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物語は続くよ どこまでも
末姫さまの思い出語り・その4
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二時間近くかけて帰宅すると、屋敷には宗秩省総裁であるエリアデルのおじ様がいらしていた。
私の両足は捻挫と骨折で中々にひどい状態だったが、父の治癒魔法であっと言う間に完治した。
が、母の怒りはおさまらない。
いつもは穏やかで淑やかな母が、ここまで感情を露わにするのは初めて見た。
「だから私は女学院に通うのを反対したのよ。それをアルが無理矢理・・・。どう責任を取るつもり ?! 」
「ごめんよ、でもディー兄さんがどうしてもって言うから」
「すまん、本当にすまん。内部情報が取れれば良いとは思っていたが、まさかここまでやるとはなあ」
「知りません。今度という今度は三倍返しにしていただきます ! 」
母はプイっと横を向いてしまった。
居心地の悪そうにする二人に、マールが自業自得でございますよと言う。
「それにしても君もやるね。わざわざ騎士団を私道の桜並木で待機させていたんだろう ? 驚いたよ。訪ねてきたら騎士団が整列しているし、ルーたちまでいるし」
「ええ、ディーおじ様。連絡してから編成して向かわせたら、下手をすると三時間以上かかりますもの。お昼前には早退するつもりでしたから、時間まで待っててもらったんです。でもお母様までいらっしゃるとは思いませんでした」
「私だって何かしたかったのよ。本当に酷い噂を流されて、おまけに可愛い娘に大怪我までさせて。これ以上黙ってなんかいるものですか ! 」
私が考えていたのは女学院まで迎えに来た騎士団と颯爽と帰宅する、だ。
だから団の中でも綺麗どころをそろえて、彼女たちとの格の違いを見せつけるはずだったのだが、まさか怪我をさせられた上に放置されるとは思わなかった。
それと私が用意したのは騎士団と紋章入りの豪華な馬車で、母とマールは予定には入っていなかったのだ。
何故あの短い時間で準備して駆けつけてくれたのか。
母に聞くと「内緒よ」と笑って教えてくれなかった。
「痛い思いをさせて申し訳なかったが、学校側の対応を街の者にも見せることができた。ここからは宗秩省が動くから何も心配はいらないぞ」
「当たり前です、ディードリッヒ兄様。とことんやっちゃって下さい。お仕置きが足らなければ、私が追加制裁しますからね ! 」
母はおじ様方とご一緒だと言葉遣いがちょっと乱れる。
でもそれが母をもっと可愛らしく見せているのは身内だけの秘密だ。
「ルーは『夜の女王のアリア事件』での低位貴族の振舞いを覚えているか」
「・・・思い出させないで下さい。あまりにひどい。末席とは言えとても貴族のすることではありませんでした。私、いっぱい傷ついたんですよ」
「あれから調べてみたんだが、あの時問題を起こしたのは女学院出身者がほとんどなんだ。自宅で教育を受けていたご婦人方は彼女らと距離を置いていた」
先の皇后エリカノーマ陛下もまた生徒だった時期があるそうだ。
確かに貴族であることを鼻にかけ、騎士爵や平民を見下す者も多少はいたらしいが、母の代が近づくにつれそれが顕著になってきたのだとか。
ただその時は単に低位貴族で教育が足らないからだと思われていた。
「カリキュラム編成がどうもおかしいと卒業生、娘が在校生でない婦人たちに聞き込みをおこなった。時間はかかったが、結果とんでもない事案になってなあ。今は宗秩省はてんやわんやだ。瓦版工房や財政省冒険者ギルドまで巻き込んで、猫の手も借りたいくらいだ」
「ならディードリッヒ兄様は王城にお帰りになって、すぐにお仕事されたらいいんだわ」
母、手厳しい。
「今日は末姫が何かするらしいという話だったから、これからのことも含めて説明するつもりだったんだ。こんな大袈裟なことになるとは思わなかったんだ。許してくれ」
エリアデルのおじ様は、今日はもう何度も私に頭を下げている。
本当に嫌な思いをしたのは実質二週間だから、そろそろ許して差し上げてもいいかしら。
「それで、君は彼らをどうしたい ? 」
「彼ら ? 」
「学校関係者だ。公式にはもちろん処罰は受けてもらう。だが、一番の被害者である君の気持ちも聞いておきたい」
私の気持ち・・・。
うーん、そうね。
「一階組はいいです。親の言うことには従うしかありませんし、爵位の上の者に逆らうなという暗黙の約束もありました。私から離れるしかなかったんです。でも、教職員と二階組にはそれなりの対応をお願いします」
一階組とは平民と騎士爵の娘。
二階組とは爵位持ちの娘と、騎士爵の中でも母親が爵位持ちの娘だったり親が部下だったり小金持ちだったりする人たち。
教育課程自体が違うし、食事場所も内容も違うので、本来なら出会わないはずなのだ。
「特に食堂関係は恨んでます。同じ代金を払っているのに、夏休み明けから私だけ固い黒パンと薄いスープでしたもの。それも量は半分。屋敷に帰るまでお腹が空いてお腹が空いて」
「代金 ? 」
「ええ。それなのに休み明けからお弁当の持ち込みは禁止になって、私のお小遣いそろそろ危ないです」
「・・・分かった。満足してもらえるだけの結果は出す。報告を楽しみにしていてくれ」
おじ様は仕事が増えたと急いで帰っていかれた。
その前に授業の内容を細かく聞き書きをしていかれた。
マールはというと「このところお食事量が増えていたのは、そのような扱いを受けていたからなのですね」とモジャモジャ眉毛の下の目をハンカチで抑えた。
その日のお食事は、いつもより少し多くて豪華だった。
ところで母はおじ様の帰り際に「更地にする時は必ず呼んでくださいね」と言っていた。
どこを更地にするつもりなんだろう。
私の両足は捻挫と骨折で中々にひどい状態だったが、父の治癒魔法であっと言う間に完治した。
が、母の怒りはおさまらない。
いつもは穏やかで淑やかな母が、ここまで感情を露わにするのは初めて見た。
「だから私は女学院に通うのを反対したのよ。それをアルが無理矢理・・・。どう責任を取るつもり ?! 」
「ごめんよ、でもディー兄さんがどうしてもって言うから」
「すまん、本当にすまん。内部情報が取れれば良いとは思っていたが、まさかここまでやるとはなあ」
「知りません。今度という今度は三倍返しにしていただきます ! 」
母はプイっと横を向いてしまった。
居心地の悪そうにする二人に、マールが自業自得でございますよと言う。
「それにしても君もやるね。わざわざ騎士団を私道の桜並木で待機させていたんだろう ? 驚いたよ。訪ねてきたら騎士団が整列しているし、ルーたちまでいるし」
「ええ、ディーおじ様。連絡してから編成して向かわせたら、下手をすると三時間以上かかりますもの。お昼前には早退するつもりでしたから、時間まで待っててもらったんです。でもお母様までいらっしゃるとは思いませんでした」
「私だって何かしたかったのよ。本当に酷い噂を流されて、おまけに可愛い娘に大怪我までさせて。これ以上黙ってなんかいるものですか ! 」
私が考えていたのは女学院まで迎えに来た騎士団と颯爽と帰宅する、だ。
だから団の中でも綺麗どころをそろえて、彼女たちとの格の違いを見せつけるはずだったのだが、まさか怪我をさせられた上に放置されるとは思わなかった。
それと私が用意したのは騎士団と紋章入りの豪華な馬車で、母とマールは予定には入っていなかったのだ。
何故あの短い時間で準備して駆けつけてくれたのか。
母に聞くと「内緒よ」と笑って教えてくれなかった。
「痛い思いをさせて申し訳なかったが、学校側の対応を街の者にも見せることができた。ここからは宗秩省が動くから何も心配はいらないぞ」
「当たり前です、ディードリッヒ兄様。とことんやっちゃって下さい。お仕置きが足らなければ、私が追加制裁しますからね ! 」
母はおじ様方とご一緒だと言葉遣いがちょっと乱れる。
でもそれが母をもっと可愛らしく見せているのは身内だけの秘密だ。
「ルーは『夜の女王のアリア事件』での低位貴族の振舞いを覚えているか」
「・・・思い出させないで下さい。あまりにひどい。末席とは言えとても貴族のすることではありませんでした。私、いっぱい傷ついたんですよ」
「あれから調べてみたんだが、あの時問題を起こしたのは女学院出身者がほとんどなんだ。自宅で教育を受けていたご婦人方は彼女らと距離を置いていた」
先の皇后エリカノーマ陛下もまた生徒だった時期があるそうだ。
確かに貴族であることを鼻にかけ、騎士爵や平民を見下す者も多少はいたらしいが、母の代が近づくにつれそれが顕著になってきたのだとか。
ただその時は単に低位貴族で教育が足らないからだと思われていた。
「カリキュラム編成がどうもおかしいと卒業生、娘が在校生でない婦人たちに聞き込みをおこなった。時間はかかったが、結果とんでもない事案になってなあ。今は宗秩省はてんやわんやだ。瓦版工房や財政省冒険者ギルドまで巻き込んで、猫の手も借りたいくらいだ」
「ならディードリッヒ兄様は王城にお帰りになって、すぐにお仕事されたらいいんだわ」
母、手厳しい。
「今日は末姫が何かするらしいという話だったから、これからのことも含めて説明するつもりだったんだ。こんな大袈裟なことになるとは思わなかったんだ。許してくれ」
エリアデルのおじ様は、今日はもう何度も私に頭を下げている。
本当に嫌な思いをしたのは実質二週間だから、そろそろ許して差し上げてもいいかしら。
「それで、君は彼らをどうしたい ? 」
「彼ら ? 」
「学校関係者だ。公式にはもちろん処罰は受けてもらう。だが、一番の被害者である君の気持ちも聞いておきたい」
私の気持ち・・・。
うーん、そうね。
「一階組はいいです。親の言うことには従うしかありませんし、爵位の上の者に逆らうなという暗黙の約束もありました。私から離れるしかなかったんです。でも、教職員と二階組にはそれなりの対応をお願いします」
一階組とは平民と騎士爵の娘。
二階組とは爵位持ちの娘と、騎士爵の中でも母親が爵位持ちの娘だったり親が部下だったり小金持ちだったりする人たち。
教育課程自体が違うし、食事場所も内容も違うので、本来なら出会わないはずなのだ。
「特に食堂関係は恨んでます。同じ代金を払っているのに、夏休み明けから私だけ固い黒パンと薄いスープでしたもの。それも量は半分。屋敷に帰るまでお腹が空いてお腹が空いて」
「代金 ? 」
「ええ。それなのに休み明けからお弁当の持ち込みは禁止になって、私のお小遣いそろそろ危ないです」
「・・・分かった。満足してもらえるだけの結果は出す。報告を楽しみにしていてくれ」
おじ様は仕事が増えたと急いで帰っていかれた。
その前に授業の内容を細かく聞き書きをしていかれた。
マールはというと「このところお食事量が増えていたのは、そのような扱いを受けていたからなのですね」とモジャモジャ眉毛の下の目をハンカチで抑えた。
その日のお食事は、いつもより少し多くて豪華だった。
ところで母はおじ様の帰り際に「更地にする時は必ず呼んでくださいね」と言っていた。
どこを更地にするつもりなんだろう。
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