怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

文字の大きさ
上 下
117 / 143

百十四話 事件が起こってしまいましたわ ④

しおりを挟む




 ラファエルは治療が終わった後もしばらく私の胸の中で泣きじゃくっていたけど、温かいミルクを飲ませて私が引き続き抱っこしていたら、そのうち寝息を立てて寝始めたのでしばらく抱っこしながら背中をトントンして、ちゃんと眠ったのを確認してからアンジェリカの寝室のソファにブランケットをかけて寝させた。

 アンジェリカは少し落ち着いて温かいミルクを少し飲んで横になったのだけど、「うぅっ…キャス、キャスうぅっ」とキャスバルくんの名を呼びながら子供みたいに泣いている。

「大丈夫、大丈夫キャスはきっと無事よ」

 私はそうアンジェリカに言い聞かせながらベッドで横になっているアンジェリカの髪を撫でる。

「…ベレッタ、…お母さんみたい…」

 アンジェリカはいつもの気丈なカッコいい女性ではなく、幼く可愛い少女みたいにそして前世の口調に戻ってお母さんになっている。

「フフッそうね、わたくしアンジェの為ならお母様にもお姉様にも友達にも何でもなってみせますよ」

 微笑んでアンジェリカの髪を撫で続ける。

「うっ、うぅっ…ありがとう、ありがとうございますベレッタ」

「お礼なんてわたくしの方がアンジェには言い尽くせない程ですわ。

 今までたくさん数え切れない程助けてもらったわ。

 それに今回だって自分の身を投げ出してキャスとラファを庇って下さったんでしょ?

 とても勇気があって素敵でしたわ」

「…で、でもキャスとラファのこと…わたくしが目をはな、離してしまったから…だから…うっうぅ…」

「うんうん例えどうであっても後悔してしまうわよね。

 わたくしだってきっと同じよ。

 わたくしだって話を聞いた時、混乱して取り乱してしまったわ。

 でも執事長にわたくしがアンジェとラファを慰めて元気付けて下さいって言われたのよ。

 その通りよね、わたくしまで混乱して取り乱していたらアンジェとラファはもっと不安になって混乱してしまうものね。

 大丈夫よ、キャスはジーク様とアンジェの子なのよ。

 きっと無事だわ!わたくし自信がありますのよ」

「うん、うん…きっとキャスは無事だよね?」

 アンジェリカが涙を流しながら私を見つめてくる。

「ええ、きっとジーク様とフィンがもう探し出している頃じゃないかしら?わたくしは何故か自信がありますわ。

 きっともうすぐ報告がくるわ」

 そう、私は何故か自信があった。

 私にそんな何か予感がするとかそんな能力なんてまったくないけど、この時はキャスバルくんは無事でちゃんと見つかる気がしていた。

 そしてもう見つかっているんじゃないかと何故か確信を持てたの。

「そう?」

 アンジェリカが首を傾げながら聞いてくる。

 私はアンジェリカの頭を撫で続けながら。

「ええ、キャスはとても聡明で勇敢な子ですもの。

 あんな人たちの好きになんてさせませんわ。

 キャスはアンジェとジーク様の息子様ですよ?誰だと思っていますの?キャスバル・レノバングリー様よ!」

「ふふふっ」

 私の言葉にアンジェリカが初めて笑った。

 それからしばらくして扉をノックする音が聞こえた。

「奥様キャスバル坊ちゃまが見つかり旦那様が保護しました。

 キャスバル坊ちゃまは肩などの擦り傷だけでご無事でごさいます」

 冷静な執事長が勢い込んで報告してきた。

 アンジェリカは報告を聞いて声を上げて子供みたいに泣きじゃくった。

 ラファエルはスヤスヤと眠ったままだった。

 ラファエルは私に似たのか結構図太いのかな?違うわね、あんなことがあって心も身体も疲れ切ってしまったのよね。

 私はラファエルの頭を撫でてから、ピアナとアンに様子を見ていてもらうように頼んでケイトと部屋を出た。

 アンジェリカはどうしても行きたいと言うので、従者に抱きかかえてもらって私と一緒に部屋を出た。

 執事長が戻ってくるまで一時間程はかかると言われたけど、アンジェリカの寝室を出て、私たちは門の近くの応接室で待機することにした。

 アンジェリカはソファに座ってからも泣き続けているので、私は彼女の隣に座って手をギュッと握ってキャスバルくんたちが帰ってくるのを待った。

 一時間程でキャスバルくんが帰ってきたと執事長が報告がきた時、アンジェリカが部屋を飛び出した。

 大丈夫か?と思ったけど、自分のことなんかより一刻も早くキャスバルの顔を見たいものね。

 私もアンジェリカの後をついて行った。

 キャスバルくんは髪は乱れていて、顔も服は汚れていて、服は肩や腰の辺りが破けていたけど、見た目は元気そうで私は安心して身体の力が抜けて、ヘナヘナと座り込んでしまった。

 フィンレルが慌てて駆け寄ってくれて抱きしめてくれた。

「ベレッタ大丈夫か?大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫ですわ。

 安心してしまっただけ」

「そうか、良かった」

 フィンレルは私を抱きしめながら私の頭に自分の頬をスリスリと頬擦りしてきた。

 私はフィンレルの温もりを感じて安堵してフィンレルの首にギュッとしがみついた。

 キャスバルくんはアンジェリカの姿を見て「ワァーッ」と声を上げて泣いてアンジェリカにしがみついている。

 そりゃまだ七歳だもの。いくら聡明で勇気がある子でも怖くて不安だったと思うわ。

 アンジェリカを見て安心したのね。

 アンジェリカもキャスバルくんを抱きしめて泣きじゃくっているけど、私もフィンレルに抱きしめられながら涙がポロポロ溢れてきた。

 本当に本当に良かった。

 キャスバルくんが無事で本当に良かったよ!!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい

よーこ
恋愛
特に美しくもなく、賢くもなく、家柄はそこそこでしかない伯爵令嬢リリアーナは、婚約後六年経ったある日、婚約者である大好きな第二王子に自分が未来の王子妃として選ばれた理由を尋ねてみた。 王子の答えはこうだった。 「くじで引いた紙にリリアーナの名前が書かれていたから」 え、わたし、そんな取るに足らない存在でしかなかったの?! 思い出してみれば、今まで王子に「好きだ」みたいなことを言われたことがない。 ショックを受けたリリアーナは……。

処理中です...