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十話 翌朝の殿下と私
しおりを挟む殿下にさっきの話を忘れてしまったのですか?と凍えるような冷たい怖い視線で言われて、言葉に詰まりながら覚えていますと私は答えた。
「ですよね?そんなに時間が経っていませんからね。
まあその話がなくてもエンヴェリカ嬢を簡単に寮に帰すことなど出来ませんけど」
「えっ?」
寮に帰ることが出来ない?
「そりゃそうでしょ?
ヴォンドウェル伯爵令息は現行犯で捕まりましたが、どう考えても彼の単独犯ではありません。
まだ他にも犯人がいるのです。
その状態でまたエンヴェリカ嬢を一人寮に帰せる訳がないでしょう?」
「あっ!…」
そうだった!
オマール様はやっぱり捕まったんだね。
でもその前に寮に入ってきて私の口を押さえて気絶させた男、濃いグレーの髪に琥珀色の瞳をした男とオマール様が言った協力してくれている人がいる!
「そのことについてエンヴェリカ嬢が怖い思いをして、まだ時間が経っていなくて申し訳ないですが、そなたにも事情を聞かなくてはなりません」
「そ、そうですよね…そうでした。
申し訳ありません」
「エンヴェリカ嬢わかってくれましたか?
そなたに事情を聞くことも必要ですが、今後の安全の為にしばらくは王宮に留まって頂きます」
「へっ?」
しばらく王宮に留まる?
「クエスベルト子爵卿にはすぐ連絡をしましたので、もうこちらに向かってるところだと思います。
明後日か明々後日には王宮に到着されるはずです」
「お父様が?」
何だか凄い大事になってる!
「当然です。
大変心配しておられてご両親でこちらに来るはずですよ」
「そ、そうですか…ご迷惑かけて本当に申し訳ありません」
私は申し訳なくて身を縮こませて殿下に謝罪する。
お父様とお母様が王宮にくるということだよね?
「もう謝らないで下さい。
エンヴェリカ嬢は何も悪くないんですよ。
被害者なのですから」
殿下に被害者なのですからと言われた途端に身体がビクッとなり、オマール様と対面したことを思い出す。
頭が重くて痛くて視界もボヤケてグラグラしてちゃんと見えなくて、身体も痺れて全然動かない暗い中で何が何だかわからず恐怖を感じた。
何とか目を開けたら、男の声が聞こえてきて、それがオマール様が寝転がってる私の前に立っていて、自分勝手な訳のわからないことを背筋がゾッとするような不気味な顔で言われて、話が全然通じなくて、でも私は薬の影響でなかなか言葉が出てこなくて、それでも何とか時間を稼ごうと必死になった。
それなのにオマール様が既成事実を作ろうと言って、私に近付いてきて頬をネットリ触られた時は本当に気持ち悪くて怖くて、声にならなかったけど殿下助けて!と殿下に助けを求めていた。
「……リカ嬢!エンヴェリカ嬢!大丈夫か!?」
殿下の声にハッとなる。
気付いたら殿下が私の隣に座っていて心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
「へへっ、だ、大丈夫、です!…」
その時、殿下にギュッと抱きしめられた。
「大丈夫な訳ないじゃないか!
こんなに震えて」
「えっ?」
殿下に言われて自分が震えていることに気が付いた。
ブワッと涙がまた溢れてくる。
「…で、殿下…あ、あの時私、…声に出せなかったけど、…殿下助けて!っていって…言ってたんです…うっ、ふっ…本当は怖くて…怖くて…」
私は強がろうとしたけど、殿下にはお見通しで…思わず自分の気持ちを発露した。
殿下は私を抱きしめながらうんうんと話を聞いてくれて、私の背中を優しく撫でてくれる。
そのことに私は安心して余計に涙がこれでもかと溢れてくる。
「エンヴェリカ嬢すまないね。
私が言ったことで思い出させてしまったんですね。
でも私が傍にいます。
私がそなたを守るから絶対どんなことをしてでも守りますからね」
殿下が優しくトントンと背中を叩いてくれるから私は我慢出来なくなってワァ~と子供のように泣いた。
その後、落ち着いてから水分を取るように言われて果実水をもらって飲み干すと、殿下が私を抱っこしてベッドに連れて行ってくれた。
この時は私は大人しくされるがままにベッドに横たわった。
殿下は椅子を持ってきて私が寝ているベッドのすぐ傍に座る。
「エンヴェリカ嬢休みなさい。
エンヴェリカ嬢が眠るまで私が傍にいますから」
「はい…」
私は殿下に言われるままに目を閉じた。
殿下が私の手をそっと握りながら頭を優しく優しく撫でてくれる。
オマール様の時は触られたらあんなに気持ち悪くて怖かったのに、殿下に触れられると安心する。
私は眠れるかな?と思ったけど、気が付いたら眠ってしまっていた。
朝起きたら殿下はいなかった。
クララと昨夜の侍女3人が私が起きたのを見計らってかノックをして入ってきた。
朝も甲斐甲斐しくお世話をしてもらって申し訳ない。
制服ではなく薄い青色のドレスが用意されていて、それを着た。
手触りも品質も良いものに違いない。
コルセットをしなくていいドレスを用意してくれたみたいだ。
何でこんなドレスが?私のサイズに合ってるしと思ったが、もうそこは深く考えないことにした。
朝食を部屋まで運んでもらい、食べて部屋のソファに座ってゆっくりしている所に侍女から「第二王子殿下がいらっしゃいます」と聞いて、私はお出迎えする為に立つ。
昨夜のことを思い出して恥ずかしくなってしまっているけど、ちゃんとお礼を言わなくてはいけないと思い、よし!と心の中で気合いを入れる。
コンコンとノックの音の後、殿下が入ってきた。
私は殿下の顔を見て昨夜のことを思い出して、恥ずかしくなり心臓が飛び出てきそうなくらいドキドキしている。
何とか顔に出さないようにキュッと唇を引き結ぶ。
「おはようございます、エンヴェリカ嬢。
体調はどうですか?
気分悪くなったりしていませんか?」
殿下はいつもと変わらない顔で普通に話しかけてこられた。
「殿下おはようございます。
お陰様で体調良くなりました。
その、いろいろとありがとうございます。
こんな素敵なドレスまで用意して頂き感謝します」
私はなるべく恥ずかしさで緊張しているのを表に出さないようにゆっくり話すように心がける。
「いえいえ、それは良かったです。
エンヴェリカ嬢も座って下さい」
殿下に促されて殿下の向かいのソファに私はゆっくりと座る。
「本当に大丈夫ですか?」
殿下が心配そうに念を押して聞いてこられた。
「はい、本当に大丈夫です。
大変お世話になりました」
私は大丈夫だとアピールしようと殿下の顔を見て微笑んだ。
「…コホンッそうですか…それは良かったです」
殿下の耳が赤い。
見ると殿下の金の瞳の白の部分が少し充血しているのようだ。
「私より殿下の方が大丈夫なのですか?
目が充血しているようですが、殿下寝不足なのではないですか?」
「私は本当に大丈夫ですよ。
ところでエンヴェリカ嬢、昨晩も話しましたが、エンヴェリカ嬢に事情を聞かなくてはなりません。
知らない相手だとエンヴェリカ嬢も余計緊張すると思ってジョルジュに聞いてもらおうと思っているんですが…。
明日にもエンヴェリカ嬢のご両親が到着する予定なので、ご両親と会えば少しでも気持ちが解れるでしょうから、ご両親と面会してから事情を聞こうと思っています」
事件の事情を当事者の私から一刻も早く聞きたいだろうに、殿下は私に配慮して下さっているんだ。
私は早く事件を解決してもらいたい。
それにずっと王宮にいさせてもらって、これ以上殿下に心配や迷惑をかけたくない。
「あの、殿下。
私はジョルジュ様のご都合がつくのてあれば、今からでも大丈夫でございます」
「えっ?本当に大丈夫なのですか?」
殿下は身を前に乗り出して心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫です!私からの証言早い方がいいですよね?」
私が殿下の目を見て言うと。
「確かに早い方が良いのは良いですが…。
本当に大丈夫ですか?
もっと落ち着いてからでいいんですよ?」
殿下はそう言ってくれてるけど、当事者の私が早くお話した方がいいだろう。
「はい、殿下問題ありません。
すみませんが、よろしくお願いします」
「…わかりました。
では、ジョルジュと連絡を取ってジョルジュが王宮に到着次第事情を聴取することにします。
あと1人魔術師と書紀の文官を同席させることになります。
私も同席しますから、いくらかエンヴェリカ嬢も気持ちが楽になるように私も善処します」
「殿下あ、ありがとうございます?」
「ふふっ何故疑問なんですか?
私が一緒だと駄目ですか?」
私は殿下が一緒に居てもらえれば有り難い気持ちと、昨夜のことを思い出してしまってやっぱり恥ずかしい気持ちがある。
両方の気持ちがあってありがとうございます?って言ってしまった。
殿下はふふっと微笑みながら私に駄目ですが?上目遣いで聞いてきた。
そんな優しい微笑みをされるとドキッとしてしまいます。
「いえ、殿下がご一緒に居て下されば心強いですが、殿下もお忙しいと思いまして」
「それは大丈夫ですよ。
この問題が最優先ですから」
「そうですか。
わかりました、よろしくお願いします」
殿下のキッパリした言葉に私はお願いしますと言った。
殿下が傍に居て下さることに私は安心感とドキドキする気持ちを感じていた。
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