怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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百二十九話 アランside ①

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 フィンレル様と奥様が陛下に呼び出された時、何故側近か使用人を二人まで呼ぶように指示してきたんだろう?フィンレル様や奥様も戸惑い疑問に思っていたが、結局は私のことが原因であったようだ。

 あの会議場で王妃殿下の犯罪を明らかにしていく段階で国王陛下が「レティシア」という名を言った時に、私はすぐ母上を思い浮かべた。

 しかし初めは陛下が言うレティシアという女性と母上は別人だと思っていた。

 だけど陛下の子を保護した人物がサウスカールトン侯爵だと陛下が言ったその時、私?陛下が言うレティシアとは私の母上だったのだと初めて知った。

 王妃殿下が私を見て混乱してまさに発狂状態になり私に飛びかかろうと走ってこようとしたことで、自分の中で防衛本能でも働いたのか、何故かその衝撃的な話に私は妙に冷静になったのを覚えている。

 王妃殿下を見ていてこの人は愛している人にはずっと一途に愛する人がいて、それでも愛する人に愛されたくてずっと愛を求めていたけど、それが得られなくて壊れてしまったんだ。

 母上の家族を殺害したことは許せることではないけど、憐れな人だと思った。

 でも今更私が陛下の子だと言われても実感も沸かなければ感動も何もなかった。

 私の家族はずっと母上と旦那様と奥様、そしてフィンレル様だと思っていたから。

 それは今もそうだ。

 今はベレッタ様である奥様とラファエル様もだな。

 だから陛下から息子だと言われても謝罪されても何を今更と思った。

 でもその後にフィリップ様が会場に入ってきて、幼い頃半年に一度くらい私を訪ねてきて、飴やチョコレートをくれて遊んでくれた大きいおじちゃんが陛下の弟君の王弟殿下だっと知ったことには驚いた。

 私は幼い頃そのたまにくる大きいおじちゃんがもしかしたら私の父上かもしれないと思っていたんだ。

「大きいおじちゃんはぼくの父上なの?」

 と一度聞いたことがあった。

 その時大きいおじちゃんが。

「ハハッ残念ながら違うんだよ。

 私がアランの父上ではないけど、今は父上みたいなもんかなぁ~」

 と聞いて何だ父上じゃなかったのかと残念に思ったのを覚えている。

 でも今から考えれば母上は刺繍の仕事をしていると言っていたが、母上と私は転々と住まいを替えながらもちゃんと住処があって、貧しくとも食べるものはあっし母上は息子の私から見ても美しい見目をしているのに、男に絡まれることがなく私たちが安全に暮らしていたことは有り得ないことだったと今ならわかる。

 陛下は王太子殿下が生まれた頃に母上と私を見つけたと言っていた。

 それは恐らく私が三歳くらいの頃だ。

 私が物心がついた時には既に陛下は母上と私を見つけていたことになり、私はそれが普通の生活だと思っていたけど、平民で母子家庭で安全にあの生活を送れていたことは恵まれていたんだ。

 陛下が誰にもわからないようにひっそりと私たちを匿ってくれていたからなんだ。

 母上は一度も父上の話をしなかった。

 私は聞いたことがあるけど母上が悲しそうな顔をするから私は聞いてはいけないと思って聞かなくなったけど、母上は一度も父上は死んでもういないとか別れたのだということは言ってなかった。

 今思えばそういう事情があったんだな。

 陛下から聞いたけど、陛下は王太子殿下が成人して時期を見て国王になった後、自分は引退して母上が良ければ一緒に住みたいと言っていると言付けたらしいが、母上はずっと待っていると答えたという。

 ある意味陛下のせいで政争に巻き込まれて家族を失い自分も伯爵令嬢だったのに、平民になり苦労してきたのに、何年もずっと会えなくて王太子殿下がいつ国王になるかもわからないのに、それでも陛下をずっと待っているって言えたんだ。

 それほど陛下を一途に愛していたんだな。

 もし母上が病になることなく生きていたらいつか陛下と仲良く二人で暮らす未来があったんだろうか…。

 私はずっと恋だと愛だとか考えられないどうでもいいと思っていた。

 自分には縁のない必要のないものだと思っていた。

 旦那様が母上が亡くなってから葬式を出してくれて、サウスカールトン領に墓まで用意してくれた。

 そして私はすぐサウスカールトン侯爵家に引き取られて、まずはフィンレル様の従者になる為に教育を受けて従者となったが、旦那様も奥様も私をフィンレル様と変わらず愛情を持って育ててくれた。

 今考えれば私が陛下の子だったからかもしれないが、旦那様と奥様は他の使用人に対しても私と同じように愛情を持って接する方だったから、それが普通だと思っていたし私にとって彼らが家族なんだと思ってきた。

 だから私は家族に恵まれていたと思う。

 母上も私を大切に愛情を持って育ててくれたし、旦那様奥様フィンレル様にも大切にしてもらった。

 だから家族の愛はわかっているつもりだ。

 でも男女の恋愛というものにはずっと興味がなかった。

 それが変わったのはフィンレル様がベレッタ様奥様と結婚してお子様であるラファエル様が生まれてからだ。


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