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物語は続くよ どこまでも

第四王子は歩み始める

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「第四王子、エルヒディオ王子ご帰還にございます」

 懐かしい祖国に戻って来た。
 海沿いにある城は魔物の襲来にも耐えたが、やはりあちこち破壊された跡がある。
 謁見の間の両親と兄妹。
 王太子以外の二人の兄は『大崩壊』の時に儚くなっている。
 残ったのは私と妹だ。

 側近たちがラーレに暴力を振るっているのが判明してから、私たちは離宮から出ることが出来なかった。
『大崩壊』の時に共に戦いたいと申し出たが、父王がなぜ私をこちらに寄越したかを考えろと、ルチア姫の近侍の宰相補佐から言われた。
 帝国は私を無事に祖国に戻す義務があるのだと。
 昼夜を問わず轟く魔物の声。
 まるで昼間のように明るく照らすのは、ルチア姫の考案された魔法だと聞かされた。

 ルチア姫。
 許されて見学した公開訓練は凄まじかった。
 愛らしいだけの姫だと思っていたが、あの不思議な形の槍の腕。
 想像もつかない魔法の力。
 戦いながらも凛として気品ある優雅な動き。
 近侍たちもまた品位を保ちつつ力強い剣の技。
 そしてその上をいく『英雄マルウィン』。
 私も剣には自信があった。
 だが、彼らを見たら我らが加わっても足を引っ張るだけだと思い知った。
 だからせめて我らにも出来ることを申し入れ、包帯などの医療品の作成を手伝わせてもらった。
 けれどそこにラーレはいなかった。

 ラーレ。
 海難から生き残った少女。
 十八才の冒険者。
 雑用係として使節団に加わった。
 孤児院出の平民だと言うのに、読み書きができ計算も早い。
 高位貴族令嬢と比べて、その能力は遜色ない、いや、それ以上だ。
 側近たちは色仕掛けで財務大臣に取り入った悪女だと言った。
 だが、私にはどうしてもそうは思えなかった。
 色仕掛けが出来るほど妖艶でもないし、私に対して媚びを売ることもなかったのだ。
 船が大破し海に投げ出された時、彼女は私の襟を掴み同じ木切れに掴まれと言った。
 そして同じように海面を漂っていた側近たちにも声をかけ、自分の服を脱いでそれで木と木を繋ぎ合わせて離れ離れにならないようにする。
 岸にたどり着いた時には、彼女は女性としてありえないような姿になっていた。
 なのに笑顔で生き延びて良かったと言う。
 側近たちはそんな姿でいることに慣れているからだと顔をしかめ、彼女のおかげで助かったことを認めようとしなかった。

「この服とか飾りとかを売れば旅費が作れます」

 彼女は逞しかった。
 買い叩こうとする住民を泣き落としで説得し、買い物の時には値引き合戦をし。
 そんな彼女を「下賤な女はこれだから」と側近は罵る。
 私たちがヴァルル帝国の王都までたどり着けたのは彼女のおかげだというのに。
 そんな彼女に対して特別な感情を持っていたかと言われれば違うと答える。
 傍にいて励まされる、力をもらう。
 ともに生き延びた同士。
 あえて言えば国に残してきた妹のような存在だろうか。
 側近たちが彼女疎むので一緒に過ごす時間は無くなったが、せめて夕食の時くらい控えさせて無事を確認したいと思った。
 それが、あんなことに。

「こちらをお持ちください」

 帰国のための船に乗る前、挨拶に来られたルチア姫からガラスに封じ込められた変わった形の花を渡された。

「お国にはございませんでしょう。この花の名前はラーレと言います」
「・・・ラーレ」
「花言葉は色によって違うのですが、全ての色が持つ意味は『思いやり』。愛情を意味する言葉が多いのです」

 真っ赤なコップのような形の花とスッと伸びた葉。
 王冠と剣と言われているのだと言う。

「ラーレさんは、北の大陸の代表として『大崩壊』に参加しました。傷病者を助けるため働いてくれましたけれど、残念ながら・・・」

 共に過ごした者たちの悲しみも大きいと言う。
 彼女に救われた騎士や冒険者からの感謝の気持ちも伝えられた。
 そうか、彼女はもういないのか。
 命を救われた恩を返すことは永遠にない。

「よくぞ戻った、我が息子よ」

 久しぶりに会う父王は少しやつれたように見える。
 そうだろう。
 兄たちも含め、『大崩壊』の人的被害は大きかった。
 何人もの廷臣が家族もろとも亡くなったという。
 ラーレを嵌めたあの財務大臣もそこに含まれる。
 彼に囲われていた幼い少女たちも。
 ラーレの仇を取りたかったが、天は悪を見逃さなかったのだ。
 巻き込まれた少女たちには手を合わせることしかできない。

西海さいかいの王より『大崩壊』の全容は教えていただいた。さぞや恐ろしかったことだろう」
「私たちは戦いには参加させてもらえませんでしたが、一度だけ塔の上からその様子を見ることができました。とても、いえ、恐ろしいという言葉では表すことができません」

 生き残った臣民の前で自分が見てきたことを説明する。
 官民一体となった攻防戦。
 皇族までも前線にたち王都を守っていた。
 国民と皇帝との揺るぎない絆。
 私は吟遊詩人を集めてこの物語を広めたいと思っている。
 そしてついに神が目覚められたことも。

「神はこの世界を創生された後、長きに渡り眠りにつかれたと記されています。ですが、その力を取り戻し、お目覚めになったと四海の王から告げられました」

 それは新たな時代の始まり。
 私が東の大陸に向かったことは決して無駄ではなかったのだ。
 正しき神の存在の伝道。
 親と死に別れた子たちの保護。
 やるべきことは山のようにある。
 一つ一つ手をつけていこう。
 王太子である兄を支え、必ずや良き国を作らねば。
 それが不遇の死を遂げたラーレへの罪滅ぼしでもある。
 いつか天の御園みそのに迎えられた時、ラーレに胸を張って報告できるように。
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