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三十三話 学院生活と変化

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婚約式以降、翌月の終わりまで2ヶ月学院がお休みだった。

婚約式の翌日にセントバーナル様から婚約の記念にと金の宝石の指輪をプレゼントしてもらった。

この指輪金は宝石なのだけど、その周りにある石が白が混じった銀色なのだけど、それが魔石で魔道具だった。

一見魔道具には見えないけど、私はセントバーナル様からもらった指輪を注意深く観察してわかったのだ。

それも光属性が備わった属性魔石で、光属性魔法も貴重な魔法だけど光属性の魔石も本当に貴重なもので滅多にないものだ。

その光属性の魔石が3 つも付いている!
 
凄い!!
どれほどの価値があるものなのか想像も出来ないくらいだ。

セントバーナル様から聞いたのだけど物理とすべての魔法を防御してくれるもの。

すべての魔法とは属性魔法の他に無属性魔法、毒や精神干渉系も入っていて、おまけに魔法だけでなく毒物や精神干渉系の薬も感知して防御してくれる優れものの魔道具だった。

光属性の魔石なので、通常の属性魔法、無属性魔法と物理の防御魔法はスペンサー様の防御魔法を埋め込んでもらって、毒や精神干渉系の防御魔法はセントバーナル様、薬などの防御はお父様が魔法陣を描いてくれたものを魔石に埋め込んでくれたもので、魔道具を作ってくれたのはお父様だという。

何という贅沢で素晴らしいものをくれたのだろう。

とても嬉しかった。

「ずっと肌身離さず付けてくれると嬉しいです」

とセントバーナル様に言われて。

「こんなに凄いものを私が頂いてもいいのでしょうか?」

嬉しくて声が弾んでいるけど、本当に私がこんな凄いものを頂いていいものか?と思い、口から出た。

「婚約の記念として気にせずもらってくれたら私は嬉しいです」

セントバーナル様が私の左の薬指に指輪を嵌めてくれた。

「わぁ~ピッタリです!」

「それは良かったです。
サイズはミーナ嬢に教えてもらったんですよ」

そういえば、ミーナが王宮に来た時に紐で私の左手の薬指を結んでいたな。

その時は何をしているんだろう?と思ったけど、そういうことだったのか!

「そうだったんですね!

ありがとうございます。

すっごくすっごく嬉しいです!
ずっと付けてます!
肌身離さず寝てる時もずっと付けてますね。

本当にありがとうございます!」

と私はめちゃくちゃ嬉しくてお礼を言う。

「そんなに喜んでもらって本当に良かったです」

セントバーナル様の耳が少し赤い。
こういう時は照れているのだ。
今までのお付き合いで、そういうこともわかるようになった。

「魔道具の中身の内容を調べてみたいところですが、分解しないといけないので元に戻せる自信がないのでやめておきます!」

私が笑顔で言うとセントバーナル様は呆れた笑いに変わった。

「エンヴェリカなら魔道具だとわかった瞬間にそう思うだろうなと思いましたけど、この指輪だけはやめて下さい」

そうだ!セントバーナル様がわざわざ婚約記念に用意して下さったのに私なんてことを言ってしまったのだろう!

私の馬鹿!

「セントバーナル様ごめんなさい。

せっかく記念にと用意して下さったのに…」

「いいんですよ。
そういうエンヴェリカらしいところも好きですよ」

またセントバーナル様に甘い言葉を言われて、私は顔が真っ赤になる。

クスクス笑うセントバーナル様はきっと私がこうなるとわかって甘い言葉を言ったんだ。

もぉ!やられっぱなしだわ私!

私はその指輪を大切にずっと肌身離さず付けるようになった。


私はお休み中も王宮にそのまま滞在していて、家族やミーナ、ヴァネッサお姉様が訪ねてきてくれた。

正直な気持ち領地に帰りたいなと思ったけど、少しずつ王子妃教育というものが始まった。

今からの王子妃教育って結構大変。

この国では瞳の継承者である王族は瞳の継承者の色を持つ間は臣籍降嫁はないので、王太子殿下にお子様が出来ればそのお子様が第一第ニ王子となっていき、セントバーナル様は王弟となり、王宮にて一生暮らすことになる。

セントバーナル様はずっと王族として政務を熟していき、私もいずれ王弟妃として政務をしていかなければならないらしい。

ナターシャ様は王太子妃教育を王太子殿下と婚約された8歳から受けてこられ、成婚された時には王妃教育も終えられていたそうだ。

ナターシャ様も担当されていた家庭教師のポーツフェルト侯爵夫人から前にも聞いているけれど、ナターシャ様は幼い頃からとっても優秀な方だったらしい。

王太子妃でいずれ王妃になられるナターシャ様に比べれば王子妃教育はまだ全然マシなのだそうだけど、それでも今まで子爵令嬢として生きてきた私にはとても厳しい教育だ。

実は後で聞いて知ったのだけど学院を休んでいる間の王宮での教育は、王子妃教育も入っていたのだとか。

それで淑女教育が信じられないくらい厳しかったのか。

まだ国外の言語などは学んでいない。

まだまだ時間がかかりそうなのだけど、王妃殿下やナターシャ様、セントバーナル様が徐々にでいいから、成婚してからも教育を受ける状態で問題ない、大丈夫と言ってくれてるけどその言葉に甘えていてはいけない。

自分で決めたことなのだから頑張ると決めたのだ。

だから領地に帰る間もなく王子妃教育に励んでいた。


なので、王宮から一歩も出ずお休みが終わって学院が始まった。

婚約式でもう眼鏡を外したので、学院にも眼鏡をせずに行くことにした。

学院に行くと、何だか今までとは雰囲気が違う。

私のことをコソコソと悪口を言っていた令嬢たちが、まったく近寄ってこなくなった。

その代わりというか、私がセントバーナル様の婚約者になったからかどうにかして繋がりを持とうと近付いてくる人が増えた。
 
敵意や悪意を持って近寄ってこられるより、友好的な方がまだいいけれど。

突然このように態度を変えられるとどうしていいかわからない。


『第二王子妃殿下はとてもお美しかったのですね。
どうして眼鏡をかけて隠しておられたんですか?』
『第ニ王子妃殿下の深い青い瞳はとても知的ですね』
『前々から成績優秀でいらっしゃいましたけど、さすがは魔道具の天才と言われ、国王陛下の覚えも目出度いお父様のご息女様であらせられますわね』

婚約式の時に入場の時と宰相様から乾杯の時に妃殿下と言われたけど、まだ成婚していないから妃殿下はやめて欲しいと言った。

なんだか、手の平を返した歯の浮くような大袈裟な台詞調の話に私は困惑するしかなく、ゾゾッと寒気がしてしまうのは許して欲しい。


だって生まれてこの方、家族以外にそんなに褒められたことがないのだもの。

セントバーナル様は褒めて下さるけど。


「エンヴェリカは何も気にせず今まででいいんですよ」

とセントバーナル様は言ってくれるけど、戸惑ってしまいどう対処していいかわからないのだ。

それでもグイグイ近寄ってくる令息、令嬢をセントバーナル様が適当に躱してくれている。

コソコソと悪口を言われることはなくなったけど、これはこれで何だか居心地が悪いよ。

今は授業が終わったらすぐセントバーナル様と一緒に王宮に戻り、王宮の研究室で魔道具の研究をしている。

セントバーナル様は政務でお忙しいみたいで、一人のことが多い。

身体の状態を調べる魔道具は小動物で成功したから今は人間でも使えるようにする研究だ。

同じ魔法陣の応用だと思ったのだけど、体内の器官など小動物より規模が大きくなるからと、そのままで精度を高めていけばいいだけのものではないようだ。

まだ何かが足りない。

成功した魔法陣を紙に書き起こして何が必要なのかあらためて考える。

まだまだ先は長そうだけど、楽しくて仕方ない。

私は本当に魔道具が好きなんだな。

セントバーナル様は結婚してからも魔道具の研究は続けて欲しい、それが国の為になるからと嬉しいことを言ってくれる。

いつかはお父様のように多くの民の為になるような魔道具が作れるようになりたい。

夜になってセントバーナル様が迎えにきたら研究時間は終了。

まだまだやりたいけど、明日も学院に行かなければならないから後ろ髪を引かれる思いで、セントバーナル様と少しお話してから部屋まで送ってもらった。

王子妃教育もあるから研究時間が減ったのだけど、決められた時間で集中出来るから今とても充実している。

こうやって両立していけたらいいなと思っている。


そういえば、お休みも終わりかけにテンクラビィ子爵令嬢から手紙が届いた。

今領地で療養中らしいのだけど、私に対する謝罪の手紙だった。

正直まだわだかまりはあるけれど私に対して怒ったり、恨みの感情を持つのは間違っていると気付いた。

私には本当に申し訳ないことをしました。
取り返しのつかないことだけどどうしても謝罪だけはしたかったという内容だった。

私は複雑な気持ちになった。

だって彼女も被害者だと私は思っているから。

どんな形でかわからないけど、いつか公になるだろう事件のことを知ったら彼女はもっとショックを受けるのではないだろうか?

でもテンクラビィ子爵令嬢は今領地で一人で自分を責めて苦しんでいるんではないだろうか?

私が手紙の返事を送ったりしたら余計に辛いだろうか?でも気にしていませんよって返事をした方が良いのかと悩んでしまう。

それでセントバーナル様に相談した。
テンクラビィ子爵令嬢には悪いけど手紙も見せた。

「エンヴェリカは本当に優しいですね」

「そんなことないです。

きっとこれは偽善なんです!

私のせいで辛い思いをしている人がいる自分のせいだと思うのが嫌なんです。

それは彼女のことを考えてるんではなく自分のことを優先に考えてしまっているんです」

私はセントバーナル様の言葉に首を横に振る。

「そうやって相手の気持ちを考えて正直に自分の思いが偽善だなんて言える人はなかなかいませんよ。

エンヴェリカはやっぱり真っ直ぐな優しい人です。

そうですね…事件のことをまだテンクラビィ子爵令嬢に告げることは出来ませんが、エンヴェリカの今の気持ちを正直に彼女に伝えてみてはどうですか?」

「私の気持ちを正直に伝える、ですか?」

セントバーナル様が眉尻を下げて困ったように微笑む。

「本当は関わって欲しくはないですが、エンヴェリカは彼女が心配なのでしょう?」

「はい、そうですね、心配というか…。
テンクラビィ子爵令嬢は何も悪くない、彼女は被害者だと私は思っています。

でも何も知らず私に言ったことは間違ったことだとは思います。

それも私に言ったことも追い詰められて辛い状況からだったと思うんです。 

彼女は何も知らされずとても不安だっただろうし、オマール様に言われたことでとてもショックを受けたのだと思うのです。

そんな彼女にずっと罪を背負ってもらいたくないというか…」

「そうですね、彼女がエンヴェリカに言ったことは私は許すことでは出来ませんが、オマールに酷いこを言われて事情を何も知らされないで、オマールにも突然会えなくなって、彼女は傷ついていることでしょうね。

彼女の父テンクラビィ子爵卿は実直で真面目な人物と聞いています。

領地で彼女は両親と一緒にいて自分を見つめ直す時間が出来たんではないでしょうか。

今なら手紙でエンヴェリカの正直な気持ちを伝えてもいいかもしれませんね」

セントバーナル様がテンクラビィ子爵令嬢の手紙の返事を送ってみてもいいと言ってくれて、私はセントバーナル様の私を思いやってくれる優しさを感じて嬉しくなった。

「ありがとうございます!
手紙を書きます」

私が私の今の気持ちとして返事を送ってからテンクラビィ子爵令嬢からすぐにまた謝罪と感謝の返事がきた。

それからテンクラビィ子爵令嬢と私の手紙のやりとりが始まった。

テンクラビィ子爵令嬢はお休み明けも学院を休学したままだけど、結構頻繁に手紙のやりとりは続けている。

彼女の手紙の内容から本来の彼女はとても明るく真っ直ぐな人柄のように思えた。

ご両親やお兄様との仲もすごく良いみたいだ。

テンクラビィ子爵令嬢は最近彼女のお兄様と一緒に領地経営の勉強をしたり、領地を視察に行ったりと結構忙しい日々を送っているのだそう。

私は手紙を読んで少しずつテンクラビィ子爵令嬢の傷が癒えてるのだなと思って安心していた。

そんな手紙のやりとりをしながら12の月になった時にテンクラビィ子爵令嬢から私に会って、直に謝罪をしたいと手紙に書いてあった。

もう手紙で何度も謝罪してもらったからいいですよと返事をしたのだけど、『一度どうしてもお会いして謝罪したいのです。駄目ですか?』とテンクラビィ子爵令嬢からの返事が届いた。

私がそのことをセントバーナル様に相談したら一度王宮で会う機会を設けてくれることになった。








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