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二十話 様子のおかしな殿下と大好きな人たちと私 ②
しおりを挟むヴァネッサお姉様に話してみない?って言ってもらって、私はこの二人に今の私が気になっていることを話そうと頷いた。
「殿下のことなんです…」
「殿下ってセントバーナル殿下のことよね?」
ミーナに言われて私は頷く。
事件のことは言えないけど、殿下の様子がおかしくなったことは話そう。
「私が王宮に滞在することになったのは、しばらくは滞在するようにって殿下がおっしゃってくれたからなのですけど、いつも学院が終わってからと夜にもこちらに来て下さって、私の話を聞いて下さったり、殿下が学院のことを教えて下さったりしていたんです。
でも…私が王宮に滞在するようになって3日経った日、その日は殿下が政務で夜には来れないとおっしゃったんです。
その時はお忙しいんだなと思っていたんですけど、その次の日から何だか殿下の様子がおかしいなと思いまして…」
泣いた後で、鼻声になりながら鼻をズズッと吸い込む音がした。
はしたないと思ったけど、ヴァネッサお姉様は優しい顔をしてくれている。
ミーナは心配そうに私の顔を覗き込みながら背中擦ってくれている。
「セントバーナル殿下の様子がおかしい?
どんな感じなのかな?」
ヴァネッサお姉様はゆっくりと優しい声で聞いてくれる。
「あの、…何ていうか思い詰めているような…そして私の目を見て下さらないようになって…何だか余所余所しいんです…うっ」
思い出してまた涙が溢れてきた。
「エンヴェリカそれって…」
「?」
ミーナが何か言おうとして、やめたのを不思議に思ってミーナの方を向き、首を傾げる。
それにミーナはハッとした顔をして。
「いや、いいのよ。
セントバーナル殿下の様子がおかしくなったのって、その夜に来れなかった翌日からよね?」
ミーナが私を見ながら真剣な声で聞いてくる。
「そうなんです。
私が王宮に来てから数日ですけど、殿下が学院に復学されてからも王宮に戻られてから、必ず顔を出して下さって、政務が終わられてからだと思うんですけど、夜にも来て下さって1時間くらいは私のお話を聞いて下さったり、ご自分のお話をして下さっていたんです。
あの夜に来れないとおっしゃった次の日からも学院が終わってからも夜も必ず来て下さるんですけど、早くに帰られたり目を合わせて下さらなくなるし何だか余所余所しくて、私が厚かましいから面倒で嫌になられたんです、きっと。
私、王宮から出て行こうと思ってます」
「エンヴェリカちょっと待って!」
私の話を聞いたヴァネッサお姉様が張り詰めたような声で私を引き止める言葉を発した。
「うん、エンヴェリカちょっと落ち着こう」
ミーナに落ち着こうと言われているけれど、私落ち着いていると思うのだけど?
「エンヴェリカ、殿下にはしばらく王宮に滞在するように言われているんだよね?」
ヴァネッサお姉様に確認するように聞かれて、私は頷く。
「それじゃあ絶対殿下に断りもなしに王宮から出て行っては駄目よ」
ヴァネッサお姉様に真剣に止められる。
「でも…私がいたら迷惑なんですよ。
それに私なんかが王宮に滞在しているなんて恐れ多いことですし…」
「ねえ、殿下の様子がおかしくなったのはエンヴェリカが厚かましいとか迷惑だからじゃないと、別に原因があると思うの」
ヴァネッサお姉様が私に言って聞かすように私に言う。
「そうでしょうか?」
私は首を傾げてヴァネッサお姉様を見る。
「エンヴェリカは殿下の様子がおかしいって気になっているのよね?」
「はい…」
私は何だか悲しくなって俯く。
「エンヴェリカそれはね、貴方が殿下を気にしているからよ」
「気にしている?」
私はどういうことだかわからず聞き返す。
「う~ん、エンヴェリカは殿下のこと嫌いとか苦手だとかじゃないよね?」
「はい、そんなことはありません」
私はそれはないとキッパリと答えた。
「ん~エンヴェリカはそうなのね~。
んとね~何て言ったらいいかしら?
エンヴェリカは殿下のことが気になっているのよ」
気になっている?気にしているとどういう違いがあるんだろ?
「お姉様、エンヴェリカにはハッキリ言わないとわからないわ」
ミーナを見ると困ったように笑っている。
「ふぅ~、そうみたいね。
あのねエンヴェリカ、貴方は殿下のことを男性として意識しているってことよ」
「へっ?」
ヴァネッサお姉様の言葉に私は間抜けな声が漏れて、目を見開く。
私が殿下を男性として意識している?
そんな嘘?
「そうじゃなければ、殿下の様子がおかしい、目も合わせてくれない、余所余所しいって貴方が泣くことはないわ。
例え殿下にどれだけ感謝していてもそれだけじゃ殿下の変化に悲しんで泣くなんてないと思うの」
「私…私なんかが殿下を男性として意識している?
それだったら余計王宮を出て行かなければなりません」
「何でそうなるの!」
私の言葉にミーナが声を大きくする。
「ミーナ?」
「エンヴェリカは殿下の気持ちに気付いてないの?」
「あっ!」
ミーナに言われて、王宮に連れて帰ってくれた時に殿下から告白されたことを思い出した。
殿下は私のことを好きだ、愛してる。
婚約者になって欲しいって言ってくれた。
それを思い出して、顔が熱くなって両手で頬を押さえる。
「殿下の気持ち聞いたのね?」
ミーナに念を押されるように言われる。
私は頷いてから。
「確かに私が王宮に来た日に…その、殿下に告白というのを、…されました。
でもその後、数日してから殿下の態度が変わったんです。
きっと私なんかに告白されたのを後悔されているのでは…」
「エンヴェリカ?」
私が独り言のように言っているのをヴァネッサお姉様に呼ばれて、ヴァネッサお姉様の方を見る。
「エンヴェリカは殿下がそんな簡単に気持ちが変わる方だと思っているの?」
「えっ?そんなふうには…でも実際に…」
ヴァネッサお姉様は優しいけど、少し怒ったような顔になっている。
私は少しドキッとする。
「私はミーナからいろいろ聞いているけれど、殿下は2年生になる頃には自分の貴方に対する気持ちに気付いて、何とか貴方と接点を持とうとしていたけど、上手くいかなくてジョルジュとミーナに相談してこられたと聞いているわ。
殿下はそれからエンヴェリカ、貴方に気持ちを伝え続けていらっしゃったと思うの。
でもエンヴェリカが鈍感で気付かなかった。
だから王宮に貴方が来た時にハッキリ伝えたのじゃないかしら?」
「そう、そうだったんですか?」
私は驚いてまた目を見開く。
「エンヴェリカはお姉様と同じかそれ以上に鈍感だから」
ミーナが呆れた顔をしながら私を見る。
「…」
それでも私を思う殿下の気持ちが変わってしまったんじゃないかと思ってしまう。
「ちょっとミーナ私のことは余計でしょ!」
「だってお姉様も昔からエンヴェリカと同じくらい鈍感だったもの!
幼馴染の令息たちがお姉様のことを懸想しているのにまったく気付かなかったじゃない!」
「そ、そんなことなかったわよ。
ミーナの勘違いよ!」
「ほら!違います~。
お姉様がまったく気付いてなくて令息たちが気の毒なくらいだったのに~」
「そ、そんなことないわよ!」
「クリスフォードお義兄様もお姉様にはちゃんと言わないと伝わらないっておっしゃってました!
私お義兄様からお聞きしたもの」
「えっ?そんなことはない…ないはず…」
何やらヴァネッサお姉様とミーナが言い合いを始めている。
私はミーナとヴァネッサお姉様をオロオロと交互に見やる。
「コホンッ、えっと私のことは今は置いておいて、殿下とエンヴェリカのことは二人でちゃんとお話をするべきよ」
少し顔が赤くなったヴァネッサお姉様に言われて、私はヴァネッサお姉様の顔をジッと見つめる。
「殿下と二人でお話ですか?」
「そうよ、いつもは殿下はエンヴェリカのお話を聞いて下さっているんでしょ?
今度はエンヴェリカ、貴方が学院のお話ではなくて殿下自身のお話を聞いてあげる番よ」
「私が殿下自身のお話を聞いてあげる?
殿下は私なんかにお話して下さるでしょうか?」
はぁとヴァネッサお姉様は溜息をひとつ吐いた。
「エンヴェリカはね、もう少し殿下のことを信じるべきだわ」
そう言われて私は目を瞬く。
「殿下はね、エンヴェリカ貴方のことをずっと一途に思い続けていらしたのよ。
それはそんなに軽いものでも簡単に覆るものじゃないと私は思うわ。
そんな殿下を貴方が信じてあげなくてどうするの?」
ヴァネッサお姉様に言われた言葉に私はハッとする。
「私が殿下を信じる…」
「そうよ、ジョルジュも私も殿下から相談されて知っているけど、殿下のエンヴェリカに対する思いはとても深くて重くて一途よ。
ヴァネッサお姉様も私も瞳の継承者の男性を相手にしてきたからわかるけど、瞳の継承者の男性の愛はね、とても一途で重いの」
「殿下がそんなに私のことを?…」
「そうよ、殿下に何かあったのはきっと確かだわ。
でもエンヴェリカが思っていることではないと思うの。
そんなこと思ったら殿下が可哀想だわ。
殿下がエンヴェリカに何があったか、話さないのも良くないことだけども。
だから殿下とエンヴェリカはちゃんと二人でお話すべきよ」
ミーナが今までにないくらい真剣な瞳で私を見つめてきた。
「わかった…殿下とお話してみます」
「絶対よ!エンヴェリカがちゃんと知りたいって言って、お話を聞かせてって言ったら殿下はきっとお話して下さるはずよ」
ミーナに言われて私は頷いた。
何だかミーナがいつもよりも大人びて見えた。
その後、ヴァネッサお姉様とミーナとお昼の食事を部屋で一緒に食べた。
ヴァネッサお姉様とミーナはそれから私を楽しませようとジョルジュ様の子供時代のことや学院であった面白い出来事、ヴァネッサお姉様のご子息のレオナルド様のことやクリスフォード様、ブレンダーザス公爵様のお話などをしてくれた。
ヴァネッサお姉様曰く、旦那様のクリスフォード様もブレンダーザス公爵様もレオナルド様にメロメロで、ブレンダーザス公爵様なんて以前は仕事の虫で無口であまり喋らない渋い美形のイケオジだったのに、見る影もないくらいお孫様のレオナルド様にデレデレなんだとか。
イケオジが何なのかわからなかったけど、笑いも交えながらのお話は聞いていて、とても楽しかった。
そのお話に私は和んで、笑顔になることが出来た。
私は自分がらしくないくらい弱気になっていることに気付いた。
そんなことは初めてだった。
だって、今まで魔道具以外に興味がなかったんだもの。
殿下のことを考えると、途端に自信がない自分になってしまう。
でもこのままじゃいけないと思った。
ちゃんと殿下のお話を聞いてみようと決心した。
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