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王都・オーケン・アロンの陰謀 ? 編

龍とニワトリとプリンアラモード

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 真っ白な体。
 真紅の鶏冠。

「まさか貴方が来るとは思いませんでしたよ」
「呼ばれたからな。とてもあり得ない形ではあるが」

 ブルっと体を震わせ、ピヨコ隊のファンシーな雰囲気を一蹴して、巨大なニワトリがフンっと鼻を鳴らす。

「面白い娘を見つけたな。お主の召喚術を見ただけで吾を呼び寄せるとは、なんとも不思議な力を持つことよ」
「あの子は想像する力が強いだけでなく、自由すぎる心を持っているのです。その魔力は温かく優しく、面白い。それに引かれる魔も多い」
「・・・あれらか」

 少女に張り付くちっぽけな二体を思い、長く美しい尾を持つ鶏王はココっと笑う。

「正直、迷っています。あの子に押し付けて良いものかどうか」
「押し付けるとはあまりな言いよう。我らは己の意思で相手を選ぶのだ。お主は我らに道を示したに過ぎん。後ろめたく思うことはない」
「しかし、他の子もそうですが、あの子はこの世界が単に魔物がいる魔法を使えるだけの世界としてしか認識していないのですよ。たまたまこの世界に呼ばれて静かに暮らしているというのに、今さら面倒くさい話に関わらせたくない」

 八頭龍が一斉に笑った。

「さて何と過保護なことか」
「そのわりに苛烈な修行を強いていたような」
「意味もなくお主らのいうベナンダンティになる者などおらぬよ」
「全員が全員、大なり小なり何かしらの役目をもっておるのだ」
「我らを呼び出したと言うことは、お主の中ではもう決まっていることではないか」

 自分の持つ知識を総動員して八頭龍に対抗した心意気。
 思いもかけない発想。
 依頼者の心に寄り添った心持ち。
 可愛らしいではないか。

「孫を見守る爺の気分であるな。ではこうしよう」

 パッと光が瞬くと、巨大なニワトリは消え、手の平サイズのヒヨコが現れた。

「この姿であの娘の側にいるとしよう。お互いに心が知れたらその先も見えてこようよ」
「なんと、ずるいぞ、ひんがしの」
「我らでは擬態しても傍にはいられぬというのに」
「黙れ、西海さいかいの。悔しければ玩具の振りでもなんでもすればよかろう。では吾はいく。傷ついた乙女心を慰めるとしよう」

 フワッと柔らかい光が集まりヒヨコが消えた。

「時の司はいつも思い切りが良い」
「一度くらいそれで失敗すればよいのに」

 ギャイギャイと不満を口にする八頭龍に苦笑するギルマス。
 
「この後まさか北と南のお方が来られるということはないだろうね」
「わからぬぞ。よい依り代が見つかればあるいはな」
「我らと違いあやつらは体をもたぬから」
「今頃どこで寝とぼけておるやら」

 そう言えば、とギルマスは思い出す。

「王都のまわりの祠についてなにか知っているかい。ここ数年破壊されることが増えているらしい。こちらの書籍にはそれらしい記述がなくて困っているんだ」
「祠 ? おお、あれか。あれはな・・・」



 泣きながら王都を走り抜けた。
 兄様たちがいないところを探して適当に走った。
 呼び止められた気がするけど、無視した。
 ふと立ち止まると、今まで来たことのない街かどにいた。

「ここ、どこだろう・・・」

 なぜかジロジロと遠巻きに見られている。

「お、ルーさんっ ?!」

 呼ばれて振り向くとアンシアちゃんがいた。

「どうしたんですか。なんでシジル地区にいるんです ? あれ、泣いてるんですか ?」
「アンシアちゃん・・・私・・・」




「と、いう訳なのよ。酷いでしょう ?」
「はあ・・・確かに・・・食べ物の恨みは忘れがたいですよね」
「そうなのよっ ! お孫さんのお手製のクッキーなんて他人にあげたいって思う ? 全部自分で食べたいじゃない。それを半分も下さったのに、ぜーんぶ食べちゃうんだもん !」

 シジル地区冒険者ギルドの軽食フロアのど真ん中のテーブルを占領して、ルーはアンシアと女性冒険者のアノーラと三人で女子会を開いていた。
 机の上にはルーが『お取り寄せ』したお菓子がたくさん。

「こんなに一杯、よく持ってたわね」
「冒険者の袋に常備してます。あれ、お姉さんは持ってないんですか ?」
「えっと、今日は・・・持ってきてないわ」

 アノーラはモゴモゴとごまかす。
 ルーはそれを見てハッとした表情をする。

「そうですよね。大事なものだから必要以上に頼っちゃダメだって兄様たちにも言われました。でも便利だからつい持ち歩いちゃって」

 今度から気を付けますねとニッコリ笑う少女に、周囲の冒険者たちはホッと胸をなでおろす。
 自分たちのギルドが一般の冒険者ギルトとは違うことは、一人前になった時に叩き込まれている。
 決して王都の冒険者とは接触しないように。
 それがまさかあちらからやってくるとは。
 と、その時ドタバタとギルドの扉が開いて男たちが飛び込んできた。

「お邪魔する。こちらにルーという娘が来て・・・いたっ !」
「ルー、探したよっ !」
 
 冒険者三人に、近衛騎士 ?
 その場の全員が立ち上がり身構える。
 しかし臨戦態勢の彼らを無視し、四人の男たちは女子会中のテーブルに駆け寄る。

「ごめん、ルー。僕が最初に一枚食べようって言ったんだ。お腹が空いてつい・・・。ほんっとにごめん !」
「すまん、リックに預けた俺の失態だ。自分で持っていればよかった」
「・・・最後の一枚を食べたのは俺だ。申し訳ない、ルー殿。特別な菓子ゆえ代わりの物というわけにはいかないが、なんとか勘弁してもらえないか」

 全員、なぜか騎士も一緒になって頭を下げる。

「「「申し訳ありませんでしたっ ! 」」」

 ヒルデブランド流の最大級のお詫び、土下座。
 初めて目にするシジル地区の冒険者たちは目を白黒させる。

「ルーちゃん、許してあげたら ? 大の男がこうやって頭を下げてるんだもの。引き時も大切よ」
「でも、だって、アノーラさん。私、悔しい・・・」

 まだ納得できないルーが唇を尖らせてプイッと横を向く
 その可愛らしさにシジル地区の冒険者たちはオッと見入る。

「ほら、食べ物の恨みは美味しい物を食べて晴らしましょう。いつまでも拗ねてても良いことはないわよ」
「・・・はい・・・」

 大人の女性の対応。
 確かに食べ物一つでそこまで怒ることはないのだが、訓練の後にみんなで美味しくお茶をしたかったルーはやっぱり踏ん切りがつかない。
 ここはやはりお姉さん冒険者の言う通り、美味しい物を食べて憂さ晴らしをするしかないのか。

「よおっし。最後の隠し玉、出てこーいっ !」
「きゃああああっ !」
 
 女性冒険者の狂喜の悲鳴が響き渡る。
 テーブルの上に巨大なプリンアラモードが現れた。

「みなさーん、お皿とスプーンをもって集合してください。みんなで美味しくいただきましょう」
「「「はーいっ ! 」」」

 そして少し離れたテーブルにドンっと山盛りの大皿を置く。

「兄様たちはこちらでポテチでも摘まんでてください。甘いものはもう食べたんですよね ?」

 フンっとソッポを向いてルーはプリンアラモードに参戦する。
 とりあえず許してもらえたのかと男たちは安堵する。
 もちろんまだまだご機嫌取りは必要なようだったが。

「何の騒ぎだい、これは」

 トントンと階段を降りてくる音がする。

「やたら甘ったるい匂いがするんだが・・・エイヴァン ?」
「マルさんじゃないですか、ご無沙汰してます」

 階段を駆け下りて手を差し出すシジル地区のギルマス。
 エイヴァンも嬉しそうにその手を握り返す。

「立派になったなあ。故郷に帰ったんじゃなかったのか」
「この春こちらに戻ってきたんです。妹分が新人王になりまして、あちらにはいない大型の討伐を経験させたくて。秋まではこちらで活動するつもりなんですよ」

 あそこでプリンを食べてる銀髪の娘ですよと紹介する。

「へそを曲げた拍子にこちらに迷い込んだところをアンシアが保護してくれたようで、突然やってきて申し訳ない」
「いやいや、それは別に構わないよ。そちらの御仁は ? 見覚えはあるのだが、近衛騎士に知り合いはいないし」
「リックですよ。俺の相棒だった」

 ギルマスが目を見開いた。

「そう言われて見れば・・・。確か貴族の三男坊で家を出るしかないから、食いっぱぐれのない冒険者になったと言っていた・・・。何故また近衛に」
「上の兄が出家して僧籍に入った。その前に下の兄が婿養子に出た。残った俺が跡取りで呼び戻されました。マルさん、その節はお世話になりました。随分ご馳走してもらいましたね」

 十余年ぶりの再会に胸を熱くする三人。
 横でどんな知り合いなのだろうと係累の二人は見ている。

「ああ、以前ここで暮らしていたことがあると言っただろう。このマルさんの家に下宿していたんだ。リックも時々来て飲み明かしていた。とても世話になったんだ」
「そうですか。俺は弟分のディードリッヒ、こいつがアル。あそこでパクついているのが末っ子のルーです。兄がお世話になりました」

 エイヴァンの説明にディードリッヒとアルが丁寧に頭を下げる。

「何、一緒にワイワイやってたけだ。こちらこそ一年楽しかった。こんなに立派になった姿を見ることが出来て感無量だよ」
「ところで、マルさん」

 エイヴァンがギルマスに顔を近づけて囁いた。

「少し二人だけで話せますか。出来れば誰もいないところで」
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