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ヒルデブランドの四季 ~ 一年目・秋から冬
真っ赤なお手紙をもらいました
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アンシアちゃんのチュートリアル終了から数日。
侍女教育の始まったアンシアちゃんがご老公様のお部屋にご挨拶に来た。
「ご老公様、新しいメイド見習でございます。お声がけをお願いいたします」
「王都から参りましたアンシアと申します。本日より見習としてお館に上がらせていただきます。誠心誠意努めてまいりますので、よろしく願いいたします」
あらかじめセシリアさんから教えてもらっただろう口上はなかなか立派だ。
見習メイドということで、足首まであるはずの紺色のワンピースはひざ下すれすれ。
白いペチコートがチラ見えしている。
白の三つ折りソックスがアンシアちゃんのすらっとした足を引き立ててている。
エプロンは普通のメイドさんたちよりフリフリでデコラティブ。
いつもはポニーテールにしている髪はツインテールにして白いリボンで結ばれている。
カチューシャもフリルが多い。
なんでも一目で仕事が出来ない新人だとわかるようにと、先々代様が決めたそうだ。
たしかお風呂に富士山のタイル絵作らせた人だっけ。
「メイド喫茶・・・ ?」
ご老公様の後ろに控えていたディードリッヒ兄様が小さくつぶやく。
そういえばニュースのコーナーで出てたのはこんな感じだった。
「うむ。我が家のメイド修行は厳しいことで有名だが、一人前になった暁にはどこに出しても恥ずかしくない一流のメイドになることが出来る。乞われて王宮に出仕した者も多い。周りの者を見習ってしっかりと学ぶとよい。・・・逃げ出すなよ、小娘」
「はい、一日も早く皆様のお役にたてるよう精進いたします。・・・吠え面かくなよ、くそ爺」
二人ともにこやかな顔で怖いことを言っている。
アンシアちゃんとご老公様は何だかんだ言ってもけっこう仲がいい、と思う。
罵りあいはいつもの事なので誰も気にしてない。
「ご老公様、じゃれ合いは館の者がいないところでお願いいたします」
「くれぐれも、くーれーぐーれーも、ですわ。アンシアもよく弁えるように」
モーリスさんとセシリアさんが渋い顔をして釘を刺す。
こんなふうにして私たちの新しい生活が始まったのだった。
◎
アンシアちゃんと二人、アルを先生にして狩猟、解体を学びなおす。
小さい頃市場で肉屋さんの使い走りをやっていたというアンシアちゃんは、解体に怖気づくこともなくこなせるようになった。
肉屋のご主人の手つきを思い出したら、そんなに難しくはなかったようだ。
「これで美味しいごはんが食べられるんですものね」
そう言って笑うアンシアちゃんは、顔に血が飛び散っているのでちょっと怖かった。
翌日は侍女教育。
セシリアさん曰く、やはり彼女はかなり優秀らしい。
一つ聞いて十を知るというか、何か教わるとすぐに色々なパターンでの対応策を聞いてくるので、一々その都度教えなくてもいいので楽だそうだ。
春までには立派なメイドになって、みんなと同じ長いワンピースを着るのだと頑張っている。
新人の通過儀礼で街まであの格好でお使いに行かされた時、冒険者仲間に思いっきり冷やかされて恥ずかしかったそう。
でも私が聞いたところによると、今までの新人の中では一番かわいいメイド見習と評判だったらしい。
◎
「ルー、郵便受けは見た ?」
「ううん、今日はまだ。何かあるの ?」
アルが赤い封筒を取り出して見せた。
「総会のお知らせ。年末近くになると来るんだ。宿舎に帰ったら急いで確認して」
「総会って、冒険者の ?」
「違うよ。ベナンダンティの総会。冒険者しかいない思ってるみいだけど、普通に街で働いている人もいるし、他の街にいってる人もいる。王都で役人している人もいるよ。そういう人たちがヒルデブランドに戻ってきて旧交を温め合うんだ」
国外に出ていて帰らない人もいるけど、意外な人がベナンダンティだったりしてけっこう楽しいとアルが笑う。
「そう言えば宿屋が予約で満員だって聞いたわ。総会の為に帰ってきてたのねえ」
「総会は明日。場所は冒険者ギルドの武道館。一年間の報告の後は簡単なパーティがあるよ」
明日って、なんで急に来るかしら。
「案内が配達されたのは一週間も前だよ。全然郵便受け見なかったの ?」
「だって、今まで一度だって何か配達されたことがないのよ。ご老公様からは侍従さんが直接届けてくれるし、開けるのは週に一回くらいだったの。ねえ、なにか用意するものってあるの ? 服装とかは ?」
アルが呆れた顔で自分宛の封筒から招待状を出す。
「僕宛には時間と場所くらい。ドレスコードはないけど、清潔でアイロン当ててある服ならいいんじゃない ? 今年やってきた新人の紹介もあるから、ルーは挨拶を考えておいたほうがいいかな。僕も去年みんなの前でしたし」
「めんどくさい・・・。人前に出るの苦手だし。でもよろしくしなくちゃいけないのよね」
気乗りしないまま宿舎に戻ると、言われた通り郵便受けに赤い封筒が入っていた。
明日の開催時間とあいさつがあること。そして手書きで余計な一言が。
『ルーは一曲踊ること』
なに、これ。
侍女教育の始まったアンシアちゃんがご老公様のお部屋にご挨拶に来た。
「ご老公様、新しいメイド見習でございます。お声がけをお願いいたします」
「王都から参りましたアンシアと申します。本日より見習としてお館に上がらせていただきます。誠心誠意努めてまいりますので、よろしく願いいたします」
あらかじめセシリアさんから教えてもらっただろう口上はなかなか立派だ。
見習メイドということで、足首まであるはずの紺色のワンピースはひざ下すれすれ。
白いペチコートがチラ見えしている。
白の三つ折りソックスがアンシアちゃんのすらっとした足を引き立ててている。
エプロンは普通のメイドさんたちよりフリフリでデコラティブ。
いつもはポニーテールにしている髪はツインテールにして白いリボンで結ばれている。
カチューシャもフリルが多い。
なんでも一目で仕事が出来ない新人だとわかるようにと、先々代様が決めたそうだ。
たしかお風呂に富士山のタイル絵作らせた人だっけ。
「メイド喫茶・・・ ?」
ご老公様の後ろに控えていたディードリッヒ兄様が小さくつぶやく。
そういえばニュースのコーナーで出てたのはこんな感じだった。
「うむ。我が家のメイド修行は厳しいことで有名だが、一人前になった暁にはどこに出しても恥ずかしくない一流のメイドになることが出来る。乞われて王宮に出仕した者も多い。周りの者を見習ってしっかりと学ぶとよい。・・・逃げ出すなよ、小娘」
「はい、一日も早く皆様のお役にたてるよう精進いたします。・・・吠え面かくなよ、くそ爺」
二人ともにこやかな顔で怖いことを言っている。
アンシアちゃんとご老公様は何だかんだ言ってもけっこう仲がいい、と思う。
罵りあいはいつもの事なので誰も気にしてない。
「ご老公様、じゃれ合いは館の者がいないところでお願いいたします」
「くれぐれも、くーれーぐーれーも、ですわ。アンシアもよく弁えるように」
モーリスさんとセシリアさんが渋い顔をして釘を刺す。
こんなふうにして私たちの新しい生活が始まったのだった。
◎
アンシアちゃんと二人、アルを先生にして狩猟、解体を学びなおす。
小さい頃市場で肉屋さんの使い走りをやっていたというアンシアちゃんは、解体に怖気づくこともなくこなせるようになった。
肉屋のご主人の手つきを思い出したら、そんなに難しくはなかったようだ。
「これで美味しいごはんが食べられるんですものね」
そう言って笑うアンシアちゃんは、顔に血が飛び散っているのでちょっと怖かった。
翌日は侍女教育。
セシリアさん曰く、やはり彼女はかなり優秀らしい。
一つ聞いて十を知るというか、何か教わるとすぐに色々なパターンでの対応策を聞いてくるので、一々その都度教えなくてもいいので楽だそうだ。
春までには立派なメイドになって、みんなと同じ長いワンピースを着るのだと頑張っている。
新人の通過儀礼で街まであの格好でお使いに行かされた時、冒険者仲間に思いっきり冷やかされて恥ずかしかったそう。
でも私が聞いたところによると、今までの新人の中では一番かわいいメイド見習と評判だったらしい。
◎
「ルー、郵便受けは見た ?」
「ううん、今日はまだ。何かあるの ?」
アルが赤い封筒を取り出して見せた。
「総会のお知らせ。年末近くになると来るんだ。宿舎に帰ったら急いで確認して」
「総会って、冒険者の ?」
「違うよ。ベナンダンティの総会。冒険者しかいない思ってるみいだけど、普通に街で働いている人もいるし、他の街にいってる人もいる。王都で役人している人もいるよ。そういう人たちがヒルデブランドに戻ってきて旧交を温め合うんだ」
国外に出ていて帰らない人もいるけど、意外な人がベナンダンティだったりしてけっこう楽しいとアルが笑う。
「そう言えば宿屋が予約で満員だって聞いたわ。総会の為に帰ってきてたのねえ」
「総会は明日。場所は冒険者ギルドの武道館。一年間の報告の後は簡単なパーティがあるよ」
明日って、なんで急に来るかしら。
「案内が配達されたのは一週間も前だよ。全然郵便受け見なかったの ?」
「だって、今まで一度だって何か配達されたことがないのよ。ご老公様からは侍従さんが直接届けてくれるし、開けるのは週に一回くらいだったの。ねえ、なにか用意するものってあるの ? 服装とかは ?」
アルが呆れた顔で自分宛の封筒から招待状を出す。
「僕宛には時間と場所くらい。ドレスコードはないけど、清潔でアイロン当ててある服ならいいんじゃない ? 今年やってきた新人の紹介もあるから、ルーは挨拶を考えておいたほうがいいかな。僕も去年みんなの前でしたし」
「めんどくさい・・・。人前に出るの苦手だし。でもよろしくしなくちゃいけないのよね」
気乗りしないまま宿舎に戻ると、言われた通り郵便受けに赤い封筒が入っていた。
明日の開催時間とあいさつがあること。そして手書きで余計な一言が。
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なに、これ。
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