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五十一話 やり直しの卒業パーティーと心配事
しおりを挟むお茶会の時にセントバーナル様に初めて唇にキスをされてから、セントバーナル様は以前より積極的にもっと甘くなってゼロな距離で私に密着してきて、頭や頬、おでこにしょちゅうキスをしてくるようになった。
セントバーナル様がこんなに積極的な人なんて思わなかったわ。
私は侍女や護衛など周りが気になるし、人に見られていると思うと余計に恥ずかしくて仕方ない。
「ちょっ、ちょっと周りに人がいますから!」
と上半身を仰け反らせて逃れようとすると。
「ふっ、エンヴェリカは誰もいない二人きりならいいの?」
セントバーナルは悪戯っ子のように余裕の表情で笑みをもらす。
「い、いえ!そ、そんな二人きりなんてまだ結婚もしていないのに駄目です!」
私は顔を真っ赤にさせながら声を張り上げると。
「それなら今は誰かいても仕方ないよね。
気にしない気にしない」
いや、気にしないと言われてもー。
「そんなの無理です!」
私がそんなことを言ってもセントバーナル様はハハッと笑うだけで、全然気にしない。
私も決して嫌な訳ではない。
ただ恥ずかしくて心臓が保たない気がするだけだ。
セントバーナル様はそんな私をわかっていて、面白がっているところもある。
結構意地悪なんだよね!
これも最近わかったことだ。
それが悔しくてセントバーナル様を睨む。
「そんな顔してもただ可愛いだけたから」
と言ってセントバーナルは私より少し温かい手で私の頰を撫でてくる。
もぉ!本当にドキドキし過ぎて心臓が止まったらどうしてくれるの!
こんな感じで私が恥ずかしくて、セントバーナル様の唇を避けてまた追いかけられて、チュッとキスを落とされたりされているのを、周りから生温かい目で見られているような気がする、たぶん!
王宮の侍女も護衛も表情には出さないプロなんだれども、私はやはり周りが気になる。
セントバーナル様を始め王族や貴族の方たちは常に周りに人がいるのが当たり前なんだろうけど、私も一応貴族だけれどこういう人前でイチャつくなんて経験がないものだから、恥ずかしさに勝てずセントバーナル様のキス攻撃を顔を逸して躱そうと何とか避けようとしてしまう。
それをセントバーナル様が嬉しそうに追いかけてくるのが、今の日常になった。
そしていよいよやり直しの卒業パーティーの日がやってきた。
私のドレス等、セントバーナル様にまた用意してもらい、セントバーナル様と何故か王妃殿下の強い要望で前日から王宮に泊まらせてもらい、翌日朝早くから準備に入った。
王妃殿下はきっと女性は用意が大変だから、私のことを慮ってのことだと思う。
湯浴み、全身マッサージと髪や爪の手入れ、それからドレスを着せてもらい髪を結って化粧をしてもらう。
自分の王都の邸でも毎日全身の手入れをしてもらってるから以前よりも髪も肌も艶が出てきたと思う。
でも毎日手入れをしてくれる侍女も凄いと思うけど、王族貴族の女性は大変だなと思う。
私は自分が王子妃になるのだともう覚悟しているけれど、まだ慣れなかったりする。
今まで自分の身体の手入れより魔道具研究をすることに全力を注いできたから、自分がそうなるなんて想像していなかった。
今も時間があれば魔道具の研究をしているけれど、セントバーナル様の婚約者としてこれから王子妃になるのだから、周りから見られて恥ずかしくないように自分を磨くことも大事であるとわかっているので私も気にするようになった。
それに私も女性だからやはり綺麗にしてもらったら、嬉しいし心が弾む。
でもだからと言って急に自分が変わることはないのよね。
ほとんどを侍女たちにお任せしている。
夜会などに出席すると貴族の夫人や令嬢の中には私より美しい人がたくさんいる。
特に私の周りは圧倒的に美しい方々がいる。
王妃殿下とナターシャ様、第一王女のアマリア様は王族として文句の付けようのない大輪の薔薇のような美貌を持っていらっしゃる。
ヴァネッサお姉様も煌めく漆黒の長い髪と少し猫目の大きな綺麗に輝く黒い瞳でキリッとした顔に、手足が長くスラッとしていて、すべてのバランスが良い百合の花のような凛とした美しさ。
ミーナはナターシャ様と似た淡いブロンドの髪がフワフワとしていて、溢れそうな大きな緑色の瞳で小柄で華奢な体型も相まって可憐で愛らしい咲き誇るヒヤシンスの花のような美しさだ。
周りはこれだけの美貌の女性ばかりか国王陛下やアルスタイン様にクリスフォード様、ジョルジュ様にそしてセントバーナル様たち男性方もみな華やかなもの凄い美形の方ばかり。
その中でセントバーナル様のような輝く美しいプラチナブロンドではなく、私の髪色はくすんだ薄灰色だし、瞳は高位貴族に多い青色ではあるけれど、王妃殿下やナターシャ様のように透き通る宝石のような青色ではなく濃い青色。
藍色の瞳のクライファート様の星が瞬く綺麗な冬の夜空のような深い神秘的な色合いでもなく、特徴も宝石のように透き通っても輝いてもいない瞳だ。
どう見ても地味な色で周りを見ていると自分の容姿に自信が持てない。
今までは自分の容姿をそんなに気にしていなかった分、最近は気にしてしまうようになった。
セントバーナル様は「エンヴェリカはとても美しいよ」と手放しで褒めてくれるけれど、どう見ても美しいのはセントバーナル様の方だもの。
今日の卒業パーティーもセントバーナル様の髪のプラチナブロンドの色の生地に金糸の刺繍と金と銀の宝石が散りばめられているドレスだ。
王妃殿下とナターシャ様が「エンヴェリカはスリムだからやはり体型に沿ったドレスが似合うと思うわ」と言って下さってマーメイドラインのものになったけど、ヴァネッサお姉様ほど手足が長くスラッとしていないと思うし、王妃殿下やナターシャ様のようにメリハリのある体型でもない。
なんて、特に最近こんなことを考えて後ろ向きな思考に陥ってしまっている。
「……リカ?エンヴェリカ?」
「あ、はい!セントバーナル様ごめんなさい」
いけない、いけない!
セントバーナル様に部屋に迎えに来てもらって、パーティーの会場となる広間に向かい腕を組んで一緒に歩いている時だった。
一人で違うところへ思考が飛んでいた。
セントバーナル様は今宵は濃い青色のフロックコートとパンツの私の瞳の色の意匠だ。
青系を身に纏うセントバーナル様を初めて見たけど、手足が長く細身ながら実は筋肉がしっかりついている身体に凄く合っていて、濃い色味なのにとても華やかで素敵だ。
「どうしたんだい?何が思い詰めたような深刻な顔をしているけど?
何か心配事でもあるんじゃないのかい?」
セントバーナル様が立ち止まって私に向き合い、私の両手を包むように柔らかく手で握って、心配そうに顔を覗き込んできた。
「…いえ、セントバーナル様申し訳ございません。
心配事などありませんよ。
少し違うことを考えていただけです」
「そうかい?」
セントバーナル様が私の顔をさらに覗き込んでくる。
うっ!近い近い!
また心臓の音がドコドコと煩くなってきた。
「エンヴェリカは嘘をつけないよね?
何か心配事があるって顔に書いてあるよ。
後でちゃんと話してもらうからね」
セントバーナル様に鼻と鼻をくっつけて言われてしまった。
「…っ!」
本当にセントバーナル様は人をよく見ているなと思う。
私はセントバーナル様の前だとすぐに顔に出るらしい。
それは王子妃としては駄目だから公の場などでは、気をつけないと!
「大丈夫かな?もうすぐパーティーが始まるからエンヴェリカ行こう」
セントバーナル様はそう言って、前を向き私の方に腕を差し出してきた。
「はい!大丈夫です!」
私はセントバーナル様と腕を組んで会場に向かって、再び歩き出した。
今回のパーティーは卒業生パーティーなので、王宮の会場で行なわれるけど、学院で行なわれるものと同じ形式で壇上に出る扉からの入場は国王陛下夫妻だけで、セントバーナル様と私は他の貴族の方たちとは違う扉から入場したけど、そのまま直接広間に入って中央へと歩き出した。
貴族がセントバーナル様の入場にみな一斉に頭を下げる。
「面を上げてください。
あらためてみな卒業おめでとう」
セントバーナル様が笑みを浮かべてみなに向かって祝辞を述べた。
それから私たちはジョルジュ様とミーナの元へ歩いて行く。
「エンヴェリカ!」
ミーナが私を見つけて弾けんばかりの笑顔を見せる。
ミーナとは卒業以降、公式の場以外ではしばらく会えていない。
ミーナも王太子殿下の誕生日パーティーに出席したり、自分の結婚式の準備で大忙しみたいだからだ。
「ミーナ!」
私はミーナの笑顔を見て嬉しくてミーナの方へ歩み寄る。
ミーナは前回の卒業パーティーでは黒の光沢のあるドレスだったけど、今日はミーナの瞳の色の美しいエメラルドのような光沢のある緑に腰から下に金の小さい宝石が散りばめられた黒のオーガンジーが緑のドレスの上にふんわりと重なったもの。
黒でも薄く光沢があって、金の宝石が輝いていて緑と合っていて、とても上品だ。
腰から下がふんわりとしたドレスになっていて、可愛らしいミーナによく似合っている。
「ミーナ本当に可愛らしくて美しいわ。
とても似合っている!」
「エンヴェリカありがとう!
エンヴェリカもいつ見てもスタイル抜群ね!
さすがはセントバーナル様!
エンヴェリカにとても似合ってて素敵だわ」
ミーナが褒めてくれる。
「そうかな?私は大してスタイル良くないと思うけど…」
「えええ?何言っているのよ!
エンヴェリカがスタイル良くなきゃ誰がスタイル良いのよ!」
「ええ、そんなこと…」
私は眉を寄せて困り顔になっているだろう。
「エンヴェリカもしかしてまた余計な思考に陥っているんじゃない?」
うっ!ミーナはとても鋭い。
学院入学からの付き合いだけど、ミーナは私のことをよくわかっている。
セントバーナル様は今、ジョルジュ様とお話しているから、私はミーナと二人で話しているところ。
「そんなことはないつもりないのだけど…」
私は声が小さくなる。
「まあ、しばらく会えない間に何か心配事が出来たのかしら?」
ミーナに真剣に見つめられてミーナに嘘は付けないなと思い、ミーナに打ち明けようと思う。
「うん…ミーナ後で話聞いてくれる?」
私が伺うように見ると。
「もちろんよ!」
ミーナの笑顔を見てると少し気持ちが楽になった。
ミーナと少し話してからお父様たち家族のところに私はセントバーナル様と向かった。
ミーナもジョルジュ様と家族のところへ向かったようだ。
しばらくして国王陛下夫妻が壇上に入場された。
みなが陛下夫妻に向かって頭を下げる。
「みなの者面を上げよ。
この度は卒業おめでとう。
卒業生の者たちにはこれからこの国を支える光にならんことを我は望む!」
陛下の祝辞にみながあらためて頭を下げる。
その後、シャンパンでお祝いの乾杯をして、しばくの歓談の時間の後陛下夫妻は退場された。
これからは卒業生とその家族たちで卒業を祝う時間だ。
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