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王都・オーケン・アロンの陰謀 ? 編
武闘會の終わりと幸せな夕食
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「来たっ、待ってましたぞ、ルチア姫っ !」
グレイス近衛騎士団団長が立ち上がって拍手を送る。
「近衛の。貴方が心当たりがあると言われたのはルチア姫の事でしたか」
「ええ、姫が出なければ収まりませんぞ。覚えておられるか、お披露目の儀のことを」
言われて思い出す。
あの時は悪漢に扮した近衛騎士たちを一瞬で叩きのめしていた。
その後の浮遊魔法に目がいって、すっかり忘れていたが、あの件で皇帝陛下直々に『槍持つ乙女』の二つ名を与えられたのだった。
「そう言われてみれば、確かに」
「やれ、何故そこに思い至らなかったのか」
フロアでは『黄金の黄昏騎士団』が剣も抜かずに憤然としている。
「ダルヴィマール侯爵家のご令嬢がお相手とは。ケガなどさせられない。ここは儂が引こう」
「まあ、私ではご不満でしょうか ?」
「女子に向ける剣はもたん」
「これでも ?」
ルチア姫がスッと槍を振う。
相手選手のカイゼル髭が半分消えた。
「もう片方もお手伝いいたしましょうか ?」
顔に触れて自慢の髭が半分無くなっているのに気づく。
「な、なんてことを・・・ここまで伸ばすのにどれだけかかったと !」
「私、お髭が生えたことがございませんからわかりませんの」
何か問題でも ?
無邪気な様子で小首をかしげる少女に、ここまで伸ばすために掛かった月日と、ピンっと跳ね上げるための毎日の手入れを思うとメラメラと怒りが湧いてくる。
「そうか、そんなに死にたいか」
先ほどの紳士的な態度はどこへやら、顔を真っ赤にして腰の剣を抜く。
「では希望通り相手をしてやる。生きて帰れると思うなよ」
「まあ、恐ろしい。規則は遵守してくださいませね」
◎
「四分三十秒」
暇な審判の一人が砂時計をひっくり返しながら言う。
ルチア姫が五分以内での勝利を宣言していたので、面白がって時間を計っているのだ。
正確な時計は神殿か王宮にしかなく、人々は教会の鐘を目安に生活している。
短い時間を計るためには砂時計が使われるが、それも高価な物なのであまり流通はしていない。
今使わなければいつ使うのか。
大きな一分計と小さな三十秒計が二個ずつ。
「ルチア姫の動きは素晴らしい。無駄な動作が一つもない」
「それに優雅なこと。まるで踊っているようだ」
相手は力任せで押しているが、ことごとく返されている。
そして時々よろける。
「おかしいな。あの方がよろけるとは」
「第五の、やはり気になりましたか」
団長たちのうち高齢の者が不審そうに試合を見る。
「『野中の一本杉』と呼ばれたあの方が・・・。年、ですかな」
「まさか。ありえませんぞ」
「三分三十秒」
どんな剣にもビクともしない体が何かの拍子にぶれる。
体調でも悪いのかと思えばそうでもない。
近衛の団長だけがニコニコと楽しそうに見ている。
「三分」
「おかしい。お主、どのような技を使う。普通の剣技ではなかろう」
「あら、私はただの小娘ですわ。そんな怖ろしいものは存じません」
「儂をここまで翻弄しておいて、何が小娘だ」
「では大娘で」
「小癪なっ !」
振りかぶった剣が振り下ろされる。
と、その刀ごと体がクルリと回り、剣が弾き飛ばされる。
「私の勝ちですわね」
「二分三十秒」
ダルヴィマール侯爵家はその宣言通り全ての試合を五分以内で終わらせた。
◎
「いやあルチア姫のお強いこと。そしてお美しいこと」
試合終了後、閉会式をおえた後は決勝参加者と関係者が集まって懇親会と言う名の酒盛りに移行する。
場所はそのまま第一騎士団の訓練場。
「あの身のこなし、まるでドレスの裾の動きまで計算しているようだった」
「あの不思議な武器をぜひ近くで見たい」
「腕自体は『黒衣の悪魔』の方が上だろう」
「いや、戦い方がまるで違う。比べること自体が難しい」
「しかし全員が全員、鬼のように強い。『ルチア姫の物語』は子供だましの空想物語だと思っていたが、どうしてどうして。あれだけ強ければさもありなん」
優勝したダルヴィマール侯爵家は、賞金の金一封を次回の優勝チームに譲るという。
優勝旗とトロフィーは一年間ダルヴィマール侯爵邸に飾られ、次回の大会前に返還される。
また近侍たちへの勧誘は今後は禁止。
手合わせしたいときは予め宰相府に希望を出すこと。
細かい決まりはこれから詰めていくそうだ。
「それにしても侯爵家も参加していただきたたかった。直接お話を伺うよい機会だったのに」
ルチア姫ご一行はというと、懇親会が最終的にどのようなものに移っていくかを知っている騎士団団長たちによって早々に退出させられた。
男たちのあの生態をご令嬢に見せるわけにはいかなかった。
◎
「「お帰りなさいませ、お嬢様 !!」」
「「優勝おめでとうございます !!」」
私たちの優勝はすでに屋敷に伝えられていたようで、玄関前にズラリと並んだ使用人の皆さんが迎えてくれる。
「ナラさん、ナラさん、ハイタッチ」
ヒルデブランドの冒険者の挨拶の一つ。
強い魔物を倒した時とか、依頼が上手くいったときとか、そんな時にやる。
「おめでとうございます、お嬢様。必ず優勝されると信じてお帰りをお待ちしておりました」
バンッと頭の上あたりで手を合わせる。
今日はいつものおすましはしない。
だって、嬉しいんだもん。
「司厨長がお祝いだと張り切っておりますよ。もう御前とお方様はお帰りです。急いでお支度をしましょうね」
「はいっ !」
拍手の中を屋敷に入る。
兄様たちは「やったな」「すごいぞ」「当家の自慢だ」とか言われながら小突かれている。
私はお祝いを言ってくれるみなさんにお礼をいいながら部屋に戻った。
「皆さん、申し訳なかったです。僕のせいでこんな大事になってしまって」
「いいのよ。これは皇帝陛下のご命令で始まったことですもの。大騒ぎにはなったけれど、これでもう私からみんなを奪おうなんて家は出ないはずよ。それにそもそも発端はエリアデル公爵夫人をギャフンと言わせるために私があれを企画したからだし」
ギャフンと言わせてそれでおしまいだったはずだったのに、なんだか新しい行事が出来ちゃったし。
「お嬢様。今回の武闘會で当家はかなりの儲けを出しておりますよ。会場は公共施設を使っておりますので、グランドギルドの訓練場以外は無料ですし、各会場に設けた模擬店の売り上げも中々。屋台を出したいというお店も多く、次回は出店料も見込めます。末永く続いてくれればよい収入になりますわ」
ナラさん、コッソリ教えてくれたけど、実は小さなイベントプランニングの会社の社長さん。
大学で経営を学んだあと大手の会社で勉強して、独立して自分の会社を立ち上げたんだって。
今回はプランナーのベナンダンティと組んで大分頑張ってくれた。
「簡単よ。こっちって食事だすのに色々と面倒くさい許可取りいらないし、税金払えとか言われないし、楽勝」
確かにそういう意味では儲けは全て侯爵家に入るので、懇親会費用を全部出してもおつりがくるんだとか。
「さあ、お嬢様、お夕食に参りましょう。皆様お待ちですよ」
ナラさんに先導されてダイニングに向かう。
もうご老公様とお父様とお母様が待っていて、セバスチャンさんとメラニアさんも待機している。
「優勝おめでとう。素晴らしかったよ。皇帝陛下も殊の外お喜びだった」
「アンシア、お疲れ様だったわね。一人でよくあそこまで頑張ったわ。鼻が高かったわ」
ふとテーブルを見ると家族の人数以上の食器がセットされている。
「ほら、君たちも座りなさい。今夜は祝勝会だ。功労者なしでは始まらないよ」
「早く座ってちょうだい。お腹が空いたわ」
兄様たちがどうしようかと顔を見合わせている。
「座りなさい。御前のお気持ちです」
「そうですよ。今日は特別です。ありがたくお受けなさい」
セバスチャンさんとメラニアさんにも勧められ、兄様たちは仕方ないという笑顔で席についた。
アンシアちゃんの椅子をディードリッヒ兄様が引いてあげる。
グラスにワインが注がれて乾杯する。
久しぶりのみんな一緒の食事。
今日の私はなんて幸せなんだろう。
グレイス近衛騎士団団長が立ち上がって拍手を送る。
「近衛の。貴方が心当たりがあると言われたのはルチア姫の事でしたか」
「ええ、姫が出なければ収まりませんぞ。覚えておられるか、お披露目の儀のことを」
言われて思い出す。
あの時は悪漢に扮した近衛騎士たちを一瞬で叩きのめしていた。
その後の浮遊魔法に目がいって、すっかり忘れていたが、あの件で皇帝陛下直々に『槍持つ乙女』の二つ名を与えられたのだった。
「そう言われてみれば、確かに」
「やれ、何故そこに思い至らなかったのか」
フロアでは『黄金の黄昏騎士団』が剣も抜かずに憤然としている。
「ダルヴィマール侯爵家のご令嬢がお相手とは。ケガなどさせられない。ここは儂が引こう」
「まあ、私ではご不満でしょうか ?」
「女子に向ける剣はもたん」
「これでも ?」
ルチア姫がスッと槍を振う。
相手選手のカイゼル髭が半分消えた。
「もう片方もお手伝いいたしましょうか ?」
顔に触れて自慢の髭が半分無くなっているのに気づく。
「な、なんてことを・・・ここまで伸ばすのにどれだけかかったと !」
「私、お髭が生えたことがございませんからわかりませんの」
何か問題でも ?
無邪気な様子で小首をかしげる少女に、ここまで伸ばすために掛かった月日と、ピンっと跳ね上げるための毎日の手入れを思うとメラメラと怒りが湧いてくる。
「そうか、そんなに死にたいか」
先ほどの紳士的な態度はどこへやら、顔を真っ赤にして腰の剣を抜く。
「では希望通り相手をしてやる。生きて帰れると思うなよ」
「まあ、恐ろしい。規則は遵守してくださいませね」
◎
「四分三十秒」
暇な審判の一人が砂時計をひっくり返しながら言う。
ルチア姫が五分以内での勝利を宣言していたので、面白がって時間を計っているのだ。
正確な時計は神殿か王宮にしかなく、人々は教会の鐘を目安に生活している。
短い時間を計るためには砂時計が使われるが、それも高価な物なのであまり流通はしていない。
今使わなければいつ使うのか。
大きな一分計と小さな三十秒計が二個ずつ。
「ルチア姫の動きは素晴らしい。無駄な動作が一つもない」
「それに優雅なこと。まるで踊っているようだ」
相手は力任せで押しているが、ことごとく返されている。
そして時々よろける。
「おかしいな。あの方がよろけるとは」
「第五の、やはり気になりましたか」
団長たちのうち高齢の者が不審そうに試合を見る。
「『野中の一本杉』と呼ばれたあの方が・・・。年、ですかな」
「まさか。ありえませんぞ」
「三分三十秒」
どんな剣にもビクともしない体が何かの拍子にぶれる。
体調でも悪いのかと思えばそうでもない。
近衛の団長だけがニコニコと楽しそうに見ている。
「三分」
「おかしい。お主、どのような技を使う。普通の剣技ではなかろう」
「あら、私はただの小娘ですわ。そんな怖ろしいものは存じません」
「儂をここまで翻弄しておいて、何が小娘だ」
「では大娘で」
「小癪なっ !」
振りかぶった剣が振り下ろされる。
と、その刀ごと体がクルリと回り、剣が弾き飛ばされる。
「私の勝ちですわね」
「二分三十秒」
ダルヴィマール侯爵家はその宣言通り全ての試合を五分以内で終わらせた。
◎
「いやあルチア姫のお強いこと。そしてお美しいこと」
試合終了後、閉会式をおえた後は決勝参加者と関係者が集まって懇親会と言う名の酒盛りに移行する。
場所はそのまま第一騎士団の訓練場。
「あの身のこなし、まるでドレスの裾の動きまで計算しているようだった」
「あの不思議な武器をぜひ近くで見たい」
「腕自体は『黒衣の悪魔』の方が上だろう」
「いや、戦い方がまるで違う。比べること自体が難しい」
「しかし全員が全員、鬼のように強い。『ルチア姫の物語』は子供だましの空想物語だと思っていたが、どうしてどうして。あれだけ強ければさもありなん」
優勝したダルヴィマール侯爵家は、賞金の金一封を次回の優勝チームに譲るという。
優勝旗とトロフィーは一年間ダルヴィマール侯爵邸に飾られ、次回の大会前に返還される。
また近侍たちへの勧誘は今後は禁止。
手合わせしたいときは予め宰相府に希望を出すこと。
細かい決まりはこれから詰めていくそうだ。
「それにしても侯爵家も参加していただきたたかった。直接お話を伺うよい機会だったのに」
ルチア姫ご一行はというと、懇親会が最終的にどのようなものに移っていくかを知っている騎士団団長たちによって早々に退出させられた。
男たちのあの生態をご令嬢に見せるわけにはいかなかった。
◎
「「お帰りなさいませ、お嬢様 !!」」
「「優勝おめでとうございます !!」」
私たちの優勝はすでに屋敷に伝えられていたようで、玄関前にズラリと並んだ使用人の皆さんが迎えてくれる。
「ナラさん、ナラさん、ハイタッチ」
ヒルデブランドの冒険者の挨拶の一つ。
強い魔物を倒した時とか、依頼が上手くいったときとか、そんな時にやる。
「おめでとうございます、お嬢様。必ず優勝されると信じてお帰りをお待ちしておりました」
バンッと頭の上あたりで手を合わせる。
今日はいつものおすましはしない。
だって、嬉しいんだもん。
「司厨長がお祝いだと張り切っておりますよ。もう御前とお方様はお帰りです。急いでお支度をしましょうね」
「はいっ !」
拍手の中を屋敷に入る。
兄様たちは「やったな」「すごいぞ」「当家の自慢だ」とか言われながら小突かれている。
私はお祝いを言ってくれるみなさんにお礼をいいながら部屋に戻った。
「皆さん、申し訳なかったです。僕のせいでこんな大事になってしまって」
「いいのよ。これは皇帝陛下のご命令で始まったことですもの。大騒ぎにはなったけれど、これでもう私からみんなを奪おうなんて家は出ないはずよ。それにそもそも発端はエリアデル公爵夫人をギャフンと言わせるために私があれを企画したからだし」
ギャフンと言わせてそれでおしまいだったはずだったのに、なんだか新しい行事が出来ちゃったし。
「お嬢様。今回の武闘會で当家はかなりの儲けを出しておりますよ。会場は公共施設を使っておりますので、グランドギルドの訓練場以外は無料ですし、各会場に設けた模擬店の売り上げも中々。屋台を出したいというお店も多く、次回は出店料も見込めます。末永く続いてくれればよい収入になりますわ」
ナラさん、コッソリ教えてくれたけど、実は小さなイベントプランニングの会社の社長さん。
大学で経営を学んだあと大手の会社で勉強して、独立して自分の会社を立ち上げたんだって。
今回はプランナーのベナンダンティと組んで大分頑張ってくれた。
「簡単よ。こっちって食事だすのに色々と面倒くさい許可取りいらないし、税金払えとか言われないし、楽勝」
確かにそういう意味では儲けは全て侯爵家に入るので、懇親会費用を全部出してもおつりがくるんだとか。
「さあ、お嬢様、お夕食に参りましょう。皆様お待ちですよ」
ナラさんに先導されてダイニングに向かう。
もうご老公様とお父様とお母様が待っていて、セバスチャンさんとメラニアさんも待機している。
「優勝おめでとう。素晴らしかったよ。皇帝陛下も殊の外お喜びだった」
「アンシア、お疲れ様だったわね。一人でよくあそこまで頑張ったわ。鼻が高かったわ」
ふとテーブルを見ると家族の人数以上の食器がセットされている。
「ほら、君たちも座りなさい。今夜は祝勝会だ。功労者なしでは始まらないよ」
「早く座ってちょうだい。お腹が空いたわ」
兄様たちがどうしようかと顔を見合わせている。
「座りなさい。御前のお気持ちです」
「そうですよ。今日は特別です。ありがたくお受けなさい」
セバスチャンさんとメラニアさんにも勧められ、兄様たちは仕方ないという笑顔で席についた。
アンシアちゃんの椅子をディードリッヒ兄様が引いてあげる。
グラスにワインが注がれて乾杯する。
久しぶりのみんな一緒の食事。
今日の私はなんて幸せなんだろう。
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