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六十六話 大神殿への道と控え室
しおりを挟むいよいよ結婚式の日がやってきた。
もうお馴染みになった朝早くから湯浴みをして、全身を念入りに磨いてもらい、髪や爪の手入れをしてもらった。
式のドレスはセントバーナル様、バナ様がすべて考えて選んで下さったもので、着替えるのは大神殿の控室なので、髪をアップにしてもらって化粧も王宮の部屋で行ない、あとは着替えるだけにして脱ぎ着しやすいドレスで馬車でバナ様と一緒に馬車に乗って、大神殿に向かった。
パレードは行なわれないはずなのに馬車が王宮から少し離れた街に向かっている道に入ると、何やら歓声のような声が聞こえて拍手の音も聞こえた。
何だろう?と窓から外を見ると、沿道の両側にたくさんの人たちが並んでいてその人たちの声が聞こえてきたのだった。
沿道に並んだ人たちは。
「第二王子殿下、第二王子王子妃殿下バンザ~イ」や
「第二王子殿下、第二王子妃殿下おめでとう~」と歓声を上げていて、拍手をしてくれたり馬車の中の私たちに向かって手を振ったりしてくれている。
結婚の日にちは発表されていたし、警備も数ヶ月前から周知されていると聞いてはいたけど、まさか沿道にこんなに人が集まっているとは知らず、私は驚く。
「えっ?」
「リカほら、手を振って」
セントバーナル様は両側にある馬車の両側にある窓を覗きながら、それが普通というふうに外に向かい手を振りながら私に微笑みかけて言ってくる。
「あっ、はい!
…あのこんなに人が集まっているとは知りませんでした」
私が目をパチパチ瞬かせながら言うと。
「私たちは王族だからね。
民にとっては王族の結婚式はお祭りみたいなものだからこうなるのは仕方ないんだよ。
もちろん私も初めてのことだけどね。
予めパレードはしないことになっていたけれど、沿道などの警備は以前からしていたからね。
でも本当にそうなるかは私にもわからないことだったからリカに予め言わなくて悪かったね」
バナ様が少し困ったように笑う。
でもすぐに微笑みを浮かべて、両方の沿道向かって手を振るバナ様。
「いえ、気にしないで下さい」
私もバナ様に倣って手を振る。
私は戸惑ってドキドキしているけど、バナ様はさすがに第二王子。
手を振る姿が初めてだと言っていたけど、堂に入っていて威厳のある姿だ。
「バナ様謝らないで下さい。
私には想像もつかなかったことですけれど、ちゃんと考えていればわかったことですものね」
「王族も民あってのものだからね」
「そうですね」
バナ様と私は顔を合わせて微笑み合ってから、また沿道の両方に手を振った。
馬車で30分程走って大神殿に到着した。
沿道もそうだったけど、大神殿の周りも物々しいくらい騎士たちが警備している中をバナ様と私は中へと足を運んだ。
中に入ると、大神官長様自らお出迎えをして下さり、バナ様と挨拶を交わしてからお互い別々の控え室に神官様に案内してもらった。
控え室の中に入ると、先に来ていたいつもの侍女たちが私をお出迎えをしてくれた。
部屋の中に飾られている今から私が着る事になっている式のドレスを見て感嘆の溜息が出た。
ドレスは生地自体が光沢のある真っ白で控え室の窓から射し込んできている陽の光と合わさってさらにキラキラと輝いている。
バナ様が考えて選んでくれたのはエンパイアドレスで裾がドレーンになっている。
そんなに長くはなっていないけれど、ドレーンの部分には金の糸でこの国の国花の薔薇の刺繍がいくつもドレーン全体に施されていて、薔薇の刺繍の合間を銀の小さな宝石が埋め尽くしていて、どちらもキラキラと光を反射している。
胸元はオフショルダーとなっていて、金と銀の糸で薔薇、太陽と月の刺繍が胸元から腰の辺りまで施されていて、金と銀の小さい宝石が絶妙な位置に散りばめられていて、本当に贅を尽くしているが、それだけではない神々しささえ感じる美しさだ。
腰のところで少しキュッと引き締まったデザインになっていて、腰から下はストンしているが光沢のある真っ白い生地が柔らかな波のように揺らめいている。
胸元と同じ金と銀の小さな宝石が腰から下に散りばめられているけれど、そんなに誇張したものではなく上品なもので、仮縫いの時にも見て実際に試着もしたけれど、完成したものは思ったよりも厳かで大変美しい。
「…こ、これを私が着ていいのかしら?何だか…」
ドレスをボーッと見つめながら私は呟く。
「第二王子殿下が記念すべき本日のエンヴェリカ様の為にご用意されたドレスでございます。
着ることが許されるのはエンヴェリカ様だけでございますし、またこのドレスがお似合いになるのはエンヴェリカ様だけでごさいますよ」
侍女のネンナの言葉に私は微笑む。
「ネンナは私のことよくわかってくれているわね。
ありがとう」
ネンナは私が目の前で見た素晴らしいドレスに気後れして不安になっていることをわかってくれて、不安を払拭するような言葉をかけてくれた。
本当に嬉しい。
「いえいえ、それではドレスをお召しになる前に水分と軽いお食事をお召し上がり下さいませ。
式が始まりましたら、それ以降披露パーティーまでの間、予定は入れておりますが、いつお食事のお時間となるかわかりませんので」
ネンナが気遣って言ってくれるけれど、あまり食欲が湧かない。
起きてから緊張していたけど、王宮を出て沿道のたくさんの人たちを見て、そして控え室でドレスを見たらもっと緊張してきた。
「わかってはいるのだけど、凄く緊張してきて食欲がないわ」
私は今の状態を正直に話した。
「それももちろん承知しておりますわ。
ですが、食べ物は駄目でも水分はしっかり取って頂かないとなりません。
飲みやすいように果実水とあと果物、小さく切ったサンドイッチをご用意しております。
無理なく召し上がれる分だけでようございます。
さあ、エンヴェリカ様お座り下さいませ」
「そうね、ありがとうわかったわ」
私は微笑んで控え室のソファに座り、果実水を飲みながら果物を摘んだ。
☆★☆
セントバーナルside
リカといったん別れて、控え室に入り式用の意匠に着替えた。
私が考えて選んだリカの為のドレスに合わせたものだ。
デビュタントと時と結婚式の時の当人は白と決まっている。
白のフロックコートとパンツだ。
コートにはリカのドレスと同じ金と銀でお揃いの刺繍と宝石にした。
タイは別にしなくて良いことになっているが、リカがするティアラやペンダント、イアリング、そして指輪と同じ宝石を自分も付けたくてリカのドレスの生地をリカの髪色の薄灰色に染めたものをスカーフタイにしてその上に宝石のブローチを付けた。
この国の王妃と王太子妃は瞳の継承者の主と後継者の伴侶、秘宝の後継者となるので、母上は金の秘宝、義姉上は藍の秘宝のペンダントとイアリング、指輪を公式の場でしている。
それ以外の王子妃や王女は決まった石はないが、今までの伝統から己の瞳の色の宝石を夫なるものが送ることになっている。
ティアラは歴代受け継がれた、王女と王子妃用の藍と金の宝石のものがある。
ドレスの装飾と同じ宝石を選んだ。
この特別な日にダイヤモンドの中でもグランダイヤモンドというものがある。
金色と銀色の宝石の中では希少で一番価値があるものだ。
それをリカのペンダント、イアリング、指輪に選らんだから私も同じ金のグランダイヤモンドをブローチにして付けたのだ。
控え室のソファに座り軽い食事と飲み物を食している。
『リカは緊張しているだろう。
ちゃんと食べれているかな?』
などと、私の頭の中はやはりリカのことでいっぱいだ。
学院でリカと出会って私が自分の思いに気付いてから婚約するまで長かったけど、婚約から結婚までも本当に長く感じた。
いや、実際に婚約してから1年半以上経ってやっと結婚だから長かった。
やっと待ちに待った結婚式だ。
ようやくリカが私の妻になる。
いつもリカは美しくて可愛いけど、今日も絶対美しくて可愛いはずだ。
「セント様ニヤけて気持ち悪いです」
そんなことを思っていたら側近のストレンダーが失礼なことを言ってきた。
でも自分がニヤけていることに気づかなかった。
コホンと咳をしてから。
「ストレンダーお前はいつもながら本当に失礼だな」
私は自分の前のソファに座るストレンダーを睨む。
「まあわかりますけれどね。
やっとですもんね~」
とストレンダーがニヤニヤと笑う。
この男は母上に紹介されて、私が11歳の時から側近となった母上の甥っ子だが、見た目冷たく見える鋭い目つきをしているが、実は飄々として食えない男だ。
優秀で実力があり、側近としては文句のない男だが性格が何故か兄上に似ていて、口調こそ柔らかいが腹黒である。
母上の甥っ子なので、私たちと血の繋がりもあるから似るものなのだろうか。
私には他にも側近が3人いる。
他の者も優秀でよく働いてくれるが、一番付き合いが長く私に言いたいことを言ってくるストレンダーが私の従者と共に側にいても気にならない楽な存在で、結局こうやって従者と同じようにだいたい私の側にいる。
「ふっ、ストレンダーの結婚式の時のことを私はちゃんと覚えているのだかね」
「ブッ!…」
「何をしているんだ、汚いな」
ストレンダーがお茶を吹き出した。
「…ちょっと!セント様、私のことはいいんですよ!
忘れて下さい」
慌てて私の従者がテーブルの上を拭いて、ストレンダーの従者が意匠が大丈夫なのか確認している。
「ありがとう~。
意匠は黒だしそんなに濡れなかったよ、大丈夫だよ~。
自分で洗浄魔法も使うから~」
「それはようございました。
一応は確認させて頂きますね」
「ごめんね~」
と軽い口調で従者に声をかけている。
「これからもずっと覚えておくから安心して。
確かお前は結婚式でオイオイ泣いた男としてお前の家族にも妻の家族、私の家族にも良い思い出として残っているよ」
そうなのだ、このストレンダーという男、鋭い目つきの冷たい顔をしているのに、結婚式の時に感激して妻となる令嬢より先に泣いてしまったのだ。
「やだ~セント様も性格悪い~。
それは忘れて~」
ヒラヒラと片手を顔の前で振りながら軽い口調で言うストレンダー。
本当に食えない奴だ。
「ふぅ~」
私は溜息を吐いてから残りのお茶を飲んだ。
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