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物語は続くよ どこまでも
末姫さまの思い出語り・その8
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私の階段落ちが金曜日で、今日は水曜日。
エリアデルのおじ様が訪ねてきた。
女学院のその後のことを報告に来てくださったのだ。
月曜日の瓦版で廃校になることと教職員が全員逮捕されたことは知っている。
そして卒業生も含めて生徒全員が一律罰を与えられたことも。
「別に処罰するのは実行犯だけでも良かったんです。それに少しの間停学とかで」
「そういう訳にはいかない。女学院全体がいじめや階級差別を黙認、いや助長していたことが問題なんだ」
なぜ生徒一人が怪我をしただけで廃校やら逮捕やらになったのか。
なぜ多数の修道院送りが出たのか。
「なにより王城の出入り禁止なんてしたら、成人の儀に出られないでしょう。それって貴族の女性にとって死ねって言っているようなものではないですか」
「そうだな。まあ自分たちは修道院に行かなくて済んだ。助かったと思わせておいて実は、というのを狙った。今頃家族どころか一族と依り親が真っ青になっているはずだ」
見せしめだよ、とおじ様は笑う。
「あの女学校の常識で子育てをすればどうなることか。それを伯爵位までの貴族に教え込みたかった。実際に高位貴族に嫁いだ低位出身の夫人が、間違った子育てをしていたという報告もある。まずは自分の価値観がおかしいのではないかと揺さぶりをかける」
その後で宗秩省から最低条件の指針を示して、それに則った再教育の指導をする。
またそれは全ての貴族に対しても配布される。
「王城の出禁は定期的に行う試験に合格すれば解除する。そのために指導の出来る高位貴族婦人を選定中だし、学べる場も設ける。このまま放置して未来を潰すようなことはしないよ」
そして婚約破棄だの解消は禁止と、該当する家には女帝陛下から詔出していただいたそうだ。
よかった。
さすがにこのままだと寝覚めが悪いしね。
「まあ、しばらくは怯えて暮らしてもらうことになるがな。それに君の悪評も今日の瓦版で払拭される。出来の悪い生徒だから制裁を加えただの、怪我人を見捨てただのと言われることはないから安心しなさい」
「瓦版ですか。昨日の分には特に新しいことは書いていなかったと思うのですが」
ディーおじ様はニヤニヤしながらポンと机に瓦版の束を置いて、よく読んでごらんと言った。
我が家では昔から一通りの工房から新しいものが届けられるけど、今日はまだ見ていないなとパラパラと目を通していく。
読み進めていくうちに、なんだかとんでもないことが書かれていることに気づいた。
「なんなのぉっ、これぇぇぇぇっ !! 」
「まあ末姫ちゃんたらはしたない」
母から窘められるが、これは大声を出さずにはいられない。
『このように将来の腹心として育てられた令嬢は、女学院の闇を暴くべく幼き胸に雄々しくも決意を抱いて学院の門をくぐったのだ』
いや、父から「友だち百人出来るといいね」と言われて、ウキウキしながら入学しましたよ。
平民枠入れても一学年四十人くらいだったけど。
『学院ではその才を隠し、目立たぬよう振る舞いながらも学生たちの、いや教職員たちの動きをもつぶさに観察していたのである』
してない、してない。
髪型とか眼鏡とかで目立たないようにしてはいたし、平均点よりちょっと下になるよう点数操作はしたけれど。
『彼女はかつての級友たちへの処分に心を痛め、寛大な処置をと願い出た。涙ながらの姪姫の訴えに、女帝陛下は恐れ多くも救いの手を差し伸べることをお決めになった』
未成年の私が陛下にお会いすることなど出来るわけがない。
せいぜい皇配のマクシミリアンおじ様が里帰りの時だけど、当然女帝陛下は来られない。それにおじ様ともここ数か月お会いしていない。
誰だ、嘘八百を書いたのは !
「あらあら、凄いわ。まだ未成年なのに二つ名がこんなに一杯」
「さすが僕たちの娘だね。でもルーのほうが二つ多いよ」
両親が楽し気に瓦版を読む。
『魔王の片腕』、『宗秩省総裁の懐刀』、『暗闇参謀の愛弟子』、『女神の愛し子』。
知らない !
そんなの聞いたことない !
「女学院のほうに色々と問題があってね。それを隠すために君には広告塔になってもらったよ」
「コウコクトウってなんですか ?! それに私、こんな暗躍するようなことしてません ! 」
本当に何もしていない。
日記も書いていないし、学院のことを調べたりもしていない。
「ナラに手紙を書いていただろう ? かなり詳しく。それを元に随分前から調査が入っていたんだ。学院での日常生活もそうだが、夏休み中の魔物騒ぎ。素晴らしい報告だった」
「あれが報告っ ?! 」
ただの手紙ですよ ?!
エリアデルのおじ様が訪ねてきた。
女学院のその後のことを報告に来てくださったのだ。
月曜日の瓦版で廃校になることと教職員が全員逮捕されたことは知っている。
そして卒業生も含めて生徒全員が一律罰を与えられたことも。
「別に処罰するのは実行犯だけでも良かったんです。それに少しの間停学とかで」
「そういう訳にはいかない。女学院全体がいじめや階級差別を黙認、いや助長していたことが問題なんだ」
なぜ生徒一人が怪我をしただけで廃校やら逮捕やらになったのか。
なぜ多数の修道院送りが出たのか。
「なにより王城の出入り禁止なんてしたら、成人の儀に出られないでしょう。それって貴族の女性にとって死ねって言っているようなものではないですか」
「そうだな。まあ自分たちは修道院に行かなくて済んだ。助かったと思わせておいて実は、というのを狙った。今頃家族どころか一族と依り親が真っ青になっているはずだ」
見せしめだよ、とおじ様は笑う。
「あの女学校の常識で子育てをすればどうなることか。それを伯爵位までの貴族に教え込みたかった。実際に高位貴族に嫁いだ低位出身の夫人が、間違った子育てをしていたという報告もある。まずは自分の価値観がおかしいのではないかと揺さぶりをかける」
その後で宗秩省から最低条件の指針を示して、それに則った再教育の指導をする。
またそれは全ての貴族に対しても配布される。
「王城の出禁は定期的に行う試験に合格すれば解除する。そのために指導の出来る高位貴族婦人を選定中だし、学べる場も設ける。このまま放置して未来を潰すようなことはしないよ」
そして婚約破棄だの解消は禁止と、該当する家には女帝陛下から詔出していただいたそうだ。
よかった。
さすがにこのままだと寝覚めが悪いしね。
「まあ、しばらくは怯えて暮らしてもらうことになるがな。それに君の悪評も今日の瓦版で払拭される。出来の悪い生徒だから制裁を加えただの、怪我人を見捨てただのと言われることはないから安心しなさい」
「瓦版ですか。昨日の分には特に新しいことは書いていなかったと思うのですが」
ディーおじ様はニヤニヤしながらポンと机に瓦版の束を置いて、よく読んでごらんと言った。
我が家では昔から一通りの工房から新しいものが届けられるけど、今日はまだ見ていないなとパラパラと目を通していく。
読み進めていくうちに、なんだかとんでもないことが書かれていることに気づいた。
「なんなのぉっ、これぇぇぇぇっ !! 」
「まあ末姫ちゃんたらはしたない」
母から窘められるが、これは大声を出さずにはいられない。
『このように将来の腹心として育てられた令嬢は、女学院の闇を暴くべく幼き胸に雄々しくも決意を抱いて学院の門をくぐったのだ』
いや、父から「友だち百人出来るといいね」と言われて、ウキウキしながら入学しましたよ。
平民枠入れても一学年四十人くらいだったけど。
『学院ではその才を隠し、目立たぬよう振る舞いながらも学生たちの、いや教職員たちの動きをもつぶさに観察していたのである』
してない、してない。
髪型とか眼鏡とかで目立たないようにしてはいたし、平均点よりちょっと下になるよう点数操作はしたけれど。
『彼女はかつての級友たちへの処分に心を痛め、寛大な処置をと願い出た。涙ながらの姪姫の訴えに、女帝陛下は恐れ多くも救いの手を差し伸べることをお決めになった』
未成年の私が陛下にお会いすることなど出来るわけがない。
せいぜい皇配のマクシミリアンおじ様が里帰りの時だけど、当然女帝陛下は来られない。それにおじ様ともここ数か月お会いしていない。
誰だ、嘘八百を書いたのは !
「あらあら、凄いわ。まだ未成年なのに二つ名がこんなに一杯」
「さすが僕たちの娘だね。でもルーのほうが二つ多いよ」
両親が楽し気に瓦版を読む。
『魔王の片腕』、『宗秩省総裁の懐刀』、『暗闇参謀の愛弟子』、『女神の愛し子』。
知らない !
そんなの聞いたことない !
「女学院のほうに色々と問題があってね。それを隠すために君には広告塔になってもらったよ」
「コウコクトウってなんですか ?! それに私、こんな暗躍するようなことしてません ! 」
本当に何もしていない。
日記も書いていないし、学院のことを調べたりもしていない。
「ナラに手紙を書いていただろう ? かなり詳しく。それを元に随分前から調査が入っていたんだ。学院での日常生活もそうだが、夏休み中の魔物騒ぎ。素晴らしい報告だった」
「あれが報告っ ?! 」
ただの手紙ですよ ?!
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