帝国の魔女

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第二十八話 瓢箪から駒?

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その翌日、思いがけないお客様が。

マッシュ・アジャ商会会頭。
トーガ・デ・イル魔道協会長老。
キーズ・マッカン帝国軍司令官。
シャクティ・ザルラ帝国魔道師筆頭。
何なの、このメンバーが顔を揃えて!

そこに父様とノドム兄様、ニニにあたしシャニが向かいに着席。
「シャニがまた何か面白い事を始めたと聞いてね」
マッシュおじさんがにやにやしながらあたしシャニに言った。
「えー……」あたしシャニ良く分からない。
何やらかしたんだろう?

部屋は一階の庭に面した応接室。
庭先にクント兄様とイッティ姉様がスケボーで遊んでいるのが見えた。
う~~ん。何とも混沌とした状況。
何が始まるのやら。
マッシュおじさんなら、まあ、分かる。
スケボーにお金の臭いを嗅ぎつけたんだろう。陽子の前世でも人気あったからね。

他の面子が分からない。何で帝国の重鎮達が雁首揃えてるのよ?

「先の戦争で魔女リーア殿の魔法が大きな助けになったのは記憶に新しい」
キーズ・マッカン帝国軍司令官が重々しく口を開いた。
「部隊運用としては画期的と言って良いだろう。ただ、問題はリーア殿は一人しかおられんという事だ。部隊運用次第で戦局を大きく変えられるのは証明された。そこで、リーア殿の魔法とまでは行かずとも、新しい部隊運用法がないか、ずっと検討を続けてきた。そこであれだ」
マッカン司令官は庭で遊ぶクント兄様とイッティ姉様を指し示す。

「サラダン殿、あのスケボーなる物を部隊運用に使用すると、どの程度の効果が見込めるかね?」
「今の五倍は高速に部隊運用が可能になるでしょうな」父様が答えた。
「試してみないと分かりませんが、渡河作戦にも応用が利くかもしれません」
ノドム兄様が口を挟む。
渡河作戦?水の上をスケボーで走るって……

あ!そうか。ここでやっと気がついた。
ほんの悪戯いたずらでスケボーを思いついたんだけど、ニニの風魔法を使った事で、実際にはホバークラフトみたいな物を作っちゃったんだ。
重力魔法ほどの柔軟性は無い。でも、風魔法でホバークラフトが実現できるとすると、確かに応用範囲は広い。
瓢箪から駒ってこの事だわ。

父様達はあたしシャニとニニが庭でスケボーを走らせているのを見て、その有用性に気づいたんだろう。さすが、軍人の視点だ。秘密にしたいわけだ。
でも、戦争に使われるのかあ。何だか嫌だな。あたしシャニは関わりたくない。

「わしは市民の足としてスケボーが有用だと思っております。何と言ってもその簡便さは走竜などと比べようも無い。娯楽性も大きいですしな」さすが、マッシュおじさんの視点は違うなあ。
うん、クント兄様とイッティ姉様は本当に楽しそうに遊んでる。
こっち方面なら手伝っても良いかも。

シャクティ・ザルラ帝国魔道師筆頭は、手元の魔法陣が書かれた羊皮紙をずっと眺めていた。
「それにしても随分凝ってるわね、この魔法陣」シャクティおばさんが呟いた。
「安定して走るのに色々制御入れてるので。結界とか」ニニが小さな声でそれに答える。
「これをほんの一日二日でねえ……」
「普通、半年はかかるだろう」トーガ・デ・イル魔道協会長老がため息をついた。
「さすがはバクミン工房の秘蔵っ子さね。長老も良い子を手に入れたね」

「シャニちゃん、これって量産出来るんだよな」マッシュおじさんが話を向けてきた。
「うん。バクミンの魔法陣転写技術があるからね。コンロと同じ」
「えー、でもあれ、シャニが考えたんだよ」
「バクミンの腐食液が無かったら出来なかったよ」
「これこれ、そんな話は他でやりなさい。いずれにせよ、魔法陣転写は門外不出だし、一から魔法陣を構築するのに時間が掛かるとすれば」
「隠蔽の魔法陣をかけておけば、何年かは技術の秘匿はできますな」

それから話はトントン拍子に進んだ。
あたしシャニはマッシュおじさんと対になり、他の人達はニニと一緒に相談を重ねていく。

結局、日を改めてニニは魔道協会工房へ、あたしシャニはアジャ商会の工房へ赴いて細部を詰める事にした。
スケボー技術――本当はホバークラフト技術って言うべきだけど――の開発者権利はニニとあたしシャニになり、ロイヤリティは折半と決まった。
ああ、また収入が増える。ウハウハだわ。

その日は時間が余ったので、一同で飛空艇の試乗をする事になった。
帝国のお偉いさん達は見るのも初めてなので、おっかなびっくりで乗り込む。
兄様達はあたしシャニの結婚式で見てるけど、乗るのは初めて。
ゆっくり飛空艇が浮かび上がると歓声が沸いた。

客室艇でお茶を一服した後、機関艇へ案内する。
操縦室は案外シンプルで操縦桿と速度、高度計、方向確認用のビーコン受信機くらいしか無い。
操縦士は三人が交代するので、休憩室や寝室も設けてある。
機体の三分の二は魔鉱石で出来ていて、魔素をたっぷり積み込んでいる。
前方の窓からは進行方向の景色がどんどん近付いてくる。

「これをシャニちゃんが作ったの?」マッシュおじさんがびっくり顔。
「まさかあ。最初のアイデア出しはしたけど、後はニニとバクミン工房の人達だよ。魔鉱石運搬はいつまでもリーアさんに頼れないから、苦肉の策だったの」
「これはどえらいもんだな」おじさん、唸る。
父様達とキーズ・マッカン帝国軍司令官は多分、領の運営とか軍に絡めた話をしているのだろう。
ニニはトーガ・デ・イル魔道協会長老やシャクティおばさんと魔道技術について、夢中でやり取りをしている。

翌日、マッシュおじさんとの打ち合わせを終えてマンレオタ邸へ戻ると、またとんでもないお客さんが訪れていた。ケッテニー宰相だった。
ニニはまだ戻ってないので、父様とあたしシャニが対応する事になった。
用件は飛空艇の事で、何はともあれ試乗していただく。
どうやら先日のお歴々から話を聞いて、居ても立ってもいられなくなったらしい。

「一ヶ月の行程を三日とは……」
試乗を終えて邸に戻ると、長い沈黙の後、宰相は深いため息をついた。
「これは帝国が変わりますな。いや、世界が変わるかもしれん。携帯端末と言い、シャニナリーア嬢、いや、今は夫人ですな。まだ八歳というのに末恐ろしいお方だ」
げっ!何言ってくれちゃってんの。大げさだよ。
でも夫人かあ。なんかくすぐったい。

「あたしはちょっと関わっただけで、他はニニやバクミン工房の皆さんのおかげですよ」
「しかし、開発者権利は持っておいでとか。飛空艇についてはあなたが製造責任者ですな」
「はい」
「では、飛空艇の航路について、是非協力をお願いできないだろうか。帝都から各地に向けて航路を延ばせば、莫大な経済効果が見込めるんです。もちろん、今考えついた事なので、これから議会などとの摺り合わせもあるから具体的には後日になるが。どうかなサラダン殿」
「はあ。宰相のお言葉とあればご協力は……」
宰相の勢いに父様たじたじ。

何だか話が大きくなってきた。
瓢箪から駒どころじゃないよ。ドラゴンだよ!

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