上 下
23 / 461
チュートリアル編

お弁当ウォーズ 幼稚園児はピーマンの夢を見るか

しおりを挟む
一週間空いてしまいました。
近況報告にも書きましたが、10年選手のパソコンが壊れました。
ブックマークして下さった皆様、お待たせして申し訳ございません。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。

=======================================

「おはよう、ルー。昨日はお疲れ様」
「おはよう、あたらしいチュートリアルかい」

 街の人が親しげに声をかけてくれる。
 昨夜の大騒ぎが嘘のような爽やかな朝だ。

「違うのよ、おじさん。昨日は道じゃないところを通っちゃったから、もう一度しっかり歩いて街の中を覚えなさいってギルマスが。配達しながら復習しているところなの」
「おたくのギルマスはそういうところしっかり決めてくるなあ。だから俺たちも安心して依頼を出せるんだよ」
「がんばれよ。疾風のルー」
「やめてよぉ、それ言われたら私、ゆっくり歩けないじゃない」

 そりゃそうだ、と笑い声があがる。昨日の出来事で、私はすっかり街に受け入れられたようだ。
 それはそれとして・・・。



「ギルマスぅぅぅっ! 助けてくださーいっ!」
 ギルドの門が開くと同時に、私はギルマスの執務室に飛び込んだ。

「どうしたんだ、ルー。そんなにあわてて」
「どうしよう、どうしたらいいのっ!」
「落ち着いて。とにかくゆっくり話してごらん」

 グズグズ泣く私を椅子に座らせて、ポケットから出したハンカチで涙を拭いてくれる。

「想定外です。こんなことになるなんて!」
「ギルマス、ルーが大変だって下で聞いたんですが、なんで泣いてるんだ!」
「アルぅ、私、どうしていいかわからないの・・・!」

 飛び込んで来たアロイスの姿に、止まりかけた涙がまた溢れてくる。
 泣き止まない私をギルマスとアロイスが挟むように座る。

「一体何があったんだい。泣いてばかりではわからないよ」
「そうだよ。とにかく話して。力になれるかもしれない」

 私は鼻をズズっとすって、なんとか声を絞り出した。

「私、昨日、寝られなかったんです」

 ギルマスとアロイスが息を飲むのを聞いて、私の目からまた涙が溢れてきた。



「寝られなかったって、ずっと起きていたってことかい?」
「そうなんです。お布団に入って目をつぶっても全然ねられないんです。羊だって白いの千匹、黒いの六百匹かぞえたのにぃ」

 二人は顔を見合わせた。

「寝たらこっちに来て、こっちで寝たらあっちで起きるんですよね? こっちで寝られない私、あっちでどうなってるんですか」
「そう言われても、今までなかったことだよ。私もそうだが、アルもちゃんと寝てあちらに戻っている」
「じゃあなんでこんな! こんな・・・幼稚園でお弁当戦争に巻き込まれたとき位のパニックですぅぅ!」
「そんな大げさっていうか、なんで幼稚園なの」
「アル、幼稚園のお弁当カーストを甘くみちゃダメ!」

 幼稚園のお弁当で一番偉いのは野菜と肉と魚のバランスが取れたもの。その中でもキャラ弁が一番もてはやされる。
 飾り切りやらキャラの再現とかで手間がかかるからね。それだけ子供に手をかけているって証明にもなるし。
 一番嫌われるのは単品ものかな。パスタとかオムライスとか。
 次に笑われるのは普通のお弁当。
 お弁当箱の中に整然と面白味もなく詰められたの。
 まあ、おばあちゃん子の私は、そのつまらないお弁当組だったんだけどね。
 時々お母さんたちによるお弁当チェックとかあると、陰でコソコソ言われるわけだ。
 騒ぎはそんな中起きた。
 その時の私のお弁当は、ご飯の上にピーマンを敷き詰めたもの。
 そこに飾り切りもしていないニンジンのグラッセがゴロゴロ。
 私の大好物で久々の母の手作りだった。
 子供の嫌いなものてんこ盛りのお弁当に、友達は私が母から嫌がらせされていると思ったらしい。
 自分のおかずをわけてくれる子、食べるの少し手伝ってあげるという勇者。
 今思うと優しい子ばっかりだったなあ。
 それで勇敢にも私のピーマン弁当を食べた子が、一口食べて「おいしい!」って言ったんだ。
 その子はピーマン大嫌いな子だったのね。それがお替り要求したものだから、ほかの子たちもチャレンジして、そして私のお弁当がなくなった。
 わけてもらったからいいけど。
 それだけならいい話で終わったんだけど、おうちに帰ったお友達がピーマンを食べられた、おいしかったって親に言って、喜んだ親が出したピーマンは何時も通りおいしくなくてという修羅場があったらしい。
 で、その月の保護者会で、たまたま休みが取れて、参加した母が総攻撃を受けた。
「これ見よがしに子供の嫌いな物を持たせるなんて」
「これだから働いている人は」
 はっきり言って八つ当たり。
 そして母は受けて立っちゃったんだ。

「貴様ら、子供が食べられないものを作るくせに、何を甘ったれたことを言っているか! 自分たちの腕のなさ、工夫のなさを人のせいにするな! 文句があるなら、私の言う通り作ったものを食べてから言え! 総員、速やかに家から材料と卓上コンロを持ってこい! フライパンも忘れるな!」

 いや、本当にこう言ったのよ。なんで知ってるかというと、議事録用の録音聞いたから。
 その日の大調理大会の結果として、母は保護者のお父さんたちからは姐さん、お母さんたちからはお姉さまと呼ばれるようになった。
 ピーマンは今でも私の大好物。自分でも時々作ってる。

「そのピーマン、僕も食べてみたい」
「うん、チャンスがあったら作ってあげる・・・じゃなくてっ! それくらいお弁当カーストは過酷なのよ。次の幼稚園は給食でお弁当は週一だったから、お母さんたちも張り切っちゃって大変だったのよ。大人対園児じゃ太刀打ち出来ないし、この世からお弁当がなくなれば、世界は平和になるって信じてたわ」

 バンッとギルマスが手を叩いた。

「大分話が脱線したが、君がとんでもなくパニックに陥っていることはよくわかった」
「・・・すみません」
「謝らなくてもいい。それで、少しはおちついたんじゃないかい」

 そういえばお弁当の話をしていたら、なんだか最初の興奮してグルグルと荒れた気持ちがなくなっていた。不安な気持ちはまだあるけど。

「とにかく原因が何か、考えられる原因をひとつづつ挙げていこう。まず、君が白い部屋にくる前、何をしていたかだ」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...