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百一話 王太子との対面 ①
しおりを挟むフィンレルside
ベレッタはあれから三日程して体調も戻り元気になり、執務など普段の生活に戻った。
私はベレッタが目覚めて様子を見て体調が戻ったら、一度王宮に行くとギルバードに言っていたので、ベレッタが執務に復帰した日にギルバードに前触れを出すと、すぐに返事が来て翌日にギルバードを訪ねる為に王宮へ足を運んだ。
王宮に入ると、ギルバードの執務室に案内された。
ギルバードの執務室には私が側近候補時代に何度も訪れたことがあるが、その当時は雑多で結構散らかっていて、ギルバードは一切片付けず、私や清潔好きのナイゲルが文句を言いながら片付けても、片付けた傍からギルバードが散らかしてしまうという有様だった。
恐らく今の方がいろんな執務を熟してやることも多く忙しいはずなのに、中はとても整理整頓されていた。
「フィンレルよく来てくれたな。
さあ座ってくれお茶を用意するよ。
みな下がってくれるか。
君もお茶を用意したら下がってくれ」
「承知致しました」
一人の従者以外の執務室の中にいた側近、従者たちが部屋を出て行く。
あの時にも思ったが、ギルバードの臣下や使用人に対する口調や言動が以前とはまったく違っていることに私は驚く。
私たちの前に従者がお茶を置いていく。
「ありがとう」
「ありがとう」
「いいえ、それでは私はいったん失礼致します。
殿下何かごさいましたらいつものようにベルでお知らせ下さい。
すぐに参りますので」
「わかった」
ギルバードが従者に礼を言った。
以前ではなかったことに私は驚いた。
「フィンレルそんなにお前は誰だという目で見ないでくれ」
ギルバードが私を見て肩を竦めて苦笑いを浮かべる。
私は大して表情に出していないつもりだが、ギルバードが私の表情を汲み取ったことにも驚いてしまう。
「私もですが、殿下も変られたのですね…」
私は素直に今のギルバードに感心している。
「まあ、私もいろいろあって何度も頭を打ったのだ。
いくら馬鹿でもわかるくらいにな」
ギルバードが自嘲する。
そんなところも以前のギルバードにはなかったことだ。
「それはお互いに…ですね」
私も過去の自分を思い出して自嘲する。
「ところで夫人の調子はどうだ?もう大丈夫だとフィンレルの手紙にはあったが…」
「お気遣いありがとうございます。
お陰様でもう大丈夫で元気にしております」
私の言葉にギルバードが少し眉を寄せた。
「そうか、…それは良かった。
ところで早速なんだが、手紙でフィンレルにその都度情報を知らせていたが、まずエレナがどうやって王家の秘薬を手に入れたかだが、エレナ担当の教師はエレナに伝えていなかったよ」
「…そうですか…ということは」
「そうだな、まず私のことは信じてくれるか?」
ギルバードが不安そうに私を見てきた。
それが昔に一緒に剣術を訓練していて私と対戦する前の不安そうに揺らめいていた瞳と重なる。
「私は殿下の臣下ですからもちろんです」
私は自分が側近候補だった時にギルバードによく言っていた言葉で返事した。
するとギルバードは少しはにかんだ。
以前は『当然だ!』と言ってふんぞり返っていたのにな。
「…そうか…なら残るはだが…国王陛下、王弟殿下とごく一部の人間ではないと私は思っている」
「っ!…」
ということは残るは王妃殿下だけだ。
ギルバードは切なそうに悲しげに眉を寄せている。
王妃殿下は徹底的にギルバードを甘やかして盲目的に可愛がっていて、ギルバードがああなったひとつの大きな原因だ。
だが王妃殿下のギルバードに対する愛情は間違いないもので、我が子を本当に愛している方だ。
ただ愛し方を間違えたと言えるが。
ギルバードはそんな母上である王妃殿下がエレナの協力者である可能性が高いことに悲しんでいるんだろう。
「国王陛下とごく一部の人間ではないことを証明せねばならないな…。
まずエレナが王家の秘薬について知った時期だが、エレナの専属侍女たちの事実聴取によると、あの夜会の一週間後辺りに、『王家には秘薬っていうものがあるのね…』と自室でエレナが独り言のように呟いたのが最初らしい。
侍女たちはエレナに下手なことは言えないからそれについては口を開かなかったらしいが、その後フローリアとの茶会の時に途中からかなり声が大きくなっていたらしくエレナが『王妃様が自分の初夜の時に王家の秘薬を使ったらしいの~』とフローリアに喋っていたのが聞こえてきたらしい」
「…そうだったんですか…」
侍女が嘘をついている可能性は低い。
事情聴取、特に王族に関することで偽証などすると死罪になるくらい罪が重くなるからだ。
私はエレナの協力者が王妃殿下でほぼ決定だということに、誰がなのかわかって良かったとは思ったが、ギルバードのことを考えると複雑な気持ちになった。
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