地味に見せてる眼鏡魔道具令嬢は王子の溺愛に気付かない

asamurasaki

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二十ニ話 殿下と私お話をする

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ヴァネッサお姉様とミーナが帰ってから殿下が学院から王宮に戻って私が滞在してる部屋に来てくれた時に。

「殿下、夜に私からお話があります」

と私はドキドキしながら言った。

「エンヴェリカ嬢、今日はヴァネッサ夫人とミーナ嬢の訪問があったんですよね?

何かあったんですか?」

と私の表情を見た殿下が心配そうな顔をして聞いてこられた。

「夜に少し時間を下さい。
その時にお話します」

「…わかりました」

殿下はそう返事しつつも気になっているのか、何度か私を振り返りながら部屋を出て行った。


夜、食事も湯浴みも済ませてから殿下が来るのを待つ間、いつもとは違う緊張感で落ち着かなくて意味もなく部屋をウロウロとしてしまう。

ヴァネッサお姉様とミーナに言われて、私は殿下のことを男性として意識しているんだと思うと胸の鼓動が早くなってソワソワしてしまう。

そんな経験を今までしたことがないから自分が本当に殿下のことを男性として意識しているのか?わからなかったりする。

でも殿下のことをヴァネッサお姉様とミーナに話していて、私は泣いてしまった。

殿下の様子がおかしいことに不安になってしまった。

それってやっぱりそういうことなんだろうか?

いつもは殿下に私の話を聞いてもらうことが多い。
殿下が私の話を聞きたいと言って下さるので、私はそれに甘えていた。

でも今日は殿下自身のお話をちゃんと聞こうと思う。


コンコンとノック音がして、殿下が部屋に入ってこられた。

クララに合図をして、お茶を用意してもらう。

殿下が部屋のソファに座ってから私は向かいに座った。

そしてお茶をクララが用意してくれてからクララとストレンダー様に部屋を出て行ってもらった。

扉を少し開けて、殿下と二人きりになる。

夜はいつも二人きりだけど、今日は自分の気持ちのこともあって戸惑ってソワソワしてしまう。

「エンヴェリカ嬢本当にどうしたんですか?
何かあったんですか?」

殿下がまた不安そうな顔をしている。

駄目だ!殿下を不安にさせている。
ちゃんと殿下のお話を聞かなければ!


私は不安と緊張で、喉の乾きを感じてお茶を口に含む。

「殿下、あの…一度夜に殿下が来れないとおっしゃった次の日から殿下が、その…様子がおかしいと私は感じていて…殿下は私のことが迷惑なんじゃないかと思いまして…」

「そんなことはない!
私はエンヴェリカを迷惑だなんて思ったことなど一度もないです!」

殿下が身を乗り出して、私の瞳を覗き込むようにして強く言われた。

殿下があの事件の直後のように必死な顔をして私を見てくる。

「殿下、数日ぶりに私の目を見てくれましたね」

「えっ?」

私が言うと、殿下は目を見開いた。

「殿下が私の目を見てくれないようになって、どこか余所余所しくなられたように私は感じて…。

殿下が私が甘えて、厚かましいところを嫌になって迷惑しているんじゃないかと思って、それなら私は王宮を出て行った方がいいと思っていまして…」

「ち、違う!違うんだエンヴェリカ嬢。

決してそんなことはないです!
本当なんだ!

王宮を出て行くなんて言わないで下さい!

ちゃんとちゃんと話すから待って下さい」

殿下が必死に私に訴えてくるのを見て、私は目が潤んできた。

でもちゃんと話を聞く為に泣くまいと堪える。

「エンヴェリカ嬢、実は私が夜にそなたに会えないと言った日は事件のことで、スペンサー殿やジョルジュたちと集まって会合をしていたんです」

殿下がゆっくりとした口調で私の目を見つめながら話す。

「事件についての会合ですか?」

私も殿下の目を見つめ返しながら話を聞く。

「ええ、事件の進捗状況などを話し合っていたんです。

正直なところを言いますと、解決に向けてまだそんなに進んではいません」

「そうなんですね」

私は殿下が話してくれていることに、しっかりと私の目を見つめてくれていることに少し安心する。

事件のことを思い出すとまだ恐怖心がないとは言えないけど、今は殿下がどうして様子がおかしくなってしまったかの方が気になる。

「会合には私の兄上、王太子殿下もいてですね、…その、…」

「?」

殿下が言い淀んでいる。
やっぱり私には言いたくないことなのかな?

「私に言い難いことなら言わなくても大丈夫ですよ?」

すると殿下は首を横に振る。

「いや、エンヴェリカ嬢、そなたに大いに関係することなんです。

…兄上と話をしてエンヴェリカ嬢には3年生に上がるまで学院を休学してもらって、3年生から復学してもらおうという話になってまして…」

今、10の月だから3年生になるまでって結構長い間休学しないといけないんだけど?

えっ?私進学出来るのかな?

「私の進学のことを心配してくれているのですか?」

「いや、それは心配ないです。

これから王宮で授業を受けてもらって、試験も王宮で出来ますからエンヴェリカ嬢も心配しないで下さい。

実はもう手配はしてますので、そなたが両親とゆっくりしてもらった後と思っていたのです」

ん?学院のことでなければ何のことなんだろう?

それとそこまで王宮でしてもらうなんて申し訳ない。

「殿下、私授業も試験も受けに学院に行きます」

「それは駄目です。

事件がまだ解決していないですから。

あの、エンヴェリカ嬢突然ですが私と婚約して下さいませんか?」

「えっ?」

あのオマール様の事件の後、王宮のこの部屋で殿下に告白された時に、婚約者になって欲しいと言われたけど、今婚約するということ?

何で突然に?

「エンヴェリカ嬢に大いに関係するとは婚約のことです。

私はエンヴェリカ嬢以外と婚約、結婚するつもりはありません。

最初はエンヴェリカ嬢が私を好きになってもらってからそなたの了得て承婚約してもらおうと思ってました。

でも少しでも私のことを思ってくれているのならば、すぐにでも婚約して欲しいと私は思っています」

「えっ?…すぐにですか?」

殿下は私の目を一切逸らさずに見つめてくる。

「急に言って本当にすみません。


兄上から私がエンヴェリカ嬢と婚約するつもりなら早くした方がいいと言われまして…あっでも兄上に言われたからでは決してないですよ。

私はずっと前から考えていました。

私がエンヴェリカ嬢を一刻も早く婚約者にしたいと思ったのを兄上が汲み取って言ってくれたことなんです。

3年生になってエンヴェリカ嬢が復学する時に私の婚約者になっていて欲しいと私は思っています」

えっと展開が急過ぎてついて行けない…。

「殿下、殿下と私とでは身分が全然釣り合わないですよね?」

「まったくそんなことはありません。

身分のことは気にしないで下さい。

父上である国王陛下も私が愛する人なら身分は気にしないと言ってくれています。

それに私たち瞳の継承者は歴代から身分にも相手の魔力量にも拘りはないのです。

瞳の継承者が真に愛する者と添い遂げることこそが一番重要なのです。
 
それで私の様子がおかしかったことですが、エンヴェリカ嬢にいつ婚約のことを言おうか悩んでいたからなんです!」

殿下が私の目を一心に見つめてきて真剣さが伝わってきた。

それで様子がおかしかったのだとわかり少し安心した。

「で、でもあまりにもいきなりで…」

私は驚いて戸惑ってしまい、そして顔が熱くなって何と言っていいかわからない。

「エンヴェリカ嬢本当にすみません。
あの時に考えておいて欲しいとを言っておきながらすぐにでもなんて言いまして…。

そなたが3年生で復学する時に私の婚約者になっていて欲しいという私の我儘です。

すぐにと言って何ですが、まだ3年生になるまでは時間があります。

それまでに返事をくれませんか?

エンヴェリカ嬢を不安にさせたこと謝罪します。

申し訳ありません」

「い、いえっ、殿下が謝罪することではありません。

頭を下げるのはやめて下さい。

でも私などが殿下の婚約者になるということに自信がありません」

私は殿下が頭を下げて謝罪されるのを慌てて止めようとした。

そして自分の正直な気持ちを告げた。

「エンヴェリカ嬢は私のことを嫌いなのですか?」

「いえ!そんなことはありません!

ヴァネッサお姉様とミーナに殿下を男性と意識していると言われました!

あっ!…」

言ってしまってから、何てことを口走ってしまったんだとカァッと顔が熱くなって慌てて俯いた。

「そうですが…では婚約者になって頂ける可能性が大いにあると思っていいですね。

エンヴェリカ嬢私はもう遠慮しません。
まだ時間もあります。

必ずそなたに私の婚約者になると言わせてみせます。

覚悟しておいて下さいね」

そう言って笑顔になった殿下の金の瞳がギラッと光ったように見えた。

「えっと…覚悟?…ええええ」

私はどう返事をしていいかわからず、声を張り上げてしまった。

殿下がニッコリと輝くような笑顔をしているのを呆気に取られながらも自分の顔が真っ赤になっているだろうなと思いながら、恥ずかしさにまた俯いてしまった。


☆★☆


セントバーナルside


夜にエンヴェリカに話があると言われていったいどんな話なんだろうと不安になりながら部屋を訪れて聞いてみれば、私の様子がおかしいとエンヴェリカを不安にさせていたようだ。

王宮から出て行かなければならないとまで思い詰めていたようで、慌ててそうじゃないとあの夜に会合があった経緯をすべてではないけど、掻い摘んで話した。

私は事件がまだ解決していないことはエンヴェリカに話したが、婚約してエンヴェリカを囮にするようなことは言いたくなかった。

だから言わなかった。

でも私の態度でエンヴェリカが誤解していたことに対してはちゃんと正しておきたくて、エンヴェリカにすぐにでも婚約者になってもらいたいことをなかなか言い出せなかったことにした。

嘘ではない、婚約者になって欲しいことを言ったけれど、すぐにでもとは言い出せなかったことは事実だ。

エンヴェリカを囮にすることになることは言わずに、3年生になってエンヴェリカが復学する時に私の婚約者になっていて欲しいと言った。

エンヴェリカが復学する直前に私と婚約して大々的に発表した方が国内や学院のみなに周知されること、婚約者になってくれた方が学院で私がエンヴェリカを守るのに都合が良いというのもある。

でもそれはエンヴェリカには言わなかった。
言うとまた彼女が変なふうに誤解しそうだと思ったからだ。

エンヴェリカは身分が釣り合わないと言っていたけれど、ヴァネッサ夫人とミーナと会って私を男性として意識していると言われて、自分の気持ちに戸惑っているようだった。

思わず口走ったようで、顔を赤くして俯くエンヴェリカは可愛いかった。

それにそれを聞いて凄く嬉しかった。

エンヴェリカが私のことを少なからず思ってくれているのは感じていたけれど、周りからエンヴェリカがそう見えてると聞けたことに私は勇気が出てきた。

エンヴェリカはまだ自分で自覚するに至っていないようだけど、これから私はエンヴェリカを落とす為に自分の気持ちを伝え続けていこう。

そして何としてもエンヴェリカを守ると固く決意した。

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