もしかして帝都の学園に行かれるのかな?」
アッシャンゼルというと、マンレオタから他を一つ挟んだ領だ。領主様?
「はい、あたしはシャニナリーア・マンレオタ。こっちの子はニニ・バクミン。今度帝国学園に通う事になったんです」
「やっぱりそうか。ミゼラは今度二年次でね、冬休みを終えて学園に戻るところなんだよ。マンレオタというと、サラダン殿のご息女かな?」
「はい。閣下のお名前はかねがね」
「おお、しっかりしておられる」

ミゼラがグレオルの袖を引いた。
「あの、バクミンていうと、あのバクミン工房の?」ミゼラが顔を真っ赤にしてニニを見る。
「はい。ロダ・バクミンはあたしの祖父です」ニニ、ちょっと引き気味。
「それじゃ、あなたも魔道具科?わたしも魔道具科なのよ。お話を聞きたいわ」ミゼラががっしりとニニの手を握った。おお、アグレッシブな子だ。

「それにしても、アッシャンゼルからマンレオタまでかなりかかるでしょう?なぜわざわざ?」
「アッシャンゼルから帝都までは一ヶ月掛かるんでね。五日かけてマンレオタに出て、飛空艇で三日で帝都に向かった方がはるかに早い。しかも安全快適。使わない手はないよ」
なるほど、そういうニーズもあるのか。リサーチを兼ねて乗り込んで正解だ。
もしかして、周辺領に周回路線とか作っても良いかもしれない。

「きゃあ!」ミゼラが叫んだ。何事?
「じゃあ、ニニと同じクラスになるの?やっぱりバクミンの子は違うわね!」
ああ、同じ二年次になるという話をしたらしい。
「こっちのシャニも同じだよ。魔法科も二年次」
「へえっ!小さいのにやるわね」
まあ、見掛けはね。

携帯端末の開発者は極秘になってるし、飛空艇の開発製造はあたしなんだけど、名目上据えられているという外聞になってる。魔道コンロについては、名前は知られているかもしれないけど、目の前の幼女とは結びつかないんだろう。
「シャニって呼んで良い?わたしはミゼラで良いわ」
何とも気さくな領主の娘だ。ナンカ姉様に爪の垢を煎じて飲ませたい。

快適な空の旅はミゼラも加わって、とても楽しい物になった。

「よう、シャニちゃん」
三つめの駅でマッシュ・アジャ会頭と鉢合わせ。アイン・サンデニがくっついている。
「なんでアインがいるのよ」
「ふふ、こんな面白いもの、見逃すわけないでしょ?」

「で、だ。なんでこの話、わしに持って来なかった?」
「ええー……町の件はお願いしてたし」
「まあ、良い。それで物は相談だが、客室艇の食事、接客を任せる気はないか?あんたはそっちの方は素人だろ?食材、接客人員、厨房は儂の方が仕事として請け負う。費用はコストに三割上乗せだ。わしのレストランの人材を使う。品質は保証する」
確かに、今雇っている従業員は素人だ。悪くないかも。

「三割上乗せで良いの?マッシュおじさんなら五割って言いそうなのに」
おじさん、ニヤリと笑った。
「あんたのレシピよこせ。なんだ、うどんとかイーストパンだとか。ピザってのもあったな」
「そんなんで良いの?」
「そんなんって……あんたは賢いのか馬鹿なのか分からんな」
マッシュおじさん、ため息をつく。

そして帝都。
さすがにマンレオタ行きは満席とはならなかったが、途中の町までが満席だった。
折り返しの飛空艇出発を見送って、マンレオタ邸へ向かう。
ミゼラ達とは帝都の駅でお別れだ。

マンレオタ邸につ着くと、学園から制服が届いていた。
貴族学校とは違い、平民も通うので制服で統一するらしい。
女子は襟元にフリルが付いたワンピースで、それに白のローブを羽織る。ワンピースは膝丈で、この世界としては短い。

ワンピースの襟にはタイを巻く。そこには紋章が刺繍されていて科目を現すらしい。色は年次を現す。あたしシャニの紋章は小さな蔦がふたつと鷲がひとつ。それに本なのかな。
蔦の紋章は少し違っていて、片方が魔道具科、もう片方が魔法科、色は赤。二年次を現すそうだ。
鷲と本は領政務科と教養科を現し、両方とも緑だ。

三日後、いよいよ帝国学園入学。
入学式の様子は退屈なので省略。まあ、陽子の前世と似たり寄ったり。
その後、各クラスに分かれて教室に入った。
魔道具科と魔法科は同じ教室らしい。領政務科と教養科は時間をずらして集まるそうだ。

教室に入るなり、ミゼラが手を振っておいでおいでした。
「ニニ、シャニ、こっちこっち」
周りを見ると当たり前だが知らない顔ばかり。ミゼラと知り合いになっておいて良かった。
良く見ると、年齢は結構バラバラ。
あたしシャニ位の子は少なく、ミゼラやニニと同じくらいの子が多い。

「魔人だ……」
久しぶりに聞く台詞。
「じゃあ、あの魔道騎士の娘?」
「強いのかなあ」
「暴れたりしない?」
おいおい、人を何だと思ってるのよ。

「シャニ、魔人なの?」ミゼル、気がついてなかったの。
「うーん、半分。母様が魔人なの」
「ふうん、だから魔法科なのね。凄い魔法使えたりする?」
「それがあんまり。細かい制御ができないの。だからここでお勉強しようと思って」
「シャニの魔法、ショボいからね」
「それは言いっこなしよ、ニニ」

そうお話をしている間もあたしシャニ達は遠巻きにされ、誰も話しかけて来なかった。
ううん、これは前途多難かな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...