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百二十五話 いよいよですわ ⑥
しおりを挟む「キャロライナについては?それも私が彼女を気に入っていると思ったのか?」
「えっ?ヘルナンドはそんなにキャロライナのことを気に入っているの!?駄目よ!ヘルナンド!」
陛下の問いに王妃殿下が反応する。
えっ?これは王妃殿下は正気なの?違うの?本当に怖いわ。
陛下が無言で王妃殿下を見下ろし睨み付けると王妃殿下は肩を竦めて続きを話し出した。
えっ?先程の反応はわざとなの?もうわからない…。
「キャロライナはアンジェリカが選んだ娘っていうことはあったけれども、一番はあの女レティシアにどこか似ていたからよ。
髪も瞳の色も似ていてキャロライナを見ているとあの女のことを思い出すのよ。
昔からいくらわたくしがヘルナンドを思っていてもわたくしの前には必ずあの女がいた。
ヘルナンドの甘い微笑みはいつもあの女のものだった。
ヘルナンドはわたくしに一度もあんな微笑みを向けてはくれなかったわ。
あの女がいるからヘルナンドはわたくしにあの甘い微笑みを向けてくれないと思ったの。
だからあの女を排除してやった。
あの女は平民になって惨めに死んでもう一生わたくしたちの前に現れないと思ったのに、今度はギルバードの側妃として現れたわ。
そんなの許せるものではないでしょう?」
王妃殿下がキャロライナ様をレティシア様だと言い出している…。
「キャロライナはレティシアではない」
陛下がより目を鋭くする。
「でもわたくしがあの女に似ていると一度でも思ったらもうあの女も同じなのよ。
だからわたくしたちの目の前から消えてもらわなくてはいけないでしょう?
あの女に似た女がギルバードの子を産むなんてゾッとしたわ。
なのに嫁いできてすぐ懐妊するなんて!
だからまず子を流してからって思ったのよ。
子が流れた時にあわよくばキャロライナも死ねばいいのにって思っていたわ。
堕胎薬は以前にも子を身籠ったヘルナンドに色目を使っていた王宮の侍女に使う時に、お父様に用意してもらったことがあるから実家にお願いしたのよ。
そしてわたくしだとわからないようにアカデミーでキャロライナと仲の悪かったという伯爵家の娘にお茶会の時にキャロライナのお茶に入れるように指示したのに、あの小娘失敗するんですもの~本当に誰もかれも役立たずだわ~」
王妃殿下の話に実家のケラッドンリー侯爵の顔色がますます悪くなる。
堕胎薬を用意したのは王妃殿下の弟様の現侯爵ということよね。
王妃殿下はもう開き直っているようだわ。
それにしても王宮で勤めていた身重の侍女に陛下に色目を使ったと思って堕胎薬を飲ませたの!?
陛下はそのことは知らなかったたのか、目を見開いて王妃殿下を見ている。
どんどんと出てくる事実に頭がクラクラしてきたけど、グッと自分の太ももを抓って自分に少しの痛みを与えて私は堪える。
フィンレルが私が何かをしたと気付いて顔を覗き込んできたけど、自分の太ももを抓ったことは気付いていないようで、私は何もないわよ大丈夫というふうに微笑んで見せる。
フィンレルは心配そうだけど大丈夫よ!
「それは私とギルバードがそなたを怪しんで警戒していたからだ」
「まあ、ヘルナンド!それでわたくしの自室を断りなしにヘルナンド自ら入って捜索しましたの?
そんなことでもヘルナンドがわたくしを意識してくれてると思うと嬉しいわぁ~」
そう言って顔を赤らめてうっとりとする王妃殿下にまた寒気が走る。
王妃殿下はもう開き直っているからこんなことを言ってるの?
「…で、もうギルバードの婚約者でもなくなったアンジェリカを何で今更襲う計画を立てた?キャロライナのことが原因か?」
陛下が眉間を皺を寄せた。
陛下もあまりにも異常な王妃殿下の様子を見ていて、陛下もここまでなのか?と不気味に思っていそうだ。
「だって~アンジェリカはギルバードの婚約者でなくなったのに、女公爵なんてものになったからいつまでも引っ込まないじゃない?
王宮へもやって来るし…いつまたわたくしのヘルナンドに近付くかわかったものじゃないのに、側妃のキャロライナがアンジェリカを尊敬しているとかで、よくお茶会だとか言って招待するようになったんだもの、そんなの許せる訳ないわ。
おまけにサウスカールトン侯爵家もずっと沈んでればいいものを、隣国のセンブュート帝国と何でしたっけ?競馬事業よね?それで王宮で新しい部署が出来てまた王宮に出仕してくるようになったのよね。
おまけにヘルナンドのお墨付きでヘルナンドもとっても前向きで。
そんなの駄目よ!いくら茶色の髪の地味でヘルナンドの好みの女じゃないとしても、女がヘルナンドに近付いてくる可能性があるならわたくしは何とかしなくちゃいけないでしょう?
だからアンジェリカとベレッタの息子を攫って少し待って殺しちゃって、遺体を邸の前にでも置いてやれば、もう立ち直れなくなって領地かどっかに二人まとめて引っ込んで二度とヘルナンドとわたくしの前に現れないと思ったのよ。
ふふふっヘルナンドわたくしはこんなに貴方を貴方だけを愛しているのよぉ」
王妃殿下が陛下に褒めて褒めてと言わんばかりの視線でうっとりと見つめている。
その異常性に場が凍りつく。
王妃殿下はどうしてこうなってしまったの?
陛下と結婚しても愛されなかったから?
それにしてもアンジェリカと私を絶望させる為にそんなことまで考えてたの?そんな残酷なことを考えつくなんて…恐ろしくて仕方ない…私は耳を塞ぎたくなるのをフィンレルの手をギュッとさらに握って何とか堪えた。
「…そうか、これでだいたいの証言は得られたな。
それではケラッドンリー侯爵夫妻と使用人たちは貴族牢へに入れておけ!
まだ余罪があるだろうからな、取り調べの後に沙汰を下す、連れて行け」
陛下の命令で騎士たちがケラッドンリー侯爵夫妻の所に集まり、夫妻と後の使用人たちの両腕を掴んで引き摺るように連れて行った。
侯爵夫妻も使用人たちももう諦めているようで、肩を落として抵抗しないまま大人しく連れて行かれた。
王妃殿下は自分の弟夫妻が引っ立てられて行ったのに陛下をうっとりと見つめたままだ。
本当に恐ろしい。
「さて、王妃だがそなたを王太子妃、王妃にしたことは私の人生最大の間違いであった。
そなたは北の辺境の離宮に生涯幽閉とする」
「まあヘルナンドとうとう国王を引退しますの?
これから二人っきりで一緒に過ごせますのね!わたくしずっとその時を待っておりましたのよ!とっても嬉しいわぁ」
王妃殿下はパァッと花が開くような可憐な笑顔を見せる。
「いや、私がそなたと会うのはこれが最後だ。
北の離宮はそなただけが行くのだ、もう一生会うこともあるまい。
王妃も離宮へ出発までの間貴族牢へ入れておけ」
「えっ?ちょっと待ってヘルナンド!どういうこと?一緒に離宮へ行って下さるのじゃないの?
わたくし一人では嫌よ、ねぇヘルナンドと一緒でないとわたくし生きていけないわ!
ヘルナンドとわたくしは真に愛し合っているのですよ?誰にも邪魔は出来ないの。
ねぇヘルナンド一緒に行って下さるのでしょう?
ちょっと無礼者!触らないで!まだヘルナンドとのお話が終わっていないのよ!離しなさい!ちょっと!ヘルナンド…ヘルナンドーっ」
王妃殿下は騎士たちに引き摺られ会場を出て行き、扉が閉まるまで声が響いていた。
王妃殿下の使用人二人も騎士たちに連れて行かれた。
残った私たちは声も出せず固まっていた。
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