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物語は続くよ どこまでも
マール君の大、大、大冒険 ! ・その8
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仁王立ちの先輩侍女さんは、エイ兄さんの大切な相思相愛の婚約者・・・のはずなんだけど。
「婚約解消しましょう、スケルシュ」
なんで開口一番そんなセリフが出てくるんだろうか。
横に並ぶ兄さんたちはもちろん、姫とアンシア姉さんもパックリと口を開けている。
んでもって『さておき』も『とりあえず』も婚約解消とまったく関係ない言葉だと思うんだけど。
「えーっと、私もナラと同じ。婚約解消させてもらうわね、カークス」
隣で腕組みしている侍女じゃない人。
もしかしてディー兄さんの彼女さん ?
「ちょっ、待ってくれ、ナラ。一体なんでそんな話になるんだ ? 」
「そうだぞ、フロー。今は侍従の総入れ替えって話じゃないか」
兄さんたち、冷静になろうとしているが、顔色がめっちゃ悪い。
姫はというと扇子で口元を隠しながらも少し肩が震えている。
「春の除目が発表されたのよ。そして異議申し立ての期日は過ぎてしまったの。その結果として新しく侍従を選ばなければならなくなったのよ」
「だから、除目なんて貴族のものだろう。我々には関係ない」
「それが大ありなのよねえ」
腕組みしている人、ディー兄さんの婚約者のフロラシーさんが面倒くさそうに教えてくれる。
『大崩壊』の功労賞は騎士団とか各ギルドとかには与えられたんだけど、一番頑張った姫たちには何もなかったそうだ。
さすがにそれはどうだろうという意見が王都に住む人たちから上がっていて、当然貴族の中からもあれだけ頑張ったのに褒美がないとはどういうことかと抗議があった。
このまま何もないならもらった功労賞は返上すると各騎士団と魔法師団からの申し入れがあり、春の除目で慌てて発表されたとか。
あ、除目って会社で言う人事異動みたいなのらしい。
「カジマヤー君はグレイス公爵家の養子、カークスはエリアデル公爵家の跡継ぎに。そしてスケルシュは新しく伯爵位を賜ったわ」
「つまり全員高位貴族の仲間入りで、侍従仕事は出来なくなっちゃったってことよ」
「「そんなバカな ! 」」
兄さんたちが声をそろえて叫んだ。
「だ、だがそれと婚約は別だろう ! なんでわざわざ解消・・・ ! 」
「スケルシュ、私はメラニア侍女長の後釜を狙ってるの。侍女として頂点を極めたいのよ。あなたと結婚したら伯爵夫人よ。仕える側が仕えられる側になってどうするの」
「私も同じよ、カークス。来年から正式に王都支店を任せてもらえるの。私はドレスを作りたいのよ。誰かに作ってもらうなんてお断りよ。おまけに公爵夫人なんて、私には荷が重すぎるわ」
兄さんたちはもう俺が見たことのないくらい狼狽していて、乙女ゲームの婚約破棄された悪役令嬢みたいな顔をしている。
いや、見たことないけど。
「ナラ、俺のあの試練はなんだったんだ ! 」
「まったくの無駄よ ! 」
一刀両断されたエイ兄さん。
もうこの世の終わりみたいって表現がぴったりな顔になっている。
それにしても兄さんたちの試練ってなんだろう。
結婚するのになんかクエストみたいなのがあるんだろうか。
「あの、もしかして一発殴らせろとか、お父さんと呼ばれる覚えはないとかいうアレですか ? 」
アル兄さんがおずおずと聞いてみる。
「いや、ナラの実家は古武術道場だったから、いきなり百人組手をやらされた」
ナラさん自身は武道の嗜みはないけれど、ご両親とお兄さん夫婦にご親戚まで加わって、千切っては投げ千切っては投げ。
九十九人しっかり倒したところで甥っ子君が現れ、かわいいお手々でエイエイとやられ、倒すわけにはいかないので肩車をして道場内を歩き回っているうちに、頭の上で涎を垂らして寝入ったそうだ。
それを見たお爺さんが、
「あっぱれ ! 敵の特性を見極め、正しい方法で倒す。まこと孫娘の婿にふさわしい ! 」
と、大絶賛でその後酒宴になだれ込んだ。
ちなみに甥っ子君は二歳。
「兄さんはまだいいですよ。フローの実家は造り酒屋で、挨拶してたらいきなり大宴会だったんです」
まず酒造の酒を全部試飲させ、つぎに利き酒をやらされる。
銘柄を当てなくてもいいけど、その酒を誰にでもわかるようプレゼンさせられた。
もちろん『鑑定』の魔法で銘柄から仕込まれた年まで当てている。
「フローが目とかでフォローしてくれるかと思ったら、俺を無視して食べ飲み放題だったんですよ」
その後は「俺の酒が飲めないか」状態で杜氏さんを含む従業員さんとご親戚一同からひたすら酌をされる数時間。
それも穴が開いていて底を抑えないと零れてしまう『可盃』とか、底が尖がっていて置くことができない『そらぎゅう』とか。
絶対に断れない杯を渡されてひたすら吞み続けていく。
あっちでも魔法が使えてよかった。
『洗濯』の魔法の変形で酒のアルコールをいちいち除去してたからなんとかなった。
次から次へとくる酒を飲んでは返杯しを繰り返して、無事に全員潰して見事大関認定されて結婚を許された。
「あの、あの面倒臭い儀式を無かったことにしろって言うのかっ ! 」
「その通り ! 」
・・・ディー兄さん。
「なんで、なんでこんなことに・・・ ! 」
あ、姫がお怒りモードに入りそう。
じーちゃん、そこで笑ってないでなんとか言ってよ !
アンシア姉さんも自分が関係ないからって楽しそうにしてんなよっ !
「婚約解消しましょう、スケルシュ」
なんで開口一番そんなセリフが出てくるんだろうか。
横に並ぶ兄さんたちはもちろん、姫とアンシア姉さんもパックリと口を開けている。
んでもって『さておき』も『とりあえず』も婚約解消とまったく関係ない言葉だと思うんだけど。
「えーっと、私もナラと同じ。婚約解消させてもらうわね、カークス」
隣で腕組みしている侍女じゃない人。
もしかしてディー兄さんの彼女さん ?
「ちょっ、待ってくれ、ナラ。一体なんでそんな話になるんだ ? 」
「そうだぞ、フロー。今は侍従の総入れ替えって話じゃないか」
兄さんたち、冷静になろうとしているが、顔色がめっちゃ悪い。
姫はというと扇子で口元を隠しながらも少し肩が震えている。
「春の除目が発表されたのよ。そして異議申し立ての期日は過ぎてしまったの。その結果として新しく侍従を選ばなければならなくなったのよ」
「だから、除目なんて貴族のものだろう。我々には関係ない」
「それが大ありなのよねえ」
腕組みしている人、ディー兄さんの婚約者のフロラシーさんが面倒くさそうに教えてくれる。
『大崩壊』の功労賞は騎士団とか各ギルドとかには与えられたんだけど、一番頑張った姫たちには何もなかったそうだ。
さすがにそれはどうだろうという意見が王都に住む人たちから上がっていて、当然貴族の中からもあれだけ頑張ったのに褒美がないとはどういうことかと抗議があった。
このまま何もないならもらった功労賞は返上すると各騎士団と魔法師団からの申し入れがあり、春の除目で慌てて発表されたとか。
あ、除目って会社で言う人事異動みたいなのらしい。
「カジマヤー君はグレイス公爵家の養子、カークスはエリアデル公爵家の跡継ぎに。そしてスケルシュは新しく伯爵位を賜ったわ」
「つまり全員高位貴族の仲間入りで、侍従仕事は出来なくなっちゃったってことよ」
「「そんなバカな ! 」」
兄さんたちが声をそろえて叫んだ。
「だ、だがそれと婚約は別だろう ! なんでわざわざ解消・・・ ! 」
「スケルシュ、私はメラニア侍女長の後釜を狙ってるの。侍女として頂点を極めたいのよ。あなたと結婚したら伯爵夫人よ。仕える側が仕えられる側になってどうするの」
「私も同じよ、カークス。来年から正式に王都支店を任せてもらえるの。私はドレスを作りたいのよ。誰かに作ってもらうなんてお断りよ。おまけに公爵夫人なんて、私には荷が重すぎるわ」
兄さんたちはもう俺が見たことのないくらい狼狽していて、乙女ゲームの婚約破棄された悪役令嬢みたいな顔をしている。
いや、見たことないけど。
「ナラ、俺のあの試練はなんだったんだ ! 」
「まったくの無駄よ ! 」
一刀両断されたエイ兄さん。
もうこの世の終わりみたいって表現がぴったりな顔になっている。
それにしても兄さんたちの試練ってなんだろう。
結婚するのになんかクエストみたいなのがあるんだろうか。
「あの、もしかして一発殴らせろとか、お父さんと呼ばれる覚えはないとかいうアレですか ? 」
アル兄さんがおずおずと聞いてみる。
「いや、ナラの実家は古武術道場だったから、いきなり百人組手をやらされた」
ナラさん自身は武道の嗜みはないけれど、ご両親とお兄さん夫婦にご親戚まで加わって、千切っては投げ千切っては投げ。
九十九人しっかり倒したところで甥っ子君が現れ、かわいいお手々でエイエイとやられ、倒すわけにはいかないので肩車をして道場内を歩き回っているうちに、頭の上で涎を垂らして寝入ったそうだ。
それを見たお爺さんが、
「あっぱれ ! 敵の特性を見極め、正しい方法で倒す。まこと孫娘の婿にふさわしい ! 」
と、大絶賛でその後酒宴になだれ込んだ。
ちなみに甥っ子君は二歳。
「兄さんはまだいいですよ。フローの実家は造り酒屋で、挨拶してたらいきなり大宴会だったんです」
まず酒造の酒を全部試飲させ、つぎに利き酒をやらされる。
銘柄を当てなくてもいいけど、その酒を誰にでもわかるようプレゼンさせられた。
もちろん『鑑定』の魔法で銘柄から仕込まれた年まで当てている。
「フローが目とかでフォローしてくれるかと思ったら、俺を無視して食べ飲み放題だったんですよ」
その後は「俺の酒が飲めないか」状態で杜氏さんを含む従業員さんとご親戚一同からひたすら酌をされる数時間。
それも穴が開いていて底を抑えないと零れてしまう『可盃』とか、底が尖がっていて置くことができない『そらぎゅう』とか。
絶対に断れない杯を渡されてひたすら吞み続けていく。
あっちでも魔法が使えてよかった。
『洗濯』の魔法の変形で酒のアルコールをいちいち除去してたからなんとかなった。
次から次へとくる酒を飲んでは返杯しを繰り返して、無事に全員潰して見事大関認定されて結婚を許された。
「あの、あの面倒臭い儀式を無かったことにしろって言うのかっ ! 」
「その通り ! 」
・・・ディー兄さん。
「なんで、なんでこんなことに・・・ ! 」
あ、姫がお怒りモードに入りそう。
じーちゃん、そこで笑ってないでなんとか言ってよ !
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