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王都・オーケン・アロンの陰謀 ? 編

ギルマスにボコボコにされるだけの簡単な訓練です

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 バルドリックが王都グランドギルドに着いた時、受付は閉められ冒険者たちはワイワイと三々五々どこかへ向かおうとしていた。

「近衛騎士団の者だ。グランドギルドマスターに面会したいのだが、どなたがご存知か」

 案内係と思しき女性が足を止める。

「ようこそグランドギルドへ。本日は臨時特別講習会が開かれます。グランドギルマスはすでに訓練場にいると思われます。ご案内いたしましょう」
「助かる。よろしく頼む」

 案内された訓練場はザワザワと落ち着きなく人々が大声で話し合っていた。

「なんだよ、臨時特別講習って」
「一体何があるってのさ。あたしたち、夜間依頼が終わったからのんびりしようと思ってたのにさ」

 ぶつくさ言う冒険者もいれば何が始まるのかとワクワク顔の者もいる。
 それらをかき分けグランドギルドマスターの元に案内される。

「失礼。近衛騎士団副団長のグレイスと申す。グランドギルドマスター殿か」
「さよう。近衛騎士団のお方が冒険者ギルドに何用ですかな」

 近衛騎士団長である父と同じような年頃の男性が立ち上がり頭を下げる。
 冒険者として若い頃から過ごしてきたせいか、父同様に立ち姿に体を鍛えた跡が見える。

「過日、ケルベルスと六角大熊猫を討伐した冒険者たちへ、皇后陛下より褒美を下賜するよう承って参った。『ルーと素敵な仲間たち ( 仮 ) 』というパーティーを探している」
「ほう、二代目をお探しか」

 納得したという顔でグランドギルマスは頷く。

「丁度ようございましたな。只今より彼らの訓練が行われますでのう。それが終わりましたら連れて参りましょう。ささ、こちらへおかけくだされ」

 最前列。
 訓練場の全体を見渡そうとすれば桟敷席が良いのだろうが、細かい動きを見ようとすればやはり一番前だろう。
 ほぼ全ての冒険者が集まった頃、グランドギルマスが立ち上がった。

「集まったな。これから臨時特別講習会が始まる。これは見取り稽古じゃ。目を良く開いてその全てを焼き付けよ。居眠りする者、よそ見をする者がいたら、構わん。ぶったたいて目を覚まさせるのじゃ」
 
 グランドギルマスの言葉に会場が騒めく。

「どうやらなぜこの講習会があるかわからぬ者もおるようじゃが、はっきり言おう。このような訓練を見られるお主らは幸せ者じゃ。依頼でこの機会を逃した者たちに自慢するがよい。二度と見る機会はないと思え。よいな」

 応と声がかえる。

「では始まりを静かに待つがよい」

 と、訓練場のドアが開き、一人の壮年の男性が現れた。
 年の頃は四十から五十。
 室内の人数に不思議な顔をしたが、静かに中央に降りていく。
 その姿はいたって普通。
 グランドギルマスは父やエイヴァンのように隙のない立ち振る舞いをしているが、この男性はただの市井の者に見えた。

「なあ、あれって、案内のおっさんだよな」
「掃除とか、軽食作ったりもしてるよな」

 教会の鐘が昼の一つを鳴らす。
 またドアが開いて今度はドタバタと数人の冒険者が飛び込んできた。

「ごめんなさい、遅刻しました ! あれ、なんでこんなに人がいるの ?」
「いいから、早く行け。ギルマスを待たせるな」

 一階部分から掘り下げられた訓練場を走り降りていく一行。
 バルドリックの正面に立った彼らは男性に頭を下げる。

「棚を直して欲しいっておばあさんのところに行ったら、他にも一杯危ないところがあって、直してたら遅くなっちゃいました。ごめんなさい !」
「なんだ、生活系の冒険者かよ」

 会場のあちこちから嘲笑うような声が聞こえる。
 しかし彼らに気にしている様子はない。
 
「ちゃんと最後までやってきたかい」
「はい。高い所のお掃除もしてきました。何か月も誰も来てくれなかったから助かったって、お孫さんの焼いたクッキーをいただきました。とっても美味しそうなんです。ギルマス、後でお茶しましょうね」

 少女が楽しそうに報告すると、男性も優しい笑みを浮かべる。

「そうだね、お相伴しようかな。さて、始めてもいいかな ?」
「はいっ !」
「何時でも !」

 と、言った瞬間、男性は彼らの目の前にいて、彼らは男性の刃を受けていた。

「ふふ、よく耐えたね」
「がんばりましたっ !」

 サッカーコート並みの広さ。
 一瞬で移動してきたというのか。

「縮地法・・・」

 絵物語の中でしか聞いたことのない技の名が頭に浮かぶ。
 そんな、まさか。
 彼らはパッと散って男性と距離を取る。

「さて、どうしようかな。私からいくかね。それとも君たちからかな ?」
「ルー、行きますっ !」

 少女が長い槍のような武器で切りかかる。
 あの武器には見覚えがあった。
 
「ふむ、ドレスで変な癖がついたね。無意識に裾さばきを気にしているようだ。服装で切り替えているつもりだろうけれど、不十分だよ。体がついていっていない」
「はいっ !」

 少女の足の動きが先ほどより軽くなる。
 続いて赤毛の少年がとび出した。

「やあ、重心移動が上手になったね、アル。無駄な動きが少なくなったよ」
「ありがとうございます !」

 長髪の若者が前に出ようとする。

「あー、君たちはもう良いだろう ?」
「何言ってるんですか、俺たちにもお願いしますよ」
「まだまだ先が見たいんです。頼みます、ギルマス」

 青年冒険者二人が同時に切りかかる。
 それを軽く受け流して、男性、ギルマスが嬉しそうに剣を構えなおす。

「とは言え、君たちの型は完成に近いからね。後は自分で模索するしかない。では、そろそろ行こうか」

 片刃で少し反った不思議な剣を持つギルマスが目を閉じて深呼吸をする。
 すると場内が一気に冷気に包まれる。

「なんだ・・・これは」

 男が目をカッと開けると、本物の地獄が始まった。


 昼の鐘一つが鳴ってからどれくらいたっただろうか。

 軽い指導が終わった後、ギルマスが豹変した。
 穏やかな優しい雰囲気は消え、研ぎ澄まされたナイフのような怜悧な笑み。
 訓練場全体を使って行われる稽古。
 普通の冒険者にとっては実戦に等しい。
 高位の者なら、いや、たとえこうクラスでもついていくのは難しいだろう。

 圧倒的な力、早さと技。
 しかしそれは決して相手を叩きのめすのではなく、あくまでも指導のためのもの。
 彼らが受けられるギリギリの強さ。
  
 直感的な剣のエイヴァンには構築的な剣を。
 常に相手の剣筋を読むカークスにはイレギュラーな動きを。
 守りの剣であるカジマヤーにはあえて打ち込ませるよう。
 そして、ルチア姫には・・・。
 バルドリックはあの銀髪のルーと呼ばれる少女の正体が、ルチア姫であることにもう疑いを持たなかった。

 若い冒険者たちは、春から見かけるこの男性の変貌ぶりに腕が粟立つのを止められない。
 また娘たちは日頃の愚痴や悩み相談などを聞いてくれた父親のような相手が、まさかこれほどの手練れ、いや、剣聖と呼んでいい腕を持っていたことに驚愕する。
 そしてその訓練についていける若者たちを『生活系』『街専まちせん』と陰で笑っていたことを誰もが猛省した。
 確かにこれは、二度と見られないものだ。
 冒険者たちは彼らの動きを目に焼き付けようと見守った。 

 その時、昼二つの鐘がなった。
 
「さて、ここからはルーへの個人授業だよ。三人は客席で少し休憩だ」

 ギルマスが訓練場の最前列にヒラリと舞い降りる。
 男三人は客席で一息いれる。

「あー、昼飯食い忘れた」
「さっきのクッキー、一枚だけつまんでおきますか」

 先ほどの緊張感はどこに行ったのか、息切れもせずのんびりクッキーをつまみだす。

「さて、ルー。このグランドギルドの訓練場は他とは違うところがあるんだよ。わかるかい ?」
「 ? 」

 剣をしまったギルマスの両手に目に見えて魔力が集まる。

「魔法障壁があるんだよ。客席には被害がいかない。思う存分魔法が使える」
「えっと、ギルマス ?」
「君のおかげで私も新しい魔法を覚えたよ。自動追尾ホーミングミサイル型の火の玉だ」
 
 ギルマスの手から小型の火の玉が何個も放たれ、それがルーに向かって飛んでくる。

「叩き落とさない限りいつまでもついてくるよ。さあ、どうするんだい。あ、ちなみに物理攻撃は効かないからね」
「ギルマス、鬼ですかっ !」
「百獣の王は万尋ばんじんの谷に我が子を投げ落とすと言う。可愛い弟子にあえて試練を与えるのは、愛情ゆえだよ」 

 にこやかに言うとさらに火の玉を追加する。

「ほらほら、一分毎に十個づつ追加するよ。頑張って倒してごらん」
「そんななぁぁぁっ !」
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