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物語は続くよ どこまでも

私はナラ・その5

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 大御親おおみおや様のお話はこうだ。

『力のない若い神は完全な人間を作ることができない。キャラクターとして配置したものを、魂を持った者の力で動かしているだけだ』
「動かしているだけ ? 」

 どういうことかしら。

『奴らは物語やゲームをただなぞるだけでなく、派生的な物語も楽しもうとする。その世界の人間は、選択肢によってどう動きなんと言うのかあらかじめ決められている。転移、転生で呼び込まれた魂は自分の意志で動いていると思っている。だから物語と違う展開になっても気付かない」

 異世界からの魂は単なる動力源。
『物語』が終われば転移者、転生者もろとも『力』として神のもとに戻る。楽しいだけでなく力も取り込める。
 一石二鳥だ。

「話を元に戻そう。つまりお前たちのアバター同様、人としての形をとっているだけの人形だ。そこに自我はない。作るだけなら簡単だ」

 すると地面からニョキニョキと何かが生えてきて、小人くらいの大きさの人間になった。

「これに魂を込めれば自我を持った一人の人間になる。魔物も獣も同じだ。魂を入れればいい。だが若い神たちはそこに気づかない。選択肢などという面倒臭いプログラミングをするくらいなら、最初から魂を持った人間を作ればよいのだ。そうして育てれば永久に己の力の供給源になるものを」

 小人はサラサラとただの土に戻る。

「なぜ若い神が魂のこもった人間を作れないか。それは奴らが『魂』を見ないからだ」

 大御親おおみおや様にお互いを良く見よと言われて、正面のマールを見てみる。
 すると何処とははっきりわからないが、なにか熱い物が体の中にあるのがわかる。

「魂は臓器ではない。なのに奴らは何か形ある物だと思っているのだ。たとえば魔石。奴らは魂をあのような物とだと信じている。だがあれは単なる魔力の固まったもの。それをどれだけ人形に押し込んでも何も起こらない。あ奴らは魂を知らずに見ようとしない。お主らは自分たちにはまだ見る力がないと思っている」

 それがあ奴らとお主らの違いだと大御親おおみおや様は言う。
 ちなみに他の世界はともかく、この世界には魔石は存在しない。
 そう言われて仲間たちを見ると、それぞれ違う熱量を感じる。
 エイヴァンは冷たい物に覆われたマグマのような熱さを持っている。
 アル君は温かく優しい物が広がっている。。
 そしてルーちゃんは、うん、まぶしい。
 髪の色と同じ、輝いて楽しそうで小さな体から溢れるような大きさを感じる。
 どう見ても普通じゃない。

『世界を作るとは、小さな魂を育て上げることから始まる。この世界もお主らベナンダンティたちがいなければ、張りぼての空っぽのまま。ゲームが始まる前の世界にお主らの仲間がいたからこそ、ゆっくりと自我を持ち魂を獲得した。今その魂は循環し、美しい世界を作っている』

 ただ、魂とは育つもの。
 成人の身体に魂を入れても、自我を持たない人形であることに変わりがない。
 必ず赤子から育てよ。
 そうして大御親おおみおや様は空を見よと言った。

『では次にどこから魂を持ってくるか。これはいたって簡単だ』

 ブンっと空に何か渦を巻いている物が見える。
『あれが輪廻の輪だ。渦を巻いて吸い込まれていくのが魂』

 黒かったり赤かったりみたいな、そんな何かが輪に加わって中に向かっていく。

『よく見よ。吸い込まれる瞬間、魂の色が白く変わっているだろう。あれが浄化された証拠。吸い込まれてしまう前にすくいあげる』

 渦の中から一個、ヒョイと飛んでくる。が、大御親おおみおや様はそれをポイと渦に戻す。

『輝きが足らなかった。もう少し光るものが良い。さ、やってみるがよい』

 どうやら浄化された魂にも優劣があるらしい。
 確かによく見ると同じようで少し違う。

「これえっ ! 」

 ルーちゃんはキラキラする魂を引き寄せた。

「なんだか金魚すくいみたい」

 楽しそうに笑うルーちゃんはもう一つ魂をすくいあげた。
 その横でアル君が捕まえた魂の一つは、なんだか甘えん坊な感じがする。
 そうか、そんなに難しく考えなくてもいいのね。
 私は浄化された魂の中から、相性の良さそうな子に手を伸ばした。



「本当にご心配かけてごめんなさい、お母さま。早く戻りたかったのですけれど、生まれたばかりでは船に乗せるのも心配で。せめて一才過ぎてからと思ったのですが、誰かしら体調を崩してしまって」
「よろしいのよ。一番弱い者を優先するのは当然ですもの」

 ルーちゃんの平身低頭に、お方様はよしよしと孫たちの頭を撫でる。
 実は四神獣を通じて妊娠出産は伝えてある。
 実際はいきなり生後数日の子供を手に入れたわけだけど、その辺はナイショだ。

「けれどまさか全員が男女の双子とは。不思議なものですな」
「ええ、我々も驚いたのですが、滞在していた村ではさして不思議なことではなかったのです、グレイス公爵閣下」

 エイヴァンが娘を膝に乗せて説明する。

「その村は住民の八割が双子なのです。何故かはわかりませんが、昔からそうなのだと」
「双子ばかりですって ? 」

 グレイス公爵夫人の言葉にエイヴァンは「はい」と答えた。

「不思議なこともあるものだと我々も思っていたら、その村で生まれた我らの子も全員双子だったのです」
「まあ」
「双子以外が生まれると吉兆ということでお祭りになるそうですよ。まあ、次も双子では溜まらないと慌てて隣の村に移動したのですが、そこは双子はほとんど生まれないそうで、一体なぜそのようなことが起きるのか不明です」

 でも、そのおかげで孫息子と孫娘、一度に抱っこできるのですね。
 そう言ってエリアデル公爵夫人は嬉しそうに笑った。
 公爵夫妻は年の差婚で白い結婚で、もう係累と言ったら公爵の姉であるグレイス公爵夫人とその息子のバルドリック様だけだ。
 実は夫人はディードリッヒと数才しか違わないのだが、その年でおばあ様と呼ばれることに不満はないらしい。
 ディーが公爵夫人と呼びかけたら「お母様でしょう ? 」と微笑んで部屋を凍らせた。

「本当はこのまま連れて帰りたいけれど、家族同様に育った子供たちをいきなり引き離すのは可愛そうですわね」
「スケルシュの屋敷の支度もまだ整っておりませんし、しばらくは我がダルヴィマール家でお預かりいたしますわ」
「お姉さま。今度あた、わたくしの子供を連れて参りますわね。仲良くしてくださいね」

 あら、アンシア。
 すっかり貴族夫人になったと思っていたのに、久しぶりにルーちゃんに会ったら綻びそうよ。
 そんなアンシアを公爵夫妻と旦那様が微笑ましく見ている。
 幸せに暮らしているのを見て、ルーちゃんも嬉しそうだ。

 こんな感じでルーちゃんとその一味の自由な時間は終わった。
 私たちは諦めて貴族生活を送ることになる。

 楽しかったわね、みんな。
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