怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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百十四話 事件が起こってしまいましたわ ④

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 ラファエルは治療が終わった後もしばらく私の胸の中で泣きじゃくっていたけど、温かいミルクを飲ませて私が引き続き抱っこしていたら、そのうち寝息を立てて寝始めたのでしばらく抱っこしながら背中をトントンして、ちゃんと眠ったのを確認してからアンジェリカの寝室のソファにブランケットをかけて寝させた。

 アンジェリカは少し落ち着いて温かいミルクを少し飲んで横になったのだけど、「うぅっ…キャス、キャスうぅっ」とキャスバルくんの名を呼びながら子供みたいに泣いている。

「大丈夫、大丈夫キャスはきっと無事よ」

 私はそうアンジェリカに言い聞かせながらベッドで横になっているアンジェリカの髪を撫でる。

「…ベレッタ、…お母さんみたい…」

 アンジェリカはいつもの気丈なカッコいい女性ではなく、幼く可愛い少女みたいにそして前世の口調に戻ってお母さんになっている。

「フフッそうね、わたくしアンジェの為ならお母様にもお姉様にも友達にも何でもなってみせますよ」

 微笑んでアンジェリカの髪を撫で続ける。

「うっ、うぅっ…ありがとう、ありがとうございますベレッタ」

「お礼なんてわたくしの方がアンジェには言い尽くせない程ですわ。

 今までたくさん数え切れない程助けてもらったわ。

 それに今回だって自分の身を投げ出してキャスとラファを庇って下さったんでしょ?

 とても勇気があって素敵でしたわ」

「…で、でもキャスとラファのこと…わたくしが目をはな、離してしまったから…だから…うっうぅ…」

「うんうん例えどうであっても後悔してしまうわよね。

 わたくしだってきっと同じよ。

 わたくしだって話を聞いた時、混乱して取り乱してしまったわ。

 でも執事長にわたくしがアンジェとラファを慰めて元気付けて下さいって言われたのよ。

 その通りよね、わたくしまで混乱して取り乱していたらアンジェとラファはもっと不安になって混乱してしまうものね。

 大丈夫よ、キャスはジーク様とアンジェの子なのよ。

 きっと無事だわ!わたくし自信がありますのよ」

「うん、うん…きっとキャスは無事だよね?」

 アンジェリカが涙を流しながら私を見つめてくる。

「ええ、きっとジーク様とフィンがもう探し出している頃じゃないかしら?わたくしは何故か自信がありますわ。

 きっともうすぐ報告がくるわ」

 そう、私は何故か自信があった。

 私にそんな何か予感がするとかそんな能力なんてまったくないけど、この時はキャスバルくんは無事でちゃんと見つかる気がしていた。

 そしてもう見つかっているんじゃないかと何故か確信を持てたの。

「そう?」

 アンジェリカが首を傾げながら聞いてくる。

 私はアンジェリカの頭を撫で続けながら。

「ええ、キャスはとても聡明で勇敢な子ですもの。

 あんな人たちの好きになんてさせませんわ。

 キャスはアンジェとジーク様の息子様ですよ?誰だと思っていますの?キャスバル・レノバングリー様よ!」

「ふふふっ」

 私の言葉にアンジェリカが初めて笑った。

 それからしばらくして扉をノックする音が聞こえた。

「奥様キャスバル坊ちゃまが見つかり旦那様が保護しました。

 キャスバル坊ちゃまは肩などの擦り傷だけでご無事でごさいます」

 冷静な執事長が勢い込んで報告してきた。

 アンジェリカは報告を聞いて声を上げて子供みたいに泣きじゃくった。

 ラファエルはスヤスヤと眠ったままだった。

 ラファエルは私に似たのか結構図太いのかな?違うわね、あんなことがあって心も身体も疲れ切ってしまったのよね。

 私はラファエルの頭を撫でてから、ピアナとアンに様子を見ていてもらうように頼んでケイトと部屋を出た。

 アンジェリカはどうしても行きたいと言うので、従者に抱きかかえてもらって私と一緒に部屋を出た。

 執事長が戻ってくるまで一時間程はかかると言われたけど、アンジェリカの寝室を出て、私たちは門の近くの応接室で待機することにした。

 アンジェリカはソファに座ってからも泣き続けているので、私は彼女の隣に座って手をギュッと握ってキャスバルくんたちが帰ってくるのを待った。

 一時間程でキャスバルくんが帰ってきたと執事長が報告がきた時、アンジェリカが部屋を飛び出した。

 大丈夫か?と思ったけど、自分のことなんかより一刻も早くキャスバルの顔を見たいものね。

 私もアンジェリカの後をついて行った。

 キャスバルくんは髪は乱れていて、顔も服は汚れていて、服は肩や腰の辺りが破けていたけど、見た目は元気そうで私は安心して身体の力が抜けて、ヘナヘナと座り込んでしまった。

 フィンレルが慌てて駆け寄ってくれて抱きしめてくれた。

「ベレッタ大丈夫か?大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫ですわ。

 安心してしまっただけ」

「そうか、良かった」

 フィンレルは私を抱きしめながら私の頭に自分の頬をスリスリと頬擦りしてきた。

 私はフィンレルの温もりを感じて安堵してフィンレルの首にギュッとしがみついた。

 キャスバルくんはアンジェリカの姿を見て「ワァーッ」と声を上げて泣いてアンジェリカにしがみついている。

 そりゃまだ七歳だもの。いくら聡明で勇気がある子でも怖くて不安だったと思うわ。

 アンジェリカを見て安心したのね。

 アンジェリカもキャスバルくんを抱きしめて泣きじゃくっているけど、私もフィンレルに抱きしめられながら涙がポロポロ溢れてきた。

 本当に本当に良かった。

 キャスバルくんが無事で本当に良かったよ!!



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