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二十五話 ミーナとミーナの家族と殿下と私 ③

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ウォンタートル伯爵様に案内してもらってある部屋に入った。

応接室だろうけど、狭いなんてとんでもない。
うちの応接室より何倍もの広ろさで瀟洒で落ち着いた雰囲気の素敵なお部屋だ。

伯爵家だからしがない子爵家のうちと比べるのは失礼だわ。


ウォンタートル伯爵領は北東方面なので、年中比較的温暖な王都と比べて冬の季節である今は外はかなり寒いそうなのだけど、応接室には暖炉がありワイン色の素敵な模様のフカフカの毛の長い絨毯が敷かれていて、足元がとにかく温かい。

絨毯のお陰だけじゃないかも?
魔道具かな?どんなものだろ?
床全体を暖められるものだろうか?それとも人や生き物の魔力を感知して温めるものだろうか?

あっいけない。
ついつい魔道具のことが気になってしまった。

セントバーナル様と私が部屋の奥のソファに案内された。

えっと私はセントバーナル様の隣に案内されたんだけど、まだ婚約者でもないのに駄目なんじゃ?と困ってウォンタートル伯爵様を見たけど、ニッコリ穏やかな笑みを見せておられる。

「さあ、エンヴェリカ座らせて頂きましょう」

とセントバーナル様が言ってさっさと座ったので、セントバーナル様の後にみなさんが座ったので、私は一番後に座った。

えっ?セントバーナル様の隣?と思うととても緊張してきた。

大きくて長いテーブルにはケーキや焼き菓子、サンドイッチ等がもう用意されていた。

侍女たちがお茶を用意して部屋の隅に立った。
ミーナのお母様とお義姉様は明らかに緊張しておられる。

セントバーナル様が徐ろに言葉を発した。

「ありがとうございます。
頂きます、ところでイサーク殿には息女がいるんではなかったですか?」

イサーク様はミーナ様のお兄様で、伯爵様と同じブラウブロンドの髪に青い瞳をされているが、顔はブロンドの髪に緑の瞳のミーナと同じ色をしてキリッとした美しさのお母様に似ておられて、キリッとされた美形だ。

「はい、もうすぐ3歳になる娘がおりますが、まだ幼いので殿下の御前に立てるような礼儀をまだ弁えておりませんので…」

「名はレナリア嬢でしたね。
構わないですよ、私は家族みなさんにお会いしたいです」

「そうですか、殿下ご配慮ありがとうございます。
では娘も連れて参ります」

イサーク様が席を立ち、部屋を出て行った。
イサーク様もとても優雅な所作だ。


しばらくすると扉がノックされ、ブラウンブロンドの髪に琥珀色の大きな瞳をした色白の可愛らしい少女がイサーク様に抱っこされて入ってきた。

イサーク様は部屋に入ってからレナリア様を下ろして。

「レナリア、セントバーナル第二王子殿下がお越しになっている。

ご挨拶なさい」

「は~い、レナリア・うぉーんたーとるでございましゅ!」

ウォンタートルが言い難うそうだったけど、一生懸命自己紹介してドレスの裾をチョンと摘んで可愛いカーテシーをした。

本当に可愛い。
溢れそうな大きな瞳はウォンタートル伯爵様とミーナにどことなく似ている。

イサーク様の奥様でミーナのお義姉様のカレーナ様は茶色のフワフワした腰まである長い髪に琥珀色の瞳で、ミーナのお母様のようにキリッとした美人な方で、
レナリア様の瞳はカレーナ様を受け継いでいるようだ。

「セントバーナル・ジークシルードです。
レナリア嬢よろしく」

「わぁ~きれ~ぃ!おうじしゃま!」

レナリア嬢がセントバーナル様を見て嬉しそうにタタッとセントバーナル様の方へ駆け出した。

「こ、こら!レナリア!待ちなさい!
殿下申し訳ありません!」

イサーク様が焦ってレナリア様を止めようとしたけど、レナリア様が走り出す方が早かった。

「構いませんよ。
レナリア嬢、一緒にケーキ食べましょうか」

「けーきたべゆ~」

セントバーナル様が立ってレナリア様の両脇をヒョイと持って、セントバーナル様と私の間に座らせた。

イサーク様もウォンタートル伯爵様、ミーナのお母様、お義姉様が目を見開いて驚いてどうしましょう?という顔になっている。

「ふふっ、レナリア良かったわね。
本物の王子様よ」

ミーナはまったく気にした素振りもなく、楽しそうに笑いながらレナリア様に声をかける。

「ほんもののおうじしゃま~」

レナリア様が嬉しいそうにキャッキャッとはしゃぐ。

「そうね~レナリアがお母様に読んでもらってる絵本の王子様そのものね」

ミーナがレナリア様に向かっウィンクすると、レナリア様は「うん!」と言って純粋なキラキラした瞳でセントバーナル様を見ている。

確かにセントバーナル様は美しい。
絵本を私は見たことはないけど絵本に登場する王子様そのものと言われたら納得である。

セントバーナル様はレナリア様にどのケーキが食べたいか聞いて、それをフォークで小さく切り分けて食べさせてあげている。

最初はどうしよう?オロオロとしていたウォンタートル伯爵様たちも無邪気なレナリア様とにこやかに答えるセントバーナル様を見ていて、相好を崩す。

セントバーナル様ってこんなに小さい子の面倒見が良いんだ。
意外だなと私は思った。

最初は学院では私と同じで誰にも興味を示されない人のようだったからだ。

セントバーナル様と親しくなってとても優しい方だと知ったけど。

また新しい面を見れたななんて思いながら私も綻ぶ口元を隠すようにケーキを口に運ぶ。

そのケーキがとても甘く感じた。

レナリア様はミーナの友達だと私を紹介されて私に対しても

「えんべりゅかおね~しゃま~もきれ~ぃこのくっきーおいちぃーよ」

と私のことも綺麗と言ってクッキーを勧めてくれたりする。

ちょっと照れてしまった。

無邪気で人懐っこいレナリア様がいることで場が凄く和んだ。

レナリア様はセントバーナル様と楽しそうにお喋りしていた。
セントバーナル様はずっとにこやかだ。

しばらくレナリア様を中心に話題が尽きなかったのだけど、だんだんとオネムになってきたようでケーキを食べながらもウトウトと船を漕ぐようになってきて、イサーク様が。

「申し訳ありません。
昼寝の時間が近かったのでもう眠いようなので、乳母に連れて行ってもらおうと思います。

失礼してよろしいでしょうか?」

「そうですね、レナリア嬢また会いましょう」

セントバーナル様が微笑んで言うと。

「ふぁ~い、おうじしゃま…ムニャ」

もう半分寝かかっているレナリア様の可愛さに微笑ましくなる。

イサーク様がセントバーナル様が座るわソファまでやってきて、レナリア様を抱き上げて入口近くに立っていた乳母にレナリアを渡した。


それからはミーナと私の話になった。

「クエスベルト子爵令嬢、ミーナと仲良くして下さってわたくし本当に感謝しているのよ」

とミーナのお母様が言って下さった。

「とんでもありません。

私の方がミーナ様によくして頂いて有り難いと思っております」

と答えると。

「いえいえ、最初学院ではミーナはジョルジュ様以外とは誰も話す人がいないと言っていたのよ。

それが助けてくれたとても良い令嬢がいて、とても仲良くしてもらっていると聞いてわたくし心配していたのですけど、とても安心したのですよ。

本当にありがとう」

ミーナのお母様はキリッとした美しい方だけど、とても柔らかく人懐っこくて無邪気な感じがして、ミーナはお母様に性格が似てるのかなと思った。

「ええ、お義母様はミーナのこと心配しておりましたものね。

ミーナは幼い頃は本当に内気で、すぐ泣いてしまう子だったから学院行って上手くやっていけるかってね」

「もうお義姉様やめて~。

幼い頃のことなんてエンヴェリカ知らないんだから」

ミーナがお義姉様の言葉に少し顔を赤くして口を尖らせる。

「ふふっ意外です。

ミーナ様はとてもしっかりしていると思ってましたから」

「ミーナがしっかりしているですってあなた」

ミーナのお母様が旦那様のウォンタートル伯爵様を見てふふっと笑う。

「ミーナの幼い頃はヴァネッサとジョルジュの後をずっとついて回ってヴァネッサの後ろに隠れているような子だったのにねえ。

成長したんだね」

ウォンタートル伯爵様が感慨深いような優しい目でミーナを見てる。

ミーナはご家族に愛されて育ったんだなと凄くわかる。

「もぉ~確かに幼い頃はヴァネッサお姉様とジョルジュがいないと不安で泣いていたけど、今は大丈夫なんだから」

「ミーナ様そうなんですね」

私がニコニコしながら言うと。

「もお、エンヴェリカ!様はやめてって言っているじゃない!」

ミーナが私に向かいプンプン怒る。

「クエスベルト子爵令嬢、ミーナにはいつも通りにしてあげて下さる?

ヴァネッサ以外で初めて出来た女性の友達だって凄く喜んでいるのよ」

ミーナのお母様に言われて私は頷く。

「はい、ではそうさせて頂きます」

セントバーナル様はミーナと私の話をニコニコとしながら聞いていてくれる。

「それとわたくしがお名前を呼んでもよろしいかしら?」

「もちろんでございます。
皆様名前で呼んで下さいませ」

私が笑顔で答えると。

「まあ嬉しいわ、エンヴェリカ嬢。
また一人娘が増えたようよ」

ミーナのお母様がニコニコして言って下さる。

「そう言って頂けて私も光栄です」

「ところでここ床が温かいでしょ」

私が微笑んで答えると、イサーク様が突然言われた。

「はい、暖炉でも温かいですが、床からも熱が上がってきてますね。
魔道具でしょうか?」

私は返事する。

「こちらはね、ダベンサードル辺境伯領もそうなんだけど、冬場は王都や他の領地に比べると寒さが厳しい所なんだけど、エンヴェリカ嬢のお父上のクエスベルト子爵卿が発明して下さった魔道具のお陰で床を温かくすることが出来るようになったんだ」

「えっ?お父様の魔道具だったんですね」

床が温かいのがお父様の魔道具の発明したものだった。
お父様は多くの魔道具を開発していて、私も知っているものと、知らないものがあるけど、この魔道具は知らなかった。

「そうなんだ、クエスベルト子爵卿のお陰で住みやすくなったんだよ。

部屋全体を温かくするものと、人や生き物の魔力を感知するものがあるのだけど、うちのは人の魔力を感知するものなんだ」

「そう言って頂いてありがとうございます」

お父様の魔道具の開発のことを直に使用している方たちの話を聞けて嬉しくなる。

こちらのものは人の魔力を感知して温かくなるものなんだ。

そちらの方が手が込んだ魔道具のはずで高価なはずだ。

さすがは伯爵家だな。
魔道具のことを話したいけど、話しだすと止まらなくなりそうで私は堪えた。

「本当にクエスベルト子爵卿の功績は大きいね。
陛下も王立魔術研究所を任せようとなさっていたけど、クエスベルト子爵卿が領地から離れたくないと言われたようで…」

ウォンタートル伯爵様が言った通りお父様は領地が出ようとしないからね。

「そうですね、お父様は領地で魔道具の研究をしている方が幸せな人ですので」

「エンヴェリカ嬢も魔道具の研究をしているとミーナから聞いているけども素晴らしいことだね」

ウォンタートル伯爵様はそう言って下さるけど、私なんかお父様に比べたらまだまだだ。

「私などはまだまだなんです」

私は肩を竦める。

「そんなことないわよ。

エンヴェリカも凄いのよ!
防御魔法の魔道具とか簡単に作れるんだから」

ミーナが何故か胸を張って言う。

「防御魔法の魔道具は簡単なんで…」

私が言うと皆様がキョトンとされる。
どうしてかしら?

「エンヴェリカはお父上と兄上を見ているからそう言うんですよ。

魔道具など簡単に作れるものではないんですよ」

ずっと黙って皆様の話を聞いていたセントバーナル様が笑って私の顔を見ながら言う。

「そうだよ!防御魔法の魔道具を簡単なんて普通は言わないよ」

イサーク様が苦笑いする。

あれ?そうなの?
私は首を傾げる。

「エンヴェリカは普通じゃないのに普通だと思っているのよ」

ミーナも呆れたように笑う。


終始和やかにウォンタートル伯爵家の皆様とお話して、昼食も頂いてから夕方まで滞在させて頂いて、ジョルジュ様に迎えにきてもらってセントバーナル様と共に王宮に戻った。


王宮に戻ってから部屋で少しセントバーナル様とお話した時に。

「セントバーナル様は小さいお子様がお好きなのですね」

と私が聞くと。

「そんなことはないですよ。

確かに苦手だとかそういうことはありませんが、あれくらいの年齢の方と接する機会は今までから妹くらいしかありませんでしたから好きかどうかはわかりません」

「そうなんですか?」

ちょっと驚く。
あんなに優しく甲斐甲斐しくしてたのに。

「…正直に言うと点数稼ぎでしょうか…」

珍しくセントバーナル様の声が小さくなっていく。

途中から聞こえなくなってしまった。

「ん?セントバーナル様?」

「エンヴェリカに良く思われたいと思ったからですよ」

「!?…」

セントバーナル様の言葉を聞いて聞き返すんじゃなかったと思った。

私は顔が赤くなってプイッと顔をセントバーナル様から反らした。

セントバーナル様がふふっと笑ったような気がした。

セントバーナル様の真っ直ぐな言葉が嬉しいけど、私はまだ素直になれなかった。










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