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四十五話 メリル・ジラルーカス ③

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メリルは何とかセントバーナルと接点を持とうとするが、叔父カンチェスや叔母のシーナに王宮に連れて行ってもらってもセントバーナルに会うことが出来なかった。

この頃にはセントバーナルがほとんど公の場に姿を現さなくなった時期と重なっていた。

またセントバーナルはメリルが突然自分の前に現れてから、自分が王宮の中のあまり人が寄り付かない庭にいるにも関わらず、どうやってか自分を見つけて近付いてくるメリルを警戒するようになっていたからでもある。

メリルはセントバーナルについての情報を集めていくが、噂で国王陛下はセントバーナルの婚約についてはセントバーナルが望んだ相手とさせると聞いている。

しかし公に姿を現さないセントバーナルと知り合える令嬢はいない。
メリルもそうだった。

メリルはセントバーナルの情報を集めるだけで1年が過ぎて行き、16歳になり貴族学院に入学した。

ピンクブロンドの緩やかな腰まである長い髪にアクアマリンのような薄い青色の瞳の可憐なメリルは男子生徒の間で人気になる。

婚約者のいない貴族令息たちがメリルと親しくなろうと近寄ってくる。

メリルはセントバーナルしかいないと思っていたが、近寄ってくる令息とは距離を保ちながらも交流をしていった。

近寄ってくる令息の中でもトーチバス伯爵家の第二男ミホーク・トーチバスとカナンバル子爵家第二男アーセナル・カナンバルは積極的で、メリルは元々内気で大人しい性格なので、無下に避けることが出来なく学院では彼らと一緒にいることが増えた。

そんな中、ある日アーセナルと二人っきりになることがあった。

護衛や従者と侍女は少し離れたところにいて、二人の会話が聞こえないところにいた。

そこでアーセナルが突然メリルがスキル『受容』を持っていることと、水属性、火属性、闇属性を持っていることを知っていると打ち明けてきた。

メリルは何で?どうして?と焦る。

スキルに関しては国の機関や神殿、家族以外には口外厳禁なのに。

おまけにメリルは元々水属性をジライヤは火属性を持って生まれたが、闇属性はメリルが元々持っていた属性魔法ではない。

アーセナルは自分がスキル『入れ換え』を持っているとメリルに告白する。

「えっ?」

メリルは驚いて目を見開きアーセナルを見つめる。

「メリルなら同じスキル持ちだからいいかなと思って」

とアーセナルは言う。

でも本当はいくら親しくなったとはいえ、婚約者でもないのだから言うことは許されていないはず。

呆気に取られたメリルが言葉を発せずにいると。

「学院に入る前の馬車止めのところでメリルに僕のスキルを使ったらメリルの属性がわかったんだ。

ごめんね、勝手に調べて。

メリルは貴重なスキルと闇属性を持っていて凄いね。

でもスキルはわかるけど、どうして闇属性を持っていることを隠しているの?

稀でほとんど持っている人がいないからかな?」

と無邪気に他意なく笑うアーセナル。

しかしそのことでメリルはアーセナルを危険視するようになる。

アーセナルがメリルが闇属性を持っていることを口外すれば、元々メリルが持っていなかった属性であることが世間にバレてしまう。

そしてそれは妹のセシルから奪ってしまったことだと、メリルがセシルを死なせてしまったことがバレてしまったら自分はおしまいだ。

メリルはこのままでは大変な事になるとアーセナルをどうにかしないといけないと思う。

メリルは学院が休みになる前にデビュタントに参加したが、その場にもセントバーナルは出席していなかった。

この時にはセントバーナルに会えると思っていたのに!

セントバーナルはまだ8歳という年齢であることから出席を辞退したらしい。

セントバーナルになかなか会えないし、自分のスキルと闇属性を持っていることを知っているアーセナルがいることに焦りを感じて、デビュタント後の休みに入ってすぐメリルはアーセナルを王都の邸に招待する。

そしてアーセナルを魅了で洗脳して、アーセナルのスキル『入れ換え』を奪って、アーセナルをどこかへ逃げないと殺されてしまうと暗示をかけて、家族や自分のことあらゆる記憶を失すように洗脳して、行方不明にさせる。

アーセナルは一人魂が抜けたように王都の街をフラついているところを破落戸に身ぐるみを剥がされ、殺されて森に捨てられたのだった。

後にアーセナルは行方不明として捜索された。

最後にジラルーカス伯爵家の邸を訪れていたことはわかったが、それ以降のなかなか手がかりが掴めず、後に破落戸に襲われて森に捨てられたのが発見されるが、それなりに時間がかかり、アーセナルの遺体が発見されたのは事件の2ヶ月後だった。

ジラルーカス伯爵家ではメリルが使用人たちを魅了で洗脳していた為に、事情を聞かれたが怪しまれることはなかった。

メリルはアーセナルに対して自分を危険に貶めようとする人物と判断して、彼がどうなったか気にすることなくまた罪悪感もなくなっていた。

メリルの中で両親のこと、アーセナルのことで、何かが変わった瞬間だった。

メリルはアーセナルのスキル『入れ換え』を奪って、このスキルを使うと自分が持っている闇属性を一時他の人間に移せることを知る。

メリルは闇属性を自分専属侍女の一人ローナに一時移して、自分はローナの水属性を持って学院に通うようになる。

そして学院に同行させる侍女は違う人間にした。

そして学院ではもう一人自分に近寄ってきていた伯爵令息ミホークと仲を深めていく。

ミホークはメリルの両親が亡くなり、メリルが叔父家族と生活していることを心配して、大丈夫なのか?としきりに聞いてくる。

メリルが大丈夫だと言っても本当のことを言っていないのではないか?

本当は叔父家族に虐げられているのではないか?と心配してくる。

ミホークは思い込みが激しい一面があった。

そしてミホークが言った一言でメリルの人生は変わっていく。

「もしメリルが叔父家族に虐待なんかされていたら、その証拠を掴んで、メリルが告白すれば国がちゃんと動いてくれるから。

そしてメリルはもう成人しているから国がメリルが学院を卒業するまで後継人になってくれて、メリルが学院を卒業したらそのまま当主してくれるはずだよ。

もしそんな辛い状況だったら私はどんなことをしてでも強力するから言ってね」

ミホークのこの言葉にもし自分が叔父家族から虐待されていることにすれば、国が動いてくれる?国が後継人になってくれる?

国ということは王家だよね?
それならセントバーナル様に近付くきっかけになるのでは?

それにわたくしが叔父たちに虐待されていると知れると周りから同情されるのではないか?

もしかしたら良いきっかけになるかもしれない。

どうしてもどんなことをしてでもセントバーナルに会いたい、お近づきになりたい。

その為なら何でもするわ!とメリルはそんなことを思うようになった。


そこでメリルは叔父家族や邸の使用人たちを魅了で洗脳して、自分を虐待しているように見せかけるようになった。

メリルはもう魅了を使うことに戸惑いや罪悪感はなくなっていた。

そしてメリルはミホークに涙ながら今まで怖くて言えなかったけど、自分が叔父家族に虐待されていると告白するのだった。

ミホークはそんなメリルを救出しようと、メリルに自分の婚約者になって欲しいと言ってくる。

婚約者になれば、メリルのことに詳しく関わることが出来るとミホークは言う。

ミホークは本当にメリルのことを好きになっていて、メリルが後に当主となるジラルーカス伯爵家の婿になりたいからという欲を持った考えでは決してなかった。

ただ純粋にメリルを救いたいとミホークは思っていた。

メリルはセントバーナルのことが頭を過ったが、とりあえずミホークの話に乗ってミホークの婚約者となる。

メリルはミホークが婚約者になってからミホークを邸のお茶会に招待した時に、叔父家族に虐待され使用人たちにも邪険に扱われて、邸ではまるで使用人のような扱いを受けているように装った。

そしたその現場をミホークに見せるようにした。

そのことでミホークが激怒して叔父家族がメリルを虐待していると、自分の両親に訴えて事が公になり叔父家族は次期当主を虐待した罪でそれぞれ修道院送りとなった。

しかしそれはメリルにとって大きな誤算となった。

ミホークに言われた時に冷静に考えていれば、例えメリルが叔父家族に虐待されていることが明らかになって国が動いてくれて、メリルが当主となるまで後継人になってくれたとしても、セントバーナルと会える訳でもお近づきになれる訳でもなかった。

叔父家族のメリルの虐待の罪を裁くのは国王陛下で、メリルはそのことで王宮の謁見の間に呼び出されたが、もちろんそこにまだ幼いセントバーナルがいるはずがなかった。

ミホークはメリルのことを思ってのことで、何の罪もない。

ただ思い込みが激しくメリルが実の親ではない叔父家族に虐待されいるのでは?と心配しただけだ。

それにメリルがただセントバーナルに会えるかも?とその話に乗った形になり、叔父家族や使用人たちを魅了で洗脳して偽装して、叔父家族たちを無実の罪で陥れたのだ。

でもその時、メリルはミホークがあんなことを言わなければ!とミホークが悪い自分は悪くないと思った。


そして叔父家族を魅了で洗脳してしまったことで、叔父たちの洗脳が解けないようにしなくてはいけなくなった。

メリルの魅了は前世より魔力量が多くなったが、ずっと効果がある訳ではないからだ。

なので、叔父家族たちが入れられた修道院に定期的に向かい、面会して魅了をかけ直すことをしなければならなかった。

修道院内では庭でも結界魔法が張られていて、メリルは叔父家族たちを理由をつけて少しの間外に連れ出して魅了をかけていた。

修道院の院長、修道士、修道女たちがメリルを善人であると思っていたので叔父たちを少しの間になら外に連れ出せた。


世間はメリルが自分を虐待していた叔父家族に対して恨むどころか心配して修道院に面会しに行っていることで、メリルの評判が上がっていく。

メリルは貴族学院でも注目されるようになる。

元々可愛らしい可憐な見目から男子生徒から人気があったが、女子生徒からも同情され、憧れの眼差しでも見られるようになった。

そのことにメリルは気を良くする。

前世ではそんなにみなから注目されたり、憧れの目線で見られることがなかったからだ。

前世はそれらはすべてアレンリードの婚約者アンジェリーナのものだった。

なのに今、自分がみなの憧れの存在になっている。

メリルは言いようのない高揚感を味わっていた。

しかしメリルの叔父家族はそれぞれ別々の修道院に送られた為に、学院に通いながら4人に対して定期的に面会しに行くことは大変だ。

こんなことばかりしていてはセントバーナル様に会うことが出来ないじゃない!と思うようになる。

メリルはアーセナルを魅了で洗脳して行方不明にさせてから罪の意識を感じなくなっていた。

それどころか叔父家族も自分の幸せの為に役に立ってもらう存在なのだと思うようになっていた。


メリルが17歳になり、叔父がいる修道院に行った時にある人物に出会った。

メリルが叔父に定期的に面会しに修道院を訪れるようになってから1年近くになり、また寄付金も多額にしていることもあって、メリルはさらに信用を得ていて、修道院の庭などで割と自由に行動することが許されていた。

そこで出会ったのは以前闇ギルドプロバンズの一斉捜索で拘束された人物だった。

その人物は実はギルドの中では下っ端で、修道院送りに留まったのだが、人を見る観察眼があった。

定期的に修道院に訪れるメリルを見ていて、彼女の本質的な部分に気付いたのか、その闇ギルドの残党が残っていて現在表向きは商業ギルドセラーズとして活動していることをメリルに教える。

その人物を通してメリルは商業ギルドセラーズのメンバーと知り合い繋がりを持つようになる。

そしてセラーズのギルドマスターヴィンセントから優秀な魔道具を作れるメンバーがいれば、いろいろと商売の幅が広がるんだが…と言われて、魔術研究所の魔道具研究部門にいるギレンの存在を教えられる。

ヴィンセントはあらかじめギレンに目を付けていて、接触を図るタイミングを見ていたのだ。

ギレンは元々プリズナン子爵家の第三男だったが、魔術研究所に所属して今は平民となっている50代の男だった。

貴族学院時代に魔道具の天才と持て囃されたが、ギレンが学院時代に彗星の如く天才と言われる男が現れた。

それが現クエスベルト子爵だ。

彼はわずか10歳で農場の害虫駆除の魔道具を開発に成功してから立て続けに魔道具の開発に成功して、天才の呼び名をギレンから奪ったのだ。

クエスベルト子爵は何も知らないし、ギレンに会ったこともないがギレンだけがクエスベルト子爵を勝手にライバル視していた。

メリルは魔道具は自分にとっても良い道具だと思い、セラーズメンバーの計らいでギレンに会った。

そして前もってセラーズのギルドマスターからギレンの情報を聞かされていたので、彼のコンプレックスを上手く利用して、少しの魅了を使いセラーズの仲間に引き入れることに成功した。

ギルドマスターのヴィンセントはメリルを利用しようとしたが、逆に利用されていくことになる。






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