上 下
422 / 461
物語は続くよ どこまでも

末姫さまの思い出語り・その26

しおりを挟む
 さて貴族令嬢の一大イベント『成人の儀』がやってきた。

 翌月までに十六になる騎士爵から公爵までの令嬢が参加する。
 公爵家には該当する令嬢がいないから、今年は私が筆頭成人令嬢になる。
 成人令嬢は爵位毎の控室になるが、私は特別に個室を用意されている。
 そして伯爵以上の令嬢は入口で両親と合流し女帝ご夫妻にご挨拶するが、私は父と最初から控室に通される。

「お母様もご一緒でしたらよかったのに」
「公式の席ではベールを取らなければいけないからね。でもちゃんと見ていてくれるから安心しなさい」

 どこか陰に隠れて見てらっしゃるのかしら。
 会場である『大謁見の間』には覗き部屋はなかったはず。
 いえ、確か玉座の真後ろには書記官と警護の騎士が控える小部屋があったかしら。
 あそこなら多分・・・まさかね ?

 儀式はとどこおりなく進む。
 低位貴族の中には昨年度の成人令嬢が数人交じっていた。
 十六才に間に合わなかった女学院出身者だろう。
 同い年で参加していない人もいたけれど、嘘の噂を流した男爵令嬢は修道院から戻ってきたようだ。
 以前と顔つきが違っているから、きっときちんと反省と教育を受けたのだろう。
 新しい女学院も開校して、低位貴族令嬢の学習環境はとても良い方向に向かっている。
 そしていよいよ私の番になった。

「ダルヴィマール侯爵家ご息女」

 杖で床を叩く呼び出しの声を合図に『大謁見の間』に足を踏み入れる。
 すると低位貴族の間から騒めく声が上がった。

「知らないお顔だわ。それに御髪おぐしの色も」
「女学院でお見掛けした方と別人ではなくて ? 」

 ええ、そうでしょう。
 あの時も見習い期間も、髪の色を変えて伊達メガネをしていましたからね。
 マールに教わったダルヴィマール家使用人の特技、『目立たない』も使っていたし。
 そうやって変装していたから、今までは私の素顔を知っていたのは親しい方と使用人だけ。
 耳の後ろで緩く二つ結びにしていた髪も、今日は成人貴族婦人の正装できっちりと結い上げている。
 ゴテゴテと盛らずに品良くスッキリと。
 母が得意の組紐で作ってくれた小さな花の髪飾りは、参加者の中で一番地味かもしれない。
 そして私の髪は茶色ではなく父譲りの薔薇色だし、顔は穏やかな顔立ちの父と清楚で美しい母を足して二で割った感じ。
 両親の美貌の良いとこ取りでないのが残念だ。
 確かに母のように誰もが見惚れる美貌ではないけれど、十人いれば上位四位くらいには入れると思う。
 ・・・つまり可もなく不可もなく極々平々凡々と言うことだ。
 生まれついた顔は仕方がないので、母に言われたように堂々と、そして世間で思われているような知的かつ淑やかで慈愛に満ちた姫を演じる。
 本来の私ではなく期待されている『私』だ。

「私だって外に出たら猫百匹くらい飼っているわ。末姫すえひめちゃんなら子猫二百匹くらいで十分よ」

 演技よ。
 演技をなさい。
 なり切るのよと母は言う。
 母の花嫁衣裳の白いキモノとガウンで女帝陛下の前に進み出る。
 女学院で一緒だった人たちがポカンと口を開けている。
 
「皇帝陛下、皇配殿下お揃いあそばしまして、御機嫌ようお喜び申し上げます」

 ダルヴィマール家特有の口上を申し上げる。
 必要以上のことは言わない。
 自分のことを売り込まない。

今日こんにち、存じよりませず正装いたしまして王宮に上らせていただきましたこと、心より厚く御礼おんれい申し上げます」

 正座からの手をついて頭を下げるダルヴィマール家のカーテシー。
 ここをきっちり決めないと、ダルヴィマール領の最高謝罪、土下座になってしまう。

 問題なく私が筆頭成人令嬢としてのご挨拶を終え令嬢の列に加わろうとした時、突然バタバタと十数人の男たちが乗り込んできた。

「『ヴァルル解放同盟』である ! 」

 彼らは一人立ち尽くす私を後ろでに拘束すると、首筋に冷たい何かをあてた。

「貴族による支配はもう我慢できない ! 我々は階級制度の撤廃と皇帝による支配からの脱却を要求する ! 」

 前に並んだ成人令嬢たちの間から悲鳴があがり、抱き合ったりしゃがみこんだり。
 中には倒れこむ子もいる。
 えっと・・・でも。
 そのゆるゆるの強さでは抜け出せますよ ?
 そして首の刃物らしきもの、当り具合からして刃引きされてませんか ?
 なにかのお芝居かしら。
 
「何かございましたか ? 」

 何が行われているのか現状確認しようとしている時、入口の扉が開いて顔を出したのはマールだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...