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三十八話 事件とエンヴェリカと私 ①

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セントバーナルside



私はいったん自室に戻って湯浴みを済ませて、着替えてからエンヴェリカの部屋へと向かった。

ストレンダーにはそれぞれ牢に入れた者たちの様子を見に行くように指示した。

メリルやアンピニア伯爵令嬢と取り巻きたちは貴族牢、他の平民たちは一般牢に収容されていると聞く。

本格的な取り調べは明日になる。

拘束時に自害などせぬようにと魔力制御の枷をメリルだけでなく全員にしたと聞いているが、様子を確認させることにした。

エンヴェリカの部屋まで護衛は伴っているが一人で行き、ノックするとすぐに侍女が扉を開けたので私は部屋に入る。

エンヴェリカが先程別れ際に私がエンヴェリカの頬にキスしたからか、何だか照れて何だかポヤポヤしているのが堪らなく可愛い。

「エンヴェリカお待たせしました」

と私が言ってエンヴェリカの目を見る。

「い、いえお待たせしていません!」

何だか変な言葉遣いになっていて、それさえ可愛いと思う私は相当重症だ。

テーブルの上には軽食やケーキなどが用意されている。

私の食事がまだなのがわかっているのか、私の為に食事を用意してくれたのだろうか?

私がエンヴェリカの向かいに座るとエンヴェリカも続けて座った。

侍女がお茶を用意した後、人払いをしたので侍女たちが部屋を出て行った。

「セントバーナル様、まだ食事していないでしょう?

一緒に食べませんか?」

エンヴェリカが私に微笑みかけながら聞いてくる。

やっぱりエンヴェリカが気を利かせてくれたんだ。

「私はまだですが、もしかしてエンヴェリカもまだ食べていなかったんですか?」

「私もまだなんです。
セントバーナル様を待っていました」

と可愛いことを言うエンヴェリカ。

「先に食べていてくれて良かったですのに」

「何だか、食欲が湧かなくて…。
でもセントバーナル様と一緒なら食べれるかとをお待ちしていたんです。

あの軽食の方が食べやすいかと用意してもらったのですけれど、ちゃんとした食事を用意してもらった方が良かったですか?」
 
私と一緒なら食べれるなんて何て可愛いことを言うんだ。
私の顔も熱くなってくる。

それに私のことを考えてサッと食べれるものを用意してくれたことも嬉しい。

「ありがとうございます。

いえ、私もそんなに空腹ではないので、今は軽食の方が有り難いです。

エンヴェリカ一緒に食べましょう」

「はい!」

エンヴェリカが笑顔で返事してきたので、まず一緒に食事した。

サンドイッチやオムレツなどの卵料理とベーコンなどを食べてから、ケーキとお茶をおかわりをして二人で甘味を味わう。

エンヴェリカは相当照れているようで、私の顔をチラッと見てはすぐ視線を逸らしてを繰り返している。

あまりに可愛くてにやけそうになるけれど、それを知るとエンヴェリカが拗そうなので堪える。

「エンヴェリカ、少しは落ち着きましたか?」

私が聞くとエンヴェリカはブンブンと音がする程、首を横に振る。

「いろんなことがあり過ぎてまったく落ち着いていません」

エンヴェリカは正直だな。

当然だろうな、いろいろあり過ぎた。
事情を知らなかったエンヴェリカは余計にそうだろう。

「それはそうですよね。

今日のことを何も知らせなかったことすみませんでした」

私が謝るとエンヴェリカがまた首をブンブンと横に振る。

「あの、アンピニア伯爵令嬢が捕らえられた直後は私に何も知らされていなかったことを怒ってしまいましたが、その…冷静になってみると作戦を成功させる為だったんですよね?

怒ってしまってすみませんでした」

エンヴェリカが頭を下げる。

「エンヴェリカ謝らないで下さい。

確かに作戦を成功させる為でしたが、エンヴェリカは私を心配して私にもし何かあったらと思ってくれたから怒ったんですよね?

私のこと大切だと言ってくれて私がいないと生きていけないと言ってくれました。

凄く嬉しかったです」

私が微笑んでエンヴェリカの顔を見ると、自分の発言を思い出したのかより顔を真っ赤にするエンヴェリカ。

本当に可愛い。

「あ、あの…本当にセントバーナル様が無事で良かったです!」

顔を赤くしたまま私をチラッと見てくるエンヴェリカが可愛い過ぎる。

私がどうにかなってしまいそうだ。
気を取り直す。

「エンヴェリカが私を守ろうとして動こうとしてくれたことは嬉しいですが、今後そんな無理はしないで下さいね!」

私が念を押すように言うと。

エンヴェリカがう~んと言ってからすぐさま私の顔を見てくる。

「でもやっぱりそれは無理です!

そりゃセントバーナル様の方が魔法とかすべての部分で私より優れていることは前からわかっていましたけど、今日嫌という程わかりました。

でもそれでも私はセントバーナル様が危ないと思ったら動いてしまうと思います!」
 
エンヴェリカにキッパリと言われて私は堪らない気持ちになる。

「エンヴェリカ…それでもエンヴェリカはまず自分を守ることを考えて欲しいです。

それが引いては私を守ることにも繋がると思いますから」

私はエンヴェリカの美しい深い湖のような青い瞳を見つめて言う。

「セントバーナル様…わかりました。

でも私も出来ることはしたいのです」

エンヴェリカの真摯な瞳に私の胸がトクンッと鳴る。

こんなに愛おしいと思う人に出会ったことがない。

私はエンヴェリカに出会えて本当に幸せだ。

絶対手放せない。
 
私にとってエンヴェリカはやっぱり唯一の人なんだ。

「エンヴェリカありがとうございます。

その気持ちだけで私は十分です。

でもエンヴェリカのことは私が必ず守るということを忘れないで下さい。

ではまず報告ですが、あの事件に関わった犯人すべてを捕らえることが出来ました」

エンヴェリカが目を見開く。

「そうですか、本当に良かったです!

これでロザリナ様もロザリナ様のご家族も何の心配もなくなりますね」

エンヴェリカは自分が事件の被害者で、それ以降も自分が狙われていたにも関わらず、自分以外の人間テンクラビィ子爵令嬢やその家族の心配をするんだな。

「そうですね、明日から本格的な取り調べが始まります。

もう少ししたらテンクラビィ子爵令嬢は家族のところへ帰ることが出来ますよ。

テンクラビィ子爵令嬢が学院に復学したいのであればまだハッキリしていませんが、早ければ新学期からすぐには無理だと思いますが、少し遅れて通えることが出来ると思います。

学院に復学すると何か言われたりするかもしれませんが、同学年は卒業していますからね。

あまり心配はないかもしれませんが、あの時の噂は広がっているはずです。

それに1年遅れて下の学年の者たちと勉強することになりますからね。

テンクラビィ子爵令嬢に変な噂など出ないよう気を付けます」

「セントバーナル様、ロザリナ様のことも配慮して下さってありがとうございます。

よろしくお願いします」

エンヴェリカが本当に嬉しいという顔で笑う。

エンヴェリカは自分のことより人のことに一生懸命になる傾向がある。

本来の私は究極はエンヴェリカ以外がどうなろうと気にならない冷たい人間だ。

しかしエンヴェリカが他の人間を気にして、心配するからエンヴェリカの周りの人間のことも配慮して動いているに過ぎない。

「事件のこと、取り調べは明日から始まりますからすべて話すことは出来ませんが、エンヴェリカが知りたいことで今話せることは話します。

何から聞きたいですか?」

エンヴェリカがう~んと唸りながら考えている。

「えっと、まずアンピニア伯爵令嬢にも告げていましたが、パーティー会場の結界魔法は犯人たちに解除出来るように情報をわざと渡したとセントバーナル様は言ってましたが、それはアンピニア伯爵令嬢たちを捕らえる為ですよね?」

「ええ、それもありますが黒幕の犯人たちが卒業パーティーで騒動を起こして、こちら側の人員が会場に集まっている隙に逃亡しようとすると予測していましたので、あちらが思い描く騒動をアンピニア伯爵令嬢たちに起こしてもらうようにしました」

エンヴェリカに正直に説明する。

「なるほどそうだったんですね。
セントバーナル様たちがすべて思い描いた筋書き通りだったということですね」

「そういうことになりますね」

エンヴェリカが目線を斜め上にやり次の質問を考えている。

「えっと、会場で令息令嬢たちがバタバタと倒れていきましたよね?
あれも闇属性の魔道具だったということですよね?
スリープ魔法だったのですか?」

「はいその通りです。

アンピニア伯爵令嬢の取り巻きが闇属性魔法の魔道具を使いスリープの魔法を無差別に発動しましたね」

私はその通りだと頷く。

「あの時、結構人がバタバタと倒れていきましたけど、私の家族は大丈夫でした。

それは防御魔法か何かで守ってくださっていたんですか?」

「はい、エンヴェリカの家族やミーナ、ミーナの家族には防御の魔道具を付けてもらいました。

あと事情を前もって話していた卒業生の家族にはあの場でクリスとジョルジュに防御魔法をかけて守ってもらっていたんです。

ですが、すべての人たちを防御すると、アンピニア伯爵令嬢たちに彼女たちの作戦がこちらに漏れていることがバレてしまいます。

アンピニア伯爵令嬢には結界魔法解除のことや彼女が何をしようとしているか、どんな方法か口を割ってもらわなければならないので申し訳ないですが、卒業生には魔法にかかってもらうことにしました。

危険なものならすぐに魔道具を破壊することになっていましたが、魔法陣がスリープのものだったのでクリスとジョルジュは様子を見たということです」

ほぉ~とエンヴェリカが声を漏らす。

「そうなんですね。

スリープの魔法が途中で解除されたようですが、クリスフォード様とジョルジュ様が魔道具を破壊したのですね」

私はエンヴェリカに向かい思案顔になっている。

「そうです。

アンピニア伯爵令嬢が魔法の発動をする時に私が魔道具を破壊して、それと同時にクリスとジョルジュに取り巻きの令嬢たちが持っている魔道具の魔石を破壊してもらって解除しました」

「スリープの魔法もアンピニア伯爵令嬢が使う魔法も予測していたということなんですね。

アンピニア伯爵令嬢は私を消すと言ってましたが、それは闇属性の魔法なんですよね?」

「そうですね、エンヴェリカも魔道具で守っているので大丈夫でしたが、魔法陣を見るまでは何の魔法かわからなかったんです。

闇属性で毒性魔法であったり精神干渉系魔法だと、対象者のみに発動することは相当な使い手じゃないと難しいのです。

アンピニア伯爵令嬢には無理だったでしょう。

私がエンヴェリカのすぐ側にいましたからね。
私も巻き添えになります。

アンピニア伯爵令嬢はエンヴェリカの側に必ず私がいることを予想していたんでしょう。

なのでまずリープ魔法で自分と一緒にエンヴェリカを異空間を飛ばそうとしていたようです。

リープとは異空間に術者と対象者を一定時間飛ばすことが出来ます。

術者の魔力によりますが、それは一定の時間だけです。

リープとは闇属性の持ち主が敵を異空間に飛ばして、自分のテリトリーで戦うというもので、闇属性に耐性がない者には有利な形で攻撃が出来ます。

なのでアンピニア伯爵令嬢はまずリープで自分とエンヴェリカを異空間に飛ばしてから、エンヴェリカを毒性魔法か何か闇属性魔法で攻撃しようとしていたのではないかと思います」

エンヴェリカは私の話を聞いてまた驚いて目を見開く。

自分が異空間に飛ばされていたらどうなっていたのだろう?と思っているのだろう。

「そうなんですか。

闇属性魔法に対象者を消すというものはなかったと思ったのですが、アンピニア伯爵令嬢があんまり自信たっぷりに言っていたので、本当に私は即消されてしまうのかと思いました」

その時のことを思い出したのか、エンヴェリカの顔が引き攣る。

「エンヴェリカ、本当に怖い思いをさせてすみませんでした」

「セントバーナル様謝らないでください。

あの時はセントバーナル様から頂いた魔道具の指輪があるのにそれが頭から飛んでいて、消されるかもと思ってしまいました。

ちゃんとこの指輪が守ってくれるはずでしたよね?」

エンヴェリカが苦笑いしながら指輪を右手の指で撫でる。

「エンヴェリカは魔道具をちゃんと付けていたので、物理もすべての魔法を弾くことが出来ます。   

でもあの時、エンヴェリカは自分のことより私のことを庇おうとしていましたよね」

「す、すみません!冷静さを失くしていました」

エンヴェリカは肩を竦める。

「エンヴェリカもう謝らないで下さい。

自分のことより私を守ろうとしてくれたこと本当に嬉しかったです」

私が愛しくて堪らないって思いでエンヴェリカを見ると、エンヴェリカは「あっ!」と声を出して恥ずかしそうに私から目線を逸らした。

私はそれにクスッと笑う。





 






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