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三十九話 事件とエンヴェリカと私 ②
しおりを挟むエンヴェリカside
セントバーナル様が私が庇おうとしたことが嬉しかったと言われて、自分の言ったこととまた頬にキスされたことを思い出して、本当に恥ずかしい。
これだけセントバーナル様を意識したことはないかもしれない。
でもあの時セントバーナル様だけでも助かって欲しいと思ったのは本当だ。
でもセントバーナル様がいないと生きていけないなんて言ってしまった。
恥ずかしい!本当に恥ずかしい!
セントバーナル様は貴族学院入学時は少し線が細くて、本当に女性と見間違う程中性的な美しい人だった。
極上の美貌とか絵画のように美しいなど、セントバーナル様を表現する言葉は数多くあったらしいけど、人の美醜にそんな興味のない私でも今までに会ったことがないくらいの美形だと思った。
貴族学院入学した時には関わり合うことのない人だから、美形だと思っていたけど、正直それだけだった。
私の頭の中は魔道具のことでいっぱいだったから。
でも今は違う。
3年経って卒業した今のセントバーナル様は美しさに何だか精悍さと威厳、迫力が加わった感じがする。
肩甲骨の中間あたりまである白に近いプラチナブロンドの髪は肩口で緩く結わえられていて、真っすぐで相変わらず艷やかだ。
切れ長だけど大きな金の瞳は美しいだけでなく、どんなことも見通すような叡智を感じ、威厳と迫力を持つようになったように思う。
細身だった身体も筋肉をついているのが、腕など服の上からもわかる程に筋肉隆々ではないけれど、しっかり筋肉が付いているようだ。
真っ白い肌は昔はまるで作りものの人形といえる程陶器のように光っていたのに、少し日に焼けていてそれが筋肉のついた身体と相まって男らしさを醸し出している。
顔の輪郭はあまり変わっていないのに、迫力と色気が溢れていると思う。
私が意識するようになったからわかったことなのだけど。
最近こんな迫力の美貌の素敵な人が私の婚約者だと思うと、何だかドキドキが激しくなってしてしまうわ。
「エンヴェリカ?」
セントバーナル様が私の向かいに足を組んで座りながら見つめてくる。
いけない!別にところへ意識が飛んでいった。
そうだ私が聞きたいことをセントバーナル様が答えてくれているところだった。
「あ、あの!
アンピニア伯爵令嬢はセントバーナル様が黒幕と言った時、何のことかわかっていなかったように思うのですか?」
「ええ、これも取り調べをしていかないとハッキリとは言えませんが、アンピニア伯爵令嬢も他の令嬢たちも魅了で操られていたと思います」
「えっ?魅了?」
闇属性の魅了って確か禁術だったはず。
属性判定で闇属性と判定されたらすぐ魅了を封じられるはず。
封じられていなかったということ?
それに闇属性を持っている人なんて滅多にいない。
私も全属性を持っていると言われるスペンサー様とジョルジュ様の黒の瞳の継承者様くらいしか知らない。
他にいたと言うの?
それも魅了を封じられていなかった。
それがその黒幕という人なの?
いったい誰なのかしら?
「ええ、エンヴェリカはメリル・ジラルーカス伯爵という人物を知っていますか?」
「メリル・ジラルーカス伯爵様ですか?
いえ、存知上げません。
私は貴族学院入学までほとんど王都に出てきたこともないですし、学院の貴族の方々は入学前に貴族名鑑を覚えて家名とお顔は覚えましたが、他の方はわかりません。
不勉強で申し訳ありません」
セントバーナル様が微笑む。
「いえ、謝らなくて大丈夫なのですよ。
そのメリル・ジラルーカスが闇属性の魅了を使っていたと思います。
そして黒幕です」
セントバーナル様の言葉に驚きを隠せない。
「メリル・ジラルーカス様という方は女伯爵様なのですよね?
その方が黒幕で、闇属性を持っておられるということですか?」
「そうですね。
メリルがあの事件の黒幕で闇属性を持っていて、今回の卒業パーティーの騒動も起こした。
アンピニア伯爵令嬢たちを魅了して操っていたのはメリルです。
元は水属性持ちでしたが、属性判定をしていない魅了を封じていない闇属性を手に入れたといえばいいですかね」
元は水属性持ちだったのに魅了を封じていない闇属性を手に入れていた?
どういうことですか?
「そんなことが可能なのですか?
信じられないことです!」
「エンヴェリカの言う通りですね。
普通には考えられないことです。
しかしメリルはスキル『受容』を持って生まれました。
受容とは受け入れ取り込むことです。
彼女はそのスキルを悪用したと思われます。
受け入れるのではなく奪ったのです」
「えっ?そんなこと?!
本当ですか?」
「そうですね。
スキルは女神セレナ様の加護を賜るものです。
普通なら悪用するような人間には賜ることなど無理だと思います」
私はお母様から幼い頃、この国の成り立ち瞳の継承者様のことを聞いた時に、属性魔法や稀にスキルを持って生まれる方のことも聞いた。
スキルは女神セレナから特別に加護として賜るものだと。
瞳の継承者でも女神セレナ様に認められない者は主にも後継者にもなれない。
瞳の継承者の伴侶もそうなのだと聞いていた。
そんな女神セレナ様が加護を与える人は人格者だと疑わなかった。
「そ、そんなスキルを持っている方がスキルを悪用したのですか?」
「考えられない、許されないことですがそういうことです。
メリルはスキル『受容』を悪用してまだ属性判定をしておらず、魅了を封じられていなかった闇属性を奪っています」
そんなの信じられない!
どうしてそんなことが?
「本当に信じられないことだと思います。
あの事件の後、スペンサー殿とジョルジュからメリルが怪しいと聞いて、そのメリルがスキルを悪用しているのではないか?と言われた時に私も信じられないことでした。
でもその後、いろいろと調べていくうちにそれは確信に変わりました。
そして今回私たちはメリルに罠を仕掛けましたが、彼女はまた人のスキルを奪おうとしました」
「!!…」
あまりにも衝撃的で言葉が出なくなった。
☆★☆
セントバーナルside
エンヴェリカが衝撃を受けて言葉を失っている。
当然といえば当然だが、これ以上詳しく話していくと、メリルが恐らく闇属性を奪った相手を殺害していたことも言わなければならなくなる。
これはまだ予測の段階であることだし、エンヴェリカには彼女を攫ったジャスティンが殺害されたことも言っていない。
いずれ知ることになるだろうが、今はこれ以上エンヴェリカに衝撃を与えたくない。
エンヴェリカはいくら犯罪を冒した者とはいえ、死んでいることを知ると、心を痛めるだろう。
今日はその話をするのはやめよう。
「まだこれから拘束した犯人たちの取り調べをしなくてはわからないことが多いです。
エンヴェリカもまだ混乱していることでしょう。
私の話もまだ予測の段階の話ばかりになります。
今日はこれくらいにしておきましょうか?
いずれちゃんと報告します」
「はい、わかりました…」
エンヴェリカはかなりショックを受けているようだ。
「エンヴェリカ、もうそなたも家族もテンクラビィ子爵令嬢もその家族も安全であると言っておきます。
ですが、まだ引き続きみなを守る為に護衛を付けます」
「セントバーナル様よろしくお願いします…」
エンヴェリカは何とも言えない複雑な顔をしているけど、これ以上は今は話したくない。
「エンヴェリカ、大丈夫ですか?
眠れないような私が添い寝をしましょうか?」
「えっ?!へっ!?」
エンヴェリカに違う衝撃を与える為に言ったことだが、私も恥ずかしくなる。
「そ、そいねー?!」
エンヴェリカは素っ頓狂な声を上げる。
貴族令嬢としては有り得ないがエンヴェリカだと思うとただ可愛いだけだ。
私が微笑んでエンヴェリカを見ると火を吹くのではないかというくらい顔を真っ赤にしている。
「だ、大丈夫です!
一人で眠れます!」
私に揶揄されたと思ったのかエンヴェリカが口を尖らす。
私はハハハッと声に出して笑う。
「それは残念です。
それは結婚するまでに取っておきますね」
私が言うと、エンヴェリカは見えるところ全部を真っ赤にさせて口をパクパクしている。
「ふふっそれでは私は戻るとしましょうか」
と言って席を立つと。
「あ、はい!
セントバーナル様お忙しいのにありがとうございます」
エンヴェリカが慌てて席を立つ。
私がエンヴェリカの側まで歩いていくと、エンヴェリカのビクッと肩が動く。
私はエンヴェリカの両手を自分の手で取ってキュッと強くならないように握る。
「それではゆっくり休んで下さいね。
もし眠れなかったらいつでも言って下さい。
すぐに駆け付けますから」
「も、もぉ!セントバーナル様!
大丈夫ですっでば!」
エンヴェリカが顔を真っ赤にしたまま口を尖らせる。
「はいはい、わかりましたよ。
エンヴェリカおやすみなさい」
と私は少し戯けてエンヴェリカの頭頂部にキスをした。
「あ、…うっ!おやすみなさいセントバーナル様」
エンヴェリカが目線のやりどころがわからずあちこちにウロウロと目をやる。
本当にエンヴェリカは可愛らしい。
本当はまだまだ一緒にいたいけど、私もやらなければならないことがある。
「それではまた明日!」
私は言ってからエンヴェリカの頭を撫でて部屋を出て行った。
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