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『四方の王』編
お前は誰だ、な人の登場
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「政府によるマスコミを使った情報操作とは、また考えましたね」
ギルマスがいつもの穏やかな笑顔で言う。
「これが悪しき方向にいくのであれば全力で反対いたしますが、来たる大崩壊に向けてのものであれば私は何も申し上げることはありません」
ギルマス九十代。
色々と思うこともあるのだろう。
私は歴史の教科書でしか知らないけれど。
「ですが、これを前例として決して悪用しないでいただきたい。侵略、占領、その様なものに使われるのであれば、四方のお方も何某かのお考えをされることでしょう」
「勿論、戦後の平和教育された身としてその辺りは承知しています。プロパガンダと教育は違う。帝国は自分から喧嘩を売ることはありません。ですが、カウンターパンチはいたしますよ。叩かれっぱなしでいるつもりはありません。そして、そんな論争は今は無意味です」
皇后陛下は何十年も年上のギルマス相手にビクともしない。
「国は治めきれるだけの領地を持てば良いのです。現在の帝国は丁度いい広さです。これ以上の領土は必要ない。仕掛けられなければこちらから手出しはいたしません。それは皇帝陛下も同じお気持ちです」
「人間、両手で抱えきれる以上のものを持っちゃいけないんだよ。ヴァルル帝国が巨大化したのは、飢饉や災害などで立ちいかなくなった領地を吸収してきたから。もちろん保護と援助のためだ。初代皇帝の教えは今だに守られているんだ」
ところで、と皇帝陛下が傍らに置かれた本の山から、一冊の本を取り出す。
「冬の間に禁書庫や宝物庫を漁っていたら出てきた。ヴァルル帝国建国とその前後について書かれたものだ」
「失礼いたします」
受け取った本をめくったギルマスの顔つきが変わった。
「気が付いたかい」
「これは、現代日本語、ですね」
私たちはザッとギルマスを取り囲み、その本を覗き込んだ。
「カタカナが書かれている」
「ローマ数字とアルファベットも。兄さん、変だ」
ヴァルル帝国の建国が千年前。
日本で言うと、平安時代 ?
「藤原家が勢力を振るっていたころだな」
「源氏物語とかの文学が華やかだったころだ」
兄様たちが難しい顔をしている。
そりゃそうだ。
あの頃って崩し字で、今の日本人には読めない。
国文科ではわざわざ崩し字の読み方を教えるくらいだ。
なのにこの本に書かれているのはひらがな、常用漢字、カタカナとか、今の私たちが普通に使用しているものだ。
「それらは禁書庫の隅にあった。大切に保管されていたよ。表には『解読不能』の但し書きがあった」
「確かに、当時の人たちでは読むことは出来なかったでしょう。ですが、何故こんなものが禁書庫に・・・」
「それは初代皇帝の日記らしい」
「 ?! 始祖陛下のですか ?! 」
千年前に王国だったこの国を、四方の王となり帝国へと変えた。
その方の日記。
積み上げられたのは約六十冊。
「最初の数年は一年に一冊なんだが、帝国建国からは一冊に二年分が書かれている。前年に何があったか比較できるようになっているんだ。それとあちらの山は十年分のものだ。こちらはその日にあった事件や事故、行事などの出来事が簡単に書かれているだけだ」
そういえば十年日記みたいなのが、年末になると売り出されていたと思う・・・って待って。
二年で一冊で六十冊 ?
「あの、始祖様はおいくつで亡くなられたのでしょうか。百二十年分の日記ががあるようですが」
「あ、気が付いたな」
陛下はなにか色々書かれた紙を取り出した。
「歴代の皇帝の在位期間だ。俺は帝位についてまだ六年。父が退位したからな。どの皇帝も短くて十年、長くて五十年」
表には生年月日と即位した年、退位した年と逝去した年が書かれている。
「さて、ドンドン遡っていこう。第十代から先。第二代皇帝の即位が初代の六十年後だ。だが、初代のご逝去の記録がない」
そこで君たちベナンダンティの出番だと、陛下が朗らかに言う。
「この冬、自分たちで読もうと努力はしたんだ。だが、知らない記号や顔にしか見えないものもあって、俺たちでは解読不可能と判断した。君たちならなんとかなるんじゃないかと思ってね。量は多いが、なんとか読み解いて欲しい」
ほら、こことか。
と、指さされた場所には『 ヽ(゜∀゜)ノ 』という絵文字が踊っていた。
そりゃ読めないよね。
「皇后陛下や母には相談されなかったんですか」
「これでも禁書の類だからね。ご婦人が読んで問題ないか躊躇した」
「私も一応ご婦人なんですけど。そこはどうでもいいんですね」
しまったみたいな顔をされても遅いんですよ、陛下もお父様も。
まあ本当の親子じゃないし、優先すべき愛する妻ってことね。
あー、甘い。
「ルー、危険な表現があったら飛ばしていいよ。僕が読むから」
「顔文字のリストを作るわ。それを見ながらならアンシアちゃんでもわかると思う。いつもアルに守ってもらってばかりですもの。私もしっかりしなくっちゃ」
適当な一冊を取ってパラパラとめくる。
するとアレっと首を傾げる一文があった。
「『国民的アイドル男性グループが解散を発表した。母はショックでボーっとしている。別に彼らが解散したからと言って飢餓が起きるわけでもなし、大火災で街が消えるわけでもないのに。頼むから夕飯のギョーザを焦がさないでくれ』」
「なんだ、それ。誰だ、国民的アイドルって」
これってつまり、初代皇帝陛下って・・・。
「ベナンダンティ ? 」
◎
「始祖陛下についてはあまり伝わっていないんだ。東の方のカゼノマツリという村の出身だというが、そこがどこだったか今ではわかっていない。成人してすぐに今のヒルデブランドに出てきたそうだ。当時はまだダルヴィマール家も創立されていなくて、ただの寒村だった」
「その後は民を纏めて地方を平定し、王国の王女と結婚して初代皇帝となったんだよ」
ヒルデブランドはベナンダンティの故郷。
カゼノマツリ、風の祭というのが日本で生まれたところだろう。
正式な住所ではなくて、その辺りにだけ通じる土地の名前かもしれない。
調べないとわからないけど。
陛下とお父様の説明は本当に簡単なもので、千年も前の情報などあって無きがごとし。
ただめちゃくちゃひっかかるのが国民的アイドル。
って言ったら、あの人たちしかいないわけだけど、だとすると私たちと始祖陛下はあちらで同じ時代を生きていることになる。
「あれよ。あたしと同じ。あたしはここで生まれて三十年経つけれど、あちらでは死んでまだ一年よ。時間がぐちゃぐちゃになってるのよ」
皇后陛下の一周忌、
亡くなったのは三月だけど、ご家族の予定が会わなくて四月に行われた。
私とアルも参列させていただいた。
とても素敵なご家族で、陛下がどれだけ愛されていたのかわかる。
だが、やはり時間のキャップというのはひしひしと感じたけれど。
「もう難しいことは考えなくてもいいんじゃないかしら。そういうことだと思って流すしかないわよ。まずはこの日記の中から始祖様のあちらでの情報を集めてちょうだい。そしてできるなら接触して」
「陛下はお手伝い下さらないのですか」
「あたしは公務がありますからね。暇な人たちで頑張ってちょうだい」
別に暇じゃないんですけど。
慰問もあるし、冒険者としての仕事もあるんですけれど。
でもってあちらでは学業もあるんですけどね。
そんな私たちの都合は、陛下には全然通じなかった。
ギルマスがいつもの穏やかな笑顔で言う。
「これが悪しき方向にいくのであれば全力で反対いたしますが、来たる大崩壊に向けてのものであれば私は何も申し上げることはありません」
ギルマス九十代。
色々と思うこともあるのだろう。
私は歴史の教科書でしか知らないけれど。
「ですが、これを前例として決して悪用しないでいただきたい。侵略、占領、その様なものに使われるのであれば、四方のお方も何某かのお考えをされることでしょう」
「勿論、戦後の平和教育された身としてその辺りは承知しています。プロパガンダと教育は違う。帝国は自分から喧嘩を売ることはありません。ですが、カウンターパンチはいたしますよ。叩かれっぱなしでいるつもりはありません。そして、そんな論争は今は無意味です」
皇后陛下は何十年も年上のギルマス相手にビクともしない。
「国は治めきれるだけの領地を持てば良いのです。現在の帝国は丁度いい広さです。これ以上の領土は必要ない。仕掛けられなければこちらから手出しはいたしません。それは皇帝陛下も同じお気持ちです」
「人間、両手で抱えきれる以上のものを持っちゃいけないんだよ。ヴァルル帝国が巨大化したのは、飢饉や災害などで立ちいかなくなった領地を吸収してきたから。もちろん保護と援助のためだ。初代皇帝の教えは今だに守られているんだ」
ところで、と皇帝陛下が傍らに置かれた本の山から、一冊の本を取り出す。
「冬の間に禁書庫や宝物庫を漁っていたら出てきた。ヴァルル帝国建国とその前後について書かれたものだ」
「失礼いたします」
受け取った本をめくったギルマスの顔つきが変わった。
「気が付いたかい」
「これは、現代日本語、ですね」
私たちはザッとギルマスを取り囲み、その本を覗き込んだ。
「カタカナが書かれている」
「ローマ数字とアルファベットも。兄さん、変だ」
ヴァルル帝国の建国が千年前。
日本で言うと、平安時代 ?
「藤原家が勢力を振るっていたころだな」
「源氏物語とかの文学が華やかだったころだ」
兄様たちが難しい顔をしている。
そりゃそうだ。
あの頃って崩し字で、今の日本人には読めない。
国文科ではわざわざ崩し字の読み方を教えるくらいだ。
なのにこの本に書かれているのはひらがな、常用漢字、カタカナとか、今の私たちが普通に使用しているものだ。
「それらは禁書庫の隅にあった。大切に保管されていたよ。表には『解読不能』の但し書きがあった」
「確かに、当時の人たちでは読むことは出来なかったでしょう。ですが、何故こんなものが禁書庫に・・・」
「それは初代皇帝の日記らしい」
「 ?! 始祖陛下のですか ?! 」
千年前に王国だったこの国を、四方の王となり帝国へと変えた。
その方の日記。
積み上げられたのは約六十冊。
「最初の数年は一年に一冊なんだが、帝国建国からは一冊に二年分が書かれている。前年に何があったか比較できるようになっているんだ。それとあちらの山は十年分のものだ。こちらはその日にあった事件や事故、行事などの出来事が簡単に書かれているだけだ」
そういえば十年日記みたいなのが、年末になると売り出されていたと思う・・・って待って。
二年で一冊で六十冊 ?
「あの、始祖様はおいくつで亡くなられたのでしょうか。百二十年分の日記ががあるようですが」
「あ、気が付いたな」
陛下はなにか色々書かれた紙を取り出した。
「歴代の皇帝の在位期間だ。俺は帝位についてまだ六年。父が退位したからな。どの皇帝も短くて十年、長くて五十年」
表には生年月日と即位した年、退位した年と逝去した年が書かれている。
「さて、ドンドン遡っていこう。第十代から先。第二代皇帝の即位が初代の六十年後だ。だが、初代のご逝去の記録がない」
そこで君たちベナンダンティの出番だと、陛下が朗らかに言う。
「この冬、自分たちで読もうと努力はしたんだ。だが、知らない記号や顔にしか見えないものもあって、俺たちでは解読不可能と判断した。君たちならなんとかなるんじゃないかと思ってね。量は多いが、なんとか読み解いて欲しい」
ほら、こことか。
と、指さされた場所には『 ヽ(゜∀゜)ノ 』という絵文字が踊っていた。
そりゃ読めないよね。
「皇后陛下や母には相談されなかったんですか」
「これでも禁書の類だからね。ご婦人が読んで問題ないか躊躇した」
「私も一応ご婦人なんですけど。そこはどうでもいいんですね」
しまったみたいな顔をされても遅いんですよ、陛下もお父様も。
まあ本当の親子じゃないし、優先すべき愛する妻ってことね。
あー、甘い。
「ルー、危険な表現があったら飛ばしていいよ。僕が読むから」
「顔文字のリストを作るわ。それを見ながらならアンシアちゃんでもわかると思う。いつもアルに守ってもらってばかりですもの。私もしっかりしなくっちゃ」
適当な一冊を取ってパラパラとめくる。
するとアレっと首を傾げる一文があった。
「『国民的アイドル男性グループが解散を発表した。母はショックでボーっとしている。別に彼らが解散したからと言って飢餓が起きるわけでもなし、大火災で街が消えるわけでもないのに。頼むから夕飯のギョーザを焦がさないでくれ』」
「なんだ、それ。誰だ、国民的アイドルって」
これってつまり、初代皇帝陛下って・・・。
「ベナンダンティ ? 」
◎
「始祖陛下についてはあまり伝わっていないんだ。東の方のカゼノマツリという村の出身だというが、そこがどこだったか今ではわかっていない。成人してすぐに今のヒルデブランドに出てきたそうだ。当時はまだダルヴィマール家も創立されていなくて、ただの寒村だった」
「その後は民を纏めて地方を平定し、王国の王女と結婚して初代皇帝となったんだよ」
ヒルデブランドはベナンダンティの故郷。
カゼノマツリ、風の祭というのが日本で生まれたところだろう。
正式な住所ではなくて、その辺りにだけ通じる土地の名前かもしれない。
調べないとわからないけど。
陛下とお父様の説明は本当に簡単なもので、千年も前の情報などあって無きがごとし。
ただめちゃくちゃひっかかるのが国民的アイドル。
って言ったら、あの人たちしかいないわけだけど、だとすると私たちと始祖陛下はあちらで同じ時代を生きていることになる。
「あれよ。あたしと同じ。あたしはここで生まれて三十年経つけれど、あちらでは死んでまだ一年よ。時間がぐちゃぐちゃになってるのよ」
皇后陛下の一周忌、
亡くなったのは三月だけど、ご家族の予定が会わなくて四月に行われた。
私とアルも参列させていただいた。
とても素敵なご家族で、陛下がどれだけ愛されていたのかわかる。
だが、やはり時間のキャップというのはひしひしと感じたけれど。
「もう難しいことは考えなくてもいいんじゃないかしら。そういうことだと思って流すしかないわよ。まずはこの日記の中から始祖様のあちらでの情報を集めてちょうだい。そしてできるなら接触して」
「陛下はお手伝い下さらないのですか」
「あたしは公務がありますからね。暇な人たちで頑張ってちょうだい」
別に暇じゃないんですけど。
慰問もあるし、冒険者としての仕事もあるんですけれど。
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