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物語は続くよ どこまでも
末姫さまの思い出語り・その23
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働きたくない、家にいたいという私の願いはあっさり却下された。
スケルシュのおば様から王城での立ち居振る舞いを教えられ、宰相府での仕事をみっちりと詰め込まれた私は、マールに付き添われてイヤイヤ登城した。
ダルヴィマール家見習い侍女のお仕着せで。
「足元がスースーするわ、マール」
「とても良くお似合いです、末姫様」
当家の使用人の質は帝国一と言われている。
一挙手一投足まで厳しく躾けられる。
動きの見事さは見習いの頃から訓練の賜物だ。
私が着ている見習いメイド服。
足首までのメイド服では動きが良く見えないということで、ワンピースの長さはひざがギリギリ隠れるくらいだ。
つま先すら見せてはいけない貴族婦人として、こんな屈辱的なことがあるだろうか。
そして初日から洗礼を受けましたよ。
ダルヴィマール家からの出向扱いなので正体は隠してます。
名前も言ってません。
だって、さすがにメイド姿で名乗るの恥ずかしいもん。
「メイド、茶を入れろ」
「メイド、掃除をしておけ」
でもね、私はメイドじゃない。
王宮侍女でもない。
その証拠に襟元には貴族の屋敷に勤める召使なら、喉から手が出るほど欲しがる天下御免の『紫の薔薇のブローチ』。
御所を含めた王城内出入り自由。
ちなみに王城侍女は皇室ご一家がお住みの御所には立ち入れない。
あそこはエリート中のエリート、選りすぐりの御所侍女が配属される場所だ。
このブローチはそんなところにも入っていける、物凄い力を持った最終破壊兵器と言われている。
今までこれをつけることを許されたのは五名だけ。
私は六人目で最年少だ。
ちなみに五人目はマールで、私の仕事中は別の部署で依頼を受けているらしい。
さて私にメイド仕事をさせようとしたのは、さすがに宰相府の職員ではない。
金持ちケンカせず。
宰相府と言えばどんな内容にも対応できる優秀な人材の集まるところ。
本来であればあちこちの部署で仕事を覚え、広い視野を持ったそれなりの人物でないと配属されない。
だから宰相府勤務は超エリートだ。
そんな人たちがくだらない虐めなんてするわけがない。
で、そんな職員の憧れの場所に見習いメイドの制服を着た私が入ればどうなるか。
宰相府以外の部署での嫌がらせである。
書類の配達やら伝達やらで回っているとお茶を入れさせようとしたり、わざと物を私の足元に落としてスカートの中を覗こうとしたり。
実力主義の王城勤務だけど、たまにこういった人たちがいる。
大抵は自分を選ばれた存在と何か勘違いをしている平民だ。
彼らは試験だけで入ってきているから、自信満々でめちゃくちゃプライドが高い。
だから侍従や侍女をバカにしている。
一応彼らも貴族で身分は上なのだが気づいていない。
騎士養成学校で貴族としての振舞いや考え方を教わっていないのは仕方がない。
平民だもの。
けれど見習いとして働き始める前に、そう言ったことについての一か月ほど講習を受けているはずなんだけれど。
「ここは我々が」
「あなたは次のお仕事へ」
こんな時助けてくれるのは王城侍女と侍従の皆さんだ。
天下御免のブローチを与えられたということはそれなりの理由があるからだと理解しているし、なにより私は侍従から高位貴族まで上り詰めた「ダルヴィマールの三貴人」の後継者と目されている。
そんなわけで小娘の私にも丁寧に接してくれるし庇ってくれる。
ありがたいので昼食は皆さんと同じ食堂でいただいて、時折お菓子を差し入れて感謝の気持ちを伝えている。
ところで私は宰相府ではなく宰相執務室の所属だ。
宰相府の末端の仕事もするが、もう一つ内々に命ぜられていることがある。
それは『炙り出し』と情報収集だ。
私に色々と仕掛けてくる連中。
頭が良くても仕事ができても、卑しい心持ちの職員はいらない。
王城侍女の皆さんにも情報提供をしていただき、くだらない噂話をするやつとか実行犯はガンガンと地方へと飛ばされていく。
来年からは試験の他に面接と身上調査もするそうだ。
これでおかしな新人が入って来るのは少しは防げるはずだ。
「風通しが良くなったと女帝陛下も殊の外お喜びだよ」
宰相を務める叔父がご褒美にと基本給を上げて下さった。
けれど結局のところ私がされているのは女学院の時と同じだ。
いじめも嫌がらせも二度とごめんだと思っていたのに。
そうやって私が間諜擬きで四苦八苦している頃。
国外追放の一族は無事に隣国に送り届けられたと報告があった。
そして隣国に続く道を封鎖に行った騎士団からおかしな報告が上がって来た。
道が無くなり、代わりに高い崖が出来ていたと。
ピンと来た。
母が何かやったんだ。
多分だけど、隣国を物理的に孤立させたんだろう。
色々と問いただしたいところだけど、そこは「へえ、不思議なこともあるものですね」で済ませておいた。
見習いのまま二年が過ぎて、私の呼び名が「お嬢」に定着して一通りの仕事を覚えた頃。
ついに『成人の儀』を迎えた。
スケルシュのおば様から王城での立ち居振る舞いを教えられ、宰相府での仕事をみっちりと詰め込まれた私は、マールに付き添われてイヤイヤ登城した。
ダルヴィマール家見習い侍女のお仕着せで。
「足元がスースーするわ、マール」
「とても良くお似合いです、末姫様」
当家の使用人の質は帝国一と言われている。
一挙手一投足まで厳しく躾けられる。
動きの見事さは見習いの頃から訓練の賜物だ。
私が着ている見習いメイド服。
足首までのメイド服では動きが良く見えないということで、ワンピースの長さはひざがギリギリ隠れるくらいだ。
つま先すら見せてはいけない貴族婦人として、こんな屈辱的なことがあるだろうか。
そして初日から洗礼を受けましたよ。
ダルヴィマール家からの出向扱いなので正体は隠してます。
名前も言ってません。
だって、さすがにメイド姿で名乗るの恥ずかしいもん。
「メイド、茶を入れろ」
「メイド、掃除をしておけ」
でもね、私はメイドじゃない。
王宮侍女でもない。
その証拠に襟元には貴族の屋敷に勤める召使なら、喉から手が出るほど欲しがる天下御免の『紫の薔薇のブローチ』。
御所を含めた王城内出入り自由。
ちなみに王城侍女は皇室ご一家がお住みの御所には立ち入れない。
あそこはエリート中のエリート、選りすぐりの御所侍女が配属される場所だ。
このブローチはそんなところにも入っていける、物凄い力を持った最終破壊兵器と言われている。
今までこれをつけることを許されたのは五名だけ。
私は六人目で最年少だ。
ちなみに五人目はマールで、私の仕事中は別の部署で依頼を受けているらしい。
さて私にメイド仕事をさせようとしたのは、さすがに宰相府の職員ではない。
金持ちケンカせず。
宰相府と言えばどんな内容にも対応できる優秀な人材の集まるところ。
本来であればあちこちの部署で仕事を覚え、広い視野を持ったそれなりの人物でないと配属されない。
だから宰相府勤務は超エリートだ。
そんな人たちがくだらない虐めなんてするわけがない。
で、そんな職員の憧れの場所に見習いメイドの制服を着た私が入ればどうなるか。
宰相府以外の部署での嫌がらせである。
書類の配達やら伝達やらで回っているとお茶を入れさせようとしたり、わざと物を私の足元に落としてスカートの中を覗こうとしたり。
実力主義の王城勤務だけど、たまにこういった人たちがいる。
大抵は自分を選ばれた存在と何か勘違いをしている平民だ。
彼らは試験だけで入ってきているから、自信満々でめちゃくちゃプライドが高い。
だから侍従や侍女をバカにしている。
一応彼らも貴族で身分は上なのだが気づいていない。
騎士養成学校で貴族としての振舞いや考え方を教わっていないのは仕方がない。
平民だもの。
けれど見習いとして働き始める前に、そう言ったことについての一か月ほど講習を受けているはずなんだけれど。
「ここは我々が」
「あなたは次のお仕事へ」
こんな時助けてくれるのは王城侍女と侍従の皆さんだ。
天下御免のブローチを与えられたということはそれなりの理由があるからだと理解しているし、なにより私は侍従から高位貴族まで上り詰めた「ダルヴィマールの三貴人」の後継者と目されている。
そんなわけで小娘の私にも丁寧に接してくれるし庇ってくれる。
ありがたいので昼食は皆さんと同じ食堂でいただいて、時折お菓子を差し入れて感謝の気持ちを伝えている。
ところで私は宰相府ではなく宰相執務室の所属だ。
宰相府の末端の仕事もするが、もう一つ内々に命ぜられていることがある。
それは『炙り出し』と情報収集だ。
私に色々と仕掛けてくる連中。
頭が良くても仕事ができても、卑しい心持ちの職員はいらない。
王城侍女の皆さんにも情報提供をしていただき、くだらない噂話をするやつとか実行犯はガンガンと地方へと飛ばされていく。
来年からは試験の他に面接と身上調査もするそうだ。
これでおかしな新人が入って来るのは少しは防げるはずだ。
「風通しが良くなったと女帝陛下も殊の外お喜びだよ」
宰相を務める叔父がご褒美にと基本給を上げて下さった。
けれど結局のところ私がされているのは女学院の時と同じだ。
いじめも嫌がらせも二度とごめんだと思っていたのに。
そうやって私が間諜擬きで四苦八苦している頃。
国外追放の一族は無事に隣国に送り届けられたと報告があった。
そして隣国に続く道を封鎖に行った騎士団からおかしな報告が上がって来た。
道が無くなり、代わりに高い崖が出来ていたと。
ピンと来た。
母が何かやったんだ。
多分だけど、隣国を物理的に孤立させたんだろう。
色々と問いただしたいところだけど、そこは「へえ、不思議なこともあるものですね」で済ませておいた。
見習いのまま二年が過ぎて、私の呼び名が「お嬢」に定着して一通りの仕事を覚えた頃。
ついに『成人の儀』を迎えた。
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