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ヒルデブランドの四季 ~ 一年目・秋から冬

初めての・・・

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シリアス回です。
残酷表現があります。
苦手な方はスルーしてください。

===============================


 それは間違いなく午前中に私たちを追っていた赤い点だった。
 道の端の丈の高い草の奥からガサっと音がして、五人の男が姿を現す。

「さっきは逃げられたと思ったが、待っていて良かったな」
「ああ、お前が隣村なら日帰りで帰ってくるからそこを狙えばいいって言ったおかげさ」

 無精ひげを生やし薄汚い姿の男たちは、それぞれ手にむき身の剣を持っている。
 みるからに安物のなまくらだが、それなりに手入れだけはしているらしく刀身は光っている。

「そっちの女は今評判になってる新人だろう」
「久しぶりで楽しめるな」
「とりあえずそっちの坊やはとっとと死んでもらおうか」

 男たちはいやらしい目つきで近づいてくる。
 アルは黙って男たちの言葉を聞いていたが、いきなり乗ってきた馬をパシンと叩いた。
 馬たちは一気に街に向かって走り出す。
 それを見て男たちがドッと笑う。

「ばっかじゃねーか、こいつ。逃げる手段を自分で手放しやがった」

 私は無意識にアルの側に寄っていた。
 いけない。
 私はこれでもへいクラスの冒険者だ。
 経験は少ないけど、一角猪と一角ウサギの討伐にも参加している。
 たった五人の盗賊にオタオタしてどうする ?

「アル、私、やる」
「出来る ?」
「出来るかじゃなくて、やるの。いつかしなくちゃいけないことだもの」

 男たちが近づいてくる。
 私の得物の長さは2メートルちょっと。
 一歩踏み出してもまだ足らない。
 まだだ。まだ。
 あと少し。
 男たちは警戒もせずに前に出る。

「今っ !」

 私とアルを囲むように並んだ瞬間、冒険者の袋から長刀を出し、男たちのすねを思い切り払った。

「ああぁぁぁぁっ !」
「足っ、俺の足がっ !」

 足首から下が無くなったのが二人、片足だけ残ったのが一人。

「ルー、よくやった !」
「アル、取り残しをお願い ! 」

 足に攻撃を受けなかった二人をアルに任せ、三人の剣を取り上げ道の端に転がす。片足の一人は縛り上げておく。

「アル、お待たせっ !」 

 片方の男を上段から切りつける。
 ギリギリでかわされてしまった。

「このあま、よくも仲間をっ !」

 剣を振りかざしてくるが、リーチが違う。
 接近しない限りこちらにダメージを与えることができない。
 そして長刀は先ほど私がしたように、足を攻撃することが出来る。
 これが長刀の特徴。
 接近戦しかしたことのない私には、剣よりもこれくらい離れていたほうがかえって戦いやすい。
 私は競技長刀は初心者だが、ここ数か月、ギルドの武道館で実践用の訓練を受けている。
 ルールという括りがなくなれば、その辺の盗賊崩れに負ける気がしない。
 峯で相手の右手首を打つ。
 刀を握る手が緩んだところで、クルッと返すように剣を奪う。
 そして柄を刃ギリギリまで持ち替え、前後逆にして石突で男の胸に突きを入れる。
 男は気持ちよく吹っ飛んで行った。
 アルのほうも勝負がついたようだ。

「ルー、ケガはない ?!」
「大丈夫 ! アルこそ !」

 アルは倒した相手を手早く縛り、足を切り落とされた男たちに回復魔法をかけていく。
 切り口は丸く新しい皮膚が覆っていく。
 当然だが、亡くした足は元には戻らない。
 いくらアルの回復魔法の力が増したとしても、無理なのだ。
 もちろんこれからもっと魔力が強くなれば可能性もなくはない。
 だがそれは、ずいぶん先の事だろう。
 私は彼らの前に切り落とした足を並べ、生活魔法で燃やした。
 男たちは絶望したかのような目をしているが、そんなこと、私、知らない。
 くっつかない足なんか、後生大事に取っておくものでもないし。

「おまえ・・・よくも、よくも」

 顔を上げるとさっき突き倒した男がゆらゆらと立ち上がり、アルに向かっていくのが見えた。
 手には拾った刀が。

「アルっ ! 後ろっ !」

 だが回復に集中しているアルは気が付かない。

「うおぉぉぉぉぉっ !」
「させるかぁぁぁぁっ !」

 飛び掛かる体を、下段から逆袈裟に切り上げる。
 ドサッと音がして、男が変な形で倒れこむ。
 その下から赤い血だまりが溢れてくる。
 その時になって、やっとアルは自分の近くで起こったことに気が付いたようだ。

「ルー、これ、君が ?」
「アルが・・・危なかったから・・・」

 洗濯魔法で刃をきれいに洗い、冒険者の袋に収納する。
 ついでに死んだ盗賊と生き残りもきれいにしておく。
 汚くて触りたくないからだ。
 両足を切られた二人は抵抗する気もないようだったが、念のため縄をかけておく。
 
「ルー・・・」

 アルが心配気に声をかけてくる。
 初めて人を切り殺した私を気遣っているのだろう。
 どんな顔をして応えればいいのかわからない。
 怯えて泣いて縋ればいいのか。いつもどおり元気に返事をすればいいのか。

「アル、シーツを出すから、その人をくるむの手伝ってくれる ? このまま連れてくわけにはいかないでしょう」
「・・・わかった」

 アルと二人で地面に広げた真っ白なシーツの上に男を移し、全身を覆ってからロープでしっかり縛る。
 生き残りの四人と死人を空に浮かせ、私たちは街に向かって歩き出した。
 アルは手を、繋がなかった。
 


 街道をしばらく行くと、向こうから馬が走ってくるのが見えた。
 先ほどアルが逃がした私たちの馬だ。
 その後ろからやはり騎乗の兄様たちが、警備隊の人たちと一緒にやってきた。

「ギルドの馬だけ戻って来たので、何かあったかと思ったが」

 私たちの後ろには気を付け状態で浮いている盗賊たちがいる。
 私は約束通り、ちゃんと普通に見える浮かせ方で戻ってきた。

「これはお前たちが ?」
「五体満足なのは僕で、残りはルーです」

 警備隊からほおっという声がする。

「アルが切られそうになったので、思わずっちゃいました。ごめんなさい、生け捕りに出来なくて」
「いや、お前たちにケガがなければいい。まずその五人は警備隊に引き渡す。街まで浮かせていられるか」

 エイヴァン兄様に言われて頷いたけど、死んだ一人だけは寝かせて浮かせることにした。
 どんな人生だったか知らない。
 領都を目指すまでは良い人だったのかもしれない。
 盗賊になって悪いことをして、でももう終わったんだ。
 せめて安らかな眠りがありますように。

 正門ではギルマスとアンシアちゃんが出迎えてくれた。
 ギルマスは黙って私の頭をなでてくれた。
 アンシアちゃんとモモちゃんが心配そうにしていたが、なんだか話をするのも疲れる。
 今日はもう宿舎に戻って休みたい。

「ルー、明日は朝一番で執務室においで。色々話をしよう」

 状況報告をアルに任せて、私は一人で宿舎に戻る。


 お父さん、お母さん。
 あなたたちの娘は人殺しになりました。
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