地味に見せてる眼鏡魔道具令嬢は王子の溺愛に気付かない

asamurasaki

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二十四話 ミーナとミーナの家族と殿下と私 ②

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殿下とミーナの家族に会いに行くのは冬のお休みになってからになった。

冬のお休みは12の月の後半から約2ヶ月。
早いもので、あの時の10の月から12の月になりあっと言う間に時が過ぎて年が明けて1の月になった。

年末と年始にかけて私の家族が王宮に会いに来てくれた。
家族みんなと会えて凄く幸せで楽しい年末年始だった。

実は年始に殿下と一緒に国王陛下と王妃殿下にご挨拶をさせて頂いた。

もちろん個人的には初めてで、そもそもいち子爵令嬢がまず個人的に陛下とお会い出来ることなどない。

お父様は魔道具の表彰の後などに個人的に陛下とお会いしたことがあるようだけど、私など一生ないことだと思っていたのに王宮でお世話になっているからと殿下と一緒にご挨拶に伺わせて頂いた。

陛下も王妃殿下もとても穏やかでお優しい雰囲気の方だけど、緊張して何を話したか覚えていない。
ちゃんとカーテシー出来ていただろうか?とあとで不安になった。

陛下が「一緒に食事でもどうかな?」とおっしゃって下さったけど、陛下王妃殿下とお食事なんてとんでもない!

でも私が断れるはずもなく、どうしようと思っていたらセントバーナル様が。

「それはまたの機会にお願い致します」

と断ってくれて心底ホッとした。

緊張で何を話したか覚えていないくらいなのに、お食事を一緒になんて何か粗相しそうで怖かったから良かったよ~。


それから続いて王太子殿下と王太子妃ナターシャ殿下にもご挨拶させて頂いた。

陛下王妃殿下同様に緊張していたのだけど、それよりもっと緊張して胃が痛くなった。

セントバーナル様が陛下の時とは全然違って、何というか態度がおざなりで…。

ナターシャ妃殿下に対してはにこやかな気安い態度なのだけど、お兄様の王太子殿下には本当におざなりな態度で本当に良いの?と思った。

それでも王太子殿下はまったく気にしていないようで、ニコニコしていらっしゃる。

「セントが幼い頃はお兄様、お兄様って私の後をついて歩いてたのにね~。
それがそんな態度を取るようになるなんて~お兄様泣いちゃう~」

と王太子殿下は泣き真似をしていらっしゃるが、絶対楽しんでいらっしゃる。

そして王太子殿下も陛下同様「食事を一緒にしよう」とおっしゃって、セントバーナル様が「お断りします」と即座にお断りしたのにそれを読んでいたのかどうなのか、王太子殿下が食事をしようとおっしゃってセントバーナル様が返事した途端扉が開いて、どんどんと食事が運ばれてきたのだ。

私は目を見開いて勘弁して~と思ったのだけど、もう運ばれてる食事を見てセントバーナル様がはぁと溜息を吐いて諦めてしまったので、結局お昼の食事をご一緒させて頂いたのだ。

とても豪華なお食事でしたが、味など覚えていません!

終始王太子殿下とナターシャ妃殿下はにこやかに私にも変わらぬ態度で接して下さったけど、本当に胃が痛かった。

セントバーナル様に後で「兄上がすみませんでした」と謝罪されたけど、セントバーナル様は決して悪くない。

最近私はやっと殿下のことをセントバーナル様と呼べるようになった。

本当にいいのか?と思ったけど、セントバーナル様が望んで下さってるから。

「エンヴェリカ次はセントと呼んで下さい」

でも今度は愛称で呼んでとセントバーナル様に言われてまたハードルが上がった。

「今はお名前だけで精一杯なんです!」

と私が言うと。

「ハハッおいおいですね」

とにこやかに言われた。
私もセントバーナル様にはそこそこ言いたいことを言えるようになった。

以前学院に入学してお話するようになった頃は気にせずに言いたいこと言っていたからその頃に戻った感じだ。


それから年が明けて次の週いよいよミーナのウォンタートル伯爵家の領地の邸に行く日がきた。

ミーナのお父様が国王陛下の側近のお一人で、お兄様も王宮で文官をされている。

だけど年始のお休みは交代でそこそこ長くあるみたいで、今はご家族皆様領地に帰っておられるそうで、セントバーナル様と私はそこにお邪魔することになった。

ウォンタートル伯爵領は北東のダベンサードル辺境伯領に隣接した所で、ダベンサードル辺境伯領よりは王都寄りにあるので、馬車だと王都から5日ほどかかるらしいけど、今回はジョルジュ様が転移で送って下さるそうなので一瞬で行けてしまう。

朝起きてから身支度をして、私が滞在させてもらってる部屋でセントバーナル様と朝食を食べた。

最近は朝食をセントバーナル様と一緒に食べることが増えた。 
セントバーナル様がお忙しい時以外は一緒に食べている。

「エンヴェリカともっと一緒にいる時間を増やそうと思いましてね」

とセントバーナル様に言われたからなのだけど、学院で昼食を一緒にしていた時は何とも思っていなかったのに、こうしてセントバーナル様を意識するようになってから食事を一緒にするのは思った以上に緊張するもので、慣れるまで時間がかかった。

それも人は慣れるということなのだろう。
今は大丈夫になった。

朝食を終えてからしばらくするとジョルジュ様が突然現れた。

ジョルジュ様がミーナを連れてきてくれる時に王宮の転移門ではなく、許可を取ってくれたようで直接部屋に転移してくるので、それももう慣れた。

「ジョルジュおはようございます」

「セントバーナル様、エンヴェリカ嬢おはようございます」

「ジョルジュ様おはようございます」

セントバーナル様と私がジョルジュ様に挨拶する。

「それでは早速参りましょうか?」

「えっ?もうですか!?ちょっと心の準備が!」

ジョルジュ様の言葉に私が心の準備が必要だと言うと。

「プッ、エンヴェリカ心の準備って!
どんな心の準備なんですか」

セントバーナル様が、ワクワクしているけどちょっと緊張している私にプッと吹き出した。

「ふふっ、いつでも良いですよ、エンヴェリカ嬢」

ジョルジュ様が微笑む。

「も、申し訳ありません!
ジョルジュ様、セントバーナル様もう大丈夫です!」

どれだけ転移に興奮してるんだと恥ずかしくなってしまった。

「大丈夫ですか?それでは参りましょうか」

ジョルジュ様が言った後、セントバーナル様が私に手を差し出してきた。

「セントバーナル様?」

「ジョルジュには私が触れますからエンヴェは私と手を繋ぎましょう」

セントバーナル様が笑顔で言う。

「は、はい…」

私がおずおずとセントバーナル様の手の上に自分の手を乗せると、セントバーナル様にキュッと手を握られてドキッとした。

ん?複数で転移する時、術者に触れないと駄目だったっけ?と思ったのは後のことだった。

「準備はいいですか?行きますよ」

以前と同じようにパッと景色が変わった。

私は周りをキョロキョロとする。

王宮とは違うベージュを基調とした落ち着いた部屋のよう。
品の良い木製の家具が少しとテーブルと4脚の椅子が置いてあるだけの部屋だ。

「ウォンタートル伯爵領の転移用の部屋です」

「ジョルジュ様ありがとうございます!

ウォンタートル伯爵様のところにも転移用のお部屋があるのですね!」

「そうですね、私が転移出来るように部屋を用意してくれました。

外や邸の中だと私が突然現れて、領民や使用人を驚かせてしまいますからね」

「なるほど~そうですよね~。

やっぱり凄いです~」

「ふふっ、エンヴェリカ嬢にも慣れてもらわないとね」

ジョルジュ様が笑う。

「ええーっ慣れる程一緒に転移して下さるということですか!感激です!」

「ジョルジュほどほどにしといて下さい。

そうでなくてもエンヴェは魔術と魔法、魔道具のことになるとこうなりますから」

セントバーナル様の一言で私はハッとなり、興奮して騒いだことが申し訳なくなる。

「申し訳ございません」

「謝る必要はないですよ。

さあ、参りましょうか。私はミーナの家族に会って挨拶をさせてもらったらすぐに仕事に戻ります」

ジョルジュ様がそう言って、転移用の扉を開ける。

「ジョルジュ!」

そこでミーナの声が聞こえて、ジョルジュ様に歩み寄って抱きついている。

「ミーナ迎えに来てくれたんだね」

ジョルジュ様は優しい声と眼差しでミーナを受け止めている。

前を見ると、ミーナだけでなくウォンタートル伯爵家の皆様、恐らく使用人一同が転移用の部屋の前に頭を下げたまま立っていた。

「だって、セントバーナル様も来られるって聞いたらお母様もカリーナお義姉様もずっと緊張してソワソワして、服装はどうしたらいい?いつお出迎えだったかしら?とか大変だったのよ」

ミーナが少し肩を竦めて笑っている。
ミーナも私がセントバーナル殿下と呼べるようになってから同じように呼ぶようになった。

そりゃそうだよね。
第二王子殿下が領地の邸に訪問してくるなんて普通ではないものね。

王宮に出仕しておられるミーナのお父様とお兄様は王族に慣れておられるだろうけど、お母様やお義姉様はそうではないだろうからね。

私も前なら考えられなかったことだもの。

「みな面を上げて。

堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。

ウォンタートル伯爵殿、招待ありがとうございます」

セントバーナル様が一歩前へ出てまずご挨拶をされた。

この中でセントバーナル様が一番身分が上だからセントバーナル様がお話されないと、誰もお話出来ないし頭も上げられない。

ミーナは例外だけど。

「セントバーナル殿下、ご訪問頂き光栄にございます。

ようこそいらっしゃいました」

皆様より一歩前に出て右手を胸に置いてご挨拶されたブラウンブロンドの短髪に青い瞳の男性がウォンタートル伯爵様だ。

「クエスベルト子爵令嬢もようこそ」

とニッコリとして下さった。

「お声をかけて下さり光栄にございます。

初めましてウォンタートル伯爵様、クエスベルト子爵家が第一女、エンヴェリカ・クエスベルトでございます。

以後お見知りおきを」

「初めまして、いつも娘のミーナがお世話になっております。

本日はゆっくりしていって下さいね」

「勿体ないお言葉ありがとうございます」

大きな青い瞳のウォンタートル伯爵様は穏やかで優しそうで、髪と瞳の色は違うけど、貴族名鑑の姿絵よりミーナとよく似ている。

ミーナはお父様似なのね。

「ジョルジュもご苦労様」

ウォンタートル伯爵様がジョルジュ様を見て微笑む。

「いえ、年始のご挨拶以来ですね、お義父上。

私はすぐに仕事に戻られねばなりませんので、お顔を拝見しただけでの失礼お許し下さい」

ジョルジュ様はミーナのお父様のことをもうお義父上と呼んでおられるのね。

ジョルジュ様の言葉にウォンタートル伯爵様はニッコリとされる。

「お気になさらず。

忙しいんだね、またゆっくり遊びにきてくれることを待っているよ」

「ありがとうございます。

それではセントバーナル様、エンヴェリカ嬢またお帰りの際、お迎えに参ります。

ウォンタートル伯爵家の皆様もここでの失礼ご容赦を。

じゃあミーナまたあとで」

「ええ、ジョルジュ気を付けてね」

「ああ、それじゃあ失礼します」

ジョルジュ様はセントバーナル様に一礼をして、転移で姿を消した。


「こんなところで立ち話も何ですから、狭いところですがご案内致します。

どうぞ」

ウォンタートル伯爵様のお声でセントバーナル様と私は部屋へと案内された。



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