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王都・オーケン・アロンの陰謀 ? 編
痛い、痛い、痛い
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獣人のお方の剣が私に向けて振り下ろされる。
「「「殿中でござるっ ! 」」」
近侍全員の剣が私の目前でそれを止めた。
私は涼しい顔で立っている。
ここは怯えたり驚いたりしていい場面じゃない。
「獣人のお方には御乱心のご様子。長旅でお疲れであろう。疾く部屋へとご案内申し上げるように」
陛下の後ろに立っているお父様が王宮侍従に声をかける。
獣人のお方は私をじっと見ていたが、剣を鞘にしまうとフンッと侍従の後について出ていった。
残った方々も私には目もくれずに退出していく。
何がしたかったんだ ?
◎
「良く耐えたわね。反応しなかったのは正しい判断だったわ」
宰相家のために用意されている部屋でお茶を頂く。
「あなた方も素晴らしい働きだったわ。見た ? 止められた時の彼のビックリした顔」
「恐れ入ります」
そう、彼は止められるとは思っていなかった。
それはつまり、本気で私の命を狙っていたということ。
友好の儀で。
皇帝陛下の御前で。
そして一行のうちの誰もそれを止めようとしなかった。
これは一体どういうことだろう。
「失礼いたします。ルチア姫はおいででしょうか」
扉が叩かれ王宮侍女さんが現れた。
「西の方々が友好の儀での失礼をお詫びしたいと仰せです」
お詫び。
一応受け取っておこうかな。
喧嘩しても仕方がないしね。
「ではお入りいただいて下さい」
「いえ、出来ればお部屋にお越しいただきたいと」
お母様の額がピキッと引きつる。
「お詫びする側が呼びつけるとは、今年の西のお方は随分と礼儀しらずね。わかりました。詫びはいりません。けれど今回の事は厳重に抗議させていただきます。そう伝えなさい」
かしこまりましたと言って侍女さんは戻って行った。
お母様はお怒りモードだ。
だって私、殺されかけたんだよ。
それを謝ってやるから顔出せや、みたいなことをされたら怒るわな、普通。
成人したばかりの娘を目の前で殺されそうになったお母様は静かに怒っている。
「ダルヴィマール侯爵令嬢に西の方々が面会を求めておられます」
先ほどの侍女さんが再び現れる。
こちらの思うところをあちらも理解してくれたのだろうか。
「入りなさい」
侍女さんが扉を開けると、七人の西の方々が現れた。
各種族のトップ二人と問題の一人らしい。
年かさと見えるエルフのお方が前に出て頭を下げる。
「この度は我らの仲間が大変な不作法をいたしました。心から謝罪いたします」
「不作法、不作法ですか」
お母様は扇子で口元を隠しそっぽを向く。
「人の娘を切り殺そうとしたことがたかが不作法ですか。あなた方のしたことは殺人未遂ですよ。近侍の者たちが止めなければ、私の娘は今この世にいなかったのです」
西の方々の顔色が変わる。
「ですからそれは・・・」
「この期に及んで言い訳ですか。西の大陸の方はいつからこんなにも愚かになったのでしょう。少なくとも昨年までは礼儀も常識も弁えられた方がいらしていましたのに」
部屋に重苦しい空気が流れる。
ではなくて、兄様たちが『威圧』を使っているのだ。
ラノベの世界ではスキルがなければ使えないが、私が魔法として構築した結果アンシアちゃん以外は使いこなせている。
一応国賓扱いの若者相手なので微弱に発動してはいるけれど、三人分だとそれなりに重い。
「言い訳ではありませんが、いえ、言い訳でかまいません。どうか我らに釈明の機会をお与えください」
エルフのお兄さんが額に汗をかきながら頭を下げる。
「・・・よろしい。ですが、内容によってはこの先友好の儀が取りやめになることも念頭に置いていただきましょう」
お母様、怒ると本当に怖い。
「西の大陸からこちらに着いて、最初の港街でダルヴィマール侯爵家についての噂を聞きました」
「我が家の噂ですか」
そうです。
そういってエルフお方は話し始めた。
ヴァルル帝国の宰相家が養女を取った。
だが、その養女は魔に侵されているという。
その力で宰相家に入り込み、悪事を画策している。
大層な我儘娘で、豪華な衣装を何着も着て男たちにすり寄っている。
見目好い近侍を侍らしてやりたい放題。
すでに侯爵家の私設騎士団はもちろん、近衛騎士団までも配下にしている。
皇帝陛下はもとより貴族たちは、この養女をなんとかできないか頭を悩ませている。
「こちらの大陸に着いて王都オーケン・アロンまでひと月。途中の街でも必ずその話題になりました。それが帝国領に入るとまるで真逆の話になる。あまりにも不自然です」
これは魔の力で人心を操っているのではないか。
「ですから、私たちはご養女から魔を引きはがせばと考えたのです。この者が振るった剣は魔だけを切るもの。体に傷をつけることは出来ません」
「馬鹿々々しくてお話になりませんわね」
お母様がエルフのお方の話を切って捨てる。
「噂話で人の娘を、こともあろうに皇帝陛下ご臨席の場で切ろうとは。魔だけを切る ? そんなこと、あの場の誰にわかるというのです。あなたがたがいきなり娘に切りかかった。近侍達がそれを阻止した。それだけですよ。もう少し納得のできるお話をなさい、お若いの」
「私はこれでも百歳は越えているのですが」
エルフの若様がムッとするが、お母様は歯牙にもかけない。
「無駄に時を過ごしてきたのですね。場は弁えない。仲間の愚行を止めない。その場での謝罪もない。被害者である我が家を呼びつける。一体その年まで何を学んできたのです。そのような頭ではこちらの知識も技術も入る余地はないでしょう。とっととお国にお帰りなさい。不愉快です」
お母様、『威圧』をご存知ないのにガンガンに出してますよ。
これが真の『威圧』というものですね。
「お方様、その辺でよろしいのではありませんか」
エイヴァン兄様が助け舟を出す。
西のお歴々の顔色がすこぶる悪い。
もう少し具体的な話を進めようというのだろう。
だがお母様のご機嫌は戻らない。
「スケルシュ、あなたも言いたいことがあるでしょう。許します。全員、思うところを吐き出しておしまいなさい」
よろしいのですかと確認を取ってから、まずはアンシアちゃんが前に出た。
「お嬢様に剣を向けたこと、万死に値します。弱っちいくせに」
最後の一言不要です、アンシアちゃん。
「あの程度の剣でお嬢様を亡き者にしようとは、片腹痛い」
アル、あなたも。
「我らが止めなくてもお嬢様お一人で受け止められる程度の腕でしたね」
あの、ディードリッヒ兄様、そろそろ止めてあげて ?
西の方々、ヒットポイントがもうゼロよ ?
エイヴァン兄様、せめてフォローをお願いします。
チラッと目を向けると兄様が頷いている。
うん、確かにこれは早めに確かめておいたほうがいいね。
「西のお方、先程の魔だけを切るという剣を見せていただけますか」
入室してからずっと不貞腐れている獣人のお方は、腰から剣を外す。
アンシアちゃんがエプロン越しにそれを受け取り渡してくれる。
「これが魔だけを切るという不思議な剣ですか」
「はい。決して人を傷つけることはありません」
見た感じではごく普通の剣のようだが、鞘には古い言葉で聖句のような物が書かれている。
柄には滑り止めに細い紐が巻かれていて、こちらのお守りの若草模様のメダイが付いている。
抜いてみる。
普通の剣だ。
特に業物とも思えない。
魔だけを切るというから、聖なる気でも纏っているのかと思ったけれど、ちょっと拍子抜け。
久しぶりに鑑定の魔法を使うが、『ただの剣・安い』と出てきた。
ギュッと刃を握ってみる。
そしてスッと手を滑らせた。
「お嬢様っ ?!」
私は刃を握った左手を西の方々に見せる。
「・・・切れましたね」
立ち上がって彼らに良く見えるように近づく。
ドレスが、絨毯が、真っ赤な血で染まっていく。
「そんな・・・こんなはずは・・・ない」
私を切ろうとした獣人のお方は真っ青になっている。
「お嬢様、手当てを」
ソファに戻るとアルが素早く治癒魔法で治してくれる。
平気な顔をしていたけど、実はズキズキ痛かったんだよね。
「ありがとう、カジマヤー君」
「無茶はなさらないでください、お嬢様」
アンシアちゃんが剣をお返しする。
ディードリッヒ兄様が汚れた絨毯をきれいにする。
私もドレスの血を魔法で落とした。
「無詠唱魔法・・・」
「古老ですら難しいというのに・・・」
獣人のお方はと言うと自分が何をしようとしたのか分かったのか、床に膝をついて震えている。
「俺は・・・なんてことを。確かに、魔だけを切ると言われたのに」
「お聞きしたいことはたくさんあります。ですが、その前に。あなた方、特に獣人のお方はあるお人に似ていらっしゃる」
「あるお人 ? どなたです ?」
私はエイヴァン兄様にあれを、と促す。
兄様は冒険者の袋からかねて常備の聖水を出す。
そしていつものように解呪の仕方を説明する。
「これに一体なんの意味が ?」
「騙されたと思って言われたようにやって下さい」
彼らは恐る恐る聖水を額に塗ると、小瓶の中に残ったものを一気にあおる。
思った通り、西の方々の額から黒い霧が出て一つに集まる。
「あらあらあら、ずいぶんたくさん出たわね」
お母様が楽しそうに笑う。
それぞれ水球のボールくらいの霧が集まって、バランスボールより一回り小さい塊になる。
「これは・・・なんです、この禍々しい黒い塊は」
「あなた方に掛けられていた呪いです」
私が疑問に思っていたこと。
エイヴァン兄様も気づいていたのだろう。
あまりにも不自然すぎる。
あまりにも出来すぎている。
あまりにも唐突過ぎる。
「その説明は後にして。とりあえずこの邪魔なものをここから出してしまいましょう」
お母様の言葉にアンシアちゃんが布の用意をし、アルが聖水をお母様の右手にふりかける。
ディードリッヒ兄様が窓を大きく開ける。
「ボッシュートッ !」
お母様の必殺の一撃で霧の塊は王宮の外に飛んでいった。
今度は二つには別れなかった。
「「「殿中でござるっ ! 」」」
近侍全員の剣が私の目前でそれを止めた。
私は涼しい顔で立っている。
ここは怯えたり驚いたりしていい場面じゃない。
「獣人のお方には御乱心のご様子。長旅でお疲れであろう。疾く部屋へとご案内申し上げるように」
陛下の後ろに立っているお父様が王宮侍従に声をかける。
獣人のお方は私をじっと見ていたが、剣を鞘にしまうとフンッと侍従の後について出ていった。
残った方々も私には目もくれずに退出していく。
何がしたかったんだ ?
◎
「良く耐えたわね。反応しなかったのは正しい判断だったわ」
宰相家のために用意されている部屋でお茶を頂く。
「あなた方も素晴らしい働きだったわ。見た ? 止められた時の彼のビックリした顔」
「恐れ入ります」
そう、彼は止められるとは思っていなかった。
それはつまり、本気で私の命を狙っていたということ。
友好の儀で。
皇帝陛下の御前で。
そして一行のうちの誰もそれを止めようとしなかった。
これは一体どういうことだろう。
「失礼いたします。ルチア姫はおいででしょうか」
扉が叩かれ王宮侍女さんが現れた。
「西の方々が友好の儀での失礼をお詫びしたいと仰せです」
お詫び。
一応受け取っておこうかな。
喧嘩しても仕方がないしね。
「ではお入りいただいて下さい」
「いえ、出来ればお部屋にお越しいただきたいと」
お母様の額がピキッと引きつる。
「お詫びする側が呼びつけるとは、今年の西のお方は随分と礼儀しらずね。わかりました。詫びはいりません。けれど今回の事は厳重に抗議させていただきます。そう伝えなさい」
かしこまりましたと言って侍女さんは戻って行った。
お母様はお怒りモードだ。
だって私、殺されかけたんだよ。
それを謝ってやるから顔出せや、みたいなことをされたら怒るわな、普通。
成人したばかりの娘を目の前で殺されそうになったお母様は静かに怒っている。
「ダルヴィマール侯爵令嬢に西の方々が面会を求めておられます」
先ほどの侍女さんが再び現れる。
こちらの思うところをあちらも理解してくれたのだろうか。
「入りなさい」
侍女さんが扉を開けると、七人の西の方々が現れた。
各種族のトップ二人と問題の一人らしい。
年かさと見えるエルフのお方が前に出て頭を下げる。
「この度は我らの仲間が大変な不作法をいたしました。心から謝罪いたします」
「不作法、不作法ですか」
お母様は扇子で口元を隠しそっぽを向く。
「人の娘を切り殺そうとしたことがたかが不作法ですか。あなた方のしたことは殺人未遂ですよ。近侍の者たちが止めなければ、私の娘は今この世にいなかったのです」
西の方々の顔色が変わる。
「ですからそれは・・・」
「この期に及んで言い訳ですか。西の大陸の方はいつからこんなにも愚かになったのでしょう。少なくとも昨年までは礼儀も常識も弁えられた方がいらしていましたのに」
部屋に重苦しい空気が流れる。
ではなくて、兄様たちが『威圧』を使っているのだ。
ラノベの世界ではスキルがなければ使えないが、私が魔法として構築した結果アンシアちゃん以外は使いこなせている。
一応国賓扱いの若者相手なので微弱に発動してはいるけれど、三人分だとそれなりに重い。
「言い訳ではありませんが、いえ、言い訳でかまいません。どうか我らに釈明の機会をお与えください」
エルフのお兄さんが額に汗をかきながら頭を下げる。
「・・・よろしい。ですが、内容によってはこの先友好の儀が取りやめになることも念頭に置いていただきましょう」
お母様、怒ると本当に怖い。
「西の大陸からこちらに着いて、最初の港街でダルヴィマール侯爵家についての噂を聞きました」
「我が家の噂ですか」
そうです。
そういってエルフお方は話し始めた。
ヴァルル帝国の宰相家が養女を取った。
だが、その養女は魔に侵されているという。
その力で宰相家に入り込み、悪事を画策している。
大層な我儘娘で、豪華な衣装を何着も着て男たちにすり寄っている。
見目好い近侍を侍らしてやりたい放題。
すでに侯爵家の私設騎士団はもちろん、近衛騎士団までも配下にしている。
皇帝陛下はもとより貴族たちは、この養女をなんとかできないか頭を悩ませている。
「こちらの大陸に着いて王都オーケン・アロンまでひと月。途中の街でも必ずその話題になりました。それが帝国領に入るとまるで真逆の話になる。あまりにも不自然です」
これは魔の力で人心を操っているのではないか。
「ですから、私たちはご養女から魔を引きはがせばと考えたのです。この者が振るった剣は魔だけを切るもの。体に傷をつけることは出来ません」
「馬鹿々々しくてお話になりませんわね」
お母様がエルフのお方の話を切って捨てる。
「噂話で人の娘を、こともあろうに皇帝陛下ご臨席の場で切ろうとは。魔だけを切る ? そんなこと、あの場の誰にわかるというのです。あなたがたがいきなり娘に切りかかった。近侍達がそれを阻止した。それだけですよ。もう少し納得のできるお話をなさい、お若いの」
「私はこれでも百歳は越えているのですが」
エルフの若様がムッとするが、お母様は歯牙にもかけない。
「無駄に時を過ごしてきたのですね。場は弁えない。仲間の愚行を止めない。その場での謝罪もない。被害者である我が家を呼びつける。一体その年まで何を学んできたのです。そのような頭ではこちらの知識も技術も入る余地はないでしょう。とっととお国にお帰りなさい。不愉快です」
お母様、『威圧』をご存知ないのにガンガンに出してますよ。
これが真の『威圧』というものですね。
「お方様、その辺でよろしいのではありませんか」
エイヴァン兄様が助け舟を出す。
西のお歴々の顔色がすこぶる悪い。
もう少し具体的な話を進めようというのだろう。
だがお母様のご機嫌は戻らない。
「スケルシュ、あなたも言いたいことがあるでしょう。許します。全員、思うところを吐き出しておしまいなさい」
よろしいのですかと確認を取ってから、まずはアンシアちゃんが前に出た。
「お嬢様に剣を向けたこと、万死に値します。弱っちいくせに」
最後の一言不要です、アンシアちゃん。
「あの程度の剣でお嬢様を亡き者にしようとは、片腹痛い」
アル、あなたも。
「我らが止めなくてもお嬢様お一人で受け止められる程度の腕でしたね」
あの、ディードリッヒ兄様、そろそろ止めてあげて ?
西の方々、ヒットポイントがもうゼロよ ?
エイヴァン兄様、せめてフォローをお願いします。
チラッと目を向けると兄様が頷いている。
うん、確かにこれは早めに確かめておいたほうがいいね。
「西のお方、先程の魔だけを切るという剣を見せていただけますか」
入室してからずっと不貞腐れている獣人のお方は、腰から剣を外す。
アンシアちゃんがエプロン越しにそれを受け取り渡してくれる。
「これが魔だけを切るという不思議な剣ですか」
「はい。決して人を傷つけることはありません」
見た感じではごく普通の剣のようだが、鞘には古い言葉で聖句のような物が書かれている。
柄には滑り止めに細い紐が巻かれていて、こちらのお守りの若草模様のメダイが付いている。
抜いてみる。
普通の剣だ。
特に業物とも思えない。
魔だけを切るというから、聖なる気でも纏っているのかと思ったけれど、ちょっと拍子抜け。
久しぶりに鑑定の魔法を使うが、『ただの剣・安い』と出てきた。
ギュッと刃を握ってみる。
そしてスッと手を滑らせた。
「お嬢様っ ?!」
私は刃を握った左手を西の方々に見せる。
「・・・切れましたね」
立ち上がって彼らに良く見えるように近づく。
ドレスが、絨毯が、真っ赤な血で染まっていく。
「そんな・・・こんなはずは・・・ない」
私を切ろうとした獣人のお方は真っ青になっている。
「お嬢様、手当てを」
ソファに戻るとアルが素早く治癒魔法で治してくれる。
平気な顔をしていたけど、実はズキズキ痛かったんだよね。
「ありがとう、カジマヤー君」
「無茶はなさらないでください、お嬢様」
アンシアちゃんが剣をお返しする。
ディードリッヒ兄様が汚れた絨毯をきれいにする。
私もドレスの血を魔法で落とした。
「無詠唱魔法・・・」
「古老ですら難しいというのに・・・」
獣人のお方はと言うと自分が何をしようとしたのか分かったのか、床に膝をついて震えている。
「俺は・・・なんてことを。確かに、魔だけを切ると言われたのに」
「お聞きしたいことはたくさんあります。ですが、その前に。あなた方、特に獣人のお方はあるお人に似ていらっしゃる」
「あるお人 ? どなたです ?」
私はエイヴァン兄様にあれを、と促す。
兄様は冒険者の袋からかねて常備の聖水を出す。
そしていつものように解呪の仕方を説明する。
「これに一体なんの意味が ?」
「騙されたと思って言われたようにやって下さい」
彼らは恐る恐る聖水を額に塗ると、小瓶の中に残ったものを一気にあおる。
思った通り、西の方々の額から黒い霧が出て一つに集まる。
「あらあらあら、ずいぶんたくさん出たわね」
お母様が楽しそうに笑う。
それぞれ水球のボールくらいの霧が集まって、バランスボールより一回り小さい塊になる。
「これは・・・なんです、この禍々しい黒い塊は」
「あなた方に掛けられていた呪いです」
私が疑問に思っていたこと。
エイヴァン兄様も気づいていたのだろう。
あまりにも不自然すぎる。
あまりにも出来すぎている。
あまりにも唐突過ぎる。
「その説明は後にして。とりあえずこの邪魔なものをここから出してしまいましょう」
お母様の言葉にアンシアちゃんが布の用意をし、アルが聖水をお母様の右手にふりかける。
ディードリッヒ兄様が窓を大きく開ける。
「ボッシュートッ !」
お母様の必殺の一撃で霧の塊は王宮の外に飛んでいった。
今度は二つには別れなかった。
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