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十二話 私の愛する人を害そうとする者は絶対許さない ①

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セントバーナルside



私はその日もエンヴェリカと授業が終わってから、魔術魔法専用教室でエンヴェリカの魔道具研究に付き合って終わるまでずっと一緒にいた。

学院の教室使用許可は授業が終わってからの3時間までなので、エンヴェリカはその時間まで研究に没頭していた。

エンヴェリカの魔道具の研究の為に、週に3日の専用教室の使用許可を学院と担当教師に頼んだのは私だ。

正直に言うと少しでも長くエンヴェリカと一緒に居たいという私情が大いにあったのだが、エンヴェリカが研究している魔道具が今後のこの国の民の為、引いては国の今まで以上の発展の為に必ずなると思ったことも事実だ。

いくら私の身分があったとしても私事だけでは許可は出なかったはすだ。
学院の最高責任者は私の父上でもある国王陛下だからである。

父上は政策のことでは私情を挟まない方だし、国王という立場だから特に自分の家族を特別扱いはしない。

教育は国がもっとも力を入れて取り組んでいる政策のうちの1つだ。

そして魔道具は今や民の生活に根付いていて欠かせないものとなっている。

そのことについてはエンヴェリカの父上のクエスベルト子爵卿の功績は計り知れない。

クエスベルト子爵卿の開発した魔道具は今まで王族貴族や裕福なものたちが使う高価な物だったのを品質をそのままに平民にも手が出るような安価なものを作り出して、そして主に平民の生活に役立つ魔道具を開発してきた。

それによって、平民の生活水準が飛躍的に向上したのだ。

そして平民の生活水準が向上したことによって我が国の国力はより上がったと言える。

エンヴェリカが開発を目指している人々の健康状態を調べることが出来る魔道具は成功すれば、この国の医療の発展に多大なる貢献をすることになるばすだ。

エンヴェリカもクエスベルト子爵卿と同じように平民でも誰でも購入出来る金額で、品質は最高のものを目指している。

それらの理由で父上も許可してくれたのだ。

私はエンヴェリカが研究に没頭している間、エンヴェリカの近くで本を読んだりして過ごしているが、本当は内容などあまり頭に入ってこない。

真剣に魔道具の研究をしているエンヴェリカが気になってどうしても見つめてしまう。

エンヴェリカは真剣になり没頭しだすと口がへの字になる。

長い前髪と大きな黒縁の眼鏡で顔の大部分が隠れていて、他の表情が見えないが、私はエンヴェリカが口をへの字にしているのさえ、可愛いと思ってしまう。

ずっとエンヴェリカを見ていたい。


この私にとって楽しい時間が終わって、エンヴェリカを寮の前まで送って行ってから馬車で王宮に戻り、私室で着替ようとしたところで、私の通信用魔道具が反応した。

エンヴェリカに付けていた影の1人からだった。

「セントバーナル殿下大変です!
クエスベルト子爵令嬢が寮にいないようです!」

「何だと!」

「申し訳ありません!私たちがいながら!
クエスベルト子爵令嬢が寮に入ってから外に出たということはないはずです!
周辺を探しています!」

どういうことだ?
確かに寮の前までエンヴェリカを送って行ったし、寮周辺に影と護衛を配置して守らせていたはずだ。

寮内の者たちも以前すべて調べて怪しい者はいなかったはず。

なのに何故いなくなった?

クソッ!私は転移魔法が使えない。
すぐに寮に戻れないことが歯痒い。

駄目だ!冷静になろう。

「とにかく探すんだ!
私も至急向かうから」

「了解しました!」

影との通信を切ったところで、間を置かず寮の管理人からの通信も入ってきた。

管理人も慌てて焦った声でエンヴェリカが帰ってきていないとの連絡だ。

エンヴェリカの専属侍女クララ嬢から「予定の時間を過ぎましてもまだお嬢様が戻っておられません!食堂にもどこにもおられないのです」と管理人の所に飛び込んできてから、結界魔法が異常を感知したのだと言う。

すぐに管理人たちが寮の見回りをしたがエンヴェリカがどこにもいないとのことだ。

どういうことなんだ?
管理人には引き続き、寮内の見回りと寮生の安全を守るように言って通信を切った。

すぐに通信魔道具で、ジョルジュに連絡を取った。
ジョルジュがすぐに反応して応答してくれて良かった。

ジョルジュに事情を話すと、すぐに寮周辺に転移して探知してくれるらしい。
忙しいジョルジュに頼るのは申し訳ないが、こんな緊急時は彼に頼るしかない。 

彼ほど優秀な者は影にも護衛にもいないから。

ジョルジュに言われて連絡があるまで部屋で待つ間、正気ではいられないくらい気持ちが乱れてジッとしていられず、部屋の中をひたすらウロウロしていた。

今の私では何も出来ないことがもどかしかった。

いったん通信を切ってからほんの5分くらいで折り返し連絡があり、ジョルジュに王宮の転移門まですぐに来て欲しいと言われて、すぐに部屋を飛び出して走って転移門に向かった。

私が転移門に着くとすでにジョルジュが到着していて、エンヴェリカの居場所がわかったと言ってきた。
こんな短時間で転移して検知魔法でもう探し当てたのか!

さすがはジョルジュだ。
本当に化け物級の天才だ!心強い。
絶対敵に回したくない男だ。 

エンヴェリカは今は寮近くの廃墟になっている元貴族の邸にいるという。

そして今そこにヴォンドウェル伯爵令息のオマールといることをジョルジュに聞かされて、私は頭に血が上った。

ジョルジュの見解では寮からエンヴェリカを攫ったのはオマールではないのではないかという話だ。

オマールに寮の結界魔法を潜り抜けてエンヴェリカを攫うことは無理だろうということだ。

私もそう思う。

オマールは学院でもエンヴェリカを陰湿な目で見つめていた男だ。

私はエンヴェリカのことが好きだと気付いてからオマールのことも調べた。

エンヴェリカが幼い頃にクエスベルト子爵家で行なわれたお茶会でオマールはエンヴェリカと出会いエンヴェリカに一目惚れしたようだが、エンヴェリカ側からお見合いも婚約も断られたにも関わらず執拗にエンヴェリカを追いかけていた。

エンヴェリカの見目のみに惹かれたようで、エンヴェリカが今の顔を隠す容姿になった原因を作った男だ。

エンヴェリカの容姿が変わってから興味を失くして他の令嬢と婚約したと報告があったのに、学院に入学してしばらくしてから自分に婚約者がいるのにも関わらず、ずっとエンヴェリカの行動を密かに監視していたのだ。

そのことで私は危険を感じてオマールにも監視を付けていたのに何故こんなことになったんだ!

私は自分に腹が立ってきた。

廃墟周辺には王都の騎士が監視をしていたはずなのに、それも擦り抜けられてしまった。

昨年に多くの貴族の大粛清があって、その元貴族たちの領地や王都の邸はいったん王家の管轄となったが、徐々に他の貴族たちの物となったり、まだそのまま王家が所有しているものもあり、王家が所有している王都の邸は潰して新たに公共の施設にしたり、更地にしていったりと政策を進め、空き邸を無くそうとしているがまだそのままになっている邸があるのが現状だ。

そんな空いている元邸のひとつにエンヴェリカは攫われて連れて行かれたみたいだ。

あのオマールがそんなことを1人で出来るはずがない。
あの男にそんな計画性も能力もはないはずだ。

誰かが力を貸しているはずなんだ。
誰なんだ?

私の様子を見てジョルジュに落ち着くように言われて、ジョルジュと共にその廃墟に転移した。
ジョルジュがその元邸に入ったことがあって良かった。
訪れたことがない場所にはいくらジョルジュといえど、転移出来ない。

十中八九オマールの単独犯ではないはずだから見張られている可能性が十分ある。

単独犯ではないはずだから、私とジョルジュが外から入るのは得策ではない。

幻覚魔法を使って邸の外から入るのもひとつの手だが、転移で直接邸内に入る方が早い。

瞳の継承者でも全員が転移出来る訳ではない。
現王族では父上と私の妹のアマリアだけだ。
何事にも優秀と言われる王太子の兄上も転移は出来ない。

黒の瞳の継承者、ダベンサードル辺境伯はスペンサー殿とジョルジュは出来る。
クリスの妻、ヴァネッサ夫人も転移出来るらしいが、自分でコントロール出来ないらしい。

他には紫の瞳の継承者、ブレンダーザス公爵のランドル殿とクリスも転移出来る。

赤の瞳の継承者、ドレンナザス公爵は次期当主のスザンヌ殿と息女のフロディーテ嬢のみで現当主のデモンダス殿は出来ない。

個人での転移は出来るが、複数で転移出来るのは私が知るところでは恐らくスペンサー殿とジョルジュ殿のみである。

転移魔法も適正というものがあるらしく瞳の継承者でも出来るものと出来ない者がいるのだ。

こんな時に私も転移出来ればと思いながらジョルジュと転移して、ジョルジュが離れた所からどんな魔法を使ったのか見えなかったが、オマールに衝撃を与えてすぐ気絶させて、エンヴェリカを救出した。

エンヴェリカは薬を使われたようで、自由に身体が動かせないようで、言葉も話し辛そうだった。
余程怖かったのだろう。
私を見て涙を流すエンヴェリカを見て堪らない気持ちになる。

この男を今この場で殺してやろうかと思ったけど、エンヴェリカを狙ったのはコイツだけじゃないと思い直す。

絶対に関わったすべての者を捕らえてやると決心した。

それからまたジョルジュの転移魔法で王宮の転移門に戻って、転移門のところでジョルジュがエンヴェリカの薬の影響をすぐさま消してくれた。

ジョルジュ曰くエンヴェリカに使われた薬は睡眠薬と痺れ薬を混合したものだった。

エンヴェリカはジョルジュの転移と虹色の光を発する探知魔法、それに白く光る光属性魔法に凄い凄いとハシャいでいたが、こんな状況なのにと私は溜息が出た。

だけどそれで怖さを少しでも忘れられるならそれもいいかと思い直す。

確かに虹色の光を出すのは全属性を持つ者が無属性魔法を使う時の特性と言えるもので滅多に見れるものではないが、魔術魔法のことになるとエンヴェリカは俄然興味を示して目が輝く。
 
キツい言い方でエンヴェリカを叱ってしまったが、どれほど心配したかを思えば許して欲しい。  

それからジョルジュには現場に戻ってもらった。
いろいろと調べてもらう為と現場で工作する為だ。 

オマールの単独犯ではないとすると、オマールがエンヴェリカを攫った廃墟を誰かが見張っている可能性がある。

そこでジョルジュと私がすぐにエンヴェリカを救出したのをわからないようにして、後で現場に来てくれたスペンサー殿の幻覚魔法により翌朝にオマールが捕らえられて、騎士に連れ出されたように偽装した。

やはり見張っていた者がいたが、その場では捕らえず泳がせることにした。

協力しているという黒幕をひとまずは安心させて、後々に尻尾を掴んで捕らえる為の策のひとつだ。

そうなるとエンヴェリカが傷物にされたとの噂が学院内で流されるかもしれないが、そうなる前に潰すつもりだ。
見張りをさらに強化する予定で、もしそんな噂を流そうとする人物はすぐ捕らえるよう手配している。

今まで学院内でエンヴェリカに起こったことで、いくつか誰がしたか判明しておらず不審なことがあり調べてきたが、まだ誰かわからないものもある。

オマールのこと以外にも同じ人物が手を貸しているとすると、相当慎重で巧妙に隠れている人物のはずだ。

だが、今回のエンヴェリカを攫ったことは学院内でエンヴェリカを害することがなかなか出来なかったから、業を煮やしてやってきたとも言える。

相手の動きを慎重に見ていかなければならないだろう。

黒幕はSクラスの誰かではないかと私は予想しているが、他クラスの生徒や教師、学院、寮で働く者。

いったん大丈夫だと思った人物たちにも範囲を広げるつもりだ。

私はエンヴェリカを抱きかかえてすぐに部屋に連れて行ってベッドに寝かせた。
そして医療師を呼んですぐに診察してもらい、侍女もエンヴェリカ付きにして世話するように指示した。

エンヴェリカが診察後湯浴みをして、食事を済ませてからもう一度部屋に会いに行った。

そこでエンヴェリカは寮に帰ると言うし、自分などが私に守られる価値はないなんて言うものだから、こんな時なのに私は自分の気持ちを告白した。

エンヴェリカが好きだともう愛している。
エンヴェリカは私の唯一だ。
私の婚約者となって欲しい。
私と結婚するのはエンヴェリカ以外には考えられない。
エンヴェリカと結婚出来なければ私は一生独身でいるつもりだ。







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