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六十話 怒りと焦りと恥辱 ②
しおりを挟む二話で終わらせようと思ったので、 結構長いです。
よろしくお願い致します。
☆★☆
ツェツリーナ・ゴーがバンズ侯爵令嬢side
でもあの6歳のお茶会以降、あらゆるお茶会に参加したけれどセントバーナル様にお会いすることは出来なかった。
この国では成人していないと舞踏会にも夜会にも正式な行事には参加出来ない。
お茶会を自分の邸で開いたり、また招待してもらったりして参加することや、各貴族の邸での同年代の令息、令嬢の誕生日パーティーに参加することくらいしかない。
お父様にお聞きしたら、まだセントバーナル様の側近は候補も決まっていないようだと聞いたわ。
それだと貴族令息との交流はないはずだから、多分セントバーナル様は貴族の誕生日パーティーは出席されないだろう。
お会い出来るとしたら王家主催のお茶会かお父様に王宮に連れて行ってもらうしか方法はないはずよ。
だから王家主催のお茶会にわたくしが参加出来るものは必ず参加したし、王宮にもお父様に無理言って何回か連れて行ってもらったりしたけれど、あまりに駄々をこねると叱られてしまうので、そんなに何回も連れて行ってもらえる訳ではなく、結局6歳のお茶会以降一度もセントバーナル様にお会いすることが出来なかった。
セントバーナル様は王家主催のお茶会にも全然参加されていなかった。
8歳頃になると、セントバーナル様はほとんど公に姿を見せられなくなったという噂が出回るようになった。
なかなかセントバーナル様に会えないまま、悪戯に年月だけが過ぎて行った。
結局貴族学院に入学するまでお会いすることはなかった。
けれど、わたくしはその間に淑女教育や学術など一生懸命に頑張ったわ。
学院には絶対Sクラスに入らなければならないと思っていたもの。
セントバーナル様は王族だし瞳の継承者だもの。
王太子殿下も大変優秀な方だと言われているけれど、セントバーナル様も学術においては王太子殿下より優れているのでは?というもっぱらの噂だ。
絶対優秀であるだろうから必ずSクラスに入られる。
同じクラスでいないと、お話する機会に恵まれないだろうから。
わたくしは遊ぶより一生懸命勉学に励んだわ。
お母様に「そんなに頑張らなくても大丈夫よ」「ツェツィは少し頑張り過ぎよ」と言われても、時間があれば、学術、魔法、淑女教育に勤しんでいた。
セントバーナル様と婚約してから王子妃教育を受けても苦労しないように今から頑張るのよ!と自分に言い聞かせて。
両親にも家庭教師にも優秀だって褒められたわ。
それだけわたくしは誰よりも頑張ってきたのよ。
貴族学院入学の時になってもセントバーナル様はまだ婚約しておられなかったから、決まったお相手はいないということ。
わたくしに大いにチャンスがあると思ったわ。
学院に入学して見たセントバーナル様は白銀の髪を肩過ぎまでのばしておられ、肩のところで緩く結んでいて、少し頬がほっそりとされ大人っぽくなられていて美しさにさらに磨きがかかっていた。
わたくしはまた見惚れてしまったわ。
でもわたくしは6歳の時のあのアホな喋り方の令嬢の言っていたことがずっと頭に残っていた。
目の前にセントバーナル様が現れても媚びて擦り寄ったりしないようにしなければならない。
わたくしはみなより早く4歳の時にセントバーナル様にお会いしているのよ。
セントバーナル様と個人的にお会い出来れば、親しくなってそこから恋がきっと始まる。
セントバーナル様はきっとわたくしを見初めて下さる。
自分にそう言い聞かせて、学院に入学してからもセントバーナル様にはご挨拶はするけれど、他の生徒たちのように自分から擦り寄っていくのではなくて、距離を保つようにしていた。
セントバーナル様に媚びて擦り寄っていく令嬢たちを横目に見ながら、わたくしは近付いてお話したいのを我慢した。
いつでもセントバーナル様の姿を追いかけ、見つめていたけれど。
でも1年生の後半になってくると、セントバーナル様は黒の継承者のタベンサードル辺境伯令息の婚約者、ウォンタートル伯爵令嬢ミーナとミーナと仲良くなったクエスベルト子爵令嬢、あの女と仲良くし始めた。
何だかセントバーナル様の方がエンヴェリカを追いかけているような感じだった。
あんなお下げ髪に大きな眼鏡をかけた地味女のどこがいいんだろう?と思っていたけど、学院に入ってからずっと遠くからだけどセントバーナル様を見てきたわたくしはセントバーナル様の変化に気付いた。
確かにセントバーナル様はエンヴェリカを目で追っている。
でもエンヴェリカはあんな地味な見目だし、子爵令嬢だからセントバーナル様が好きになるなんて有り得ないと思っていた。
エンヴェリカは魔術魔法が優秀らしく、父親同様に魔道具を研究しているようで、セントバーナル様は魔術魔法についてエンヴェリカによく質問をしていたから、たまたまセントバーナル様が興味のあることにエンヴェリカが優秀だと聞いたからなんだと思っていたのよ。
エンヴェリカは確かに魔術魔法はズバ抜けていたようだけれど、他はSクラスでも目立った成績ではなかった。
わたくしの方が魔法魔法以外の成績は上だった。
王子妃になるには魔法魔法だけでなくすべて優秀でなければならないのよ。
あんな子爵令嬢なんて目じゃないわ。
わたくしはそう思っていた。
わたくしは自分からセントバーナル様に話しかけたりはしなかったけど、セントバーナル様がお気に入りの場所を知っていたし、図書館に出入りされているのを見つけては、わたくしは毎回そこに行くと変に思われるからと何回かに一回偶然会うようにした。
偶然であるかのようにそこに訪れてセントバーナル様に会えるようにして、顔を合わせて挨拶するようにした。
そこから昔の話などをしていけばいいと思っていたの。
でもセントバーナル様は挨拶だけすると、すぐ去って行ってしまう
そのわたくしに興味を示さないあまりにも冷たい態度に、わたくしはセントバーナル様を呼び止めることが出来なかった。
そんなことをしたら今まで頑張って我慢してきたのに、たった一度で印象が悪くなってしまうかも?と思ったからだ。
でもなかなかわたくしたちの仲が深まっていかないことに焦りを感じてもいたの。
『あの4歳の時に初めてお会いしたことを覚えていますか?』
と声をかけたかったけど、なかなか言い出せなかった。
そのうちに2年生になり、セントバーナル様がエンヴェリカを追っていて、だんだんと親しくなっていいくのをヤキモキしながら見つめることしかわたくしには出来なかった。
だけど、10の月になってからエンヴェリカが学院に来なくなった。
体調を崩して休学しているというのだ。
体調を崩しているということだったけれど、その同時期にAクラスのウォンドウェル伯爵令息も学院を休学したので、何かあったのではないか?という噂が出たけれどその噂はすぐに消えた。
でもわたくしにとっては好都合だと思った。
だんだんとエンヴェリカが目障りになってきていたからだ。
セントバーナル様がエンヴェリカと親しくなっていたし、あの女だけを気にかけているようだったから、もうこのまま来なくなればいいのにって思っていた。
でもそれは違ったのよ。
3年生になる直前の3の月にエンヴェリカが休学状態のまま、セントバーナル様とエンヴェリカの婚約が発表された。
嘘!嘘よ!どうして?
確かにセントバーナル様はエンヴェリカを気にかけていたようだし、最初の頃よりは仲良くなっている感じはしたけど、そんな婚約するような雰囲気ではなかったはずだわ。
わたくしは頭をガツンッと殴られたようなショックを受けた。
今までセントバーナル様に近寄りたい、お話したい、わたくしだけをその美しい金の瞳で見つめて欲しいのを、ずっと我慢して我慢してきたのに!
あんな地味で子爵令嬢という低い身分の女がセントバーナル様の婚約者になったですって!
今までのわたくしの苦労は?我慢は何だったの!
お父様やお母様にエンヴェリカのことを言っても、「第ニ王子殿下が学院で見初められたそうだね」「我が国の王族は瞳の継承者で、歴代から身分も魔力もあまり気にされないものだからね」「クエスベルト子爵卿は魔道具の天才で、国に貢献されていて何度も表彰されている国王陛下の覚えも目出度い人物だ。
その子爵卿の御息女なら国王陛下もご納得されているだろう」という言葉が返ってきた。
何言っているのよ!
わたくしが恋愛結婚したいからと今まで婚約しなかったのは、セントバーナル様と婚約したかったからなのよ!
それなのにそれなのに!
お父様もお母様も全然わかってくれていなかった!
悔しくて、悲しくて部屋であらゆる物を壊して、扇で侍女も叩いてやった。
それでもお父様とお母様はわたくしがいつもの癇癪を起こしたとそれを宥めるだけ!
わたくしはセントバーナル様の婚約者になりたいって、何度か言ったわよね!?
それも「第ニ王子殿下はツェツィと同じように恋愛結婚をしたいとおっしゃっているんだよ」と真面目に取り合ってくれなかった!
わたくしはセントバーナル様と婚約する為にずっと努力してきたのに!
全然わかってくれていなかった!
それどころか「ツェツィももう大人なのだから、癇癪を起こして物を壊したり侍女に暴力を振るうのはやめなさい」と注意までしてきた!
何なのよ!
侯爵のくせして役立たずが!
わたくしは3年生になってからセントバーナル様とやはり繋がりを持つ必要があると思い、自分から話しかけるようになったけど、すべては遅かった。
セントバーナル様はわたくしのことなどもう眼中になかった。
もっと早くに話しかけていれば良かったの?
あのアホな喋り方の令嬢の言葉なんて信じなければ良かったの?
でもわたくしもたくさんの恋愛小説を読んだのよ。
そしたらだいたいはあのアホな喋り方の令嬢が言った通りだったからわたくしはそのようにしてきたの。
わたくしは間違っていない。
いつかセントバーナル様と運命の恋愛をするのだとずっと思っていた。
なのにそのまま何もないまま卒業になった。
卒業パーティーの時に騒動があった。
ずっとセントバーナル様に擦り寄っていたアンピニア伯爵令嬢とその取り巻きの令嬢たちが騒動を起こした。
すぐに拘束されて、その後にメリル・ジラルーカス女伯爵が起こした事件が公になった。
すべてエンヴェリカが狙われていたことが明らかになった。
メリル・ジラルーカス女伯爵もセントバーナル様に懸想していたんだ。
その女伯爵からセントバーナル様はエンヴェリカを守ったのだと世間では女伯爵の犯罪と共に話題になった。
わたくしは打ちひしがれて無力感に苛まれた。
でもやっぱりセントバーナル様を諦めることは出来なかった。
だって4歳の頃からずっとお慕いしていたのだもの。
一日も忘れたことがなかったのよ!
簡単には諦められないわ。
セントバーナル様とエンヴェリカの結婚はまだ1年先、まだわたくしに望みがあると思った。
わたくしは侯爵令嬢で見目だってエンヴェリカは婚約式時にお下げをやめて、眼鏡の外したけれど、やっぱり色味は地味なのよ。
わたくしはエンヴェリカみたいに地味ではなく、色味も高位貴族そのままだし、学院の成績も淑女としてもマナーも礼儀も完璧だわ。
あのエンヴェリカに王子妃教育なんて無理よ。
たかが子爵令嬢が教育を終えられるはずがないわ。
学院の3年生からといっても結婚まで2年しかないのよ。
無理に決まっている。
きっとセントバーナル様に呆れられて、婚約者の交代があるはず。
その時よ!
その時にわたくしの今までの努力が報われるのだわ。
でも3年生になって復学したエンヴェリカの成績はすべてわたくしより上になった。
どういうこと?今までは本気を出していなかったというの?
そんなの許せない!焦りと不安が襲ってくる!
イライラがずっと止まらない!
侍女に当たり散らすと、またお父様とお母様に呼ばれて注意される。
その時にはお兄様もいた。
お兄様は何も言わなかったけど、突き刺すような冷たい視線でわたくしを見下ろしていた。
昔はお兄様も可愛がってくれて褒めてくれたのに、だんだんとわたくしを冷たい目で見るようになってきて、お兄様が貴族学院に入学する頃には目も合わせてくれなくなった。
それにお兄様は学院を卒業して結婚してから結婚相手である元伯爵令嬢にもわたくしを近寄らせないよう関わらないようにしている。
どうして伯爵令嬢なんかより、わたくしのことを大事にしてくれないのよ!
わたくしの方が優秀なのに!
どうして昔みたいにわたくしを褒めてくれないのよ!
可愛いって言ってくれないのよ!
王宮で行なわれたやり直しの卒業パーティーで、エンヴェリカとミーナが庭に向かって歩いてくるのが見えて、近くにいたわたくしは我慢出来ずに「邪魔なのよ!」って言ってしまったわ。
でも後悔していない。
だって本当に邪魔なのよ!
いくら学院の成績だからって子爵令嬢風情がどうせろくに王子妃教育も進んでないのでしょ!
早く諦めなさいよ。
むしゃくしゃして卒業パーティーの後も部屋で暴れてしまったわ。
そんなの部屋の中でだけよ!
外では品行方正な侯爵令嬢で通っているんだから大丈夫よ!
卒業パーティーの後で参加したウィナデッド小伯爵夫人となった元カラフィート侯爵令嬢の主催のお茶会に招待されて、友人たちと一緒に出席した。
そこで元ウィナデッド小伯爵様と結婚してウィナデッド小伯爵夫人になったジュリアナ様と会った。
ジュリアナ様はエンヴェリカと仲の良いミーナの婚約者の黒の瞳の継承者のジョルジュ様のことをお慕いしていたのは有名な話。
でもジュリアナ様の恋は実らなかった。
結局学院入学前から婚約していたウィナテッド小伯爵様と昨年に結婚した。
ジュリアナ様はミーナのことが大嫌いなよう。
当然ジョルジュ様をお慕いしていたのだからそうなるわよね。
ミーナへの嫌味と愚痴をずっと言っていた。
そのお茶会ではジュリアナ様の友人とわたくしの友人しかいなかっかったから、みなさんジュリアナ様に同意している方ばかり。
その時にわたくしは思わず、エンヴェリカの愚痴を言った。
そうしたらみなさんがわたくしの言うことが、御尤もだと言ってくれた。
ミーナとエンヴェリカの愚痴で盛り上がるお茶会。
その時にジュリアナ様がジョルジュ様とミーナの結婚パーティーの会場に入る方法があると言う。
わたくしはジュリアナ様にわたくしも行きたいとお願いすると。
「わかったわ。
貴方たちの分の招待状も用意しましょう」
とおっしゃられたわ。
パーティ会場から招待状が送られるようで、同じ招待状を用意出来るとジュリアナ様が言うので、わたくしは偽の招待状だとわかっていたけれど、自分が用意したものじゃないから後で何とでも言えると思い、その招待状をもらって当日パーティー会場まで行った。
結果は偽の招待状だと入場することは出来なかった。
わたくしはジュリアナ様に騙されたと訴えたけど、家に抗議文が届いて、お父様とお母様、お兄様に酷く叱られた。
お兄様には「何てことをしてくれたんだ!この恥晒しが!」と言われてしまった。
どうしてわたくしばかり責められるのよ。
偽の招待状はわたくしを騙そうとしたジュリアナ様が悪いのよ。
そう言ったのだけど。
「誰かのせいにするな!自分で善悪の区別もつかないのか!
偽の招待状で会場に入ろうとするなど、犯罪なのだぞ」
とお兄様は激怒して、わたくしを責めるばかり。
どうしてよ!
わたくしのせいじゃないわ!
すべてはわたくしからセントバーナル様を奪ったエンヴェリカが悪いのよ!
わたくしは許せなかった。
何もかも上手くいかない。
全部エンヴェリカのせいよ!
今までのわたくしの苦労と努力は何だったのよ!
わたくしは腹立ち紛れに参加したお茶会や夜会などで、わたくしの友人として一緒にいる令嬢たちと、『エンヴェリカが彼女の父のクエスベルト子爵が作った魔道具を使ってセントバーナル様を誑かして、婚約した』と噂を流した。
その噂はメリル・ジラルーカスの事件で、魔道具を悪用したというのが有名になったから、面白可笑しく受け取られて、どんどんと広まっていった。
何だかスッキリしたわ。
わたくしたちが少し口にしただけで、尾ひれ背びれがついてどんどんと噂が広まっていったから。
ふふっ、やはりわたくしは侯爵令嬢、社交界で発言力があるという証拠ね。
それにエンヴェリカは高位貴族の間でセントバーナル様の婚約者として認められていない証拠ではないかしら。
それからしばらくして現在貴族学院の3年生と今年卒業した伯爵位以上の高位貴族令嬢が招待される王妃殿下主催のお茶会が開かれることになった。
エンヴェリカもセントバーナル様の婚約者として参加するみたいだけど、ここは王妃殿下にわたくしの優秀さをアピールするチャンスですわ!
わたくしとエンヴェリカとの差を見せつけて、王妃殿下にエンヴェリカはセントバーナル様の婚約者に相応しくないときっとわかって頂けるはずだわ。
そう思って意気込んで参加しましたのに、結果はエンヴェリカのせいで辱めを受ける結果になってしまいましたわ。
王妃殿下にも冷たい視線を向けられてしまい、あの噂はセントバーナル様をも貶めるものだと言われてしまいましたの。
わたくし決してそんなつもりはなかったわ。
愛するセントバーナル様を貶めようとなど、しておりません。
王妃殿下にそれをわかって頂きたいと思ったけれど、上手くお伝えすることが出来なかった。
そんなはずではなかったのに。
それよりもエンヴェリカ!
許せないわ!
よくもわたくしに恥をかかせてくれましたわね!
お茶会の翌日の夜にまたお父様に呼び出された。
応接室にお父様、お母様、お兄様がいる。
わたくしが入ると。
「お前は何てことをしてくれたんだ!」
と今まで何をしても優しく、叱る時も声を張り上げたりしなかったお父様が、大声を張り上げて顔を真っ赤にしてわたくしに怒鳴ってきた。
「えっ?」
わたくしは驚いて目を見開く。
「昨日の王妃殿下主催のお茶会のことがもう噂になっておる!」
お父様が顔を赤くしたまま、わたくしを睨み付けてくる。
お母様はハンカチで目元を押さえて涙を流している。
お兄様は顔色は変わっていないけど、冷たい視線でわたくしを見つめてくる。
何よ?お茶会のことが噂になっている?
「王妃殿下とお話させて頂いたお前は、エンヴェリカ妃殿下の噂を流したのは自分と白状したも同じだったそうだな」
「そ、そんなことはありません。わたくしではありませんわ!
それにエンヴェリカはまだ妃殿下ではないでしょう?」
「「「はあ?」」」
お父様たちの声が重なる。
お父様とお母様が頭を抱える。
どうしてなの?
「お前の否定するところはそこか…。
エンヴェリカ妃殿下はまだ第ニ王子殿下の婚約者であるが、王宮ではもう妃殿下と周知されておる」
「あの女は王子妃教育もまともに進んでいないたかが子爵令嬢ですわ」
わたくしは事実を言ったつもりなのに、お父様が「ハァ」と溜息をつく。
「エンヴェリカ妃殿下の王子妃教育は順調だと聞いているが?」
「そんなそんなはずありませんわ!
たかが子爵令嬢には無理な話ですわ」
お兄様の言葉にわたくしは反論する。
「何故お前がそんなことがわかるのだ。
父上と私は毎日のように王宮に出仕していて、エンヴェリカ妃殿下の王子妃教育の進み具合を耳にしている。
大変優秀で王妃殿下も認めておられるそうだ。
それに母上はエンヴェリカ妃殿下の家庭教師の侯爵夫人と顔見知りだ。
母上もエンヴェリカ妃殿下の王子妃教育について耳にしている。
あの厳しいことで有名な侯爵夫人
も認めておられるようなのだぞ」
お兄様の冷めた視線と声に怒りで身体が震えてくる。
何度も何度もエンヴェリカ妃殿下なんて言わないでよ!
「…から!だから!まだ妃殿下じゃないと言ってますでしょ!」
「ツェツィいい加減にしなさい!」
お母様の厳しい一言にわたくしはビクッとなる。
「どうしてどうしてよ…。
わたくしはこんなに頑張って努力してきましたのよ!
なのに何であんな子爵令嬢ごときがセントバーナル様の婚約者ですの…」
お父様とお兄様が顔を見合わせて首を横に振っている。
「私はお前の教育を間違えたようだな。
勉強だけでなくもっと躾も厳しくするべきだった…」
お父様の落胆したような声が聞こえる。
「そんなことはありませんわ。
わたくしは品行方正で優秀な侯爵令嬢と言われております」
「外面はな、お前は邸では侍女に高慢で横暴で、気に入らないと暴力をふるい、今まで何人辞めさせてきたんだ。
私もお母様もその都度使用人も大切にしなければならないと注意してきただろう?」
お父様が呆れたような冷え冷えとした視線でわたくしを見てくる。
「どうしてお父様はわたくしをそんな目で見てきますの?
自慢の可愛い娘だと言ってくれていたではありませんか。
侍女などたかが使用人、どう扱おうと良いではないですか」
「ハァ~もういくら言っても駄目だな。
アントニオ、私はお前に爵位を譲り、王宮の出仕も辞めて領地でウナとツェツィと暮らすことにするよ」
「父上承知しました」
「アントニオとサーシャには苦労をかけるが、よろしく頼むよ。
領地の方は私が何とかするから」
「はい」
「ちょっとどういうことですの?わたくしのこと勝手に決めないで下さいませ!」
「ツェツィもうおやめなさい!
貴方を修道院に入れないだけ、まだお父様はお優しいのよ」
お母様に言われて、わたくしはその場に膝を折り座り込む。
「どうしてどうしてよぉ。
そんなのおかしいわ!
わたくしは誰よりも努力して頑張ってきたのよ!
幼い頃からセントバーナル様の婚約者になる為に一生懸命努力してきたの!」
わぁ~と泣き叫んだけど、誰も言葉さえももかけてはくれなかった。
わたくしは10日自室に軟禁されて、その後お父様とお母様に領地に連れて行かれてしまった。
領地でも元騎士だという侍女を雇い、その侍女とお父様、お母様に監視されながらの生活となった。
でもでもわたくしはまだ諦めないわ!
諦められないわ!
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