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五十三話 国王、攻略者たちと会合する ①
しおりを挟むフローラとの初対面の後、ラルフとロランに連れられてテレサとメリアンナの元へと行った。
テレサとメリアンナはトレーにケーキとお茶を乗せ、護衛と従者ラルフたちとガゼボに戻ろうとしたところで遠くにフローラの姿を見つけたのだ。
この国には特に貴族は金髪、銀髪以外にも赤、青、緑と様々な色の髪を持った人間が存在するが、目の冴えるようなピンク色の髪は珍しいというか今までフローラしか見たことがない。
俺であるリリアナの薄紫色の髪も珍しく今のところお母様と俺しか見たことがない。
ゲームの世界だというこの世界のヒロインと悪役令嬢だからか二人とも珍しい髪色なのかもな。
だから遠くからでもリリアナがいるガゼボに向かい立っているのがフローラだとすぐにわかって、ラルフとロランがテレサとメリアンナに食堂の席に座って待ってもらうように了承してもらいラルフとロランが急いで迎え来てくれたようだ。
テレサとメリアンナは食堂に入ってきた俺の姿を見つけるとすぐに席を立って歩み寄ってきた。
「リリアナ様!あの、大丈夫でしたか?何かされてませんか?」
テレサが不安気に俺の身体のあちこちを見ながら周りを気にしながら声を潜め聞いてくる。
心配してくれているのだ。
「テレサ様ありがとう。
この通り何もありませんわ」
俺はラルフの手から自分の手を離しクルッとゆっくりはしたなくならない程度を意識して一回転してみせてちょっとおどけてみかた。
それにテレサとメリアンナは安心したように微笑む。
「そうですか、それは本当に良かったですわ。
あの方がリリアナ様の近くにいるのが見えた時はドキッとしましたわ」
メリアンナはホッと息を吐いて俺を見上げてくる。
俺より身長が低いメリアンナが上目遣いで見上げてくる様は本当に庇護欲をそそる可愛さだ。
メリアンナの方がフローラより余程可愛いと思う。
「メリアンナ様も心配して下さったのね。ありがとう大丈夫よ」
「良かったですわ、リリアナ様申し訳ありません。
私がケーキを食べたいなどと席を離れたからあの方と会うことになってしまって…」
テレサが目に見えて申し訳なさそうに謝罪してくる。
「テレサ様が謝ることは何もなくてよ。
わたくしも食後のデザートを食べたかったからテレサ様が言わなかったらわたくしが言っていたわ。
さあ、いつまでも立ち話も何ですから席に座ってケーキを頂きましょう。
ケーキを食べないうちに昼休みが終わってしまうわ」
俺は二人を見ながら微笑む。
「リリアナ様!私のことを慮ってそう言って下さるなんて…ありがとうございます」
俺の言葉にテレサはパアッと顔を明るくする。
テレサは表情豊かで見た目の美しさがさらに華やぐ。
俺たちは席につきケーキを食べお茶を飲む。
テレサの侍女が気を利かせて新しいお茶を用意してくれていたようで温かいお茶と甘くてとろける美味しいケーキをテレサとメリアンナと一緒に味わった。
甘いものは心を落ち着け、癒やしてくれる。テレサとメリアンナもいつもの柔らかい表情に戻った。
昼休みが終わって、教室に戻る時にテレサとメリアンナが先に戻って行くのを確認して俺はロランを見る。
「ロラン、今日の放課後は生徒会も王太子妃教育もないわ。
ルドルフとレアンドロ、ジョシュアを呼んでもらえるかしら?」
「承知致しました」
ロランは俺の言葉を聞いてすぐどこかへと姿を消した。
俺はミランと教室へと戻って行く。
護衛は教室には入れないことになっているが、同性の侍女は教室の入口まで同行することが認められているので、俺はミランと共に向かう。
ケングレットも生徒だから俺たちの前を歩いて周囲に気を配ってくれている。
「何なんでしょう?あの失礼極まりない方は!」
ミランが先程のフローラの言動に憤っている。
「本当にね、ある程度の予想はしていたけど予想以上に傍若無人だったわね」
「そうですよ!不敬罪と侮辱罪でその場で罰してやれば良かったんです!!
今はそれが出来ないことわかっておりますけど!
それに訳のわからないことばっかり言って頭大丈夫なんでしょうか?!」
ミランだいぶ過激になってる。
ミランは元々伯爵令嬢で、家を飛び出してはいるが、籍はそのままのようなので不敬には当たらないけど。
「訳がわからなかったわね、確かに。
ミランわたくしの為に怒ってくれてありがとう。
でもわたくしの前だけにしてね」
俺はミランに大丈夫よという気持ちを込めて向かってウィンクする。
「あっ…私なんてはしたないことを…申し訳ありません…お嬢様に対してあまりに失礼で怒りが抑えられませんでした」
興奮して言ってしまったことに気付いてミランは申し訳ないという顔をして俯いてしまった。
「わたくしはミランがわたくしのことでそれだけ怒ってくれて本当に嬉しいと思っているのよ。
でも他の人たちに聞かれてミランのことを誤解されたくないからよ。
ありがとう、では行ってくるわ。
ミランもラルフたちの側を離れないでね」
「承知致しました。
ありがとうございます、お嬢様。
いってらっしゃいませ。
ケングレット様後よろしくお願い致します」
「わかった。リリアナ様もうすぐ授業が始まります。中へ入りましょう」
ケングレットに声をかけられて俺は教室の中へ入った。
放課後、俺は馬車に乗り大神殿に向かう。
俺が馬車に乗るタイミングを見計らってレンもやってきて馬車の中で待ってくれていたので、レンも一緒に向かう。
ルドルフ、レアンドロ、ジョシュアと会う時はお互いの邸だと俺たちが繋がっていると知られる為、大神殿の一室を借りてそこで会うことにしている。
馬車を途中で下り、ラルフたちと徒歩で向かい、大神殿の裏の物資搬入口から入る。
大神官長がいる時は大神官長が出迎えてくれるが、いない時には彼が一番信頼している神官の一人が出迎えて案内してくれる。
今日は大神官長はいないみたいで神官が出迎えて案内してくれた。
俺とラルフ、ロラン、ケングレットが部屋に入り、アルフとミランは部屋の外で待機してもらう。
部屋に入るともうルドルフたちが来ていた。
「リリアナ様~待ってました~」
ジョシュアがニコニコと近くに歩み寄ってくる。
「ジョシュア、忙しいところ悪いわね。
ワイルとナミアは元気かしら?」
「はい!ワイルさんはもちろんですが、ナミアさんもとても元気ですよ。
ナミアさんなんて客人だから何もしなくていいと父上と母上が言ったのに、一応医療師に診察してもらって大丈夫だと言われてから、何もしないのは申し訳ないと言って掃除や洗濯などメイドとして働き出したんですよ~」
ナミアのことを聞いて驚いた。
「そうなの?大丈夫なのかしら?」
「ええ!そりゃもう元気いっぱいです。
とても気が利く穏やかで優しい女性なので、うちの使用人ともうまくいっているようですし、セシルティアとはすぐ仲良くなって僕なんか放ったらかしにされて二人仲良くしてますよ。
父上もですけど、母上もナミアさんのことすぐに気に入っていずれは母上付きの侍女にすると張り切っていますよ~
ナミアさんが火魔法をちゃんと扱えるようになると侍女兼護衛になれますから期待してると思います」
ジョシュアが悪戯っぽく笑いながらナミアのことを語ってくれてひとまず良かったと安心した。
「ジョシュア!リリアナ様に報告したいことがたくさんあるのはわかるが、取り敢えず座って頂こう」
「あっ!すいません~」
ルドルフに言われてジョシュアが謝りながら俺たちを席へと案内してくれる。
そして俺たちはルドルフに促されて席につく。
レンは部屋に入るまで姿を消していたが、部屋に入るとパッと姿を現して俺の席の前のテーブルの上に身体を猫そのまはまの丸めて目を細めて座る。
「まずはこれを見てもらおうか?」
俺はブローチを外して魔石の部分を俺たちの目線の斜め上に向けて、フローラに会った時のことを思い浮かべながらワイルが作ってくれた魔導具に魔力を通す。
見たい時のことを思い浮かべながら魔力を通すとすぐその場面が出てくる便利さだ。
すると斜め上に俺とフローラが対峙している時の様子が画面に出てきた。
今はまだ音声が出ていないが、俺から見たフローラの様子が見られる。
それが終わるとルドルフ、レアンドロが顔を顰める。
「本当に品性の欠片もない女ですね」
ルドルフが嫌悪感を隠さず吐き捨てるように言う。
ルドルフは普段は己を律するのと同じくらい周りにも冷静でいて貴族らしく折り目正しく接する人間だ。
こんなにも嫌悪感を隠さない言動は珍しい。
「音声が聞こえなくともどんな口調でどんなことを言ってるか想像がつきます」
レアンドロも不機嫌に眉を上げる。
「わぁ~何か凄い顔ですね~」
ジョシュアは苦笑いしながら俺を見る。
「テレサとメリアンナが昼食後、ケーキを買いに食堂に行っている間にフローラ一人がやってきていきなり、リリアナ・ハーベント何で痩せてるのよ!?って言われたわ」
俺も苦笑いする。
「昼休み珍しく用事があるからと殿下から離れて行ったと思えば、リリアナ様の所に行っていたのですね。
油断も隙もありませんね!」
ルドルフが憮然としている。
余程フローラに憤っていて我慢ならないという顔だ。
「リリアナ様に対するあの失礼な言動は聞いていて腸が煮えくり返り、リリアナ様に止められていなかったら自分を止められなかったかもしれません」
ケングレットも怒りで顔を歪める。
「おいおい!剣を持ってなくて良かったな」
ラルフがケングレットを揶揄する。
学院内では生徒は剣の授業以外剣を持つことを許されていない。生徒の護衛もだ。
剣を持つことを許されているのは学院を警備する騎士だけだ。
「ケングレット様は剣を持っていなくてもリリアナ様の為なら魔法を使いそうですけど」
ジョシュアが苦笑いしながら言う。
「当然です」
それにケングレットが当然と答えた。
「ケングレット駄目よ!
学院内で無闇に魔法を使ったら貴方が処分されるわ」
学院内では授業以外で魔法を使うことも禁じられている。
俺は慌ててケングレットを諌めた。
「わかっております。
それくらい腹が立ったということです」
ケングレットが鋭い目をしながら俺を見つめる。
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