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物語は続くよ どこまでも

私はナラ・その4

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 私たちが先延ばしにしていた問題。
 それは跡継ぎだ。

 ルーちゃんちのダルヴィマール侯爵家は、皇配になる次期様のお子様が継ぐことになっている。
 アンシアのグレイス公爵家にはもう子供が生まれているはずだ。
 問題はエイヴァンのシュケルシュ伯爵家と、ディードリッヒのエリアデル公爵家だ。 

 ベナンダンティは子供を作ることが出来ない。
 唯一の例外は現世での死後もこちら夢の世界で生き続けた始祖陛下だ。
 私たちも死後は同じようにこちら夢の世界で寿命まで生きられるらしい。
 だが、私たちの寿命は平均値だとされている。
 現世で八十まで生きたら、そんな年で初子ができるなんてと言われるに決まっているし、そもそもその年で子供を産みたくない。
 養子が養子を取るわけにはいかないし、ましてや初代伯爵の跡継ぎが養子というのも外聞が悪い。
 なにより忘れもしないあの騒ぎ。

 ルーちゃんが次期女侯爵として養女に入った時、それに反発して物凄い数の依子が離れていった。
 そのほとんどが依り親であるダルヴィマール侯爵家の庇護を失くして、財政的にも社会的にも弱い立場になっている。
 依子であったからこその地位や職場を失くした家もある。
 縁故採用されながら飼い主の手を噛むような家、信用できるわけがないものね。
 で、新しく筆頭依子になった正二位のスケルシュ伯爵家の次代ってのは、喉から手が出るほど欲しい立場で、それを足掛かりにダルヴィマール家の依子に戻ろうと画策している連中が少なくない数いるのはお庭番さんから報告を受けている。

「上手くいかないものですね」

 ルーちゃんがため息をついた。

「諸島群で赤ちゃん引き取って実は子供が生まれてましたーってやるはずだったのに」

 そうなのだ。
 西と東の大陸はルーちゃんの銀髪とマールの白髪が珍しいくらいで、後は良く知った色の目と髪だ。
 しかし諸島群の民は双黒。
 どこから見ても養子で、私たちの実子と言い張ることが出来ない。
 そして北の大陸は逆にありえない髪色をしている。
 青とか緑とかピンクとか。
 当然そちらからの養子は無理。
 じゃあ南の大陸はと言えば、四神獣の情報によると皮膚の色が問題になる。
 真っ赤、真っ青、緑の三種類。
 それこそ絶対に血のつながりはないとバレる。
 あ、南では肌の色が濃ければ濃いほど美人らしく、他の大陸の人間は美的感覚から恋愛対象にはならないのだとか。
 まあ、そんなわけで養子をもらって実子扱い計画は頓挫してしまった。
 西と東で探すと必ず足が付くからね。

「いっそのこと大御親おおみおや様にご相談しようかしら」
「でも、忙しくしておいでだから、来ていただけるかどうか」

 とは言えそんな遠慮なんてしていられないから、ルーちゃんは四神獣に頼んで大御親おおみおや様に繋ぎを取ってもらった。



『まったく、お主は一体何をしておるのだ。せっかくこの世界の神になったというのに、面白いことばかりやりおって』

 ルーちゃん、ただいま大御親おおみおや様の絶賛お説教タイム。

『まだ半神の身とは言え、世界に干渉する力は持っているのだ。苦しむ魂を慰めるとか、この世を離れる魂を見送るとかできることはあるのだぞ』
「えっと、魂を見るのはまだできなくて・・・」
『出来ないのではない。出来ないと思い込んでいるだけだ。お主、変なところで頭が固い。まだ自分をただの人間だと思っておるのか』

 近侍夫婦たちもだぞと、大御親おおみおや様のお叱りが私たちにまで飛んでくる。
 ルーちゃんたちほどではなくても、それなりにいろいろと出来るのだと言われても、人間って必要ないものはそうそう覚えられないわよね。
 ポンポンと気軽に魔法を構築するのはルーちゃんくらいだわ。

『仕方がない。神としては初歩の初歩だが、現身うつしみのお主らが自力で会得するのは難しかろう。手引きをいたすので良く覚えるように』
「え、そんなこと出来るんですか ? いえ、して良いんですか ? 」
『全知全能、創生の神が何を言っている。人の人生をもてあそぶようなことをしなければ、大抵のことは許されるわ』

 そ、そうなのかしら ?



 ダルヴィマール侯爵家王都別邸。
 その応接室には侯爵夫妻、子息、グレイス侯爵夫妻と子息夫妻、エリアデル侯爵夫妻が集まっている。

「こんなに長く戻らないとは思いませんでしたわ。もう何年になりますかしら」
「四年・・・ですわね、グレイス公爵夫人。近侍を離れたくないとは申しておりましたけれど、まさか全員まとめて雲隠れするとは。本当にもう、あの娘たちときたら ! 」

 ダルヴィマール侯爵夫人シルヴィアンナが呆れた表情でため息をつく。

「それで、今日こそ戻られるのでしたな。やれやれ、やっと私も引退できますぞ」
「エリアデル公爵。教育と引き継ぎがありますよ。まだまだお元気でいていただかなくては」

 そんなのんびりとした雰囲気の中、にわかに邸内が慌ただしくなった。
 
「失礼いたします」

 扉が叩かれ家宰のセバスチャンが入って来た。
 額に軽く汗をかき、顔が少し強張っている。
 穏やかな表情を崩したことのない彼にしては珍しい。

「どうしたんだい、セバスチャン」
「ただいま皆様ご帰還でございます。ですが・・・」

 と続ける前に、彼の後ろからパタパタと小さい影が走りこんできた。
 赤い髪、黒髪、茶髪の二歳から三歳くらいだろうか。
 六人の子供は東方のキモノと呼ばれる服を着ている。
 そしてペタンと正座をすると、きれいに背を伸ばし手をついて声を合わせた。

「「おじいさま、おばあさま、はじめまして ! 」」 
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