上 下
419 / 461
物語は続くよ どこまでも

末姫さまの思い出語り・その23

しおりを挟む
 働きたくない、家にいたいという私の願いはあっさり却下された。
 スケルシュのおば様から王城での立ち居振る舞いを教えられ、宰相府での仕事をみっちりと詰め込まれた私は、マールに付き添われてイヤイヤ登城した。
 ダルヴィマール家見習い侍女のお仕着せで。

「足元がスースーするわ、マール」
「とても良くお似合いです、末姫すえひめ様」

 当家の使用人の質は帝国一と言われている。
 一挙手一投足まで厳しく躾けられる。
 動きの見事さは見習いの頃から訓練の賜物だ。
 私が着ている見習いメイド服。
 足首までのメイド服では動きが良く見えないということで、ワンピースの長さはひざがギリギリ隠れるくらいだ。
 つま先すら見せてはいけない貴族婦人として、こんな屈辱的なことがあるだろうか。

 そして初日から洗礼を受けましたよ。
 ダルヴィマール家からの出向扱いなので正体は隠してます。
 名前も言ってません。
 だって、さすがにメイド姿で名乗るの恥ずかしいもん。

「メイド、茶を入れろ」
「メイド、掃除をしておけ」

 でもね、私はメイドじゃない。
 王宮侍女でもない。
 その証拠に襟元には貴族の屋敷に勤める召使なら、喉から手が出るほど欲しがる天下御免の『紫の薔薇のブローチ』。
 御所を含めた王城内出入り自由。
 ちなみに王城侍女は皇室ご一家がお住みの御所には立ち入れない。
 あそこはエリート中のエリート、選りすぐりの御所侍女が配属される場所だ。
 このブローチはそんなところにも入っていける、物凄い力を持った最終破壊兵器と言われている。
 今までこれをつけることを許されたのは五名だけ。
 私は六人目で最年少だ。
 ちなみに五人目はマールで、私の仕事中は別の部署で依頼を受けているらしい。

 さて私にメイド仕事をさせようとしたのは、さすがに宰相府の職員ではない。
 金持ちケンカせず。
 宰相府と言えばどんな内容にも対応できる優秀な人材の集まるところ。
 本来であればあちこちの部署で仕事を覚え、広い視野を持ったそれなりの人物でないと配属されない。
 だから宰相府勤務は超エリートだ。
 そんな人たちがくだらない虐めなんてするわけがない。
 で、そんな職員の憧れの場所に見習いメイドの制服を着た私が入ればどうなるか。
 宰相府以外の部署での嫌がらせである。
 書類の配達やら伝達やらで回っているとお茶を入れさせようとしたり、わざと物を私の足元に落としてスカートの中を覗こうとしたり。
 実力主義の王城勤務だけど、たまにこういった人たちがいる。
 大抵は自分を選ばれた存在と何か勘違いをしている平民だ。
 彼らは試験だけで入ってきているから、自信満々でめちゃくちゃプライドが高い。
 だから侍従や侍女をバカにしている。
 一応彼らも貴族で身分は上なのだが気づいていない。
 騎士養成学校で貴族としての振舞いや考え方を教わっていないのは仕方がない。
 平民だもの。
 けれど見習いとして働き始める前に、そう言ったことについての一か月ほど講習を受けているはずなんだけれど。

「ここは我々が」
「あなたは次のお仕事へ」

 こんな時助けてくれるのは王城侍女と侍従の皆さんだ。
 天下御免のブローチを与えられたということはそれなりの理由があるからだと理解しているし、なにより私は侍従から高位貴族まで上り詰めた「ダルヴィマールの三貴人」の後継者と目されている。
 そんなわけで小娘の私にも丁寧に接してくれるし庇ってくれる。
 ありがたいので昼食は皆さんと同じ食堂でいただいて、時折お菓子を差し入れて感謝の気持ちを伝えている。

 ところで私は宰相府ではなく宰相執務室の所属だ。
 宰相府の末端の仕事もするが、もう一つ内々に命ぜられていることがある。
 それは『炙り出し』と情報収集だ。
 私に色々と仕掛けてくる連中。
 頭が良くても仕事ができても、卑しい心持ちの職員はいらない。
 王城侍女の皆さんにも情報提供をしていただき、くだらない噂話をするやつとか実行犯はガンガンと地方へと飛ばされていく。
 来年からは試験の他に面接と身上調査もするそうだ。
 これでおかしな新人が入って来るのは少しは防げるはずだ。

「風通しが良くなったと女帝陛下も殊の外お喜びだよ」

 宰相を務める叔父がご褒美にと基本給を上げて下さった。
 けれど結局のところ私がされているのは女学院の時と同じだ。
 いじめも嫌がらせも二度とごめんだと思っていたのに。
 
 そうやって私が間諜スパイ擬きで四苦八苦している頃。
 国外追放の一族は無事に隣国に送り届けられたと報告があった。
 そして隣国に続く道を封鎖に行った騎士団からおかしな報告が上がって来た。
 道が無くなり、代わりに高い崖が出来ていたと。
 ピンと来た。
 母が何かやったんだ。
 多分だけど、隣国を物理的に孤立させたんだろう。
 色々と問いただしたいところだけど、そこは「へえ、不思議なこともあるものですね」で済ませておいた。

 見習いのまま二年が過ぎて、私の呼び名が「お嬢」に定着して一通りの仕事を覚えた頃。
 ついに『成人の儀』を迎えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

たとえば勇者パーティを追放された少年が宿屋の未亡人達に恋するような物語

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 リクエスト作品です。 今回は他作品もありますので亀更新になるかも知れません。 ※ つい調子にのって4作同時に書き始めてしまいました。   

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...