怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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百十三話 事件が起こってしまいましたわ ③

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 戻ってきたアンジェリカはジークハルト様に抱き付き泣きじゃくりながら「キャスキャス…」とずっとキャスバルくんの名を呼んでいる。

 ラファエルはフィンレルと私の顔を見ると「ワァ~」と声を上げて泣きじゃくる。

 フィンレルがラファエルを抱き上げて「ラファ大丈夫!もう大丈夫だ!」と背中を撫でて宥める。

「うっ…うぇ~ん!うっうっキャスにいしゃまが~」

「うんうん大丈夫だ!怖かったな。

 ラファちゃんと勇気出して走ってきたんだろ?偉いぞ!

 キャスもきっと見つかるからる、なっラファ大丈夫だよ」

 泣き叫ぶラファエルをフィンレルが宥める。

「ラファ!」

 私がラファエルに声をかけると。

「おっ、おかぁしゃま~ワァー」

 とラファエルが両手を広げて私に手を伸ばしてくる。

 その時にコンッコロコロと何かが落ちて転がった。

「あれ?ラファの手から何かが落ちたわ」

「ベレッタ」

 私はフィンレルからラファエルを受け止めて抱きしめる。

 フィンレルはラファエルの手から落ちた何かを拾い上げる。

「これはボタン?…」

 フィンレルが呟き私はフィンレルの手の平の上のものを見つめる。

「…えっ?あれ?…」

 私はそのボタンを見た途端ベレッタの記憶が甦る。

 お仕着せを着たベレッタの目の前でお父様が自分の着ているジャケットをヒラヒラとさせながら、さも大事そうにそのジャケットのボタンを撫でながら自慢している姿だった。

「…あっ!これお父様のボタンかもしれないわ!」

「何?元コローラル子爵の?」

 フィンレルが剣呑とした表情を浮かべる。

 その言葉にジークハルト様、アアンジェリカ、その場にいるみんなが反応する。

「…ええ、確かではないのですけれど…でもわたくしが嫁入り直前お父様が珍しい細工の緑の宝石が嵌め込まれたボタンが付いたジャケットの自慢をしていたのです…そのボタンに似ていますわ…」

「ラファが男と女がキャスとラファを攫おうとしていたと言っていると聞いているが、それが元コローラル子爵夫妻なのか?」

 私の話にフィンレルがそのボタンを見つめながら私に聞いてくる。

「確実ではないですわ…でもお父様は確かにこの国では貴重な素材で作られいて、こんなに精密な彫り物がされているものは早々ない、それに自分の瞳の緑色の宝石を嵌め込むように依頼して作らせたと、そのボタンを大事にそうに何度も撫でながら自慢していましたわ。

わたくしはその模様もしっかりと覚えております。

確かにそんな模様でしたわ」

 私は記憶の中のお父様の姿を思い出しながら彼が話してことを話した。

「何だって元コローラル子爵夫妻なのか?キャスを攫ったのは?」

 ジークハルト様がアンジェリカを抱きしめながら怒りを緑の瞳を滾らせて聞いてくる。

「…確かにこれは銀製のものではなく軽いものだ。

 この国では珍しい素材だということはチタンか…チタンは銀より軽い金属だ。

 ということはベレッタが言うことは確かなんじゃないか?

 戦闘中のドサクサに紛れてだと聞いたが…元コローラル子爵夫妻が誰かの指示でキャスとラファを攫おうとしたのか?」

 フィンレルがジークハルト様と顔を合わせる。

「すぐ元コローラル子爵領の方向への捜索を広げろ!」

 ジークハルト様がすぐ様指示を出す。

「ジーク様、フィンも行ってきて下さいませ!

 キャスはきっと見つかりますわ!

 アンジェとラファのことはわたくしたちに任せて下さい!」

 私が自信を持って叫んでいた。

 後から思うと不思議だけどその時は何故か自信があったのだ。

「ベレッタ夫人!アンジェとラファを頼む!行くぞ!」

 ジークハルト様が飛び出して行った。

「ベレッタ、ラファ行ってくる!」

 フィンレルもジークハルト様の後をついて走って行った。

 あの父と母が元コローラル子爵領に向かったどうかはわからない。

 でも勝手知ったる所へ向かう可能性は高い。

 他にも仲間がいたりしたらどうかはわからないけど…。

 でもジークハルト様も直感で元コローラル子爵領だと思ったんだろうと思う。

 私もそれに自信があったのよ。

 ラファエルはキャスバルくんと一緒に抵抗して犯人と揉み合いになった時に、その相手たぶんお父様の服のボタンを引き千切って、そのままずっと握り締めて持っていたんだと思うわ。

「さあ、アンジェまずは治療を受けましょう。

 ラファもね、それから温かいミルクでも飲んで落ち着きましょうね。

 アンジェキャスは絶対無事で見つかりますわ。

 キャスは機転を効かせて勇気を持ってラファを逃がしてくれたんですのよ。

 ラファがちゃんと報告してくれたんです。

 わたくしたちの息子は勇気ある子たちですわ。

 きっとキャスは無事です!アンジェ信じましょう?」

「ベレッタ、…ワァ~ッ」

 アンジェリカが私に抱きついて子供のように泣く。

 わかるわ、愛しい我が子が攫われてしまったんだもの。

 絶望して混乱して、そして自分を責めてしまうわよね。

 でも大丈夫!きっとキャスバルくんは無事よ。

 私はラファエルをケイトに抱いてもらって、アンジェリカを抱きしめて「大丈夫大丈夫」と言いながら背中をポンポンとした。


 それからアンジェリカが少し落ち着いてからアンジェリカを寝室に運んでもらって、主治医の診察を受けてもらった。

 アンジェリカは馬車が大きく揺れた時に咄嗟にキャスバルくんとラファエルを庇って、馬車の壁に身体を打ち付けて頭を強打したみたいだけど、今のところ頭、肩、腰などの打ち身だけで様子を見ないとわからないけど、外傷だけということで様子を見ることになった。

 ラファエルも左足の膝を擦りむいたのと身体を馬車にぶつけたけど、アンジェリカが庇ってくれたから大した怪我はなかった。



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