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百十八話 事件の真実 ④
しおりを挟む「王都の街中で戦闘になった連中もあの二人と恐らく待ち合わせをしていた連中もみな自害してしまった。
あの二人と馬車に馬でやってきた連中が待ち合わせをしていたところが近かったのか、馬車が止まったのが見えて連中は追手がやってきていることに気付いて、すぐに馬車までやってきてアロットとサリナを始末したのだろう。
キャスは危険を冒してしまったが、結果的には何事もなくて良かったよ」
ジークハルト様がふぅ~っと息を吐いた。
「ねぇ、みな自害したのにどうして王妃殿下の手の者だとわかったのかしら?」
アンジェリカがもっともな疑問をジークハルト様に聞いた。
「そうだな、今まで自分へと繋がる証拠を一切残さないあの慎重な王妃殿下にしては今回は珍しく失敗を冒したんだ。
陛下とギルバード様がずっと王妃の周辺を調べ続けていたこともあるが。
キャロライナ様をなかなか排除出来ないことに焦っていたんだろうな。
そこでどうして矛先をアンジェに向けたかはまだわかっていないが、これも今調べている最中で推測なんだが今までは王妃殿下は実家のケラッドンリー侯爵家を通していろんなことを依頼をしていたんではないかな?
今までは実家が用意周到で王妃殿下と共に一切証拠を残さないようにしていた。
だが今回は王妃殿下が実家を通さず自分自身が勝手に実家の自分付きだった使用人たちを使って、犯罪を行なう闇グループに依頼したんだ。
そのことで今まで王妃殿下がやってきたことは証拠を掴めなかったのだが、今回は影がその情報を掴むことが出来た。
まあ陛下曰く今まで王妃殿下のことで影を動かすことがなかなか出来なかったらしい。
いくら国王陛下でも国に関わる大きな出来事でない限り簡単に影に命令出来ないし、例え陛下が命令しても動くかどうかは影側の判断によるものらしい。
まあアンジェたちのアカデミー時代のアンジェたちの監視は影が今後の国にとって必要なことと判断したからのようだけど、それだけいくら陛下の命令でも影はそんな簡単には動いてくれないということだな。
それでアンジェの事件直後にその闇グループの胴元を影が捕らえることが出来た。
その胴元は慎重な人間でちゃんと依頼者のことを調べ上げてから引き受けたらしい。
そして自分に何かあった時の為に前払いの報酬の中に金銭以外で依頼者である王妃殿下の私物を要求したそうだ。
それはケラッドンリー侯爵家の紋章が入った緑色の宝石が埋め込んである手鏡だった。
フィンレルも私も実物を見せてもらったから確かだ。
それは侯爵家では代々女児が生まれたら鏡の裏に家の紋章を彫り本人の瞳の色の宝石を埋め込んだ手鏡を贈る風習があり、その手鏡は結婚して別の家に嫁いでも手放してはならないと言われている代物だった。
そのことをその胴元は調べ上げて知っていたんだ。
だからその手鏡を要求して、それを王妃殿下から受け取った。
何故王妃殿下がそんな大切なものをその闇グループの胴元に渡してしまったのか疑問だが、今までのように絶対証拠を掴ませないと自信があったんじゃないかな?何があっても自分は大丈夫だという驕りがあったんだろう。
まあ今回は王妃殿下がかなり焦っていたみたいだからいつものような冷静な判断が出来なかったとも言えるかな。
だけど王妃殿下がそんな隙を見せてくれたから今回はその胴元を捕らえることができた。
陛下とギルバード様はずっとキャロライナ様のことで王妃殿下を警戒して調べ続けていたから、その胴元が王妃殿下の手の者に始末される前に何とか捕らえることが出来たんだろう。
そしてその闇グループの胴元は陛下と取引してすべて白状した。
その胴元は何らかの理由で騎士や憲兵を辞めて借金で首がもう回らなくなっている連中を集めた。
そして自分が死ぬ変わり多額の金銭をその連中の家族に渡すことを約束した。
連中は自分の命と引き換えで家族に金を遺すことで今回のことを引き受けた。
連中は最初から自分が死ぬつもりでアンジェたちを襲っていたんだ。
奴らはアンジェたちを襲ってキャスとラファを攫い二人を数日監禁した後に殺害することが目的だった」
「えっ?」
キャスバルくんとラファエルを監禁してそれから殺害するのが目的だった?
「…どういうことですの?」
アンジェリカの目が吊り上がった。怖がるのではなく怒りを感じているみたいだわ。
「まだその胴元の証言だけだがキャスとラファをすぐ殺すのではなく、攫ってきてどこかで数日の間監禁してから殺せと依頼されたと言っている。
ということは、私たちアンジェとベレッタにより苦しみ耐え難い絶望を与えようとしたのではないか?」
ジークハルト様は自分で推測を話しながら嫌悪に顔を歪める。
「…そんな何て酷いこと…」
私は王妃殿下がそこまで?という信じれない気持ちと底の知れない恐ろしさに身体が震えてくる。
フィンレルがギュッと私を抱きしめてくる。
私は私の身体に回るフィンレルの腕をギュッと掴む。
アンジェリカ様もジークハルト様に抱きしめられている。
「また元コローラル子爵夫婦を探し出して依頼したことも、ベレッタの両親だったから敢えてだったのかもしれない…」
私はそのことを聞いて背中がゾッとした。
そこまでなの?王妃殿下はそこまでアンジェリカと私を憎んで嫌っているの?
私は王妃殿下とは夜会と舞踏会でまだ二度しか会っていないし、話したこともないのよ。
フィンレルが私をさらに強く抱きしめてくれた。
私はそれで少し落ち着くことが出来たわ。
「…とにかくすべては本人に聞かないとわからないが…」
ジークハルト様がアンジェリカを大事そうに抱きしめながら言う。
「…そうですわね…王妃殿下にお話を聞く必要がありますわね…」
「それでなんだが…陛下に私たちは呼ばれているが、ベレッタとアンジェは無理をしない方がいいんじゃないか?ベレッタは妊娠しているから余計だ。
今の話でも大概なんだが…」
フィンレルが私の背中を撫でながら言う。
「わたくしはちゃんと王妃殿下のお話を聞かなければなりませんわ。
ベレッタもそうでしょうけれど、ベレッタは今妊娠中でいらっしゃるわ…今のお話でも心配ですが…大丈夫かしら?」
アンジェリカがジークハルト様に抱きしめられながら私を心配そうに見つめてくる。
私もフィンレルに抱きしめられたままなのだけどね。
「ええ、確かに今わたくしのお腹には子がいます。
ですがわたくしもお腹の中の子もきっと大丈夫ですわ。
フィンが側に居てくれますし。
わたくしも王妃殿下のお話をちゃんとお伺いしたいですわ」
「ベレッタ本当に大丈夫なのか?」
フィンレルがキュッと抱きしめて反対の手で私の背中を優しく擦りながら心配気な声音で聞いてきた。
「フィン大丈夫よ、わたくしもちゃんと聞いておきたいの」
「わかった!絶対無理はしないでくれよ。
何かあれば必ず私に言ってくれ」
「わかったわフィン」
「わかった。陛下に面会の話を私とフィンでしておくよ」
こうやって事件についての話は終わった。
数々の衝撃的なことばっかりだったけど、まだわからないこともたくさんあるわ。
陛下との面会では王妃殿下もいらっしゃることになるはず。
ちゃんと話を聞かなければ。
そして少し聞いたけど今まで陛下はどういうつもりだったのかちゃんと聞いてみたいわ。
そんなこと言っても実際は私からは聞けないのだけどね。
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