地味に見せてる眼鏡魔道具令嬢は王子の溺愛に気付かない

asamurasaki

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ニ十六話 婚約の承諾と婚約発表

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ウォンタートル伯爵家を訪問してからも王宮で、教育を受けながら私は魔道具の研究もしながら過ごしていた。

ミーナやヴァネッサお姉様や私の家族も訪ねてきてくれたりして、忙しいながらも充実した日々を送っている。

ひとつ良い事があった。
2の月に入ってから私が研究している身体状態を調べる魔道具が、猫ちゃんで成功したことだ。

その実験の時はセントバーナル様も一緒にいる時で、成功した時思わずセントバーナル様に抱きついてしまった。

すぐに気が付いて「すみません!」と言って慌てて離れたのだけど、お互い顔が真っ赤になってしまった。
 
貴族学院入学する1年くらい前から研究してきたもので、3年以上かかったけど小動物では成功することが出来た。

それをこれから人間に対しても活用出来るようにしていかなければならない。

まだ先は長いかもだけど、ひとつ成果が出て本当に叫びたいくらい嬉しかった。

セントバーナル様も自分のことのように喜んでくれたことがとても嬉しかった。


それとお母様、ヴァネッサお姉様、ミーナに何度かに渡ってセントバーナル様との婚約を勧められた。

「エンヴェは本当に鈍感ね。

わたくしの子だけど、お父様に似たのね。

私はエンヴェが決めたのなら賛成よ。

セントバーナル殿下がお相手なら何の心配もしていないわ」

とお母様に言われたりした。
お母様はあくまで私が望むのならと言ってくれているけど、それとなく勧めてくる感じだった。

私はお母様にもミーナにも散々鈍感だと言われてるけど、そうなのかな?
そうなんだろうな。

ヴァネッサお姉様とミーナが一緒に王宮に来てくれた時に。

「こんな言い方良くないかもしれないけれど、とりあえず婚約してみれば?」

とヴァネッサお姉様に言われた。

「と、とりあえず?」

そんな感じで王族と婚約していいの?
私が目を瞬かせると。

「そう、エンヴェリカが自分の気持ちに気付いていないからよ。

違うか?気付いているけどっていうのかな?」

ヴァネッサお姉様に苦笑いされながら言われる。

「自分の気持ちに気付いていない?気付いているけど?」

「もぉ!エンヴェリカはセントバーナル様のことを好きだわよね!」

ミーナにサクッと言われて。

「うっ!…そうかな?…でも…」

たぶん図星なんだ。
でもまだ何だろう?認めたくないのかな?そうだとは言えない。

「本当に鈍感なのもあるけど、余程自信がないのかしら?」

ヴァネッサお姉様に言われてしまったことは事実だ。

自信がない。
それだそれ!

「殿下と婚約しなかったら後悔しない?」

ミーナに言われて。

「後悔?」

私はセントバーナル様と婚約しなかったら後悔するんだろうか?


そんなやりとりが何度かあって、その後にヴァネッサお姉様とミーナに連れられて、ナターシャ殿下ともお会いした。

王太子妃殿下にまたお会いしたのは緊張した。
ヴァネッサお姉様の親友でとても良い方だそうで、お父様の親友のベルナールド侯爵様のご息女だから噂は昔から聞いていたから知っているといえば知っているけど、子供の頃から圧倒的に美しくてそしてとても優秀な方だと聞いていたしあまりにも遠い存在の方だと思っていたからヴァネッサお姉様より緊張する。

いや、ヴァネッサお姉様も凄いのだけど。

「エンヴェリカ嬢、そろそろセントの気持ちに応えてあげてはくれないかしら?」

とナターシャ殿下にまで言われてしまった。

「セントのこと嫌いだとか苦手ではないのよね?」

とも言われて。

「…決してそれはありません」

と答えたのだけど。

「ごめんなさい。
無理に押し付けるつもりはないのよ。

わたくしもアルに何度も婚約の申し込みがあって、ずっと断っていたわ。

承諾した時もたぶんエンヴェリカ嬢と同じような気持ちだったと思うのよ」

「殿下も同じような気持ちだったのですか?」

「ええ、逃れられないと思ったことも事実だけれど、あの時好きかと言われればね。

好きは好きでも彼ほどではなかったし、どれくらいか?友情なのか恋情なのかまだわからなかったのよね。

そんな状態で果たして婚約していいものか?って悩んだわ。

でもね、外堀を完全に埋められたのもあるけれど、今後わたくしをこれほど愛してくれて大切にしてくれる人に出会えるのだろうか?と考えたの」

ナターシャ殿下はその頃のことを思い出したのか、少し遠い目をして苦笑いした。

私はナターシャ殿下の言葉にハッとなった。

私は今まで結婚とか考えていなかった。
ずっと結婚せずに魔道具の研究をして生きていくんだと思っていた。

でももし結婚するなら?
 
この国では一夫一妻制だけど、貴族の中には昔ほどではなくなったとはいえ、今でも政略結婚が普通にあって、家の事情で自分の愛する人とは一緒になれなくて、旦那様の方にも奥様の方にも愛人がいたりすると聞いたことがある。

でもうちのお父様とお母様は一途にお互い愛し合っている。

国王陛下と王妃殿下もそうだしヴァネッサお姉様のところもそうだ。

王太子殿下とナターシャ殿下もそうみたい。

やっぱり結婚するのだったらお互い一途に愛し合って大切にし合う存在がいいな。

それは私にとってセントバーナル様なの?

でも他の人なんて想像も出来ないな。

「セントから聞いてると思うけど、身分のことは考えなくてもいいわ。

セントとエンヴェリカ嬢、貴方の気持ちが一番大事なのよ」

「はい…」


家族やミーナ、ヴァネッサお姉様そしてナターシャ殿下にも説得されて私はいつでもこのままではいけないと思いセントバーナル様に相談することにした。

「あの…セントバーナル様、ヴァネッサお姉様たちにとりあえず婚約してみれば?という言い方をされたんですけど?」
 
「うん、エンヴェリカはとりあえずなんて駄目だと思っているんですよね?」
 
セントバーナル様の真剣な眼差しにトクンとなる。

「はい…セントバーナル様は第二王子殿下で王族の方なので、とりあえずなんて気持ちで婚約はしてはいけないと思っています」

私は正直な気持ちを告げる。

「私は今はそれで構わないですよ。

それでもエンヴェリカと婚約したいです」

セントバーナル様が微笑むけど真剣な表情のままだ。

「えっ?でも…」
 
「エンヴェリカは一度婚約してしまったらもう引き返せないと思っているんですよね?」
 
「はい…」

私は頷く。

「例え、王族であっても婚約してから解消することはあります。

それは貴族や平民と同じことで婚約してから家の事情だったり、お互いの気持ちの変化で解消に至ることはあります。

ですが、エンヴェリカの思う通り瞳の継承者、特に王族の婚約はそんなに簡単に解消出来ないのも事実です。

私はエンヴェリカしかいないと思っていますし、今後もその気持ちは変わりません。

ですが、もしエンヴェリカがやっぱりやめたいと思ったのなら婚約を白紙に戻せます。

私がそう出来るようにします。

解消ではなく白紙です。

そうなれば、どちらの責任も発生しません。

私はそれでも構わないです」

セントバーナル様の真剣な表情、そこまで言わせてしまっていることに私は本当に申し訳なくなってくる。

「どうしてそこまで…」

「私はエンヴェリカを愛しているからです。 

何よりエンヴェリカに幸せになって欲しいと心から思っています。

エンヴェリカが幸せになるのに私が側にいたい、ずっと隣にいたいと思っていますが、でもエンヴェリカが私の側にいることが幸せではないのなら私はエンヴェリカの幸せを一番に望みます」

セントバーナル様の言葉に私はポロッと涙が出てきた。

「えっ?どうしたんですか?
エンヴェリカ大丈夫ですか?」

セントバーナル様と向かい合って座っていたけど、慌ててセントバーナル様が隣に来て手の平で私の涙を拭ってくれて、私の手をキュツと握ってくれた。

そのことに私の胸がキュンっとなった。

ナターシャ殿下の言葉を思い出す。
今後これほど私のことを愛して大切にしてくれる人が現れるのか。

私は間違いなくセントバーナル様のことが好きなんだ。

でも私でいいのだろうか?という思いもある。

「そんなに重大なことだと考えなくていいんですよ。

私もみなもエンヴェリカの気持ちをわかっているつもりです。

エンヴェリカの気持ちを一番に尊重したいと思っています。

でもそれでも婚約して欲しいというのは矛盾しているでしょうか?

王族なので、婚約発表は大々的になるのは仕方ないことです。

ですが、後に婚約が白紙になったとしてもエンヴェリカにも家族にも影響がないようにすることは約束します。

エンヴェリカが今まで通りに暮らせるように、魔術研究所に入りたいならそう出来るようにします」

「…セントバーナル様、本当に私なんかでいいのですか?」

私は自分に自信がないのだ。
やっぱり私がセントバーナル様の婚約者に相応しいとは思えない。

「私なんかなんて言わないで下さい。

私は何度でも言います。

私の婚約者はエンヴェリカしか考えられないです。

私はエンヴェリカを愛しています。

私にとって相応しい方はエンヴェリカ以外にいません。

私はエンヴェリカだから婚約したいのです」

「セントバーナル様…」

私は目を潤ませてセントバーナル様を見つめる。

「エンヴェリカは私では駄目ですか?」

「そんなことはありません!
勿体ない程のことです」

私は首を横にブンブンと振る。

「もう少し気軽に考えてくれませんか?

私がエンヴェリカとの婚約を望んでいます。

それだけなんです」

「…セントバーナル様よろしくお願い致します」

私はとうとう首を縦に振って頷いた。
セントバーナル様、ミーナやヴァネッサお姉様に説得されて流されてしまった感は否めない。

私はまだ私はなんかでは…と思っている。

でも私も間違いなくセントバーナル様のことが好きなんだと思う。
それがどれくらいのものかわからない。

でもこれほどまでにセントバーナル様が私を思って言って下さっているんだ。

私も一歩踏み出そうと思う。

「エンヴェリカ!」

セントバーナル様にキュッと抱きしめられた。

「あっ!あの…」

どうしようと思いながらも胸があったかくなったように私は感じた。


3の月になってからお父様とお母様が王宮に来てくれて、大神殿に国王陛下と王妃殿下、セントバーナル様と共に行って婚約申請書を提出して婚約の調印式は終わった。

先に大神殿での婚約の届け出を先にした形だ。

そしてセントバーナル様と私の婚約が正式に成立したことが発表されたらしい。

私は王宮にずっといるので、外の状況はわからないけど自分で決めたことだ。

まだ私なんかとは思っているけど、覚悟を決めた。

婚約式は8の月の学院がお休みの時に行われることになった。


4の月になり、私は王宮に滞在したまま学院に復学することになった。






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