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王都・オーケン・アロンの陰謀 ? 編

そして作戦はあっけなく終わる

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 秘密結社『夜の女王のアリア』の一斉摘発は終わった。

 ちゃんちゃんバラバラくらいあるかなって思ったのに、彼らは割と素直にお縄に付いた。
 騎士や冒険者ならともかく、王都で暮らしている一般市民が刃物を持ち歩いていたりはしないのだ。
 騎士様たちの姿にとっとと両手を上げて投降する。
 何人かがコッソリ逃げようとしたので、私の浮遊魔法で大人しく護送馬車にご乗車いただいた。
 拍子抜けである。
 乱闘の最中に間違ってボコろうと思っていたのに。
 アンシアちゃんも不満気だ。
 非常にスムースに事が運んだというのに、私たちは何故かお屋敷の玄関ホールで正座している。
 家令のセバスチャンさんと侍女長のメラニアさんをはじめとする使用人の皆さんに遠巻きにされながら。
 兄様たちの後ろにはお母様が扇子を揺らしながら笑っている。

「久しぶりの冒険者姿なので、昔を懐かしく思いおこして少々ご意見を・・・正座っ !」

 条件反射でピタッと背筋を伸ばして正座してしまう。

「さて、突然の作戦参加についてはこちらも秘密にしていたのでお互い様として、まずは浮遊魔法での貢献には感謝すると言っておこう」
「・・・オソレイリマス」

 小さく答えるがエイヴァン兄様が全然感謝していないのは丸わかり。

「護送車の中になぜか第四騎士団の団員がいたんだが、何か知らないか」
「サテ、ナンノコトヤラ」
「護送車に乗る前に一部の容疑者がグルグルと空中の水の中で大車輪をさせられていたのを見た者がいるが、それは一体誰が ?」
「サッパリキオクニゴザイマセ・・・痛い痛い痛い痛い痛いっ !!! 」

 久々の兄様のグリグリ攻撃に思わず悲鳴を上げる。

「しらばっくれるのもいい加減にしろ ! お前以外の誰があんな魔法が使えるんだっ ! 」
「スケルシュ、お嬢様にその態度は・・・」
「セバスチャン様、誰かが言わなければ、同じ愚行を何度だって繰り返すんです」

 召使の頂点にいるセバスチャンさんを一言で黙らせるエイヴァン兄様。

「今までだって厳しく注意してきたというのに、学習能力の欠如としか思えません。ちょっとばかりのお仕置きは必要です」
「言い訳だけは聞いてやる。なんでまた余計なことをしたんだ」

 ディードリッヒ兄様がワンレンの髪をかき上げながら睨みつける。
 後ろの侍女さんたちから「キャッ ! 」という嬉しそうな声がする。

「だって、あの人、武闘會の時アンシアちゃんに酷いこと言ったんですもの ! 」
「お姉さま・・・」
「それに、ゴール男爵のところのアレって首謀者だし、瓦版屋は好き勝手書いてたし、少しくらい痛い目に合わせとかないと気がすまな・・・痛たたたたたっ ! 」

エイヴァン兄様がもう一度グリグリする。

「因果って言葉を知っているかぁ ? 原因と結果って意味だがな」
「だから、あいつらがした結果じゃないですかっ ! 」
「その通り ! お前のおバカな行動の結果がこのグリグリ攻撃だ ! 護送車の中に騎士がいたお陰で、御前襲撃に第四騎士団が関わっているってことになったらどうするんだっ !」

 面倒ごとを増やしやがってと兄様の手に力が入る。

「アンシア。第四騎士団の数名が背中に火傷を負っていた。おまえだな ? 」
「ええ、あたしです」
「何を開き直っているっ ! 」

 ボコッと良い音がしてアンシアちゃんが前のめりになる。

「仲間の背中を打つ奴があるかっ ! 」
「あいつらなんて仲間じゃないからいいんですっ ! 」

 ソッポ向いていたアンシアちゃんが悔しそうに言う。

「あいつら、ダルヴィマール侯爵家の悪口を言ったんです ! 」

 それは私も聞いていた。
 冒険者姿をしていたせいか私たちの素性に気が付かず、女性冒険者に自分たちをアピールしたいのか言いたい放題だった。

「あたしはシジル地区出身だから色々言われるのはいいんです。慣れてるから。でも、セバスチャン様やメラニア様、先輩たちの悪口まで聞かされたら我慢できません。こっちのこと知りもしないで偉そうに ! 」
「録画魔法で証拠は押さえてあります。後で裏から手を回して仕返ししようと思ってたのに、アンシアちゃんたら」

 私だってやりたかったのを我慢したのに。

「それを聞かせて頂くことは・・・」
「「絶対ダメッ ! 」」

 セバスチャンさんは私とアンシアちゃんの勢いに黙る。

「・・・つまり本人には聞かせたくないようなことを言われたってことか」

 根も葉もないこと。
 わかっていても腹が立つ。
 しかもそれも私が養女として入ったせい。
 悔しくて思わず涙が溢れてきた。

「お嬢様・・・」
「私たちの為に・・・」

 グイっと袖で涙をふく。

「この仇は私が責任を持って取ります。正式な抗議はお任せします」

 騎士団としての任務中のこと。
 それも一人や二人でない。
 と言うことは、騎士団全体で贖
あがな
ってもらうのが正しい。

「何が何でも王城中の、いえ、王都中の笑い者になってもらいます ! 」
「わかった」

 あれ ? 珍しく兄様が反対しない ?

「お前が何を考えているのかお見通した。徹底してやれ」
「兄様・・・」
「ただし、俺たちにも一枚かませろ。あの規模だ。二人だけでは手に余るだろう」

 兄様たちがにやっと言う。

「お嬢様、その時はぜひ私もお加えください」
「私もなにとぞ」

 セバスチャンさんたちまで一緒になって楽しそうに笑う。
 ダルヴィマール侯爵家一同が一つにまとまった。

「それはそれとして、今回のペナルティーだが・・・」
「あるんだ、やっぱり」

 ちっ、忘れてくれたと思ったのに。

「侯爵邸の厨房の掃除。個人の物まで全て。期限は一週間。変なアレンジは我慢しろ」

 厨房っていくつあったっけ。家族寮もあるからかなりの数だけど、洗濯魔法を使えばなんとかなりそうだ。

「アンシアは加減乗除は出来るようになった。これからは分数と少数。幾何の問題を冬までに習得してもらおう。将来的には経理、経営関係を熟知してもらう。これはお前の将来に必ず役に立つ」
「はい、兄さん」

 兄様たちはアンシアちゃんがグレイス公爵家に嫁入りしたときのことを考えているのだろう。
 近衛騎士団長になるバルドリック様の代わりに、彼女が領地経営をすることを視野に入れているのだ。
 本人は認めていないが、世間的にはもうグレイス伯爵夫人は決定らしい。
 お母様はそれを見越して、嫁入り修行でアンシアちゃんをグレイス公爵邸に連れて行っている。

「もうそろそろ良いのではないかしら」

 大向こうから涼やかな声がかかる。
 お母様だ。

「いい加減、足がしびれたのではなくて ? 」
「あ、慣れてるから大丈夫です」

 アンシアちゃんの言葉にお母様がコロコロと笑う。

「つまり慣れるくらい何度も正座させられたということね。スケルシュたちの苦労が目に浮かぶわ」

 お母様がそう言うと、周りの召使の皆さんも一緒になって笑う。
 さすが、お母様。
 しょうもない雰囲気が一気に明るくなる。

「お仕置きが決まったところで、カジマヤーが目を覚ましたわ。行っておあげなさい」
「 !!! 」

 私はアンシアちゃんと顔を見合わせて立ち上がる、が兄様たちをチラッと見る。
 すると行ってもいいぞと頷いている。
 二人で階段を上がろうとするとお母様に止められた。

「着替えてからおいでなさい。その服ではダメよ」

 私はアンシアちゃんを見習メイド姿に戻すと、自分もクルっと回ってドレスに戻る。
 使用人の皆さんの中から「おおっ ! 」という声が上がる。

「行きましょう、アンシアちゃん ! 」
「はい、お嬢様 ! 」

 私たちはお行儀悪く階段を駆け上がった。



 そんな主従を見送って、係累二人も元の侍従姿に戻る。

「あ、もうちょっと・・・」

 侍女たちの中から残念そうな声が漏れる。

「お疲れ様。これで一先ず収まったのかしら」
「はい。後は捉えた者たちの裁きですが、これは我らの仕事ではございません」
「ただ容疑者たちを預かるだけですが、こちらはひと月ほどと思われます」

 侯爵夫人は扇子で口を覆ってクスクス笑う。

「それにしてもあなたたちも頑張ったわね。仕える者を叱るのは並大抵の苦労ではないのに、情け容赦のない一撃だったわ」
「恐れ入ります」

 夫人は見知った礼儀正しい侍従の肩を扇子でトントンと叩く。

「ところで第四騎士団へのお返し、当然わたくしも仲間に入れてもらえるのよね ? 」
「「え゛ ? 」」

 引きつった顔の侍従たちに宰相夫人はにこやかに告げた。

わたくし、モチーフはペットたちがいいと思うの」
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