地味に見せてる眼鏡魔道具令嬢は王子の溺愛に気付かない

asamurasaki

文字の大きさ
上 下
29 / 78

ニ十六話 婚約の承諾と婚約発表

しおりを挟む

 


ウォンタートル伯爵家を訪問してからも王宮で、教育を受けながら私は魔道具の研究もしながら過ごしていた。

ミーナやヴァネッサお姉様や私の家族も訪ねてきてくれたりして、忙しいながらも充実した日々を送っている。

ひとつ良い事があった。
2の月に入ってから私が研究している身体状態を調べる魔道具が、猫ちゃんで成功したことだ。

その実験の時はセントバーナル様も一緒にいる時で、成功した時思わずセントバーナル様に抱きついてしまった。

すぐに気が付いて「すみません!」と言って慌てて離れたのだけど、お互い顔が真っ赤になってしまった。
 
貴族学院入学する1年くらい前から研究してきたもので、3年以上かかったけど小動物では成功することが出来た。

それをこれから人間に対しても活用出来るようにしていかなければならない。

まだ先は長いかもだけど、ひとつ成果が出て本当に叫びたいくらい嬉しかった。

セントバーナル様も自分のことのように喜んでくれたことがとても嬉しかった。


それとお母様、ヴァネッサお姉様、ミーナに何度かに渡ってセントバーナル様との婚約を勧められた。

「エンヴェは本当に鈍感ね。

わたくしの子だけど、お父様に似たのね。

私はエンヴェが決めたのなら賛成よ。

セントバーナル殿下がお相手なら何の心配もしていないわ」

とお母様に言われたりした。
お母様はあくまで私が望むのならと言ってくれているけど、それとなく勧めてくる感じだった。

私はお母様にもミーナにも散々鈍感だと言われてるけど、そうなのかな?
そうなんだろうな。

ヴァネッサお姉様とミーナが一緒に王宮に来てくれた時に。

「こんな言い方良くないかもしれないけれど、とりあえず婚約してみれば?」

とヴァネッサお姉様に言われた。

「と、とりあえず?」

そんな感じで王族と婚約していいの?
私が目を瞬かせると。

「そう、エンヴェリカが自分の気持ちに気付いていないからよ。

違うか?気付いているけどっていうのかな?」

ヴァネッサお姉様に苦笑いされながら言われる。

「自分の気持ちに気付いていない?気付いているけど?」

「もぉ!エンヴェリカはセントバーナル様のことを好きだわよね!」

ミーナにサクッと言われて。

「うっ!…そうかな?…でも…」

たぶん図星なんだ。
でもまだ何だろう?認めたくないのかな?そうだとは言えない。

「本当に鈍感なのもあるけど、余程自信がないのかしら?」

ヴァネッサお姉様に言われてしまったことは事実だ。

自信がない。
それだそれ!

「殿下と婚約しなかったら後悔しない?」

ミーナに言われて。

「後悔?」

私はセントバーナル様と婚約しなかったら後悔するんだろうか?


そんなやりとりが何度かあって、その後にヴァネッサお姉様とミーナに連れられて、ナターシャ殿下ともお会いした。

王太子妃殿下にまたお会いしたのは緊張した。
ヴァネッサお姉様の親友でとても良い方だそうで、お父様の親友のベルナールド侯爵様のご息女だから噂は昔から聞いていたから知っているといえば知っているけど、子供の頃から圧倒的に美しくてそしてとても優秀な方だと聞いていたしあまりにも遠い存在の方だと思っていたからヴァネッサお姉様より緊張する。

いや、ヴァネッサお姉様も凄いのだけど。

「エンヴェリカ嬢、そろそろセントの気持ちに応えてあげてはくれないかしら?」

とナターシャ殿下にまで言われてしまった。

「セントのこと嫌いだとか苦手ではないのよね?」

とも言われて。

「…決してそれはありません」

と答えたのだけど。

「ごめんなさい。
無理に押し付けるつもりはないのよ。

わたくしもアルに何度も婚約の申し込みがあって、ずっと断っていたわ。

承諾した時もたぶんエンヴェリカ嬢と同じような気持ちだったと思うのよ」

「殿下も同じような気持ちだったのですか?」

「ええ、逃れられないと思ったことも事実だけれど、あの時好きかと言われればね。

好きは好きでも彼ほどではなかったし、どれくらいか?友情なのか恋情なのかまだわからなかったのよね。

そんな状態で果たして婚約していいものか?って悩んだわ。

でもね、外堀を完全に埋められたのもあるけれど、今後わたくしをこれほど愛してくれて大切にしてくれる人に出会えるのだろうか?と考えたの」

ナターシャ殿下はその頃のことを思い出したのか、少し遠い目をして苦笑いした。

私はナターシャ殿下の言葉にハッとなった。

私は今まで結婚とか考えていなかった。
ずっと結婚せずに魔道具の研究をして生きていくんだと思っていた。

でももし結婚するなら?
 
この国では一夫一妻制だけど、貴族の中には昔ほどではなくなったとはいえ、今でも政略結婚が普通にあって、家の事情で自分の愛する人とは一緒になれなくて、旦那様の方にも奥様の方にも愛人がいたりすると聞いたことがある。

でもうちのお父様とお母様は一途にお互い愛し合っている。

国王陛下と王妃殿下もそうだしヴァネッサお姉様のところもそうだ。

王太子殿下とナターシャ殿下もそうみたい。

やっぱり結婚するのだったらお互い一途に愛し合って大切にし合う存在がいいな。

それは私にとってセントバーナル様なの?

でも他の人なんて想像も出来ないな。

「セントから聞いてると思うけど、身分のことは考えなくてもいいわ。

セントとエンヴェリカ嬢、貴方の気持ちが一番大事なのよ」

「はい…」


家族やミーナ、ヴァネッサお姉様そしてナターシャ殿下にも説得されて私はいつでもこのままではいけないと思いセントバーナル様に相談することにした。

「あの…セントバーナル様、ヴァネッサお姉様たちにとりあえず婚約してみれば?という言い方をされたんですけど?」
 
「うん、エンヴェリカはとりあえずなんて駄目だと思っているんですよね?」
 
セントバーナル様の真剣な眼差しにトクンとなる。

「はい…セントバーナル様は第二王子殿下で王族の方なので、とりあえずなんて気持ちで婚約はしてはいけないと思っています」

私は正直な気持ちを告げる。

「私は今はそれで構わないですよ。

それでもエンヴェリカと婚約したいです」

セントバーナル様が微笑むけど真剣な表情のままだ。

「えっ?でも…」
 
「エンヴェリカは一度婚約してしまったらもう引き返せないと思っているんですよね?」
 
「はい…」

私は頷く。

「例え、王族であっても婚約してから解消することはあります。

それは貴族や平民と同じことで婚約してから家の事情だったり、お互いの気持ちの変化で解消に至ることはあります。

ですが、エンヴェリカの思う通り瞳の継承者、特に王族の婚約はそんなに簡単に解消出来ないのも事実です。

私はエンヴェリカしかいないと思っていますし、今後もその気持ちは変わりません。

ですが、もしエンヴェリカがやっぱりやめたいと思ったのなら婚約を白紙に戻せます。

私がそう出来るようにします。

解消ではなく白紙です。

そうなれば、どちらの責任も発生しません。

私はそれでも構わないです」

セントバーナル様の真剣な表情、そこまで言わせてしまっていることに私は本当に申し訳なくなってくる。

「どうしてそこまで…」

「私はエンヴェリカを愛しているからです。 

何よりエンヴェリカに幸せになって欲しいと心から思っています。

エンヴェリカが幸せになるのに私が側にいたい、ずっと隣にいたいと思っていますが、でもエンヴェリカが私の側にいることが幸せではないのなら私はエンヴェリカの幸せを一番に望みます」

セントバーナル様の言葉に私はポロッと涙が出てきた。

「えっ?どうしたんですか?
エンヴェリカ大丈夫ですか?」

セントバーナル様と向かい合って座っていたけど、慌ててセントバーナル様が隣に来て手の平で私の涙を拭ってくれて、私の手をキュツと握ってくれた。

そのことに私の胸がキュンっとなった。

ナターシャ殿下の言葉を思い出す。
今後これほど私のことを愛して大切にしてくれる人が現れるのか。

私は間違いなくセントバーナル様のことが好きなんだ。

でも私でいいのだろうか?という思いもある。

「そんなに重大なことだと考えなくていいんですよ。

私もみなもエンヴェリカの気持ちをわかっているつもりです。

エンヴェリカの気持ちを一番に尊重したいと思っています。

でもそれでも婚約して欲しいというのは矛盾しているでしょうか?

王族なので、婚約発表は大々的になるのは仕方ないことです。

ですが、後に婚約が白紙になったとしてもエンヴェリカにも家族にも影響がないようにすることは約束します。

エンヴェリカが今まで通りに暮らせるように、魔術研究所に入りたいならそう出来るようにします」

「…セントバーナル様、本当に私なんかでいいのですか?」

私は自分に自信がないのだ。
やっぱり私がセントバーナル様の婚約者に相応しいとは思えない。

「私なんかなんて言わないで下さい。

私は何度でも言います。

私の婚約者はエンヴェリカしか考えられないです。

私はエンヴェリカを愛しています。

私にとって相応しい方はエンヴェリカ以外にいません。

私はエンヴェリカだから婚約したいのです」

「セントバーナル様…」

私は目を潤ませてセントバーナル様を見つめる。

「エンヴェリカは私では駄目ですか?」

「そんなことはありません!
勿体ない程のことです」

私は首を横にブンブンと振る。

「もう少し気軽に考えてくれませんか?

私がエンヴェリカとの婚約を望んでいます。

それだけなんです」

「…セントバーナル様よろしくお願い致します」

私はとうとう首を縦に振って頷いた。
セントバーナル様、ミーナやヴァネッサお姉様に説得されて流されてしまった感は否めない。

私はまだ私はなんかでは…と思っている。

でも私も間違いなくセントバーナル様のことが好きなんだと思う。
それがどれくらいのものかわからない。

でもこれほどまでにセントバーナル様が私を思って言って下さっているんだ。

私も一歩踏み出そうと思う。

「エンヴェリカ!」

セントバーナル様にキュッと抱きしめられた。

「あっ!あの…」

どうしようと思いながらも胸があったかくなったように私は感じた。


3の月になってからお父様とお母様が王宮に来てくれて、大神殿に国王陛下と王妃殿下、セントバーナル様と共に行って婚約申請書を提出して婚約の調印式は終わった。

先に大神殿での婚約の届け出を先にした形だ。

そしてセントバーナル様と私の婚約が正式に成立したことが発表されたらしい。

私は王宮にずっといるので、外の状況はわからないけど自分で決めたことだ。

まだ私なんかとは思っているけど、覚悟を決めた。

婚約式は8の月の学院がお休みの時に行われることになった。


4の月になり、私は王宮に滞在したまま学院に復学することになった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...