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五十六話 王妃殿下のお茶会と駆け引き ①
しおりを挟む王妃殿下とのお茶会の後、休憩で教育が行なわれている部屋の隣の魔道具研究室に一人でいる時に、コンコンと扉をノックする音が聞こえて、「どうぞ」と言うとセントバーナル様が入ってきた。
「セントバーナル様?」
私が研究用の椅子から立ち上がるのと近付いてきたセントバーナル様に抱きしめられるのがほぼ同時だった。
「えっ?」
「エンヴェリカすまない!
嫌な思いをさせているね、近いうちに何とかするから」
私を抱きしめながらそう呟くように言うセントバーナル様の言葉で、セントバーナル様も噂のことを知っていたんだとわかった。
「セントバーナル様私のせいで変な噂が出回ってしまってごめんなさい」
「何でエンヴェリカが謝るの?
何も悪くないじゃないか」
セントバーナル様が抱擁の腕を解いて私の両頬を手で包んでくる。
その手がとても優しい。
セントバーナル様の顔も近い。
私の顔が熱を持つ。
「でもセントバーナル様に対してとても失礼な噂です!」
私がセントバーナル様の瞳を見つめながら言うと。
「私のことはいいんだよ。
噂なんて昔から付きものだからね。
でも今回はお義父上と魔道具のことを悪く言われているからエンヴェリカは気分が悪いだろう?
すまないね、もっと早く対処しとくべきだったよ」
セントバーナル様がそう言って目を伏せる。
「本当にセントバーナル様が謝ることではないです。
確かに今回の噂のことについては怒りを感じています。
でもいろいろと噂をされることは私も貴族ですから覚悟出来ていますよ。
それに様子を見て下さっている段階だったのですよね?」
私はセントバーナル様問いかける。
「まあ、噂を消すように働きかけてはいたのだけれど、まだ確かな証拠がないから直接抗議はしていなかったんだよ」
「そうなのですか。
私は大丈夫ですよ、あの今日の王妃殿下とのお茶会で2ヶ月後に王妃殿下主催のお茶会を開くことになったんです。
私のテストだと王妃殿下はおっしゃったのですけど、その時に噂を流した方が呼ばれると思うのです」
「テスト?」
セントバーナル様が首を傾げる。
「はい、私顔にすぐ出てしまうでしょう?
今度その方たちがいる場で私がちゃんとした対応が出来るかのテストなのです。
その時に噂を流した方がわかります。
私ちゃんと毅然とした態度で対応してみせますから!」
私はセントバーナル様に頰を持たれながら笑顔を見せた。
「貴族令嬢たちのお茶会なら私は出席出来ないね。
エンヴェリカが心配だよ」
セントバーナル様が私に顔を近付けて、心配そうに覗き見てくる。
鼻と鼻がくっつきそう。
近い!近い!
「王妃殿下もいて下さるから大丈夫ですよ。
それに私本当に怒っているんです!
ちゃんと確かめないと気が済みません!」
私が言うと、セントバーナル様が目を瞬かせた。
「ふっ、エンヴェリカ強くなったね。
そんなエンヴェリカも頼もしくて大好きだよ」
うっ!また大好きだよと言われた。
恥ずかしいけど。
「私もセントバーナル様が大好きです」
チュッ、セントバーナル様が唇にキスを落としてきた。
私はまた真っ赤になってしまっているだろう。
ドキドキしている。
でもセントバーナル様の顔もほんのりと赤くなっている。
私と一緒なんだ。
「わかったよ。
でも後でどうだったか、ちゃんと教えてね」
「はいわかりました」
私が返事するとセントバーナル様がキュッと私を抱きしめてくれた。
まるで宝物のように優しく包んでくれているようで、私も嬉しくてセントバーナル様の背中に手を回してキュッと抱きつく力を強めた。
王妃殿下主催のお茶会の日がやってきた。
本日の招待は伯爵以上の爵位の貴族学院3年生と卒業した私と同学年だった令嬢たちが招かれる交流会と銘打ったものだ。
王妃殿下と私を含めて36名になるらしい。
伯爵位以上なので、ミーナも出席することになっている。
ミーナは今ダベンサードル領にいて、邸のことや領地のことで忙しくしているみたいだけど、お茶会の為に来るようだ。
王妃殿下とミーナがいてくれることで、凄く心強い。
私はお茶会の日までにセントバーナル様、王妃殿下からも誰があの噂を流しているか聞かずに自分で調べた。
今まで私は噂などに疎かったし、さして気にしていなかった。
でもこれからはそれではいけないと思って、自分でも調べるようになろうと思ったのだ。
セントバーナル様が私の為に配置してくれた侍女や護衛、影はとても優秀で、噂のことをすぐに突き止めてくれた。
予想はしていたけど、噂を流しているのは卒業パーティーで私のことを邪魔だと言ったゴーガバンズ侯爵令嬢と彼女の取り巻きの令嬢たちのようだ。
そしてジョルジュ様とミーナのパーティーに偽の招待状で会場に入ろうと者たちの中に彼女たちもいたという情報を掴んだ。
結婚式の招待状は普段は各家で用意するものだが、新しく出来たパーティー会場では招待者リストを作って渡すと、会場側で手配して招待状を用意して各家に届けてくれるという新しいサービスがついたものになっていた。
ジョルジュ様もミーナもその新しいサービスを利用したようだった。
だけど、その情報を掴んで会場側が用意した招待状を会場で働く人間の一人に金銭を渡し、招待状を見せてもらった者がいた。
そして偽の招待状を作らせたのはジョルジュ様の同級生だった令嬢だった。
あの私とミーナが仲良くなるきっかけとなったSクラスの教室から別教室に移動している時に、渡り廊下から出れる庭でミーナを囲んでいた令嬢たちのリーダー各の令嬢、ジュリアナ・カラフィート侯爵令嬢、今はウィナテッド伯爵家の嫡男ジルワルド小伯爵様と結婚してウィナテッド小伯爵夫人となっている。
もう結婚しているのに何故?と思ったが、ジュリアナ様はジョルジュ様に昔から懸想していて、自分が黒の瞳の継承者様のダベンサードル辺境伯夫人になりたかったようで、侯爵令嬢だった自分が次期伯爵夫人となることに不満を持っているという噂が流れていた。
あれこれと噂を探ることは好きではないけど、真意は別にしてどんな噂が出回っているのか知ることも大事なんだなとこの時に思った。
ゴーガバンズ侯爵令嬢はジュリアナ様とお茶会で会った際に、ジョルジュ様とミーナの結婚式に入り込もうとしている情報を掴んだようで、自分も偽の招待状を手に入れたようだった。
偽の招待状の件は偽造などの犯罪であるし、正規の招待状を持たず会場に入ろうとした者は、不法侵入というこちらも犯罪となる。
それらを調べてジョルジュ様とミーナはダベンサードル辺境伯とウォンタートル伯爵の連名で、偽の招待状と偽造と入り込もうとし令息と令嬢たちに抗議文を送ったことで今回は済ませたようだ。
この事実に会場側は瞳の継承者様のジョルジュ様のパーティー、おまけに王族も出席したパーティーでこのようなことが起こり、処分を受けて会場が閉鎖となるだろうと顔を真っ青にしたらしいが、今回は金銭をもらい招待状を他人に見せた者だけが捕らえられて処分されるだけで、今後このようなことを起こさないことを条件に今回は会場側は処罰を受けないことになった。
ジョルジュ様とミーナ側は会場側に配慮して、偽の招待状を作成したジュリアナ様と偽の招待状で会場に入ろうとした者たちに抗議文を送ることだけにしたようだ。
しかしこのことが知られると、何よりも信用が大事な貴族相手のパーティー会場としては今後の経営は難しくなってくるだろう。
だが、このパーティー会場の経営者はある伯爵家で、ジョルジュ様とミーナ側が恩を売る形であまり公にならないように、噂にならないようにと配慮したとか。
それも貴族の駆け引きなのだと私は思った。
なので、このことはあまり噂に上らなかった。
パーティー会場を経営する伯爵家は今後、ジョルジュ様とミーナに頭が上がらなくなるのは確実だろう。
しかしジュリアナ様は家に抗議文が届いたことで、その件をウィナテッド伯爵夫妻とご主人のジルワルド様に知られたことで、お叱りを受けてかなり肩身の狭い思いをしているそうだ。
元々ジルワルド様とジュリアナ様はジュリアナ様のプライドが高く我儘で、不仲を噂されているので今後どうなるのだろうかというところだ。
今回のお茶会は私の年上であるジュリアナ様は招待されていないからこれから、今後しばらく彼女に会うことはないかもしれない。
今日は冬だけど、王宮の本宮内にある中庭でお茶会が開かれることになった。
庭にテントを張ってテントの柱に魔道具を取り付けて、テント内を暖かくして会場が用意されているそうだ。
テーブルは円卓が用意され、6人がひとつのテーブルに座れるようになっていて、6つのテーブルが用意されていた。
王妃殿下と私が肩に毛皮のストールを巻いて最後に到着すると、立って出迎えていた令嬢たちが一斉にカーテシーをして頭を下げた。
私も王妃殿下の後ろでカーテシーをする。
「どうぞ面を上げて。
本日はよくぞ来てくれたわ。
貴族学院在学中のみなと今年に卒業したみなと交流を持てればとこの会を開くことしたのよ。
よろしくね、それでは席に付きましょう」
王妃殿下はお言葉の後、侍女が王妃殿下と私のストールを受け取って、王妃殿下の席を引いて待っているところに王妃殿下がお座りになってから皆が座っていく。
王妃殿下の左側の隣が私、反対側の右側の隣がミーナだった。
私は座る直前ミーナと視線を合わせて、合図するようにしてから座った。
同じテーブルにはミーナの他に西の辺境伯、今貴族学院の3年生であるクロスベリー辺境伯令嬢が王妃殿下と反対の私の隣に座った。
同じテーブルにはゴーガバンズ侯爵令嬢もいる。
爵位順のテーブルとなっているが、他にも侯爵令嬢が何人かいるけれど、ゴーガバンズ侯爵令嬢と同じテーブルになるように王妃殿下か手配したのだろう。
この国では伯爵位が一番多く、伯爵>子爵>侯爵>男爵>騎士爵>辺境伯=公爵となっている。
北東はダベンサードル辺境伯、西はクロスベリー辺境伯であるが南のブレンダーザス公爵領の隣、南の国境沿いは子爵領なので、二辺境伯となっている。
実質南の国境を守っているのはブレンダーザス領の騎士と魔術師が国境沿いに派遣されている。
ダベンサードル辺境伯は瞳の継承者様で元々公爵位なので、侯爵より上、西の辺境伯は侯爵と同等とされている。
だから私の隣がクロスベリー辺境伯令嬢となったようだ。
同じテーブルにはゴーガバンズ侯爵令嬢とあと一人貴族学院3年生のサートンフェリー侯爵令嬢だ。
卒業パーティーの時にゴーガバンズ侯爵令嬢と共にいた令嬢が2人いたが、伯爵位なので違うテーブルにいた。
あと1人は子爵位なので今日は来ていない。
みなにお茶が用意されたところで王妃殿下が声をかける。
「わたくしがみなとお話する機会は後で設けることにするから、しばらくは同じテーブルの方と交流していきましょう。
テーブルの上のお茶菓子など遠慮なく食べてちょうだい」
テーブルの上には色とりどりのケーキや焼き菓子などが並べられている。
いつもならこういう場にいると緊張で震えそうになるのだけど、私は今日は落ち着いていた。
お父様のことと魔道具のことそれにセントバーナル様も関わっていることだから、そのことで怒りがあったので、怒りが私を冷静にさせているのかもしれない。
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