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チュートリアル編

何もない日

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 ザクザクザク。
 昨日と同様雑草を始末している。
 時折遠くからボッという音がする。
 何か燃えるような臭いがする。
 今日も私は採取のチュートリアルをしている。
 ギルマスと一緒に。



 昨夜は対番会の名目でガンガン飲まされた。
 酔いつぶれれば必ず寝るだろうという実験だったようだ。
 優雅にチビチビ飲んでいる年寄組と違って、若者組は人にも飲ますが自分も飲む。

「のーヒックんでるかー」
「早く潰れろー」
 と言われても、飲んでも飲んでもおいしくて楽しいだけで、私は全然眠くならないのだ。
 最初にギブアップしたのはアロイスだった。

「・・・兄さんたち、すみません、もうダメです。落ちます・・・」

 アロイスの体が白く光る。
 その光が徐々にうすくなり、小さくなって、アロイスは消えた。

「き、消えた! 消えちゃいました!」
「ああ、心配しなくてもいい。現世で目を覚ましただけだ」

 口をパクパクさせて指差ししている私に、ギルマスは当たり前のことのように告げる。
 いや、当たり前じゃないから。これ、絶対変だから。

「ギルマス、すみません。俺も行きます」
「待ってくれ、俺も・・・行く・・・」

 エイヴァンとディードリッヒも次々と消えていった。
 残されたのは私とギルマスとご老公様。
 そして二人は期待したような目で私を見ている。

「ごめんなさい。全然眠くないです」
「だめじゃったか」
「強硬手段でいけるかと思ったんだか」

 申し訳ない気持ちでいっぱいの私に、気にしなくてもいいと二人は慰めてくれる。

「もしかしたらこうなるかもと思って個室を取ってよかった」
「今日はもうお開きじゃな。いやあ、久しぶりに気持ちの良い酒じゃった」

 店の人にご老公様用の馬車を頼む。
 三人は一人が悪酔いしたので、裏口から静かに帰ったことした。

「おやすみなさいませ、ご老公様。今日はありがとうございました」
「寝られなくとも気をおとすんじゃない。必ず家族のもとに戻れる日がくるでのう」

 ギルマスに送られて自分の部屋に戻る。
 私は眠れない夜を一人で過ごした。



 で、なんでアロイスではなくギルマスとチュートリアルをしているかというと、あの三人、ものすごい二日酔いになっていた。

「あっちで起きた時には全然なんともなくて・・・」
「普通に生活できていたのに・・・」
「白い部屋に来た瞬間、ウップ!」

 と、いう状況で全員宿舎で死んでいる。
 対番の面倒を見れないときは、その対番が代わりに面倒をみる。
 そんなわけで、アロイスの対番のディードリッヒの対番のエイヴァンの対番のギルマスが私の面倒を見ている。

「すみません、ギルマス。お忙しいのに私なんかのために」
「大丈夫だよ。今日は急ぎの仕事はないし、この程度ならすぐに終わるから」

 ギルマスの魔法はスマートだ。
 風の魔法を使って伸びた草をある程度の高さに切り取る。
 そのあと鑑定と火の魔法を使って薬草のまわりの雑草を根っこごと焼ききってしまう。
 細身のギルマスの体が優雅に草の中を行き来するうちに、いつのまにか墓地の中は水玉模様になっている。

「すごいですねえ、魔法って。私も使えるようになりますか」
「大丈夫。不可から可になったらちゃんと教えてあげる。今は自分の力でチュートリアルをやりとげることに専念しておくれ。さて、大体終わったかな。私はそろそろギルドに戻るよ。後は一人で大丈夫だね」
「はい、お手数をおかけして申し訳ありませんでした。夕五つの鐘までこのままがんばります」

 そして黙々と草刈りを進め、五つある区画の二つ半を終えたところで夕五つの鐘が鳴る。
 私は今日も寝られない体を休めるためにを、一人宿舎に戻るのだった。
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