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四十四話 メリル・ジラルーカス ②
しおりを挟むメリルは妹のセシルの死に大きなショックを受けて、わたくしが悪いのと自分を責めて塞ぎ込んでしまった。
まだメリルの身体の中に残ってはいるようだが、その魂は弱まり以降ジライヤと対話したり関わったりすることがなくなった。
一方ジライヤもセシルを死なせてしまったことにショックを受けた。
本当はそこまでするつもりはなかった。
これからも両親は自分を愛してくれるのだろうか?という不安で、ただ自分も闇属性を使えるようになりたかっただけだったからだ。
しかし現実にそうなってしまった。
セシルは突然魔力暴走が起こり、魔力が枯渇してしまったことで亡くなったことになった。
メリルがスキルによりセシルの魔力と闇属性魔法を奪ったのだと誰も気付かなかったからだ。
ジライヤはメリルとの会話がなくなったことに寂しさと申し訳なさを感じたが、どこかでホッしている自分がいた。
ジライヤは自分のそんなところに恐れ慄く。
わたくしはセシルを死なせてしまいおまけにメリルまで消してしまった。
何て恐ろしいことをしてしまったのだろう。
そしてわたくしはまた前世のように大変なことをしでかしてしまうのではないか?
前世のアンジェリーナを排除しようとして多くの人間を魅了で洗脳して、多くの犠牲者を出してしまったことが甦ってきた。
ジライヤは今度こそは幸せになりたい!
今度こそはわたくしはそんなことをしない!
闇属性を持っていても魅了は今は禁術となっている。
もう絶対魅了を使わないと心に決める。
ただお守りのように持っているだけと!と自分に言い聞かせるのだった。
しかししばらくすると、ジライヤはセシルが亡くなってから両親の様子がおかしくなってしまったのでは?と思うようになる。
両親はセシルを亡くしたことにショックを受けて、しばらく抜け殻のようになっていたが、日が過ぎて落ち着いてくると、メリルのことをどこか疑うような怪しむような視線で見てくるようになったとメリルは感じるようになる。
実際の両親はセシルが亡くなってからセシルに対して申し訳ない!自分たちで何とか出来たのではないか?と自分たちを責め後悔をしていたが、メリルに対しては変わらず愛情を持って接しているつもりだったが、メリルはそうは思えなくなっていく。
両親がわたくしを疑っていて、いつかわたくしがセシルを死なせてしまったことを知られてしまうのではないか?と脅迫観念に囚われていく。
それからメリルと両親の間にだんだんと距離が出来てしまう。
両親はメリルを怪しんだり疎んじたりしているのではなく、ただメリルを心配して言葉をかけているだけだった。
でもジライヤにはだんだんとそう思うことが出来ないようになってしまっていく。
両親とメリルの思いが行き違ってしまっていく。
そしてジライヤはまた事を起こしてしまう。
ジライヤが両親を信じられなくなりそして怖くなり、自分を守ろうとしてしまったことによる。
セシルが亡くなってから2年後、メリルが8歳になった時、使用人と御者を魅了により洗脳して、馬車に細工をして両親を馬車の事故に見せかけて殺害してしまう。
もう使わないと誓った魅了を使って両親の命を奪ってしまった。
自分がさせたことなのに今世では自分を愛してくれた両親を死なせてしまったことに後悔してジライヤは悲しむ。
しかしジライヤの中に後悔して罪悪感に苛まれる自分と、自分を危険視してまた貶めて虐待しようとする人間がいなくなったことに安心する両面が存在した。
そして悪いのはわたくしじゃない!
お父様とお母様だったんだ!と自分を肯定するようになる。
そう思わないとずっと苦しい。
自分の中にモンスターが棲んでいるのではないか?
そしていつか浸食されてしまうのではないか?
メリルはそのと恐怖と苦しみから逃れる為に自分は悪くないと思うようになっていく。
メリルの両親が亡くなった時、まだ8歳のメリルがいずれはジラルーカス伯爵家の当主となることが決まっているが、まだ幼いジライヤに王宮への出仕や領地経営は任せられないと、父ポワードの弟の叔父カンチェス一家が当主代理として伯爵家へとやってくる。
叔父家族は父カンチェスとその妻シーナ、メリルより3つ下6歳の第一男ジルベルスター、その2つ下の第一女フローラ。
メリルと叔父家族の生活が始まる。
叔父のカンチェスとその妻シーナは悪い人間ではなかった。
叔父は自分があくまでメリルが当主になるまでの当主代理であると、ちゃんと自分の立場をわかっている人間であり、メリルが伯爵家の当主になった後自分は王宮の文官として家族を養っていくつもりだった。
メリルを邪険に扱ったり自分の子供と差を付けるようなことはしなかった。
妻シーナもあくまでもメリルがジラルーカス伯爵家を継ぐ人間だとわかった上で、メリルと仲良くなって一緒にジラルーカス伯爵家を盛り立てていこうと思っていたし、ジルベスターもフローラもメリルをお姉様が出来たと無邪気に喜んだ。
メリルと叔父家族の生活は順調だった。
メリルも人見知りで内気な性格ながら叔父たちと仲良くしようと努力した。
メリルたちは本当の家族のように一緒に食事したり、お茶会なども頻繁にして仲良く生活していた。
ジルベスターもフローラもメリルによく懐いていて、一緒によく遊んだりしていた。
メリルことジライヤは今までの人生で一番幸せな生活に満足していた。
王都や領地の行き来もいつも家族みんなで行動していた。
そんな普通でありながら穏やかな生活を送っていたメリルが15歳になった時にある出会いをする。
叔父に連れられて初めて王宮へとやってきたメリルは叔父が今日は休日だが、少し仕事場に顔を出してくるからとメリルがしばらく一人で懐かしい王宮内の庭を散歩している時に、あまりにも奥に来てしまったことに気付いて、引き返そうとした時にもう少し庭の奥に日に当たり輝くプラチナブロンドの髪の少年がいた。
メリルはそのプラチナブロンドの髪に吸い寄せられるように少年へと近付いて、その少年を見て目を見開いて胸がドキッとした。
肩過ぎまである白に近いプラチナブロンドの髪に大きい金の瞳の女性と見間違う程の美形で、まだ幼いが前世で一目惚れして恋焦がれた王太子アレンリードにそっくりの少年だったのだ。
「アレンリード様…」
メリルはアレンリードの名を呼んでしばらく動けなくなった。
まさかこんなところにアレンリード様がいるなんて!
いや、違うわ!
あの方は年格好から第二王子のセントバーナル殿下だわ!
そんな!…まるでアレンリード様の生き写しだわ!
こんなこんなことが本当にあるの?!
メリルは気が逸ってつんのめって転がるようにセントバーナルの方へ突進してしまう形になる。
メリルに気付いたセントバーナルが一瞬驚いた後に一歩下がり距離を取りながら怪訝な顔をした。
「突然何ですか?」
セントバーナルは冷たい鋭い視線でメリルを見てくる。
確かセントバーナル殿下は7歳におなりのはず。
まだ声変わりしていないけれど、声の響きもアレンリード様そのものだわ!
生き写しのように似ておられるから顔の輪郭も似ていて、声も似ているということかしら?
それに凍るようなこの冷たい視線。
アレンリード様も心を許した人以外にはこんな視線だった!
そんなところも同じなんて!
メリルは身体が痺れたような感覚になり、微動だにせずセントバーナルの見つめる。
セントバーナルは突然何ですか?と問いかけても反応ないので無表情で踵を返して立ち去ろうとする。
それにメリルが気付いて慌てて声をかける。
「セントバーナル第二王子殿下とお見受け致します。
お会い出来て光栄にございます。
わたくしはジラルーカス伯爵家が第一女メリル・ジラルーカスにございます」
「そうですか、では」
メリルの声に振り返ったセントバーナルがメリルが挨拶したにも関わらず、一切興味を示さずその場を立ち去ろうとしている。
「あ、あの!少々お待ち頂けませんか?」
メリルは何とか少しでもお話がしたいと引き止めるように声を発する。
「私はこれから用事があるので失礼します」
セントバーナルはそう言って、メリルに有無を言わさず立ち去って行った。
メリルはしばらくその場から動くことが出来なかった。
セントバーナルにあんなに冷たい対応をされたにも関わらず、メリルは歓喜で胸一杯になり涙が溢れてくる。
感動で身体が震えてくる。
その後、メリルはどうやって叔父と合流して王都の邸に戻ったか記憶にない程、舞い上がっていた。
馬車の中で叔父にどうしたのか?心配されるくらいだった。
メリルは邸に戻ってからすぐに自室で一人になった。
この日は夕食を食べる気になれず家族は心配したが、メリルは「大丈夫だから」と言って自室に籠もった。
メリルはセントバーナルとの出会いを回想する。
ほんの少しの間であったけど、アレンリードにそっくりなセントバーナルとの出会いを思い出すだけで胸のドキドキが治まらなかった。
セントバーナルのあの冷たい目線と態度でさえもそれはアレンリードを思い起こさせるものであり、メリルにとってまたアレンリードに会えたことへの歓びになった。
そしてセントバーナルは今7歳でメリルは15歳で、8歳の年の差がある。
普通であれば、セントバーナルの婚約者に選ばれるのは同年代の令嬢だと思われるのだが、現在セントバーナルにはまだ婚約者がいないことをメリルは運命だと思った。
アレンリードの生まれ変わりであるセントバーナルと出会う為に私はメリルになったのだとジライヤは思ったのである。
セントバーナルにまだ婚約者がいないということはアレンリードにはアンジェリーナという婚約者がいたが、今世では自分に立ちはだかる大きな壁が最初からないのである。
メリルはセントバーナルとの年齢差を既に婚約者がいるなどの障害がない変わりの自分たちが乗り越えなければならない試練だと解釈したのである。
メリルはセントバーナルに出会った日から叔父に強請って、叔父の仕事の日に頻繁に王宮に出入りするようになる。
セントバーナルには初めて会った日から二度は庭で会うことが出来だ。
メリルは前世の記憶があり王宮の中をよく知っていたから、セントバーナルを見つけることが出来た。
だが、会えてもセントバーナルに警戒されているのか、すぐに自分たちの間に護衛が入りセントバーナルはすぐに立ち去ってしまい、一言も言葉を交わすことも出来なかった。
そして二度会えた以降、セントバーナルに会えなくなってしまった。
庭のあちこちを探し歩いてもセントバーナルを見つけることが出来なかった。
メリルはそれでもめげず、王宮に通い続けた。
しかしあまりに頻繁に王宮に出仕する叔父に着いてこようとするメリルに、1ヶ月程して叔父はそんなに頻繁にメリルを連れて出仕することは出来ないと「いい加減にしなさい」とメリルを叱ったのだ。
今のところ王族から公式な夜会、舞踏会、お茶会に招待される以外では叔父に着いて行くしか王宮に入る方法はなかった。
メリルはまだ15歳で成人する16歳まで1年あり、メリル自身に王家から公式な招待状が届くことはないから叔父の王宮への出仕に連れて行ってもらうか、お茶会などに招待された叔父の妻シーナに次期当主として一緒に連れて行ってもらうしかメリルが王宮に行ける方法はなかった。
それに16歳になれば成人してデビュタントなどで王宮に行けるが、貴族学院にも通わなければならない。
学院に通うようになると今以上に王宮に行けなくなるのはすぐわかること。
メリルは16歳になるまでに何とかセントバーナルに近付こうとしたが、それが実現することはなかった。
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