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『四方の王』編

ルーのプリマ・デビュー 夜の部 その1

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「佐藤様に花束をお届けにまいりました」

 花屋さんが幾つ目かの花束を届けに来てくれた。
 私のお世話役についてくれたお姉さまが、花束からカードを抜いて裏に花の種類を書いていく。
 配達票から後でお礼状を送る為だ。
 もらいっぱなしのところも多いけど、岸真理子記念バレエ団では義務だ。
 定型文の印刷されたはがきに、あて先と一筆添えるよう指導されている。
 私もいつも通りお手伝いしようと思ったら「あなたはお舞台のことだけ考えていればいいの」と断られた。

「ねえ、ちょっと ! 」

 そんな作業中のお姉さまが注目を求める。

「見て ! こんなのが来たわ ! 」

 お姉さまの手には一輪のの薔薇。

「大先生が亡くなってから届かなくなったって聞いてるけど、まさかめぐちゃんに贈られるなんて」
「すごい。これは快挙だよ」

 団員の方々がワイワイと集まってくる。
 メッセージカードには『素晴らしいキトリでした。応援しています』とだけあり、差出人は書かれていない。
 でも、私にはわかる。
 来て下さったんですね、ギルマス。
 アルには会えなかったけど、たくさんの元気と勇気をもらった。
 夜の部もがんばろう。



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・団員さんを貶めるような発言は禁止です。
・常識をもって書き込みましょう

681:
 盛り上がった昼の部。
 他スレで炎上したって ?

682:
 佐藤キトリがめっちゃ叩かれてたの。
 随分酷いこと書かれててね。 
 それに乗っかったバカどもがいて佐藤祭りになっちゃった。

683:
 ペアテやフェッテがグズグズだとか、リフトで落ちそうになったとか、手離しが出来なくて繋いだままだったとか。

684:
 ひでぇ。
 噓八百じゃんか。

685:
 ちょっと抗議に行ってくる。
 どこのスレ ?

686:
 あ、大丈夫。
 もう鎮火したから。

687:
 もう ?
 いつもだったら一週間以上続くのに。
 
688:
 叩いてた奴が自爆したんだよ。
 女子高生が大人ぶった演技してって。
 あのバジルとのからみ。

689:
 あれって大人のっていうより、等身大の女子高生だったわよね。
 あんなの今までやった人いないわよ。
 叩くんなら子供っぽ過ぎるでしょう。

690:
 そうそう。
 それで実際見た人がおかしいぞって言いだして。
 お前本当は見てないだろう。バジルとのからみ、正確に書いてみろって。
 で、今まで黙ってた人たちに叩かれまくって退場。
 今は別な良い意味で燃え上がってる。

691:
 あれに文句つけるって、どこかの回し者じゃない ?

692:
 それ、言われてた。 
 昼の部開演ギリギリまで悪口が蔓延してたしね。

693:
 出る杭は打たれるもんだし。
 私たちみたいなただのバレエ好きは、上手い子が出てくるのは大歓迎。
 コンクールのジュニア部門から見守りたいのはたしかだけど、こんな風にセンセーショナルな登場も嫌いじゃない。
 それに舞台でも可愛かったけど、素顔もめちゃくちゃ可愛い。
 元気一杯のキトリと反対で、慎ましやかな大和撫子ってかんじ。
 一緒に写真撮らせてもらった。

694:
 うおぉぉぉぉっ ! 何それ !
 終演後の楽屋詣でに付き合ってくれたの ?
 疲れてるだろうと思って、俺は遠慮したんだけど。

 695:
 テレビクルー入ってたわよ。
 ドキュメンタリー撮ってるんだって。
 みんな、テレビで彼女を見れるわよ。

696:
 女神、降臨 !



 ルーのデビュー。
 昼の部を見た。
 悔しいな。
 小笠原さんはしっかりとルーをサポートしてくれているんだけど、やっぱり足らない。
 ダイブからのリフト。
 僕との時に比べて随分近い位置から飛んでいる。
 僕ならもっと遠くから飛び込んできても、しっかりとワンハンドリフトにもっていける。
 ホールドのピルエットだって、もう数回多く回せる。
 お客さんは盛り上がっているけれど、あれじゃあルーの魅力の三分の二も伝わらない。
 僕だったら、僕なら、僕がバジルなら。

「それで、話ってなにかしら」

 目が覚めた日。
 ルーがギルマスと話があるというので、その間に御前とお方様と話す。
 今日は兄さんたちには遠慮してもらった。
 自分の気持ちをお二人に聞いてもらいたかった。

「グレイス公爵家との養子縁組ですが、今はお断りさせていただきたいのです」
「あら、あの子と結婚したくないのかしら」
「したいです。でも、今は遠慮させてください」

 お方様はおもしろそうな目で僕を見る。
 さあ、話してご覧なさい。
 そう言っているようだ。

「本当に結婚したいと思ったら、自分でお願いに行きます。でも、それは今じゃありません。大崩壊が収まって、ルーと二人もっと話し合ってからにしたいんです」
「大崩壊の後は帝国崩壊、それでもいいのかしら。養子どころか結婚も出来ないわよ」
「そんなことにはなりません。大崩壊は必ず食い止めます」

 座りなさい、とお方様は扇子で椅子を示す。

「なんでまた、そんなふうに考えたのかしら。好きな子と結婚できるのよ。感謝しつつ乗ればいいではないの」
「好きな子、だからです」

 僕は出陣式からのルーの変化を思う。
 あの日から、ルーははっきりと変わった。
 僕たちから少し距離を置いているようだった。
 表面的には今まで通りなのに、なにか悩んでいるような、悲しんでいるような様子だった。
 兄さんたちもアンシアも気が付いていない。
 ギルマスは、多分気づいている。

「ルーはなにか隠している。僕にはわかります。それを話してくれるまで、長い時間がかかるかもしれません。でも、待ちたい。ルーが僕を信頼してくれるまで、待ちたいんです」
「あの子は優良物件よ。立場が立場だからまわりに殿方は近寄らない。でも、知ってた ? ルチアに恋している子は何人もいるの。このどさくさに紛れて口説こうとする者も出るでしょうね。それでもいいの ? 」

 ああ、さすが百合子先生のお母さんだ。
 僕を脅して楽しんでいる。
 僕たちはどうしてこの親子に敵わないんだろう。

「彼女は決して口説かれない。口説かれたとしても断るでしょう。他の男にほだされるくらいなら、僕のところにくるはずです」
「あら、随分と自信があるのね」

 コロコロと笑うお方様。
 けれどただ面白がっているだけじゃない。
 
「わかって下さい。告白を、プロポーズをお膳立てされるなんて、男として屈辱でしかありません。彼女が受け入れてくれたら、僕は自分でグレイス公爵家に行きます。そして自分の言葉で、ルーに求婚します」
「・・・あの子はそれを受け入れるかしら」
「わかりません。彼女が何を悩んでいるのか。ルーを苦しめているのが何なのか。でも、僕はそれを祓いたい。それが出来ないのなら、せめて傍で支えたい。時間をください。決してダルヴィマール侯爵家に迷惑をかけることはありません。どうぞ、僕に時間をください」

 御前がお方様の肩を抱き寄せる。

「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死ぬそうだよ。年長者は若者の恋を応援するくらいしかできない」
「でも、あなた」
「侯爵家を守ることも大切だ。けれど、もっと大切なことがあるだろう。見守ろう。僕たちもそうやって支えられてきただろう ? 」

 僕は、時間をもらえた。




【岸真理子記念バレエ団】ここは岸真理子記念バレエ団のファンが集うスレです【集まれ】
団員さんの情報から、押しに団員さん自慢まで、みんな集まれ!

・団員さんを貶めるような発言は禁止です。
・常識をもって書き込みましょう

804:
 夜の部、よろしく

805:
 なんか凄いことになった。

806:
 びっくりした。
 まだびっくりしている。

807:
 また何か凄いことがあったんだ。

808:
 他のスレでも報告があると思うけど、一幕終了後の場内放送を再現する。

「ご来場の皆様にご案内いたします。
 本日のバジル役、神谷雄一に代わりまして、山口波音なおとが演じております。
 変更のお知らせが遅れましたこと、お詫びいたします。
 繰り返しお知らせいたします。
 本日のバジルは、神谷雄一から山口波音なおとに変更になりました」
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