454 / 461
物語は続くよ どこまでも
末姫さまの思い出語り・その56
しおりを挟む
私の記憶の中の父はきっちりと髪を上げていたが、目の前の若い冒険者は薔薇色の髪を軽くハーフアップにしている。
「アンシア、またアルに我儘言って困らせているのか ? 」
「そうなんですよ、兄さん。せっかく久しぶりで十六に戻ってみたのに」
「たかだか二年、目をつぶれないのか、アンシア」
「エイ兄さんもディー兄さんも、アルの二年は変わり過ぎなんですもん ! 」
暗闇から黒髪と暁色の髪の冒険者が現れる。
こちらも知っている姿よりずっと若々しいが、あの禁書庫で見つけた物語の絵にそっくりだ。
「あら、一年二年の差って大事よ、エイヴァン」
「そうね、ナラ。お肌の質が全然違うもの」
侍女と仕事人の服装をした妙齢の女性が後ろから顔を出す。
どちらも物語の『もぶ』とかいう登場人物だったが、あのお二人はスケルシュとエリアデルのおば様だ。
どちらもお若い。
そして綺麗だ。
「ナラ姐さん、お久しぶりです」
「また会えて嬉しいわ、アンシア」
「本当。私ってば一番最初に死んじゃったから、忘れられたかと思ったわよ」
「忘れるわけないじゃないですか、フロラシーさん」
私はさりげなくベッドから離れ、ダルヴィマールのご当主の横に立つ。
再会の喜びを微笑ましく見ていると、新しい訪問者が現れる。
こちらはちゃんと扉から入ってきた。
「やあ、みんな早いね。私たちが最後かな」
優しい笑顔と穏やかな声。
ギルおじ様がマールと一緒にやってきた。
「しばらく北の大陸にいてね。ずっと気になっていたあの海辺の城を、ついに元の場所の近くに戻してきた」
「あー、あの。文句を言われませんでした ? 」
「うん、言われる前に撤収して来たよ」
母が亡くなった時に義母から思い出話として聞いた話。
ギルおじ様は若い頃北の王国から山のように財宝をもらって、城を元あった場所から海辺へ放り出した。
以来百年以上、北の王国の王城の正門は海の中にあり、有名な観光名所になっている。
どこのおとぎ話かと思っていたが、実際にあったことだったのか。
そう言えばギルおじ様は『長命族』の血筋だと言うことになっていると言っていた。
「元々の場所にはすでに街が出来ていてね。仕方がないからルーに手伝ってもらって少し離れた場所にしたよ。広い道も作ってもらったから、特に問題なく機能するはずだ」
「目玉の観光地がなくなって恨まれるんじゃありませんか」
「そう思って門だけは置いてきたよ、アンシア」
海にポツンと残る大門。
それはそれで観光名所になるし、新しい伝説が作られるかもしれない。
「おや、ルーはまだかね ? 」
しばらくおしゃべりをしていて、ギルおじ様が誰か足らないと言い出した。
「いよいよアンシアの門出だし、ルーのことだから一番最初に駆け付けると思ったんだがね」
「ああ、ルーならリックの奴を迎えに行ってますよ」
スケルシュのおじ様が義母の枕を少し高くして掛布団を整えながら言った。
「なんだか逃げ回って捕まらないと言っていましたよ。今日は何としても連れて来ると意気込んでいました」
「遅くなりましたっ ! 」
私の後ろの壁から、誰かが部屋へ走り込んで来た。
「遅いぞ、ルー」
「ごめんなさい、エイヴァン兄様。バルドリック様の逃げ足が速くって」
肩で息をする冒険者装束の少女。
銀色の髪が腰まで伸びている。
顔は見えないけれど、多分間違いない。
物語に出て来る服装と同じ。
「お母様・・・」
隣のダルヴィマール親子は驚いて私を見ている。
そうだろう。
ルチア姫と言えば彼らにとって素顔を見たことのない祖母、曾祖母だ。
目の前の少女ではない。
「まあ、アンシアちゃん。久しぶり。元気だった ? 」
「元気な訳ないじゃないですか、お姉様。あたし、もうすぐ死ぬんですよ ? 」
「それもそうだ ! 」
おじ様たちがワッと笑う。
私もついつい一緒に笑いかけて扇子で口を隠して誤魔化す。
「あら、アルったら。今日は十六才の予定じゃなかったの ? 」
「そうなんだけど。聞いてよ、ルー。アンシアったら若い時の僕じゃ嫌だって文句を言うんだよ」
「まあ、私は初めてあった頃のアルに会えると思っていたのに」
残念そうに口を尖らせた母は、少し離れたところに立つマールを見てニッコリと笑った。
「ねえ、アル。あそこに裏切者がいるわよ」
「え。あ、本当だ。一人だけずるいな」
みんなの視線を集めたマールは、何故自分が見られているかわからないと言う顔をしたが、すぐに何かを悟ったのか慌てて母に止めて欲しいと言う。
「だめよ。今日はアンシアちゃんの旅立ちの日なんですもの。さあ、マール君。十四才に戻りましょう」
母の手がひらりと舞うと、モジャモジャ眉のマールが消えて少女、いや少女のように可愛らしい冒険者が現れた。
「姫、あんまりです・・・」
「ウフフ、懐かしいわ。ね、アンシアちゃん」
義母はムッとした表情で涙目のマール少年を見る。
「あー、腹立つ。体が動けば蹴り倒したい」
「本当にアンシアちゃんはマール君と仲良しさんね」
父やおじ様たち軽く吹き出し、母がコロコロと笑う。
私の隣からは「マール、かわいい」というダルヴィマール親子の呟きが聞こえてきた。
「アンシア、またアルに我儘言って困らせているのか ? 」
「そうなんですよ、兄さん。せっかく久しぶりで十六に戻ってみたのに」
「たかだか二年、目をつぶれないのか、アンシア」
「エイ兄さんもディー兄さんも、アルの二年は変わり過ぎなんですもん ! 」
暗闇から黒髪と暁色の髪の冒険者が現れる。
こちらも知っている姿よりずっと若々しいが、あの禁書庫で見つけた物語の絵にそっくりだ。
「あら、一年二年の差って大事よ、エイヴァン」
「そうね、ナラ。お肌の質が全然違うもの」
侍女と仕事人の服装をした妙齢の女性が後ろから顔を出す。
どちらも物語の『もぶ』とかいう登場人物だったが、あのお二人はスケルシュとエリアデルのおば様だ。
どちらもお若い。
そして綺麗だ。
「ナラ姐さん、お久しぶりです」
「また会えて嬉しいわ、アンシア」
「本当。私ってば一番最初に死んじゃったから、忘れられたかと思ったわよ」
「忘れるわけないじゃないですか、フロラシーさん」
私はさりげなくベッドから離れ、ダルヴィマールのご当主の横に立つ。
再会の喜びを微笑ましく見ていると、新しい訪問者が現れる。
こちらはちゃんと扉から入ってきた。
「やあ、みんな早いね。私たちが最後かな」
優しい笑顔と穏やかな声。
ギルおじ様がマールと一緒にやってきた。
「しばらく北の大陸にいてね。ずっと気になっていたあの海辺の城を、ついに元の場所の近くに戻してきた」
「あー、あの。文句を言われませんでした ? 」
「うん、言われる前に撤収して来たよ」
母が亡くなった時に義母から思い出話として聞いた話。
ギルおじ様は若い頃北の王国から山のように財宝をもらって、城を元あった場所から海辺へ放り出した。
以来百年以上、北の王国の王城の正門は海の中にあり、有名な観光名所になっている。
どこのおとぎ話かと思っていたが、実際にあったことだったのか。
そう言えばギルおじ様は『長命族』の血筋だと言うことになっていると言っていた。
「元々の場所にはすでに街が出来ていてね。仕方がないからルーに手伝ってもらって少し離れた場所にしたよ。広い道も作ってもらったから、特に問題なく機能するはずだ」
「目玉の観光地がなくなって恨まれるんじゃありませんか」
「そう思って門だけは置いてきたよ、アンシア」
海にポツンと残る大門。
それはそれで観光名所になるし、新しい伝説が作られるかもしれない。
「おや、ルーはまだかね ? 」
しばらくおしゃべりをしていて、ギルおじ様が誰か足らないと言い出した。
「いよいよアンシアの門出だし、ルーのことだから一番最初に駆け付けると思ったんだがね」
「ああ、ルーならリックの奴を迎えに行ってますよ」
スケルシュのおじ様が義母の枕を少し高くして掛布団を整えながら言った。
「なんだか逃げ回って捕まらないと言っていましたよ。今日は何としても連れて来ると意気込んでいました」
「遅くなりましたっ ! 」
私の後ろの壁から、誰かが部屋へ走り込んで来た。
「遅いぞ、ルー」
「ごめんなさい、エイヴァン兄様。バルドリック様の逃げ足が速くって」
肩で息をする冒険者装束の少女。
銀色の髪が腰まで伸びている。
顔は見えないけれど、多分間違いない。
物語に出て来る服装と同じ。
「お母様・・・」
隣のダルヴィマール親子は驚いて私を見ている。
そうだろう。
ルチア姫と言えば彼らにとって素顔を見たことのない祖母、曾祖母だ。
目の前の少女ではない。
「まあ、アンシアちゃん。久しぶり。元気だった ? 」
「元気な訳ないじゃないですか、お姉様。あたし、もうすぐ死ぬんですよ ? 」
「それもそうだ ! 」
おじ様たちがワッと笑う。
私もついつい一緒に笑いかけて扇子で口を隠して誤魔化す。
「あら、アルったら。今日は十六才の予定じゃなかったの ? 」
「そうなんだけど。聞いてよ、ルー。アンシアったら若い時の僕じゃ嫌だって文句を言うんだよ」
「まあ、私は初めてあった頃のアルに会えると思っていたのに」
残念そうに口を尖らせた母は、少し離れたところに立つマールを見てニッコリと笑った。
「ねえ、アル。あそこに裏切者がいるわよ」
「え。あ、本当だ。一人だけずるいな」
みんなの視線を集めたマールは、何故自分が見られているかわからないと言う顔をしたが、すぐに何かを悟ったのか慌てて母に止めて欲しいと言う。
「だめよ。今日はアンシアちゃんの旅立ちの日なんですもの。さあ、マール君。十四才に戻りましょう」
母の手がひらりと舞うと、モジャモジャ眉のマールが消えて少女、いや少女のように可愛らしい冒険者が現れた。
「姫、あんまりです・・・」
「ウフフ、懐かしいわ。ね、アンシアちゃん」
義母はムッとした表情で涙目のマール少年を見る。
「あー、腹立つ。体が動けば蹴り倒したい」
「本当にアンシアちゃんはマール君と仲良しさんね」
父やおじ様たち軽く吹き出し、母がコロコロと笑う。
私の隣からは「マール、かわいい」というダルヴィマール親子の呟きが聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~
薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。
【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】
そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる