怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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百八話 エレナとの対面 ②

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 ギルバードの大きな声にエレナは肩をビクッとさせ動きを止めた。

「やはり無駄だったな…君はずっと嘘をついていたんだ…それに騙された私は何と間抜けで愚かだったことか…」

 ギルバードは悔恨の念を滲ませて悲し気に目を伏せる。

「ずっと嘘ってどういうことよ!」

 それにエレナは目を剥きまだギルバードに食ってかかる。

 ギルに甘く微笑みかけるエレナはもうそこにはいない。

「アカデミー時代にアンジェリカたちに虐げられていたことも王宮で家庭教師や使用人に嫌がらせをされていたことも全部だ。

 ああ、アンジェリカたちのことはすべて冤罪だったな、私はそれでも君が言っていることは真実だとあの時は信じていたよ。

 アンジェリカたちではなく他の者たちが君を虐げたんだと思っていた。

 しかし実際は誰にも虐げられたり、誘拐されそうになんてなってなかったんだろう?全部嘘なんだろう?君の自作自演たったんだろう?もう全部わかっている。

 そしてこれは言わないでおこうと思っていたが、君は初夜の時に一度だけ無理矢理貴族令息に強要さられてしまったと言って泣いて私に何度も謝ってきたが、それも嘘だったんだな。

 君は一度や二度などではなく多くの貴族令息と関係を持っていた。

 君が使っていた避妊薬は多く使用すると不妊となる粗悪品だったんだ。

 君が経験したのは一度や二度ではない。

 一度や二度ではそうはならないらしいからな。

 それは陛下が私たちを監視するように命令していた影からの報告で事実であることがわかっている」

 ギルバードの発言にナイゲルとエンディナーは目を見開き、半歩後に下がった。

 ナイゲルとエンディナーはその真実に衝撃を受けて、信じられないものを見るような目でエレナを見ている。

 もちろんナイゲルとエンディナーはそのことを知らなかったんだろうし、自分たちはギルバード私と同じくエレナとそんな関係にはなっていなかったんだろう。

 彼らの驚いている表情を見ているとわかる。

「そ、そんな…ギル…そんなことないわ。

 私は本当に一度だけ無理矢理…」

 顔色を悪くして焦って弁解しようとするエレナをギルバードが遮った。

「無駄だ、もう無駄なんだよ。

 影は王族をも監視する立場で、陛下に嘘を報告する者たちじゃないんだ。

 それに君付きの近衛四人はみな君の愛人なんだって?近衛たちが白状したよ。

 まさか私と結婚してまで他の男と浮気していたとはな…。

 気付かなかった私はどれほど間抜けなんだ…君が上手くやっていたということか…。

 君はどこまで私を舐めて馬鹿にしているんだ?」

「っ!ち、違っ…違うわ!そんなの嘘よ!事実じゃないわ!

 近衛が自分が助かりたいばかりに嘘を言っているのよ!ねぇギル!私を私を信じて!」

 ギルバードの衝撃的な発言に私は固まる。

 近衛のことは私も知らず今初めて聞いたことだった。

 エレナはまだ違うと言い訳をしている。本当に見苦しい!

「ああ、私が愚かで馬鹿だったからな…私も悪いがな。

 近衛がそのことを証言して何故自分が助かる有利になると思えるんだ。考えられない。

 はぁ~みな無駄な時間をすまなかった。

 君とはもう会うこともない。それじゃあ行こうか」

 ギルバードはそれだけを言って踵を返して元来た道を戻って行く。

 私たちも何も言わずギルバードと後に続く。

「ま、待って~ギル!お願い!私の話を聞いて~お願いよぉ!フィンナイゲルエンディも待ってぇー」

 エレナの叫び声が聞こえているが、ギルバードは一度も振り返ることなく出て行った。


 そして貴族牢を出てから一緒にギルバードの執務室に戻ってきた。

「フィン、ナイゲル、エンディナー本当に申し訳なかった」

 ギルバードが頭を下げた。

「ギル…」

 ナイゲルが顔色を悪くして呟く。

「ギルもう謝らないでくれ、私たちがエレナに一度は会うと決めたんだ」

 エンディナーがギルバードを慰める言葉を言った。

「でもただ不快な時間だっただろう?私が最後だと温情をかけたばっかりに…」

 ギルバードが後悔しているとハッキリ顔に出ている。

「もういいんだ、ギル。

 エンディの言う通り私たちも一度は会うと決めたのだから」

 私もギルバードに向かって言う。

「でも…本当に情けないないな私は…」

 ギルバードはハハッと乾いた自嘲をする。

「ギルは大丈夫なのか?」

 ナイゲルがギルバードを心配する。

「…ああ、私はもう立ち止まってはいられない…。

 来週には正式に私の側妃が発表される」

「…そうか…」

 ギルバードの言葉にエンディナーが目を伏せる。

「ギル、お前は一人じゃないぞ。

 側妃となる令嬢も一緒に国、民の為に前を向いて頑張りましょうと言ってくれたんだろ?

 私たちもお前の臣下としてこれからもお前を支えるつもりだ」

「ああ、フィンの言う通りだ。

 私はギルの側近でなくなってもお前の臣下だ」

「そうだぞ、お前はこれから国王陛下になるんだ。

 国や民の為に私たちと頑張らねばならないんだ」

「っ!……ありがとう」

 私、ナイゲル、エンディナーの言葉にギルバードはグッと言葉に詰まってから眉を寄せて、小さくお礼を言った。

 それからギルバードからエレナたちの処分が決まったら、私たちに先に知らせてくれるという言葉と再度謝罪の言葉を聞いて私たちはそれぞれの邸に帰って行った。

 私は帰ってからベレッタにエレナとの対面の話をした。

 ベレッタは予想がついていたのか。

「そうですか…フィンレルご苦労様でした。

 もう終わったことですわ。

 これで終わり!わたくしたちは次に向かいましょう」

 と元気良く私に笑いかけてきた。

 ベレッタが私を元気づけようとしてくれている姿を見て、私は自分が初めて自分が落ち込んでいたのだと気付いた。

 私はベレッタの向かいのソファから立ち上がって、ベレッタの隣に座る。

「ベレッタ抱きしめてもいいか?」

「ヒャァッ!…」

 ベレッタが目を瞠って悲鳴を上げて顔を赤くする。

 それが愛おしくて可愛いくてクスッと笑いそうになる。

 でも私がここで笑ってしまったらベレッタに拒否されてしまうような気がして、真面目な顔を取り繕った。

「…は、はい…ど、どうぞ…」

 ベレッタのか細い声を聞いてから私はベレッタの隣に座ったまま自分の腕の中に閉じ込めるように、ベレッタを抱きしめてしばらくベレッタの温かい体温と爽やかで甘い香りを感じたくてゆっくりと目を閉じた。



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