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『四方の王』編
夢破れて
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「うっうっうっ ! 」
「泣くな、ルー。泣いたって始まらん」
「だって、だって ! 」
「百倍を突破して一次に受かったんだ。お前なら二次も楽勝だったろう。だが、こればっかりはどうしようもない」
ここはダルヴィマール領の領都ヒルデブランド。
私たちは先日こちらに戻ってきて、今はエブリデイ冒険者生活を送っている。
たまに領主館で礼儀作法の見直しを受けているが、基本ベナンダンティ用アパートに住んでいる。
アンシアちゃんはギルドの女性用の下宿だ。
そして今、ベナンダンティ用アパートの談話室で私は号泣している。
「どうしようもないってわかってます ! でもっ、でもっ、悔しいですぅ ! 」
涙が止まらない。
悔しい。
悲しい。
辛い。
すべての希望が消え去った。
今パンドラの箱の中は空っぽだ。
「頑張ってきたのに ! ずっと目指してきたのに ! なんでえっ ?! 」
「それがお前の運命だ」
「違うもんっ ! ディードリッヒ兄様のいじわるっ ! 」
あの日からたった一つを目標にしてきた。
私の進む道はこれしかない、この道を進むのだと。
それなのにっ !
二次試験の前日、準備万端整えて早めに就寝した私。
みんなの声援を受けてあちらで目を覚ましたら、なんと四十℃を超える高熱を出していた。
流行性感冒である。
「ワクチン打ったのにっ ! 二回も打ったのに ! 」
「打とうが打つまいが、罹るときにはかかるんだ。いい加減あきらめろ」
「私の夢がぁぁぁっ ! 」
「うんうん、いっぱい泣くといいよ。我慢しないで納得いくまで泣いていいからね」
「そうですよ。辛い気持ちは全部吐き出しちゃったほうがいいですよ」
オンオンと泣く私をアルとアンシアちゃんが慰めてくれる。
あ、アンシアちゃんはベナンダンティ・ネットで理解者と紹介され、今は『名誉ベナンダンティ』の称号をもらっている。
普段は立ち入り禁止のアパートも出入り自由だ。
遠慮して私たちと一緒でないと入らないけど。
「なあ、ルー。お前、本当にその道に進みたかったのか ? 」
「エイヴァン兄様・・・」
「ちょっと思い出せ。どうしてそれを選んだんだ ? 」
気持ちの整理をする為にも言葉にしてみろ。
エイヴァン兄様に言われて、そのきっかけを思い出してみる。
私の両親は同じ仕事をしている。
どちらもあちこちと転勤しているから家族三人が揃うことは稀だ。
だけどそんな時はテレビの番組を見ながら歌ったり話したりする。
ドキュメンタリーとか再現ドラマとか、そんなのを見ながらいろんな意見を言い合う。
あんな風になりたいな。
だから私も同じ道に進みたいと思った。
そうしたら両親のように素敵な相手と出会えて、同じ立場でお互いの意見を出し合ったりして幸せに暮らしていけるかも。
そんなことを思いだしたら、動機はめちゃくちゃ不純だったのかもしれないと思い始めた。
いや、多分きっと災害派遣とかいろいろとあったとは思うんだけど、でも確かに一番最初に思ったのは、同じ仕事をして対等に話し合える父みたいな旦那様がいいなってことだと思う。
そう言ったらアルの顔が青くなり、アンシアちゃんがあんぐりと口を開け、兄様たちが見慣れた大きなため息をついた。
「なあ、ルー。一つ教えてくれ。お前、そんな素敵な旦那をどこで見つけるつもりだったんだ ? 」
「大学は女子より男子学生のが多いですから、一人か二人くらい見つけられるかなあって・・・」
「このっ、大馬鹿野郎 ! 」
あ、久々のエイヴァン兄様のグリグリ攻撃だ。
痛い、痛い、痛い。
「普通はなあ、国民の命を守る為とか、国土防衛とか、たまに家が貧乏だから普通の大学の学費払えないからとか、そんな奴らが入学するんだぞ。まさか結婚相手を探しに入学試験を受けるとか、そんな邪念を持って目指すアホなんて聞いたことがないわっ ! 」
「第一お前、もう婚約・・・っ ! 」
「ディー兄さん、それはまだナイショでお願いします」
兄様たちはまだ忌々しそうに私をにらみつけているけど、アルが二人を宥めてくれた。
「あの、もしかしたら、素敵な旦那様は別に入学しなくても見つけられるかも・・・ ? 」
「当たり前だ。逆にどうしてそんな考えが浮かんだんだか知りたいぞ」
「エイ兄さん、お姉さまは素敵なご両親のような幸せな未来を夢見てただけですよ。その、選んだ道がおかしかっただけで」
「アンシアちゃん、ひどい ! 」
その後数時間、私は正座で兄様たちにお説教され、結局のところ他大学を受験することを約束させられた。
「一般大学で学んで、まだその職に就きたかったら幹候を受験すればいい。とにかく学生にはなれ。でないとバレエ団に取り込まれるぞ」
「お前はもっと世間と一般常識を知れ。このままだと悪い奴らに騙される未来しかない」
そ、そんなことないよね ?
肯定してほしくてチラッとアルに目をやると、悲しそうに視線をそらされた。
なぜ ?
◎
翌日、ルーを除いたメンバーは冒険者ギルドのギルマス執務室に集結する。
「アルさんよ、お前、ルーにプロポーズしていなかったのか ? 」
「した、と思います。ちゃんと気持ちも伝えたし。受け入れてもらえましたから」
「にもかかわらず、あのバカ娘は素敵な旦那とやらを探しに行くつもりだったらしい。希望動機があれじゃあ二次で落ちていたとは思うが」
面接官は海千山千。
子供のカッコつけの動機など瞬時に看破する。
彼らは面接のプロだ。
ルーの本当の志望動機などあっという間に見破られることは間違いない。
「それで、どう言って口説いたんだか言ってみろ」
「・・・これからの長い人生、二人で世界中を旅してまわろうって」
「アルったら、それは単なる旅行へのお誘いよ」
午前中を使ってアルがお叱りと口説き文句のレクチャーを受けたのはルーにはナイショだ。
「泣くな、ルー。泣いたって始まらん」
「だって、だって ! 」
「百倍を突破して一次に受かったんだ。お前なら二次も楽勝だったろう。だが、こればっかりはどうしようもない」
ここはダルヴィマール領の領都ヒルデブランド。
私たちは先日こちらに戻ってきて、今はエブリデイ冒険者生活を送っている。
たまに領主館で礼儀作法の見直しを受けているが、基本ベナンダンティ用アパートに住んでいる。
アンシアちゃんはギルドの女性用の下宿だ。
そして今、ベナンダンティ用アパートの談話室で私は号泣している。
「どうしようもないってわかってます ! でもっ、でもっ、悔しいですぅ ! 」
涙が止まらない。
悔しい。
悲しい。
辛い。
すべての希望が消え去った。
今パンドラの箱の中は空っぽだ。
「頑張ってきたのに ! ずっと目指してきたのに ! なんでえっ ?! 」
「それがお前の運命だ」
「違うもんっ ! ディードリッヒ兄様のいじわるっ ! 」
あの日からたった一つを目標にしてきた。
私の進む道はこれしかない、この道を進むのだと。
それなのにっ !
二次試験の前日、準備万端整えて早めに就寝した私。
みんなの声援を受けてあちらで目を覚ましたら、なんと四十℃を超える高熱を出していた。
流行性感冒である。
「ワクチン打ったのにっ ! 二回も打ったのに ! 」
「打とうが打つまいが、罹るときにはかかるんだ。いい加減あきらめろ」
「私の夢がぁぁぁっ ! 」
「うんうん、いっぱい泣くといいよ。我慢しないで納得いくまで泣いていいからね」
「そうですよ。辛い気持ちは全部吐き出しちゃったほうがいいですよ」
オンオンと泣く私をアルとアンシアちゃんが慰めてくれる。
あ、アンシアちゃんはベナンダンティ・ネットで理解者と紹介され、今は『名誉ベナンダンティ』の称号をもらっている。
普段は立ち入り禁止のアパートも出入り自由だ。
遠慮して私たちと一緒でないと入らないけど。
「なあ、ルー。お前、本当にその道に進みたかったのか ? 」
「エイヴァン兄様・・・」
「ちょっと思い出せ。どうしてそれを選んだんだ ? 」
気持ちの整理をする為にも言葉にしてみろ。
エイヴァン兄様に言われて、そのきっかけを思い出してみる。
私の両親は同じ仕事をしている。
どちらもあちこちと転勤しているから家族三人が揃うことは稀だ。
だけどそんな時はテレビの番組を見ながら歌ったり話したりする。
ドキュメンタリーとか再現ドラマとか、そんなのを見ながらいろんな意見を言い合う。
あんな風になりたいな。
だから私も同じ道に進みたいと思った。
そうしたら両親のように素敵な相手と出会えて、同じ立場でお互いの意見を出し合ったりして幸せに暮らしていけるかも。
そんなことを思いだしたら、動機はめちゃくちゃ不純だったのかもしれないと思い始めた。
いや、多分きっと災害派遣とかいろいろとあったとは思うんだけど、でも確かに一番最初に思ったのは、同じ仕事をして対等に話し合える父みたいな旦那様がいいなってことだと思う。
そう言ったらアルの顔が青くなり、アンシアちゃんがあんぐりと口を開け、兄様たちが見慣れた大きなため息をついた。
「なあ、ルー。一つ教えてくれ。お前、そんな素敵な旦那をどこで見つけるつもりだったんだ ? 」
「大学は女子より男子学生のが多いですから、一人か二人くらい見つけられるかなあって・・・」
「このっ、大馬鹿野郎 ! 」
あ、久々のエイヴァン兄様のグリグリ攻撃だ。
痛い、痛い、痛い。
「普通はなあ、国民の命を守る為とか、国土防衛とか、たまに家が貧乏だから普通の大学の学費払えないからとか、そんな奴らが入学するんだぞ。まさか結婚相手を探しに入学試験を受けるとか、そんな邪念を持って目指すアホなんて聞いたことがないわっ ! 」
「第一お前、もう婚約・・・っ ! 」
「ディー兄さん、それはまだナイショでお願いします」
兄様たちはまだ忌々しそうに私をにらみつけているけど、アルが二人を宥めてくれた。
「あの、もしかしたら、素敵な旦那様は別に入学しなくても見つけられるかも・・・ ? 」
「当たり前だ。逆にどうしてそんな考えが浮かんだんだか知りたいぞ」
「エイ兄さん、お姉さまは素敵なご両親のような幸せな未来を夢見てただけですよ。その、選んだ道がおかしかっただけで」
「アンシアちゃん、ひどい ! 」
その後数時間、私は正座で兄様たちにお説教され、結局のところ他大学を受験することを約束させられた。
「一般大学で学んで、まだその職に就きたかったら幹候を受験すればいい。とにかく学生にはなれ。でないとバレエ団に取り込まれるぞ」
「お前はもっと世間と一般常識を知れ。このままだと悪い奴らに騙される未来しかない」
そ、そんなことないよね ?
肯定してほしくてチラッとアルに目をやると、悲しそうに視線をそらされた。
なぜ ?
◎
翌日、ルーを除いたメンバーは冒険者ギルドのギルマス執務室に集結する。
「アルさんよ、お前、ルーにプロポーズしていなかったのか ? 」
「した、と思います。ちゃんと気持ちも伝えたし。受け入れてもらえましたから」
「にもかかわらず、あのバカ娘は素敵な旦那とやらを探しに行くつもりだったらしい。希望動機があれじゃあ二次で落ちていたとは思うが」
面接官は海千山千。
子供のカッコつけの動機など瞬時に看破する。
彼らは面接のプロだ。
ルーの本当の志望動機などあっという間に見破られることは間違いない。
「それで、どう言って口説いたんだか言ってみろ」
「・・・これからの長い人生、二人で世界中を旅してまわろうって」
「アルったら、それは単なる旅行へのお誘いよ」
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